中国WTO加盟の影響
−−世界経済に大きなメリット−−

 本年(2001年)11月のWTO閣僚会議で、中国WTO加盟が承認されることが確実となってきた。
 中国WTO加盟は、長期的に見て、中国はもとより、世界経済全体に大きなメリットをもたらすことは間違いない。しかし、個々の関係者にとっては、いろいろな事情があり、ここで、そのメリット、ディメリットについて整理しておく。

中国のWTO加盟の影響

メリットディメリットあるいは懸念材料
中国国内改革の促進
投資導入による高い成長の持続
国有企業の対応可能性
農業の競争力(穀物等)
地域格差の一層の拡大
外国資本進出による国家主権の低下
共通輸出の拡大
企業進出
国内生産との競合
日本投資環境の改善
中間財輸出の拡大
貿易摩擦解消のルール化
開発輸入等の一層の増加、
同時に対中輸入拡大の要請強化
企業進出における欧米企業との競合
NIES中間財輸出の拡大国外からの投資の減少
ASEAN中間財輸出の拡大
食品輸出の拡大
国外からの投資の減少
繊維・アパレル等の競争力の低下
台湾中国との直接通商・通信・通航(3通)が
実現し、大陸と一体となった発展

ものごとのメリット、ディメリットについては、立場が変われば逆転する性格がある。国内でも例えば、生産者と消費者のように異なる立場の人がいる。このため、いずれの事項も単純にメリット、ディメリットと規定することには語弊が伴うが、ここでは、一般に表現される内容で一応列挙した。


中国
 中国は1955年に一旦、GATTを脱退した後、既に1986年には復活を要求している。国際経済の中でこそ経済開発が可能であると認識した証左であろう。
 さらに、1990年代当初の経済発展の絶頂期を過ぎ、改組新設されたWTOへの加盟はいっそう急務となってきた。また、周辺諸国はもとより、世界各国も中国の加盟、共通ルールでの交流を希求することとなり、今般の加盟実現への動きとなっている。

 中国での経済開発の歴史をたどれば、農村での企業自主権の拡大から、消費の拡大、資本の蓄積が始まり、郷鎮企業が成長し始めた。さらに1992年の南巡講和以降の開放経済政策、「社会主義市場経済体制」の推進により、積極的な外資導入が図られ、著しい成長を遂げてきた。
 しかし、こうした中で、国有企業改革、金融整備、行財政改革など多くの課題が一層明確になってきており、また地域格差是正への対処も重要な課題となってきている。
 こうした課題の解決には、失業問題を始めとする多くの摩擦をともなうが、高い経済成長持続の中でこそ諸課題が克服できると考えられる。
 このために、一層の貿易の拡大、投資の導入を図り高い成長を実現していくよう、WTOへの加入を今まで以上に切望していたところである。

 このWTO加盟には、地域によっては異なった受け止め方がある。これまで著しい成長を遂げてきた上海を中心とする沿海地域では、当然肯定的に捉えている。しかし、国有企業の比重の高い地域においては、その改革の困難性から躊躇がある。さらには、農業地帯においても、穀物等を中心とする生産性の低さからWTOへの加盟には懸念を持っている。
 しかし、中国全体としては、第10次五ヵ年計画(2001年3月採択)でも見られるように、WTO加盟こそ絶好の契機として必要な構造改革をすすめようとする意図がある。
 また、開放経済体制の一層の推進は、地域格差の拡大に繋がる可能性を持つが、「西部大開発」として特に配慮しており、外国からの投資導入を狙っている。
 「社会主義市場経済体制」ということが、本来実現可能かといった懸念も投げかけられているが、WTO加盟によって、経済開発を一層促進させていくことは確実であろう。


国際競争力から見た中国の産業
国際競争力を
持つと考えられ
ている産業
一般労働
集約型産業
アパレル、紡績、玩具、
靴類、食品、一部金属製品、
機械製品など
労働技術
集約型産業
多くの機械電子製品
その他特産品や希少金属
国際競争力が
ないと考えられ
ている産業
ハイテク製品
資本集約型製品
大部分の
資源型製品
食糧、油糧、原油、
木材など
原洋之介著「アジア経済論」による。
周辺国共通
 中国WTO加盟についての周辺国への影響については、一般論として、中国との貿易の一層の拡大、直接投資・企業進出の拡大が期待できる。
 このため、中国の各産業の国際競争力の状況によって、好影響を期待する事業者・国、悪影響を懸念する事業者・国に分かれる。
 中国が国際競争力を持つと考えられる業種の事業者にとっては、増大する輸入との競合が厳しくなるであろう。しかし、積極的に企業進出を目論むのであれば好ましく捉えられる。
 中国が国際競争力を持たないと考えられる業種の事業者にとっては、輸出拡大の好契機と捉えられよう。
 なお、消費者の利益まで含め総合的に見れば、経済活動全般の一層の活性化の中で、もたらされる利益が大きいと考えらる。


日本
 日本は、中国にとっての最大の輸入相手国、アメリカに次ぐ輸出相手国であり、また、中国への投資もアメリカと並んで大きい。このため、中国のWTO加盟で最も利益を得る国ともされている。
 既に、多くの企業進出がなされており、一層の活性化が起きよう。また、中国の経済活動の活性化を受けて、中間財(生産財)輸出の増大も期待される。
 投資・貿易を通じて、企業活動の環境が透明になり、多様なトラブル等についての処理方法がルール化することは好ましい効果を生む。
 また、輸入の一層の拡大も予想され、競合業種の事業者にとっては厳しい環境となる。ただし、日中双方の貿易バランスについては、日本の輸出超過が大きく、基本的には輸入拡大が強く要請されていくこととなろう。
 他方、欧米企業進出の活性化が予想され、日本系企業との一層の競合が懸念される。

NIES
 中国の経済活動の活性化を受けて、中間財(生産財)輸出の増大が期待される。
 しかし、一方では、中国への投資が拡大することによって当該国への投資が減少することを懸念する向きもある。

 韓国については、従来から自らを先進国と発展途上国に挟撃される位置にあるとしている。このため、環境が一層厳しくなるとする向きもあるが、対応如何で大いに利益を受けていくことができよう。

ASEAN
 影響は、一般的には、NIESと重なる。
 特に、輸出については、農産品輸出の拡大の可能性が指摘されている。
 これに対して、繊維・アパレル等については競争力が低下する。ちなみにASEANから日本への繊維の輸出は、既に中国に座を奪われ減少している。

台湾
 台湾については、WTOへの同時期加盟が見込まれている。これについては、時期をずらすと中国の拒否で加盟が今後とも困難となる可能性があり、WTOとして好ましい対応と捉えられている。
 中国自体の政治的立場は難しいが、台湾の加盟は、中国の経済発展をより高め、好ましい方向であろう。
 WTOの規定により、台湾と中国との直接通商・通信・通航(3通)が自動的に実現し、大陸と一体となった発展に拍車がかかることとなろう。


今後の見通し
 以上の中国WTO加盟の影響は、中国自身がWTO加盟後において、比較的順調に社会変革を進め、新たな透明な市場メカニズムが形成され、国内外の企業が着実に発展していき、その中で多くの社会的困難も解決されていくというシナリオに基づいたものとなっている。
 現実には、国内企業が外国企業との競合に耐え切れず、失業者増大を始め多くの困難に直面し、WTO加盟に際しての約束も大幅に反故にされ、混乱状態に陥るといった可能性さえある。
 いずれにしろ、いわゆる「陣痛期間」を伴うことは間違いない。
 日本等の周辺国においては、過大評価も過小評価も避け、経済発展を軸としつつ民主化を漸次進めていくシナリオを支持していくことが重要であり、自らの利益にも適うことを念頭に置いておくことが必要であろう。


参考文献等
馬成三「中国WTO加盟のアジア経済に与える影響」(社)経済企画協会『ESP』2001年7月号所収。
浅田英克「21世紀の中国経済の展望」(社)経済企画協会『ESP』2001年7月号所収。
原洋之介「アジア経済論(新版)」NTT出版2001年。
鮫島敬治、日本経済研究センター編「中国WTO加盟の衝撃」日本経済新聞社2001年。
海老名誠、伊藤信悟、馬成三「WTO加盟で中国経済が変わる」東洋経済新報社2000年。
国分良成編「中国全球化が世界を揺るがす」ウエッジ2000年。
中国政府(第9期全国人民代表大会第4回会議批准)「国民経済と社会発展に関する第10次五ヵ年計画綱要についての報告」2001年3月。

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(July.05.2001.)