第1章 経済開発の進展
第2節 国内システムの形成

2 組織構造(分配)

趣旨
 生産活動の拡大は、工業生産の展開から始まるが、これは主として都市で行われる。このため、人々は農村から都市へと次第に移り住み、同時に家族形態も大きく変えていく。こうした変化は、中国はもとより、韓国・日本でも現在も続いている。また、潜在的には、自ら生活を守る体制を脆弱化させている。
 さらに、企業組織の形成も図られるが、この内容も、グローバル化、情報化等の環境の中で、中国はもとより、韓国・日本でも大きな変化に迫られ、また変化しつつある。
 こうした中で、人々の生活の平均的水準は向上するとしても、発展の多様な段階での厳しい相互競争が、格差を拡大させ始めている。また、世界全体で見た場合の所得格差は著しいものとなっている。
 本項では、このような社会組織の形成とそれによってもたらされる所得の配分について検討する。

   

(1)家族の変化

    

(1-1)都市への移動

要旨
 一般には、工業など都市型産業の発展が経済開発そのものである。このため、経済開発に伴って、人口の都市への移動が進む。しかし、首尾よく中産階級層を形成し、国全体として豊かな社会を構築していくことができるかどうか、厳しい課題がある。中国は都市化の中でこうした岐路に立っているといえよう。また、韓国・日本は、中産階級を形成し、格差を抑えてきた。
 一方、人口の過度な都市集中により、上水を始めとする各種給排機能の麻痺、その他環境の悪化など解決困難な課題が多い。また、都市地域の拡大は、農地の蚕食をともなう。
 他方、都市化は既存の生活の場であったコミュニティを崩壊させているが、情報化の中での新しいコミュニティの形成について、人々の生活の安定ばかりでなく、地域産業の発展の面からも検討されていく必要がある。

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ア.東アジアの都市化

 都市人口比率の増加は、農林漁業以外の産業に従事する者の増加を意味しており、発展途上国の経済開発の進捗度合いを表すものとして関心が持たれる。
 統計指標として恣意的な要素を除外するためには、日本の国勢調査にある人口集中地区のような統計が必要であるが、この統計自体が作成困難であるとともに、関連した統計も入手し難い。このため、一般には、行政区域を単位として、都市と定義される区域の人口数の合計を利用することとなる。
 このため、国際的な相互比較には、限界があることを承知しておく必要がある。

(ア)都市人口の増加
 経済開発が進むと、産業間で所得格差が生じてくる。いわゆる都市型産業が農業等の従来型産業に比して高い所得を得るようになる。
 このため、農村から都市への人口の移動が起こる。これは、新しい生産と分配のシステムを形成していく過程でもある。
 これを踏まえた開発理論が「ルイスの二部門モデル」であろう。
 実際に、一人当たり所得水準が高い国ほど都市人口比率も高い。


 中国では、都市人口が次第に増加している。これまで、大都市での増大とともに、多くの小都市の発展が見られた。
 韓国については、人口の急速な都市集中は1990年代に入ってやや減速したようにもみられるが、現在も着実に増加し続けている。特に、ソウルを中心とする首都圏への集中が著しく、ソウルの人口密度は既にかなり高くなっている。
 日本の都市人口(市部人口)については、経済発展の中で1970年代前半まで増大を続けた。しかし、オイルショックさらにはバブル経済の崩壊を経て、都市人口比率の増加は収束している。ただし、今後、市町村合併の促進で、市の区域の拡大により、都市人口比率が形式的に増大する可能性がある。



(イ)中国の都市化
 中国では、経済成長とともに都市人口が増大しており、都市人口の比率は、2003年に40%を超えさらに拡大し続けている。
 都市人口の増加は、1990年代半以降加速しており、最近の10年で約13%ポイントの増加であり、全国での人口増加分も含めて、都市人口は約2億人増加している。
 年間に換算すれば約2千万人に相当し、これを受け入れる経済開発の規模は膨大なものである。
 なお、農村人口は、1990年代半以降減少が続いている。

(May.16,2006.Rev.)



Urban Growth,1991-99

19911999
Number of
designated cities
479667

Super large (>2 million)913
Very large (1-2 million)22 24
Large (0.5-1 million)30 49
Medium (0.2-0.5 million)121 216
Small (<0.2 million)297 365
Number of
administrative towns
10,000 17,341
Source:China Statistical Yearbook
(1992 and 2000);
China Urban Statistical Yearbook
for Urban Construction (1999)
Quoted from
World Bank"CHINA: Air, Land, and Water"

 中国での'90年代の都市の拡大については、巨大都市への人口の一層の集中とともに、新たに多数の小都市が形成されたという資料もある。
 また、人民日報では、1999年末には55,000以上の都市になったという報道もあった。("Statistics show that the number of the country's small cities and towns had increased to more than 55,000 by the end of 1999."「『人民日報』インターネット英語版2001年8月28日付け」)


 人口移動の指標として、各省等の居住人口のうちの正規の登録人口の比率を見ると、北京市、上海市、福建省で90%を割っており、これらを含め沿岸地域の省で低く、人口の流入が著しいことがわかる。
 なお、都市人口比率が既に36%に達しているという見方もあるが(World Bank"CHINA: Air, Land, and Water"2001)、これはこうした非正規登録人口の把握の問題であろう。
 このような人口移動の要因としては、前節で見たとおり、経済開発の地域間格差のため、人口移動の圧力が強いことが予想される。

 しかし、これまで戸籍の管理で農村から都市への変更を困難なものとしており、人口移動をこの水準にとどめてきた背景がある。
 現在、WTO加盟に伴う経済開発の一層の進捗に対して、労働力の効率的な移動を図るため戸籍制度の改革が検討されているという。
 今後の都市形成が、経済開発と人口移動とが調和して適正に進むか否かは、困難な課題である。

 なお、人口流入の多い沿岸省では、出生の抑制や高い年齢構成によって、人口の自然増は総じて低い。



(ウ)韓国の都市化
 韓国では、過去半世紀にわたって、ソウルへの人口集中が著しいかった。現在の人口分布では、ソウル市のみで全国人口の1/4近くを占め、京畿道、仁川市まで含めれば人口の半数に達しようとしている
 また、これに次いで、釜山市と慶尚南道、慰山市への人口集中も著しく、これら3地域で、全国の人口の1/6を超えている。



 まず、国全体での人口移動の状況を把握するため、広域都市を包含した道全体についての人口の純移動について見る。
 年々の人口純流入地域は、ほぼ京畿道に限られており、これまでの人口移動は、専ら首都圏へ向かったものであった。
 これ以外では、釜山を含む慶尚南道で'80年代後半に、また万博の開催された大田市を含んだ忠清南道で'90年代半ばに、それぞれ人口の小幅な純流入が見られた程度である。

 京畿道ヘ向かった人口の首都圏集中は、'80年代前半に最も激しかった。その後'90年代には次第に沈静化し、'98年には金融危機による景気の後退もあって、流入がほぼなくなっているが、その後再び拡大を見せている。
 後に述べるように日本で人口の大都市圏への集中が最も激しかったのは、'80年代前半で、日韓で人口の都市集中の動きに概ね20年の時間差があることとなる。これは、産業構造の変化に20年の差があることと符号している。
 さらに言えば、日本では、'70年代後半に石油危機で人口移動が沈静化しているが、これも、韓国での'90年代後半の金融危機前後の動きと対応している。


 次に、広域都市地域を別掲して人口の純移動について見る。
 人口の移動については、1990年頃から新しい動きが起きている。
 ソウル市は純流出地域に転じ、周囲の京畿道の純流入が一層拡大している。これは、ソウルでは、人口の純流入により、著しく高い人口密度となり、過密状態も進展し、生活環境改善のために周辺へ人口が滲み出し始めた状況である。
 ちなみに、韓国では、日本のような持家指向は乏しいようで、集合住宅(アパート)の増加が著しい。
 なお、韓国の国土計画では、既に第二次計画(1982〜1991)で、首都圏の過密緩和を重要な課題としている。
 (ただし、景気が停滞する2001年央の現局面では、首都圏集中抑制策の強力な実施は躊躇され、かえって規制が緩和されている面もあるという。)


 各広域都市への人口の純流入は、'80年代から'90年代始めにかけて著しかった。ただし、周辺道域全体の動向から判断して、釜山市等への人口の純流入については、周辺地域からの流入を主体とした地域的動向であったと見られる。
 また、ソウル市で見られるような人口移動の転換は、釜山市についも同様に見られる。さらに、1990年代の全羅南、忠清南、慶尚北道の純人口流出幅の縮小は、それぞれ光州、大邱、大田市の純人口流入幅の縮小と対応している。
 制度条件等の変化について要調査
 過密を原因とした人口の減少は、生活環境向上のためには避けられない現象である。例えば日本でも港湾都市など人口密集地区を抱えた地域で類似した人口減少が見られる。
 他方、これ以外の全羅北、忠清北、江原道の人口の純流出幅も1990年代に縮小している。

 ちなみに、こうした移動の結果、仲秋節(旧盆)には、全国で総人口の70%以上の3,200万人が一斉帰省するといわれている。(国民日報Sept.29,2001.)

 なお、こうした都市化の動きの中で、韓国では、耕地の減少が着実に進んでいる。


(エ)日本の都市化
 戦後、過去半世紀の日本での人口の都市集中は、東京、大阪の戦災復興から始まっている。東京、大阪とも
戦前の増加趨勢線上に近い水準まで人口が増加した後、'70年前後に停滞に転じている。
 ただし、周辺県での人口増加は引き続き著しかった。
 また、愛知での人口増加も着実に進んできている。


 人口の増加に関し、ネット(純)の社会移動を見ると、3大都市圏へ向かった移動は、概ね'60年代前半が最も大きかった。
 その後'70年代後半の石油危機の時期には、三大都市圏に向かっての移動はマイナスに転じているが、バブル期に再び回復している。ただし、'80年代のバブル期の移動は、専ら東京圏に向かっての移動であった。
 その後'90年代のバブル景気崩壊後は、首都圏を含め流出基調となっている。


 最近10年間の人口変動を都道府県別に見ると、東京圏を外延に拡大した関東甲信に静岡を加えた地域全体で人口が増加している。人口移動は必ずしも大きくないが、広域の首都圏全体の拡大が続いてるといえよう。
 さらに、宮城、福岡など地方中枢都市所在県の増加も注目される。


 都市人口の変化としては、日本では、市域人口の変化を用いることがある。しかし、行政区域に基づくものであり、区域の設定によって、農村部も含まれている。
 このため、5年毎ではあるが、国勢調査の人口集中地区(DID;Densely Inhabited Drsticts)の人口を都市人口として用いることもある。
 この統計では、同一県内でも都市へ向かっての人口移動が進んでいることも捉えており、日本全体では、都市人口及びこれに伴う都市地域が、着実に拡大し続けていることを示している。
 この結果、日本でも耕地の減少が韓国と並んで着実に進んでいる。



イ.都市形成の課題

(ア)都市集中の制御と中産階級層の形成−−岐路に立つ中国−−
 都市への人口集中は、経済構造のなんらかの変化の表れである。しかし、単に貧困な農村から都市に向かっての人口の流出で、都市でスラムを形成するような場合もある。また、都市の就業機会の増加とあいまって、それなりの中産階級を形成する場合もある。
 こうした都市人口増大の実態については、各国の都市人口比率とジニ係数を重ねるとある程度の区別ができよう。実際に世界各国の位置を描くと、地域毎の偏りが明確に現れる。
 都市人口比率が概ね70%以上と大きくなりながら、かつ所得格差の大きくないのは、西ヨーロッパを中心とする先進国のグループである。この中に、日本、韓国も入っている。
 都市人口比率が50〜70%程度であるが、所得格差が特に低いのは東ヨーロッパ諸国である。ただし、今後の経済変動でどう推移していくか懸念されるところであろう。
 一方、都市人口比率が高く、所得格差も大きいのは、南アメリカの諸国である。各国の首都等に巨大なスラムが形成されていることが示されている。なおこうした図では、ロシアもこのグループに近い位置にあることとなる。
 他方、アフリカでは北アフリカを除いて都市人口比率はまだ低いが、赤道以南の諸国(サブサハラ南)では、既に大きな所得格差を持つ国も多い。
 東南アジアの諸国も多くは都市人口比率が低いが、ある程度増加した国については、所得格差も拡大しており、今後の推移が懸念される。
 中国については、国全体としての都市人口比率は、未だ32%(2000年)にとどまっている。しかし、今後、それなりの中産階級を形成する方向に、首尾よく向かうか否かが注視されているところである。
 ここでの分析には、都市地域の定義の偏りも含まれるが、大まかな判断として誤りはないだろう。


 ASEAN諸国は都市に流入した人口の中産階級層化にある程度成功し発展の経路をたどっていると評価されている。
 このため、人口移動の直接的な制御も時には必要であるし、また、都市、農村双方同時に生産性の向上を図っていく必要がある。



(イ)都市環境の整備
 都市への人口・生産活動の集中は、多様な環境問題をもたらす。
 特に、大気汚染や水質汚染などは、人々の健康に直接影響をもたらし、放置することはできない。これに関しては、次章で別途検討する。
 また、生活・生産活動の資源の確保にも支障をきたす。特に、運搬の必ずしも容易でない、水不足は多くの都市で課題となっている。この点に関しても、次章で別途検討する。
 さらに、交通問題をはじめとする多様な住環境整備の課題も山積することとなる。


(ウ)農地の保全
 香港、シンガポールのような都市地域(国家)では当然であるが、日本、さらには韓国も都市人口が極めて大きな割合を占めている。この反面、農業従事者は著しく減少している。これに加えて、農業の労働生産性の低さ、耕地の減少が重なり、農業の生産力は極めて減少し、結果として食糧自給率を著しく低いものとしている。現時点では、資源を輸入に求めればいいわけだが、食糧について、無制限に輸入依存度を高めていいものか否かは課題を抱えていよう。
 日本、韓国も当然ではあるが、さらに中国については、人口規模が大きく、自らの食糧を自らまかなわなければならない。この際長期的には、農業の労働生産性がその他産業に匹敵するものとなっていく必要があるが、土地の適正な管理を含め、持続可能なあり方をしっかりと探っていく必要があろう。


(エ)都市の再構築
 都市への人口の急激な移動により、これまで、それぞれの地域で維持されてきた社会的相互支援組織が崩壊し、新たなコミュニティの形成が模索されている。それは、地縁社会に必ずしも縛られたものではなく、多様なボランタリィな活動を背景としたものとして形成されていこう。
 他方、今後の新たな産業形成についても、多様な個人・企業の弾力的な連携が重要となり、インターネットに代表される情報空間とともに、一定の地理的な場での交流も同時に重要であり、都市の機能が再検討されていく必要があろう。いわゆる産業コンプレックスを形成のための都市集積が求められている。


(オ)人の国際移動
 上述のような人口の国内移動に対して、国際間の移動にも課題がある。
 日本においては、いわゆるバブル経済絶頂期の人手不足の中で、入管の制度を変更し、単純労働力の流入を一部許容した。さらに、東アジア諸国の工業化と競合する現局面でも、進出企業の従業者の研修等の意味合いも含めて、その許容枠を拡大している。
 経済発展の共生を唱える場合、人的移動に対して国境を解消していくことは、一つの効果的な方法であろう。しかし、これに伴い必要な社会システムの多様な変更をそれぞれ受け入れていくことができるのか、慎重な対応が必要である。ヨーロッパの外国人受け入れの経験では決して肯定的に考えられない課題であるが、いかがであろうか。

(Aug.24,2001.Rev.)






(統計データ)

参考文献等

情報源




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