第1章 経済開発の進展
第2節 国内システムの形成
2 組織構造(分配)
(3) 所得格差
要旨
中国では、成長拠点を設定して、飛躍的な経済開発を進めてきたが、国内地域間の格差が大きくなってきており、その是正が大きな課題となってきている。
韓国、日本では、これまで、それぞれの成長の過程で所得の平準化に成功してきたが、グローバル化する経済の下で競争的な環境が浸透し、所得格差が拡大する兆候が見られる。
世界の所得格差は、極端な状況にあり、その解消の方向は見出されない。
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(ア)ジニ係数
―1万$以上経済への成長は所得格差解消が要件―
国全体としての経済力の検討とともに、それが住民にどのように分配されているかも重要な関心事である。
一般に、経済開発のある段階まで所得分配の不平等度が拡大するのは避けられず、その後縮小するという傾向があるとされる(「クズネッツの逆U字仮説」)。
例えば、この指標として、各国の所得配分のジニ係数(平等度が高いほど値は小さくなる)について、一人当たり所得との関連性を見たものが右図である。
各国特有の事情があり、特定時点の各国の係数を並べてもこのことは確認し難い。
しかし、所得分配の格差がある程度解消しないと、一人当たり所得1万$以上の経済への成長が困難という状況は認められよう。これは、経済成長の要件として、国内での消費需要の主体として、中産階級の形成が必要なことを意味していると考えられる。
なお、香港は、中国と繋がった都市地域として例外的な位置にある。
また、アメリカは、先進国の中では、所得格差の大きい国であり、特殊な位置にある。
中国の今後の経済成長の中で、所得の格差がどう推移していくか、あるいは経済成長の制約要因としてどう作用していくかは、注目される。
(統計データ)
(Nov.19.2003.Rev.)
中国とアメリカの所得の平準度はほぼ同等となっている。所得を累計した曲線を描いても、ほぼ重なる。
中国では、経済開発の離陸段階にあって、地域間の大きな較差が生じてきており、その解消が課題となっている。
アメリカについては、同一地域でも格差が大きく、一層厳しい状況といえよう。多くの移民を受け入れてきており、人種の坩堝の社会で平等を確保していく難しさが現れている。さらには、情報システムの浸透するニューエコノミー社会で、これまでの中間階層が崩壊する状況さえ懸念されるようになってきている。
(イ)中国
―拡大する都市農村間・都市内所得格差―
中国の所得格差については、3種類のものがあるとされている。国内の地域間の格差、都市と農村の格差及び都市内での格差である。
地域間所得格差
上海市で5千$/人を既に超え、北京市でも4千$/人近くとなっており、天津市と合わせて3市は特に抜きん出た位置にある。さらに南東部沿岸省でそれぞれ2千$/人を超え始めており、これらの地域が中国の急速な経済発展を担っていることがわかる。
しかし、内陸部では1千$/人に至らない省が並んでおり、重慶市も同水準にある。
このように中国の今後の経済開発については、内陸部、西域の開発をいかに進めていくかが大きな課題になっていることは明らかである。
なお、香港は2万$/人を超えており、別途留意しておく必要がある。
新疆雑吾爾自治区でやや水準が高いのは鉱物資源の生産によるものと考えられるが要検討。
都市農村所得格差
都市世帯と農村世帯の所得格差については、一人当たり所得で、1980年代半ばの約2倍を底として次第に拡大しつつあったものが、'90年代半ばに一端格差縮小の傾向が見られた。これは農村での郷鎮企業の成立等の影響であろうかと見られる。
しかし、現在は再び拡大に向かっており、2002年には3倍を超し、さらに拡大し続けている。
都市内所得格差
2003年の都市内世帯の一人当たり所得は、貧困世帯(最下位5%)の275US$に対し、最高所得世帯(最上位10%)は2,838US$であり、10倍を超える格差があった。
この格差自体の評価は安易にはできないが、2000年との対比では、高所得世帯ほど所得の伸びが大きく、さらに貧困世帯は減少を示しており、都市内世帯の所得格差拡大が急速に進んでいると見られる。
なお、仮に都市内の一部階層を捉えれば、かなり高所得の巨大な人口集団が生まれていると言える。
格差の評価に関して、2003年での一人当たり所得に関するジニ係数は0.32に留まっており、必ずしも大きくない。ただし、前年まで、0.25であったものが、2003年に飛び上がっている。
また、農村から流入している農民については、勘案されていないと見られ、格差の実態はこの水準にはとどまらないと考えられる。
農家所得についても、統計で見る限り格差が拡大している傾向があるが、実際には、国全体としての地域格差が反映されているものであろう。
また、1990年代後半での若干の格差の解消は、郷鎮企業の目覚しい発展等が一段落しているためであろう。
(統計データ)
(Nov.02,2004.Rev.)
(ウ)韓国
韓国の市・道別一人当たりGDPについては、通常の予想と異なる様相を呈している。
道としては、江原道、全羅道北、済州道で7千$/人台で低いのは理解できるが、これに次いで京畿道が8.5千$/人と低い。さらに、大邱市の始めとする各市の水準が低く、ソウル市でも8.7千$/人に留まっている。こうした中で、唯一、慰山市が18.8千$/人と高くなっている。
一般に、都市地域は経済開発が進み、他地域より所得水準が高くなっていることが期待される。さらに、当該都市地域に日常的な通勤者の流入があれば、居住人口当たりの生産額は一層高くなり、逆に周辺地域の水準が下がる可能性がある。
この様子が端的に現れているのが慰山市であろう。この点については、地域内総生産と地域民所得の違いに注意しておく必要がある。
しかし、韓国のその他の都市では、かえって一人当たりGDPの水準が低い。これは、都市が発展し人口を吸収した「プルの状況」というより、農村が潜在失業者を都市に向けて吐き出した「プッシュの状況」が起きているのであろう。
典型的には、発展途上国の都市で人口の流入増加が激しくスラムを形成している型と言えるが、韓国の実態については、今後、情報を集め分析していく必要がある。
韓国の都市勤労者世帯の所得に関するジニ係数について、1980年代後半から'90年代前半にかけての降下は、クズネッツの逆U字仮説における降下過程に相当するものと言えるかもしれない。この仮説には異論もある。
しかし、'90年代半ばから、再び上昇傾向にあり、さらに、IMF危機を契機に跳ね上がった。
この上昇の要因については、直接的には、失業者の増加等の可能性もあろう。しかし、基本的には、グローバル化する経済の中で、企業間の競争が厳しくなり、成功する者と敗退する者の差が明確に現れるようになった結果ではなかろうか。
この場合、ジニ係数が再び'90年代前半の水準に降下する可能性はないとも考えられる。
なお、韓国においては、都市世帯と農家世帯の所得格差も拡大しているようである。
(エ)日本
日本の都道府県別一人当たりGDPについては、東京や大阪のような大都市圏の中心都府県で特に高く、奈良や埼玉のような隣接県で低いといった生産地と所得者の居住地の違いが典型的にあらわれている。
これ以外には、日本の中心部ほど高く、周縁部ほど低いといった傾向がみられるが、その格差は総じて狭い範囲に留まっていると言えよう。
ちなみに、一人当たり県民所得の水準については、大都市圏で高く、その他地域、特に周縁部で低いといった素直なパターンが表われている。
他方、日本においては、ジニ係数は、長期的に上昇してきており、これも経済がグローバル化する中での競争の激化の結果と考えられる。
かつて、総中流社会と称されたが、その意識も既に崩れてきている。
日本でのジニ係数の上昇の要因について、その事実を含めて数多くの議論がある。例えば、高齢化、世帯規模の縮小、パート・アルバイトなど就業形態の多様化などがあげられるが、このうち就業形態の多様化の一因は競争の激化にあろう。
このような状況からみると、グローバル化した社会では、発展途上国の所得のジニ係数について、一旦上昇した後に再び低下するといった逆U字型仮説が仮に事実であったとしても、今後は、後段の降下局面がなくなるのではなかろうか。
税制度、社会保障制度等によって、所得をある程度再配分することもできるが、厳しい競争の時代にあっては、機会の平等を強調することによって、結果の平等への要求は相当に弱いものとなりそうである。少なくとも韓国や日本はこの方向に進んでいる。
日本・韓国のこのような動向については、これまで長期的に解消する方向にあった社会階層の再形成と固定化の兆しとして懸念される。さらに、両国においては、近年、自殺や犯罪の増加が見られ社会の不安定化が進んでいくものと見られる。
(Aug.25,2003.Rev./Aug.22,2001.Orig.)
(統計データ)
(オ)所得格差の解消
経済開発は、国内すべての地域で、すべての産業について均衡を保って進めることは困難である。むしろ成長の拠点を形成し、その成果を周辺に広めていく戦略が主体的に採られることもある。
このため、開発の初期には、所得分配の不平等度が拡大しがちである。
しかし、所得水準の高いグループが次第に拡大し中間層を形成していく必要がある。これによって、産業の新たな発展のための消費需要が形成され、発展の好循環へと入っていくことになる。
この結果、その平等度を向上させるとともに、国全体の所得水準を高めていくこととなろう。これがクズネッツの逆U字現象である。
ここで、新中間層の形成が促されないと、貧困の循環から抜け出せないこととなる。
この平等の具体的なあり方、また具体的な水準については、多くの議論がある。
特に、単に機会の平等を達成すればよいのか、結果の平等を監視していく必要があるのか。さらには、イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズの第三の道*のように、統計的な基準にとどまらず、個々の課題で、皆が包含され排除されていることがないか検討していくことが肝要とするのか。
人々が稼得所得の平等度を妥当な範囲(競争的意識を極度に阻害しない範囲)で高めようとすることは経済開発の必要条件である。
これと同時に、個々人も、経済的安定をどう確保していくか、その世帯の形成を含めて努力していく必要がある。
日本における福祉社会の議論では、これまでの家族の桎梏からの解放への意識が潜在的にあり、表向きには期待しないこととなっている様相がある。
東アジア社会の議論の中で、儒教文化の現代的意味合いが取り上げられることがある。この点については、単純な保守回帰ではなく、新しい意味付けをこの地域で考えていく必要があるのだろう。さらに欧米流のボランタリィな活動がどう調和していくのか、地域なりに深く検討しておく必要があろう。
このような個々人の努力を前提として、他方で、政府の手による所得の再配分としての社会保障制度も求められる。
賃金水準の検討では、その前提として労働内容を規定すること、そして多様な手当ての内容を明確にすることなどが容易でないため、異なる組織についての比較は本質的に困難な面がある。
さらに、国際比較については、為替レートの検討はもとより、多様な労働慣習についての評価も求められ、一層困難な作業となる。このため、具体的な事業で実際に適用される賃金を直接比較することのみが真実であるとも考えられよう。
しかし、何らかの指標が強く求められるため、ILO(International Labour Office)では、数多くの注釈を付けて各国の賃金水準を列挙している。ただし、実際に国際的な比較を行うには、さらに通貨を統一して一覧する必要がある。
| 製造業月当たり賃金(2000年) | US$ |
| 日本 | 293,100 | 円 | 2,720 |
| 韓国 | 1,601,500 | ウォン | 1,416 |
| 中国 | 729.00 | 元 | 88 |
| シンガポール | 3,036 | シンガポールドル | 1,761 |
| タイ(1999年) | 5,907 | バーツ | 156 |
International Labour Office, "Yearbook of Labour Statistics 2001" WDB;"World Development Indicators" |
右表は、東アジアの賃金を比較したものであるが、上述のような但し書きを背後に抱えた数値である。
ちなみに、日本・中国の賃金格差は、20〜30倍といわれることがあるが、この統計では約30倍となっている。事業所を実際に立地できる好条件の場であれば、この倍率は相当に低下することが予想され、一応の目安にはなっていると考えられる。
また、日本・韓国の賃金格差は、約2倍となっている。
| 製造業週当たり労働時間(2000年) |
| 日本 | 38.7 |
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| 韓国 | 49.3 |
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| 中国(1998年) | (162.9) | 1ヶ月当たり、4都市国営企業 |
| シンガポール | 49.8 |
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| タイ(1999年) | 50.07 |
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International Labour Office, "Yearbook of Labour Statistics 2001" |
実質的な賃金水準を見るための労働慣習の比較として、労働時間が最も重要であろう。しかし、ILOの統計では、中国の代表値になるものがない。
また、韓国については、週当たりで、日本より10時間以上多い。ただし、週5日制が議論されているところであり、急速に短縮するものと考えられる。
(Sep.09,2002.Add.)
世界全体の所得総額が、各国地域(以下「国」という。)のどのような所得で構成されているか。
各国の所得水準は一人当たり所得額で表現され、これと総人口との積が、それぞれの国の所得総額である。
人口と所得水準(ここでは一人当たりGNP)の2軸で構成される平面上に、各国を位置付ければ、それぞれの国を表す点から2軸への垂線と2軸で囲まれる長方形の面積が、それぞれのGNPに対応する。
右図は、世界銀行の「開発統計」のデータを用い、1999年の世界127国地域の位置を描いたものである。
世界で最もGNPの大きいのはアメリカであり、所得水準が高いとともに、人口も大きいことが寄与している。これに次ぐのは、日本であるが、人口がアメリカの半分弱で、GNPも半分以下となっている。
他方、中国やインドは人口が多いが、所得水準が低く、GNPの順位は落ちる。
また、その他の多くの国については、図の原点付近に集中している。
それでは、各国の所得を通算して、世界には、どの程度の所得水準の人がどの程度おり、所得分布の平準度はどの程度ということになるのか。
右図は、一人当たり所得水準の小さい国から並べ、累積人口を横軸に、累積GNPを縦軸にとったものである。ただし、世界全体の人口、GNPを100としている。
この図は、各国内の人々の所得は均一と仮定した場合のいわゆるローレンツ曲線に相当する。
関心のある各国を色付けしてあるが、それぞれ横幅が人口に、縦幅がGNPに対応し、傾きが一人当たりGNPとなる。
例えば、中国は人口が多いが所得水準が低く横に寝た線となり、日本は人口は1億強だが所得水準が高く縦に立った線となる。また、両国の所得水準の格差は約40倍である。
さらに、本図からジニ係数を算出すると、0.7068となり、通常の一国の国内では到底許容できない大きな格差を示している。
なお、世界銀行の統計に掲載されている127か国で、世界の総人口の98%程度は集計していると考えられる。
次に、世界の所得分布について、各国内の所得分布も勘案して検討する。
世界銀行の統計には、104カ国について、所得額順に人口を7つに区分し、それぞれの所得額の構成比を示したものがある(統計時点については、1990年代の多様な時点のものとなっているが、ここではそのまま利用する)。
この統計から、104カ国それぞれを7つの集団に分け、これと残りの23カ国の合計751集団の人口とGNPからローレンツ曲線を描いたものが右図である。
この図からは、例えば、上位2割の人が9割近くの所得を得ていることがわかる。
ところで、このローレンツ曲線から算出される、各国内の格差も勘案したジニ係数は0.7935となり、10.3%の集団が89.7%のGNPを得、階層間で75.4倍の所得格差があることに相当している。
これは、均一な上位グループ・下位グループがあるわけでなく、その中の格差を統計で把握されていない部分まで含めて勘案すれば、均一な2グループに分かれる場合の評価で、概ね「世界の1割の人口が9割の所得を得ており、階層間で約80倍の所得格差がある」ことに相当していると理解しておけばよいだろう。
なお、所得階層を2分して考えることについても、図の補助線で見られるとおり現実と著しく異なるものでない。また、ちょうどこの境界上に韓国があることとなる。
上図では、関心のある国について、所得階層の番号を付して表記した。
ロシア国内の所得格差は大きく、その最下位10%層(第1層)が、中国の第二20%層(第3層)より低い位置にある。また、最上位10%層(第7層)は韓国の第三、四20%層(第4,5層)の中間にある。
アメリカも所得格差が比較的大きく、その最下位10%層(第1層)は韓国の第三20%層(第4層)の下のある。また、最上位10%層(第7層)は日本の最上位10%層(第7層)を超えている。
80倍の所得格差は、極めて大きなものであるが、これは国際的な取引が行われる際に意味を持つ。しかし、日常生活の格差が80倍という訳ではない。
日常生活の格差を検討する場合には、いわゆる購買力平価で換算して評価する必要があり、この格差は大きく縮小する。
例えば、日本と中国の購買力平価に基づく一人当たり所得の格差は、7.3倍である。
購買力平価で評価した各国のGNPをもとに各国内の所得配分が均一として描いたローレンツ曲線が右図である。
この曲線から算出される購買力平価で評価したジニ係数は、0.5241となり、23.8%の集団が76.2%のGNPを得、階層間で10.3倍の所得格差があることとなる。
国内の所得格差であれば、社会の安定確保のために、格差解消への強い動機が働く。しかし、国際的な格差については、解消の動機は極めて弱くなる。ロールズの正議論においても、国境を越えた正義の定義は困難なようである。
(統計データ)
(Jul.18,2001.)
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(Sep.09,2002.Rev./Jul.26,2002.Re_strc./Jul.18,2001.Orig.)