ニューエコノミーでの中間階層の崩壊
情報システムが浸透するニューエコノミーの経済社会では、中間階層が崩壊する可能性がある。実際にアメリカでは、崩壊しつつあると見られる。
以下の内容は、ロバート・B・ライシュ著、清家篤訳「勝者の代償」(東洋経済新報社,2002年)を参考に取りまとめた。
取引費用激減のもたらすもの
多様な情報システムの浸透は、様々な取引費用(トランザクション・コスト)の激減をもたらす。
生産者・最終消費者にとっては、その生産・生活に必要な財・サービスの購入時に、より安価でより高質のものを選択することが容易となっている。このため、財・サービスの生産者は、厳しい相互競争下におかれ、その存在自体が極めて不安定となってきている。
また、生産組織自体については、固定的な大組織を維持することは不要となり、必要に応じて、機動的に再編成することが容易となってきている。この意味でも、一般に雇用は一層不安定なものとなってきている。
他方、多様な財・サービスの提供に際しては、顧客を選別し、より利益をもたらす者にはより豊かなサービスを、より安価な支払いを望む者にはより効率的な財・サービスを提供することも容易になってきている。
雇用労働の変化
生産組織が機動的に編成されるようになる際には、雇用者は厳しく選別される。創造的な専門能力を持つ者については、極めて高給で雇うことを厭わない。仮に躊躇すれば他企業が引き抜く可能性は高い。
他方、定型的業務をこなす者については、一層、情報機器等で代替されるとともに、働く人の代替の可能性も高く、給与は最低水準まで低下することとなる。
こうした環境の中では、専門的能力を持つ者は、職に就ける機会に最大限に稼ごうと行動する。また、定型的業務遂行者は一定の所得を得るために、長時間働かざるを得ない。
中間階層の崩壊
このような環境の中では、働く人の所得格差は著しく大きなものとなっていく。
また、長時間労働の中では、家族の世話や地域コミュニティでの貢献は困難となり、様々な社会組織は脆弱なものとなっていく。
さらに、大きな所得格差と企業の機敏な情報処理のもとでは、健康保険、学校教育、住居、その他様々な財・サービスの選択において、差別化された商品が提供され、社会の階層化に拍車がかけられる。
以上のような事態の進行は、とりもなおさず、中間階層の崩壊につながっており、これが極度に進めば、安定した社会の維持が危うくなる。
(統計データ)
東アジアにとっての意味
上述の内容は、アメリカで起こりつつあることがらである。
グローバル化する経済社会の中では、こうしたニューエコノミーを避けることは困難であり、日本・韓国も次第に入り込んでいくこととなろう。この際、中間階層を崩壊させない社会的仕組みを欠くと、社会全体が崩壊していくことになりかねない。
一方、中国については、今後、都市での中間階層を形成していく過程にあるが、極めて厳しい状況に置かれているといえよう。何らかの新しい方策がとられなければ、社会の成長も期待できないといえよう。
参考文献等
ロバート・B・ライシュ著、清家篤訳「勝者の代償」(東洋経済新報社、2002年)
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(Aug.16,2002.)