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2004年度 日本海学研究グループ支援事業
富山県における花粉症発生率の地域差と環境要因の統計学的モデル化
1. 背景及び目的
現在日本における花粉症の有病率は、全人口の10%を超え20%に迫ると推定されており、「国民病」と表現されるほど我々の生活に影響を与えている。しかし花粉症が増加する一方でその確実な治療法は現在確立されておらず、しかもどのような因子が発症に影響を与えるか不明確な部分も多い。
本研究の目的は、日本海沿岸という特徴を踏まえて花粉症発症に関連する指標を調査し、統計学的にモデル化することである。そのため本研究では、富山県において個人の生活習慣と花粉症、また環日本海的環境に関連する指標と花粉症との関係を、アンケートを用いた横断的調査で検討した。
2. 対象及び方法
2.1. 対象地域、対象者
富山県内における保健センターの存在する市町村全てを対象地域(27地域)とした。対象者はセンター来所者及びセンターの職員とした。
2.2. 調査期間
2004年8月から2004年12月の5ヶ月間
2.3. 調査方法
数種類の質問表を参考にして家族全体と回答者個人について質問する2部構成の花粉症アンケートを作成し、自己記入方式で回答してもらった。


2.4. 環境及び一般データ
環境及び一般データと花粉症との関連を検討するため、富山医科薬科大学、富山地方気象台、富山県林業試験場、富山県庁環境保全課、国土交通省に帰属するデータを、必要に応じて許可を得て解析した。
2.5. 解析方法
全ての解析に関して、欠損値は除外して検討した。平均値の群間差の解析にはt検定と一元配置分散分析、カテゴリー同士の解析にχ2乗検定、連続変数同士の相関関係解析には単回帰分析、単変量または多変量の独立変数に対する発症及び診断結果の解析には、単変量ロジスティック回帰分析、多変量ロジスティック回帰分析を行った。統計解析ソフトはSTAT-VIEW5.0を用いた。統計学的有意水準は5%以下とした。
3. 結果
3.1. 調査参加保健センター、研究協力者
協力して頂いた保健センターは25箇所、アンケート回答者は1,341人、全対象者は4,468人であった。
3.2. 全対象者とアンケート回答者の情報
回答者の家族を含めた全対象者は、男性45.9%、女性54.1%でほぼ同数であった。平均年齢は42.8±22.7才(平均値±1標準偏差)、有症状率は19.3%、有診断率は11.9%であった。一方、アンケート回答者は男性11%、女性89%であり、保健センターという施設の特性上大部分が女性となった。平均年齢は48.8±15.3才、有症状率は24.9%、有診断率は15.8%であった。花粉症発症の時期を比較すると、全対象者と回答者共に春と秋の2峰性が特徴的であり、その発症割合はほぼ一致した(r=0.996, P <0.0001)。また、花粉飛散数と全対象者の発症数を比較した結果、強い相関が認められた(r=0.884, P <0.005)。
3.3. 全対象者における症状、診断と性別、年齢、職業、喫煙の関係
まず性差を検討した結果、症状、診断共に有意な性差は認められなかった。次に年齢差を検討すると、花粉症の症状(あり:38.6±17.5, なし:43.9±23.7; P <0.0001)と診断(あり:39.0±17.2, なし:43.3±23.3; P <0.0001)共に有意な差を確認した。次に職業について検討したが、有職者と無職者に分けて検討した結果、症状(P <0.0001)、診断(P <0.0001)共に有職者が有意に高いことを確認した。次に現喫煙習慣について検討した結果、症状による差は無かったが、診断あり群で喫煙者数が有意に低下していた(P <0.05)。
3.4. 個人の生活習慣と花粉症との関係の解析結果
3.4.1. アンケート回答者における症状、診断と詳細な質問項目との関係
アンケート回答者の生活習慣と花粉症の関係を検討するため、アンケート2枚目の質問内容を解析した。その結果、症状についてはストレス(P <0.005)、運動(P <0.01)、ペット(P <0.005)、ペットの種類(P <0.05)、インスタント食品(P <0.0005)、肉食(P <0.005)に有意な差が認められた。同様に診断について解析すると、ストレス(P <0.05)、運動(P <0.05)、ペット(P <0.05)、インスタント食品(P <0.005)、肉食(P <0.05)に有意な差が認められた。
3.4.2. 単変量と多変量ロジスティック回帰分析を用いた回答と花粉症との関係の解析
アンケート2枚目の回答を詳細に検討するため、年齢、性別と職業の有無の項目で調整し、症状について多変量ロジスティック回帰分析を行った。その結果、ストレス(O.R.=1.483, 95%C.I.:1.126〜1.953; P <0.01)、ペット(O.R.=1.484, 95%C.I.:1.121〜1.965; P <0.01)、食事抜き(O.R.=0.687, 95%C.I.:0.491〜0.976; P <0.05)、インスタント(O.R.=1.419, 95%C.I.:1.064〜1.893; P <0.05)、肉類(O.R.=1.465, 95%C.I.:1.080〜1.986; P <0.05)の項目に有意な結果が認められた。
同様に診断について解析を行うと、ストレス(O.R.=1.535, 95%C.I.:1.112〜2.117; P <0.01)、ペット(O.R.=1.427, 95%C.I.:1.029〜1.979; P <0.05)、インスタント(O.R.=1.660, 95%C.I.:1.184〜2.327; P <0.005)の項目に有意な結果が認められた。
| 生活習慣と診断のロジスティック回帰分析 |
| 単変量ロジスティック回帰分析 | 多変量ロジスティック回帰分析 # |
| 質問/診断 | 診断あり | 診断なし | O.R. | 95%C.I. | P値 | O.R. | 95%C.I. | P値 |
| ストレス | 多い〜 | 85 | 329 | 1.623 | 1.199〜2.198 | 0.0017* | 1.535 | 1.112〜2.117 | 0.0091* |
| 〜普通 | 127 | 798 |
| 運動 | する | 76 | 515 | 0.663 | 0.489〜0.899 | 0.0081* | 0.797 | 0.572〜1.109 | 0.1780 |
| しない | 136 | 611 |
| ペット | いる | 71 | 300 | 1.386 | 1.012〜1.899 | 0.4160 | 1.427 | 1.029〜1.979 | 0.0333* |
| いない | 141 | 826 |
| 気密性 | 高い | 55 | 285 | 0.960 | 0.657〜1.402 | 0.8322 | 1.002 | 0.675〜1.489 | 0.9903 |
| 低い | 77 | 383 |
| 車道の有無 | ある | 113 | 616 | 0.966 | 0.719〜1.299 | 0.8206 | 1.010 | 0.740〜1.379 | 0.9495 |
| ない | 97 | 511 |
| 食事バランス | いつも考える | 96 | 511 | 0.969 | 0.721〜1.302 | 0.8333 | 1.000 | 0.729〜1.371 | 0.999 |
| あまり考えない | 115 | 593 |
| 食事抜かす | 時々ある〜 | 34 | 229 | 0.737 | 0.497〜1.094 | 0.1304 | 0.709 | 0.469〜1.072 | 0.1032 |
| ない | 176 | 874 |
| インスタント | 1日〜/週 | 88 | 322 | 1.776 | 1.313〜2.403 | 0.0002* | 1.660 | 1.184〜2.327 | 0.0033* |
| 食べない | 124 | 806 |
| コンビニ弁当 | 1日〜/週 | 25 | 125 | 1.072 | 0.679〜1.692 | 0.7666 | 0.986 | 0.609〜1.597 | 0.9544 |
| 食べない | 187 | 1002 |
| スナック菓子 | 1日〜/週 | 82 | 396 | 1.164 | 0.861〜1.575 | 0.3237 | 0.870 | 0.611〜1.240 | 0.4415 |
| 食べない | 130 | 731 |
| 肉類 | 3日〜/週 | 159 | 743 | 1.550 | 1.110〜2.166 | 0.0102* | 1.372 | 0.957〜1.967 | 0.0856 |
| 〜2日/週 | 53 | 384 |
| 魚介類 | 3日〜/週 | 47 | 229 | 1.107 | 0.750〜1.632 | 0.6099 | 1.170 | 0.776〜1.763 | 0.4537 |
| 〜2日/週 | 165 | 898 |
| 野菜類 | 3日〜/週 | 206 | 1107 | 0.620 | 0.246〜1.563 | 0.3113 | 0.710 | 0.258〜1.949 | 0.5056 |
| 〜2日/週 | 6 | 20 |
| 卵大豆 | 3日〜/週 | 199 | 1044 | 1.217 | 0.665〜2.226 | 0.5239 | 1.160 | 0.624〜2.155 | 0.6392 |
| 〜2日/週 | 13 | 83 |
| 乳製品 | 3日〜/週 | 184 | 948 | 1.241 | 0.808〜1.905 | 0.3237 | 1.235 | 0.790〜1.931 | 0.3537 |
| 〜2日/週 | 28 | 179 |
| # 多変量ロジスティック回帰分析は、性別、年齢、職業の有無の項目で調整 |
3.5. 環境を中心としたデータと花粉症との関係の解析結果
3.5.1. アメダスのデータと花粉症症状、診断との関係
環日本海地域に特徴的な気候条件がどのように花粉症と関連するか、富山県内9地域に存在するアメダスの気温、風速、日照時間データと同地域の花粉症との関係、14地域に存在するアメダスの降水量データと同地域の花粉症との関係を検討した。その結果、気温、風速、日照時間、降水量と花粉症との間に有意な関係は認められなかった。
3.5.2. 県内の森林と花粉症との関係
環日本海地域、特に富山県に特徴的な広大な森林に注目し、森林面積が花粉症にどのように影響を及ぼしているか、居住地域の森林と花粉症との関係を検討した。
保健センターが存在する25各地域における森林面積の割合(森林率)及び森林面積と、同地域に居住する住民の花粉症の症状、診断との関係を単変量ロジスティック回帰分析で解析した。その結果、症状、診断共に有意な関係は認められなかった。
3.5.3. 居住地の大気汚染の指標SPM、NOxと花粉症との関係
現在注目されている大気汚染と花粉症との関係を調べるため、SPMとNOxの指標を使用して花粉症との関係を検討した。県内31箇所の大気汚染物質の測定局の1月から9月及び平均測定結果と、その付近に居住する住民の花粉症との関係を単変量、また性別、年齢、職業の有無の項目で調整した多変量ロジスティック回帰分析で解析した。
まずSPMと花粉症症状の関係を解析した結果、単変量及び多変量解析で4月から9月と平均値に有意な関係が認められた。次にSPMと花粉症診断の関係を解析した結果、単変量解析で4,7,8月に有意な関係が認められたが単変量解析の平均値及び多変量解析結果に関係は無かった。
同様にNOxと花粉症症状との関係を解析した結果、単変量解析及び多変量解析共に1,2月に有意な関係が認められたが平均値には特に関係が認められなかった。NOxと花粉症診断との関係を解析した結果、単変量解析では1,2,3,9月と平均値、多変量解析では1,2,9月に有意な関係が認められたが、多変量解析でNOx平均値に有意な所見は認められなかった。
| SPMと花粉症 月別SPMと症状 |
| 症状 |
| 単変量ロジスティック回帰分析 | 多変量ロジスティック回帰分析 # |
| SPM(mg/m^3) | O.R. | 95%C.I. | P値 | O.R. | 95%C.I. | P値 |
| 1月 | 1.012 | 0.970〜1.055 | 0.5865 | 0.996 | 0.953〜1.040 | 0.8438 |
| 2月 | 0.998 | 0.964〜1.033 | 0.9074 | 0.988 | 0.952〜1.025 | 0.5146 |
| 3月 | 1.029 | 0.991〜1.069 | 0.1388 | 1.016 | 0.977〜1.057 | 0.4186 |
| 4月 | 1.035 | 1.012〜1.059 | 0.0024* | 1.025 | 1.002〜1.049 | 0.0357* |
| 5月 | 1.074 | 1.034〜1.115 | 0.0002* | 1.06 | 1.020〜1.102 | 0.0032* |
| 6月 | 1.046 | 1.018〜1.074 | 0.0009* | 1.036 | 1.009〜1.064 | 0.0084* |
| 7月 | 1.043 | 1.017〜1.070 | 0.0012* | 1.032 | 1.006〜1.059 | 0.0140* |
| 8月 | 1.068 | 1.027〜1.110 | 0.0009* | 1.048 | 1.007〜1.090 | 0.0206* |
| 9月 | 1.058 | 1.023〜1.095 | 0.0011* | 1.038 | 1.002〜1.075 | 0.0366* |
| 平均 | 1.078 | 1.034〜1.125 | 0.0005* | 1.055 | 1.010〜1.102 | 0.0162* |
| # 多変量ロジスティック回帰分析は、性別、年齢、職業の有無の項目で調整 |
3.5.4. 地価と花粉症との関係
現在、森林が少ない市街地での花粉症も問題視されている。そこで今回都市化の指標として「地価」という項目に注目して花粉症との関係を検討した。アンケートに記載された住所を参考に平成16年度公示地価価格を調査し、県内274箇所の地価と同住所に居住する住民の花粉症との関係を単変量ロジスティック回帰分析で解析した。その結果、症状、診断共に有意な関係は認められなかった。
3.5.5. 居住地域と花粉症の関係
海と平野と山が混在する環日本海的地理的条件を検討するため、全対象者の居住地域を海側と平野部と山側に3分割して花粉症との関係を検討した。海側地域、平野部、山側地域と症状の有無との関係を解析した結果有意な関係は認められなかったが、診断の有無との間に有意な関係が認められた(P <0.005)。
| 居住地域と花粉症の関係 (地域と診断) |
| 地域/診断 | あり | なし | 計 | P値 |
| 海側 | 128 (9.5%) | 1222(90.5%) | 1350 | 0.0043* |
| 平野部 | 158(12.8%) | 1079(87.2%) | 1237 |
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| 山側 | 246(13.1%) | 1635(86.9%) | 1881 |
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さらに詳細に地理的条件を検討するため、アンケートの住所を参考にして日本海の海岸線から居住地区までの直線距離を独立変数として花粉症発症と診断との関係を性別、年齢、職業の有無の項目で調整した多変量ロジスティック回帰分析で解析した。その結果、症状については有意な関係は認められなかったが、診断については有意な関係が認められた(O.R.=1.022, 95%C.I.:1.009〜1.033; P <0.001)。
| 居住地の海からの距離と診断 (地域と診断) |
| 単変量ロジスティック回帰分析 | 多変量ロジスティック回帰分析 # |
| 項目 | O.R. | 95%C.I. | P値 | O.R. | 95%C.I. | P値 |
| 海からの距離(km) | 1.021 | 1.009〜1.033 | 0.0005* | 1.022 | 1.009〜1.034 | 0.0005* |
| # 多変量ロジスティック回帰分析は、性別、年齢、職業の有無の項目で調整 |
4. 考察
4.1. 生活習慣と花粉症
本調査では県内各地域において広く回答してもらうため各地域の保健センター来訪者と職員を対象とした。その結果広い地域でアンケートの回答を得ることが出来たが、記入者の約9割が女性という性差の偏りが生じた。また、回答者と全対象者との間に年齢差が生じる結果となってしまった。アンケートの解析には性別と年齢を調整することで結果の偏りを除去したが、今後は男女差が出ないよう回答を得ることにも注意する必要が有る。
職業に関する検討では、有職者は無職者より有意に花粉症の率が高かった。有職者は外出の機会が多いため花粉に曝露されやすいことが原因であると考えられた。
喫煙と花粉症の関係を解析した結果、花粉症診断歴の有る群は喫煙率が低い傾向を認めた。この結果は、花粉症と診断されることで喫煙を控える、または医療機関を訪れなければならないほど症状が強いと喫煙を控える傾向が有ることを示している。
本調査において、性別、年齢、職業の調整を行い生活習慣と花粉症の関係を検討した。その結果、花粉症にはストレスが多く、ペットを所持しており、インスタント食品や肉類を多く摂取する行為と関係していることを確認した。この結果は、アレルギーと関係するストレスやペットが症状の因子として強く影響している可能性を示唆している。また、肉などの高タンパク食がアレルギーを誘発に影響するという説とも一致することより、食生活が花粉症の症状に少なからず影響していることを示している。インスタント食品の摂取も免疫のバランスを崩壊させて花粉症発症に対して何らかの影響があることを疑わせる結果であると考えられる。以上より、ストレスやペット及び食習慣は、花粉症に対して強く影響することを確認した。
4.2. 環境と花粉症
本研究では環日本海的地理特徴を考慮し、環境指標に気温、風速、日照時間、降水量、SPM、NOx、森林面積、海と山に挟まれた居住地区の特徴、を項目として花粉症との関係を検討した。その結果大気汚染の指標であるSPMの項目と花粉症について有意な結果が認められた。SPMは花粉よりサイズが小さく、吸入することで花粉症やアレルギーなどの症状を誘導すると考えられている。本研究結果より、平均SPMの増加は花粉症症状の割合の増加と関係することが確認され、定説に従う結果となった。
日本海を中心とした地理的特徴を検討するため、海からの距離と花粉症との関係を検討した。その結果居住地の海からの距離が増加するほど花粉症の割合が高いことを確認した。この結果は、海側の地域は花粉飛散が多い山側の地域から離れていること、季節風などの影響で花粉の飛来が抑えられることなどが主に影響していると推測される。つまり、日本海沿岸という地理的特徴は花粉症の減少と関係があると考えられる。以上の結果より、花粉症を検討する場合には大気汚染の程度や地理的条件を考慮する必要性が示唆された。
5. 結語
本研究では、花粉症に影響する因子を統計学的にモデル化するためアンケートを用いて生活習慣と環境の両面から調査を行った。その結果、生活習慣において花粉症と強く関係した項目は「ペットの所持」「ストレスの増加」「肉類の摂取」「インスタント食の摂取」となった。また、環境面において花粉症と強く関係した項目は、大気汚染物質である「SPMの増加」「居住地の海からの距離の増加」となることを確認した。今後これらの結果を科学的に実証するため更なる研究を行う必要がある。
謝辞
本研究を実施するに当たり快く調査に協力して頂きました各保健センター職員の皆様、及び来訪者の皆様に厚く御礼申し上げます。
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(Jun.13,2005.)
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