第1章 経済開発の進展
第2節 経済社会システムの形成

1 産業構造(生産)

趣旨
 生産の拡大は、通常、国内需要に沿いつつ、新たな生産への着手・拡張を行い、蓄積が行われる中で、産業連関を順次形成しつつ、遂行される。
 しかし、国際的な交流の中では、国外の需要を対象とし、国外の資本・技術・生産財等で一挙に生産を拡大することもできる。
 今日の経済発展は、こうした両面の過程を把握しておく必要があろう。

(1)産業の発展

要旨
 各国の経済発展の経路については、産業構造の変化から見る限り、概ねペティ=クラークの法則に則ったものとなっている。
 1990年代に入って、中国の急速な発展により、日本、韓国それぞれ、第二次産業の比重を低下させ始めた。
 各国それぞれが、新たな産業形成を探っていく必要があり、先進国においても、それなりのサービス経済化を展開していくとことが迫られている。
 本項では、このような、各国の産業の相互関係を念頭におき、それぞれの変遷について検討する。

次ページ


ア 産業構造の変化(成長の経路)
−−日本韓国20年、日本中国50年の差−−

  経済開発の段階を就業者の産業別構成でまず見ておこう。
 開発段階にともなう産業構造の変化については、1691年に既に William Petty によって指摘されており、 Clark により1957年に再確認され「ペティ=クラークの法則」などと呼ばれている。
 具体的には、開発の初期段階においては、農業(第一次産業)従事者が太宗を占める。
 開発に伴って、次第に農業従事者が工業(第二次産業)従事者に転換していく。ただし、ある程度の構成比で概ね横ばいで推移するようになる。
 一方、サービス業(第三次産業)従事者が開発段階を通じて漸増を続ける。
 さらに、一定段階では、工業従事者も減少し、サービス業従事者が専ら増加する段階に至る。

 このうような就業構造の変化が起こることについては、幾つかの理由が挙げられよう。
 まず、生産物の需要について、エンゲル係数の所得弾性値で語られるように食糧の需要の伸びには限界がある。また、工業製品については新規商品の開発により需要は拡大され続けるが、限界が現れる可能性があろう。
 供給側については、労働生産性の向上によって就業者を減らすことができる。しかし、サービス業等の生産性向上には困難な面も多い。
 企業組織の変更も就業構造に影響を与える。特に製造企業の諸機能の外注化は、サービス業を一層拡大させよう。
 比較生産費説を援用すれば、発展格差に基づく国際分業も変化の要因となる。日本の食糧自給率が極めて低い状態にあり得るのはこの事例である。

 具体的に、中国、韓国、日本の就業構造の変化でも、このような過程が見られる。
 韓国の経路は、日本とほぼ重なり、韓国の'75-'95年の過程は日本の'55-'75年の過程となっており、概ね20年の時間差がある。
 また、中国の'99年の位置は、日本の'50年の位置に相当しており、概ね50年の時間差がある。
 ただし、今後、韓国、中国が、現在の日本の段階に至るのにそれぞれ20年、50年を要する訳ではないことをここで即座に述べておくべきであろう。
 いずれにしろ、ペティ=クラークの法則に則ったこの図は一つの手掛かりである。

 なお、上述のような産業構造の変化は、生産額で捉えることもできるが、年々の変動が激しく、分り難い動きとなって現れている。




日本の経路
 日本では、1950年代前半に第一次産業就業者の構成比が50%を割った。その後概ね四半世紀に渡り急速に低下し、'80年代前半には10%を割っている。このため低下速度は実数ベースでは小さくなっているが、減少率ベースでは依然として大きい。
 一方、第二次産業の構成比については、'60年代に急速に拡大し、30%台を超えた後、'70、’80年代は横ばい状態が続いていた。この時代に日本経済全体が、急速な拡大を見せている。しかし、'90年代に至り、低下し始めている。
 また、第三次産業の構成比については、最近半世紀に渡り、継続して拡大している。


 第二次産業の構成比の低下、第三次産業の構成比の増加の局面は、ペティ=クラークの法則でも予定されたものと考えられる。また、現在のアメリカの構成比の位置から見ても、今後の方向として予想されるものであろう。
 しかし、'90年代における、変化は、バブル経済の崩壊及び中国からの輸入の急増などの影響が大きいと見られ、より高度な発展段階への積極的な移行として捉えることには、疑問がある。
 ちなみに、最近5年間の産業別就業者数の変化では、製造業、建設業、さらには卸小売飲食業等で大幅に減少しており、サービス業では増加しているが、全産業では減少となっている。
 サービス業には、製造業のアウト・ソーシング等を積極的に受け止めていく部分もあるが、この間に導入された介護保険に関連する事業が含まれている。さらには、潜在的な失業を受け止めていく部分もあろう。実態としては、経済全体の萎縮の中で、就業者の構成が第三次産業に向かったということではなかろうか。いずれにしろ、経済構造が大きく転換していく中で、今後の就業の場の形成が懸念されている。
 なお、職業別就業者数の変化では、製造建設作業・労務作業や管理的職の減少が大きく、一方で介護関連のサービス職、情報処理を含む専門的技術的職の増加が見られる。


韓国の経路
 韓国で第一次産業就業者の構成比が50%を割ったのは1970年代前半であった。
 その後'90年までの各産業の構成比の変化は、日本の推移の図とよく重なる。
 しかし、工業を主体とする第二次については、'90年にピークとなった後、'90年代を通じて低下を続けている。これによって、日本の構造変化の経路とは乖離し始めている。
 結局、韓国では、日本の'70、'80年代の高度成長期に見られたような、第二次産業就業者構成比の横這いの過程はなかった。


 第二次産業のうち、製造業については、'90年をピークとして減少に転じており、日本と同様に、中国からの貿易の拡大が大きく影響しているものであろう。
 これは、製造業を深化させる過程を経ていないということになるのか。あるいは、大量生産システムを深化させ硬直化する前に転進できた見るのであろうか。
 また、建設業については、'96年をピークとして減少に転じており、IMF危機の影響であろう。ただし景気回復後の今後の動向に関心が持たれる。
 (右図での1992年、2000年での不連続は、産業分類の定義変更による。)


 韓国における'90年代の就業者数から見た産業構造の変化を前半、後半に分けて見ると、全体として、前半の著しい成長に対して、後半はIMF危機があり伸びが小さくなっている。
 農業の縮小幅が小さくなったことについては、景気低迷の中で他産業が就業者を十分に受け止めなかったことによるものであろう。
 製造業は特に減少幅を大きくしている。また、建設が減少に転じているが、IMFの要請の下で、政治的拡大は困難であったのだろう。
 韓国の発展段階において、小売業等の販売業を含め第三次産業の発展の余地は大きいと考えられる。
 このことについては、就業者の職業構成の変化によっても確認することができる。
 現在、韓国には、独立自営の気風があるとされ、数多くの企業が生まれ多様な事業が育っていく中で、就業の場が確保されていくことが期待されている。



中国の経路
 中国においては、概ね1970年まで就業構造の変化はなく、第一次産業就業者構成比が80%強で推移していた。その後、'70年代以降、第一次産業の低下、第二次、第三次産業の増加が着実に続いている。ただし、第二次産業の増加については、'80年代後半に至り緩やかなものとなっている。これは、'90年代に工業の著しい成長が見られたが、国有企業の改革の中で、就業者は停滞する結果となったものである。
 現在(2004年統計)では、第一次産業就業者構成比が50%を割り、構成比全体としては、1955年の日本と極めて類似している。
 日本においては、'50年代の第二次産業の構成比は比較的安定し、'60年代に飛躍したが、中国ではどのような経路を示すのであろうか。
 中国は日本の約10倍の人口規模を持ち、構成比の若干の変化も国全体としては極めて大きな量的変化となり、グローバル化した今日には、世界各国に与える影響も極めて大きい。
 今後、中国の経済開発では、国内的には、国営企業の構造改革、民間部門の発展をどう促していくのか、また、この過程で雇用の確保をどう図っていくのか。さらには、各地域がそれぞれの発展に尽力しており、これまでの経緯から、各業種が国内各省に分散して立地しているが、各地域の発展をどのように促し、地域格差をどのように解消していくのか、また、国際的には貿易・投資で世界各国といかなる関係を持っていくのかなど、強い関心が持たれる。
 このうち地域格差の是正については、第10次五ヵ年計画(2001-2010)等を背景に、西部大開発事業として、積極的な事業展開がなされている。
 なお、2001年以降継続している経済の急拡大については、2003年末頃より過熱が懸念され、選別的な投資の抑制措置などが採られている(Oct.27,2004.Add.)。

 →2000-2005年間の工業生産の変化

(Feb.14,2006.Rev.)


イ グローバル化の中での産業発展シナリオの変容

 各国が、孤立して経済開発を遂げる場合には、ペティ=クラークの法則も相当程度に当てはまるだろう。しかし、経済社会がグローバル化する中で、各国の相互関係により、法則からはみ出す動きが起きることを予想することは容易である。
 例えば、上に述べたような、1990年代における日本・韓国の産業構造の転換は、新たな動きとして捉えられよう。

発展途上国の不連続な成長
 ペティ=クラークの法則で想定される成長は、一国内で経済活動の基盤を順次積み上げながら、多様な産業連関を形成しつつ、展開していくものである。
 しかし、今日では、多様な交易によって、不足する基盤を補うことは容易である。
 特に、情報通信技術の発達により、製造業等の立地はきわめて制約の少ないものとなってきている。
 さらには、国内の一様な発展を待たず、特別な地域を形成し、部分的な成長を促していくのであれば、必要な資源を国外から導入し、また、製品を国外に輸出することによって、相当の生産性をあげることさえできる。
 中国のこれまでの急成長は、主として、こうした成長の極での発展であった。これが、全土に広がり地域的な格差が解消されていくとともに、多様な基盤の整備が総合的に進んでいくのか、あるいは、早い時期に成長の天井にぶつかり、多くの困難に直面するのか、解決していくべき課題は多い。

先進国の比較優位の確保
 一方、輸出主導で、多様な基盤を整備しない局部的発展であっても、その周辺国には、その部分的な発展との競合が起こる。特に、中国はその規模が大きく、与える影響は大きい。
 輸入側の先進国においては、安価な製品の入手が可能となり好ましいことであろうが、競合する製造業者にとっては、デフレ経済の状況となり、同じ製品を作り続ける限りは、人件費等の極端な削減が求められ、存続が困難となる。
 各企業としては、生産拠点を中国等に移すことも可能である。しかし一定の地域経済としては、生産構造の早急な変化が求められる。
 具体的には、先進国の比較優位の方向として、知的生産が模索されることとなる。社会の全年齢階層が一定の教育を背景に活動できるようになるには時間を必要とし、先進国の比較優位であることは間違いない。また、現在の多様な情報技術はこうした組織の形成を可能としている。
 ただし、単なる知的に高い技術であれば、即座に移転される可能性がある。このため、一定程度の学歴を持つ集団が、知的創造を継続的に行っていく体制の整備こそが求められている。
 ちなみに、2002年現在で、中国の大学院生数は、約9百万人で日本の約3倍となっているなど、中国・韓国の高等教育機関は、急速に拡大している。

物的生産拡大の上限
 他方、先進諸国のこれまでの発展、発展途上国の新たな発展で、人類の消費活動が量的限界に至っていることも重大な課題である。
 炭酸ガス排出量に即して言えば、仮に、現在の総排出量が上限で人類一人ひとりが同じ排出権を持つとすれば、先進国では、排出量を半分以下にすべきことは間違いない。
 このため、物的消費を極力抑制し知的消費、あるいはサービスの消費に大幅に切り替えていかざるを得ない。あるいは、物財の価格が低下する中で、経済の名目的なマイナス成長を許容する道もあるのかもしれない。

 なお、このような先進国の新たな方向については、情報技術の活用が、極めて効果的役割を果たしていくことができると考えられている。このため、社会のあらゆる部分に情報システムの導入を効果的に図っていくことが、重要な課題になっている。しかし、日本ではこうした流れに対応していく十分な体制が取れておらず、近年、国際競争力を著しく低下させてきている。

(July.16,2002.Orig.)



 以上は産業活動の中長期的な変動について述べたものであるが、短期的には、韓国・日本において景気循環の様相が見られる。


(統計データ)
参考文献等
A.ロンカリア著 津波古充文訳 ウィリアム・ペティの経済理論 昭和堂 1988年


次ページ
章目次
トップページ

(Jul.26,2002.Orig.)