第1章 経済開発の進展
第2節 国内システムの形成

3 消費・投資(支出)

趣旨
 経済開発の初期段階では、年々の所得の大部分を個々人の消費に費やさざるを得ない。
 しかし、開発が一定段階に進めば、あるいは、外部からの支援があれば、所得の一部を公的消費や拡大再生産のための投資に向けていくことができる。これによって、開発が加速するとともに、社会の安定維持のためのさまざまな体制も整備していくことができる。
 消費支出の内容については、食料の確保から耐久消費財の充足へと高度化し、さらに、日本・韓国ではサービスへの需要に移行してきている。しかし、今後の需要がどのような方向にいくのか、環境問題等も含めて、そのあり方を再検討する必要がでてきている。
 なお、国家全体の支出の配分については、各国々の主体的選択によってなされていく。
 本項では、個人の消費支出の変遷、資金の公的消費・投資への配分について検討する。

  

(1)家計と消費

要旨
 所得水準の向上とともに、消費は食糧購入等の基礎的欲求の充足から、各種サーへビス等の選択的欲求の充足へと変化していく。
 消費がサービスへ向かうことによって、物的消費拡大の限界に対応できるのか、課題として現れてきている。

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 個々人が経済的活動をする目的は、それによって得られた所得で、生活上の諸欲求を満たすためである。
 所得を得ることが自己目的化している状況も多々見られるが、常にこの原点を自覚していることが重要であろう。
 ことに、地球環境等の問題から物的消費の拡大が限界に達している今日では、この原点からの再考が求められている。

ア.基礎的需要から選択的需要へ

(ア)国際比較
 所得水準の向上とともに、消費支出中の食料費の比率が低下する減少は、エンゲルの法則としてよく知られている。
 実際に、各国の統計を並べみても、一定の所得水準を越えると、食料費支出の比率が一定程度以下になることがはっきりわかる。


 逆に、所得水準の向上とともに、消費支出中の割合が増加する傾向があるのは、家賃・水道・光熱費である。
 これは、生活内容の実質的な向上の意味も当然含まれるが、それとともに都市への居住が進むことで、負担の増加が避けられない面もある。

(統計データ)

(Jul.19,2002.)


 選択的需要を、さらに快適な生活を求めた消費、成熟した生活を求めた消費に分けて各国の推移を見ると、消費の高度化に関する一定のパターンが見られる。

(Jun.08,2005.)



(イ)中国
 中国の消費支出については、食品の比率(いわゆるエンゲル係数)が1/2(50%)を占めており、未だ消費生活のゆとりに乏しいことが現れている。ただし、その伸びは低いものにとどまっている。
 医療保健への支出の伸びが特に大きいが、この実態については制度的な要素も検討しておく必要があろう。


(ウ)韓国
 韓国では、食品の比率は1/3にとどまっている。
 近年では、交通通信費の伸びが最も大きいが、これは携帯電話の普及等によるものであろう。
 光熱水道費の伸びについては、都市地域等での水不足が影響していると考えられる。
 教育費の伸びは、学歴社会の中での進学熱が強いことが背景にある。


(エ)日本
 日本の食品の比率は、全消費支出の1/4までに減少している。
 最近の変化については、交通通信費、光熱水道費等が、韓国と同様に増加している。
 また、医療保健費の伸びは高齢化を反映している。
 教育費の減少については、団塊ジュニア世代が学齢期を超えた結果であろう。
 また、交際費については、収入の低迷の中で、大きく削減されている。
 教養娯楽・諸雑費については、支出額では減少しているが、一人当たりでは増加となる水準にとどまっている。
 以上のように水道・医薬品への支出を除けば、概ねモノに対する支出は減少し、サービスに対する支出が横ばいないしは増加しているといえよう。日本人の意識としてもモノ離れが起こっていることは、確かである。


(統計データ)

(Ju..14,2002.)




イ.耐久消費財の普及

 −−日本1960年頃、韓国1980年頃、中国都市部1990年頃−−
 所得水準が一定の段階に至ると、日常的な衣食住への支出を超えて、多様な耐久消費財を購入するようになる。
 経済開発の目的自体が、このような物財に囲まれた豊かな生活を実現することにあるとすれば当然のことであろう。経済の発展が始まり、離陸した国にとっては避けられない流れである。
 この様子は、具体的には、各国の財の普及率の推移を並べて見ることでよくわかる。
 日本で、家電製品が爆発的に普及したのは、1960年前後(昭和30年代)のことであった。
 これに対して、韓国では、20年後の1980年前後に急速な普及が見られる。
 中国都市部での急速な普及は、さらに10年後の1990年前後と言えよう。中国での
耐久消費財、特に乗用車などの普及は、産業発展に大きな影響を持つため、強い関心がもたれている。
 ただ、こうした中にも各国なりの特徴が見られる。ここで述べたような時間差については、冷蔵庫のケースについて最も典型的に見ることができる。

(Sep.06,2001.追加)




ウ.サービス消費の拡大

 所得水準の向上とともに、サービス消費の拡大が続くが、耐久消費財の普及が一巡した後に、この傾向は一層明確になってくる。
 しかし、今後の需要の方向が、マズローのいうような、「自己実現」へと真っ直ぐ向かっていくわけでもない。

(ア)韓国 所得統計ベース
 韓国での国民支出中の個人消費支出を耐久消費財、非耐久消費財、及びサービス消費に分け、長期的推移を見ると、サービス支出の構成が、年々拡大していることが見られる。
 特に、1980年代、'90年代を通じて、著しく拡大しており、年平均1%ポイント以上、20年で約25%ポイントも上昇している。
 また、長期的には、主として非耐久消費財が減少しサービスへと入れ替わってきたが、'90年代後半には耐久消費財との入れ替わりとなっている。


(イ)日本 家計調査ベース
 日本での家計調査の支出構成でもサービス消費の着実な拡大が見られる。ただし、所得統計とは性格が異なり、 水準の比較はできない。
 なお、1980年代後半では非耐久消費財とサービスが入れ替わり、'90年代では耐久消費財とサービスが入れ替っている。

(統計データ)

(Jun.25,2002.)


エ.生活水準の向上

平均寿命の高まり
 この生活向上の包括的な指標として、平均寿命が持ち出される。
 平均寿命の向上は全ての国で求められる事項であり、この達成のためには、良質な水の確保、衛生水準の向上、食糧の確保、医療の充実等々多くの環境整備が必要である。またそれが国民全てに行き渡らないと上昇できない側面も持っている。この意味で、総合的評価の指標としては、最適なものであろう。


 各国の平均寿命は、次第に高まってきており、今後とも伸び続けることが予想される。
 中国については、伸びる速度が若干緩いが、これは国内各地域での開発進捗度合いに大きな格差があり、平均値として緩くなっているのであろう。
 なお、ロシア及び北朝鮮については、国内の混乱から、平均寿命の低下をきたしている。

(統計データ)

(Jun.06,2003.Rev.)



教育の浸透
 経済開発の基礎として、そして見方によっては生活向上の究極の目的として、国民の知的水準を向上させていくことが極めて重要である。
 このため、公的な教育支出も、開発の初期段階から重要であり、そのGNP比率は、逆U字型を描く可能性がありそうだ。


 識字率を始めとする知的水準は、長期間にわたる教育の蓄積によって高まっていく。識字率が最終的にほぼ100%に至るにも長い年月がかかる。




 我々が経済活動を行う基本には、そこから得る所得により、物財・サービスを購入し生活を営んでいくことにある。この意味では、家計消費支出の動向は、今後の経済のあり方を考える原点として捉えるべき位置にある。
 多くの物財については、その製造費用の低下から著しく安価になってきている。また、食品を始めとして、その消費には限界があるとともに、環境面等からも制約がある。また、サービス消費については、極めて弾力的に対応できる性格がある。こうした側面からは、日本を含めた先進国の際限のない所得拡大は必ずしも必要がないとも言える。
 経済問題の多くは、成長の中でこそ解決が容易であるが、地球社会の共生を検討する際には、こうした視点が入り込む可能性があるし、直接このように言及しないまでも、発想を同じくする議論が次第に見られるようになってきている。
 他方、成長を組み込んだ経済構造から逃れられないという発想が背後にある場合には、例えば、知識産業の発展という見方になる。インターネットの普及は、人々の知的好奇心を限りなく引き立てるとともにそれ自身を満たしていく機能があり、際限のない豊かさをもたらしてくれるものとも言える。通信費支出の増加は、一面では、こうした豊かさの実現を意味しているともいえよう。

参考文献等

情報源




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(Jul.19,2002.Orig.)