コート・アップ・モデルの提唱
−−日本は如何にして追い付かれるか−−

 コート・アップ(Caught Up)モデルの提唱といっても、日本経済が、周辺諸国に早期に追いつかれることを望んでいる訳でもなく、予想している訳でもない。
 現在進捗しつつあることを直視し、的確な対応を図っていくための共通認識を形成することを目指すものである。

 このように説明しても、とりあえずは極めて単純で自明な内容を図式化して確認するだけのことである。
 いずれは、可能な範囲で、部分的な数値的検証、計量的シナリオ描写などを検討したい。


発展途上国の離陸
 発展途上国において、農業の生産性の向上等により、ある程度の資本の蓄積と消費の拡大が始まれば、持続的な経済開発への離陸の可能性が見えてくる。
 発展途上国自体としては、取り敢えず、国内需要に対応した輸入代替的生産に取り組むこととなろう。
 しかし、国内市場が十分に育っていない中では、発展途上国の有利な資源である安価な労働力を活用した輸出指向型の生産を直接始めることもあり得る。
 さらに、国として安定した体制が見えてくれば、国外からの開発輸入を念頭に置いた投資も始まり、輸出指向の生産に拍車がかかる。

企業の生産拠点の移動
 企業活動は、元来、国境に縛られない性格を持っている。このため、商品が安価に生産できる可能性があれば、生産地点を国際的に移動させることも十分にあり得る。
 特に、厳しい経済的競争の中では、新しい展開に躊躇すること自体が企業生命を失わせる可能性もある。
 既存事業者の転換は必ずしも容易でなく、棋界へ新規参入した者がかえって急速に事業を展開していくこともある。

雇用情勢の転換
 こうした状況の中では、先進国内の生産体制は、大きな転換を迫られ、個々の企業としては、単に生産拠点の海外への移転だけでなく、国内での既存の雇用をどう転換していくか、国内なりの新しい事業分野をどう展開していくかといった課題に迫られる。
 労働経費の削減のために、情報システムの効果的な活用等により、企業組織の簡素化を図ることがまず求められよう。正規職員の削減、派遣職員化により、経費節減を進めることさえ行われている。
 さらには、研修等の名目で、発展途上国の労働力を導入することも始められる。(このあり方については、十分な国民的合意が必要ではなかろうか。)

セーフ・ガードの発動
 こうした状況に対応が遅れ、急増する輸入に対抗できなくなった分野では、セーフ・ガードの発動を求めることも起こる。
 しかし、このような事態が起こることは予想されていることであり、それまでに対応できていないことが、効果を期待し難い証になっていると考えられる。こうした措置の採用自体は、産業全体として負の効果をもたらす可能性も強い。
 ただし、食糧安全保障等を念頭においた潜在的な農業生産力の保全などについては、別途十分に考慮される必要があろう。

サービス価格の停滞
 一方、製造業等の部門で、順調な所得の拡大がなければ、国際的な取引が難しいサービス業についても、その大幅な構造改革がない限り、所得拡大は困難になる。
 仮に、価格引上げを図れば、新規参入者を容易に招くこととなろう。
 行政を含めて、多くのサービス業は、新たな情報システムの導入により組織を再構築し、生産性を飛躍できる。ただし、この実施は、新たな事業展開を伴わないと、大幅な雇用削減が伴うこととなる。

デフレ経済化
 安価な輸入物資の流入と雇用情勢の悪化・雇用者所得の停滞は、経済全体にデフレ的様相をもたらす。
 現在、バブルの崩壊から立ち直れない日本経済は、このようにして、複合的なあるはトリプル不況に陥っているとも言えよう。

水平分業化
 このような状況の中で、産業全体として、構造を移行できなければ、国際的には、次第に水平分業的な構造に変化していこう。
 各国が業種を分担するというより、生産品の多様化の中ですみ分けていくということとなろう。

資本集約的産業化
 しかし、先進国は産業の平準化を座して待つのでなく、自らの産業の高度化を目指していく必要があることは言うまでもない。
 そこで、資本集約的産業への移行が期待される。
 発展途上国の開発の一定段階までは、その生産設備等を国外から導入せざるを得ない。これに対応した、生産の拡大が期待されよう。
 しかし、この部分も早晩追い付かれる。特に、発展途上国の経済開発が全国土、全国民に均等に進められる必要はなく、特定地域の成長拠点化を指向すれば、極めて早期に、生産財等の生産も開始される。

知的生産拠点の形成
 このような経過から、先進国は、さらに知識集約的産業へと移行していく必要があるとされている。
 発展途上国であっても、情報産業等の一部業種では、知的生産の拠点を生産し飛躍することができる。
 先進国に置いては、厚みのある知的生産基盤を背景として、新たな産業構造を形成していくというのが当面のシナリオであろう。

所得格差の拡大
 しかし、このような新たな産業組織の中では、所得配分に相当の格差が出てくることが避けられないであろう。
 これを制度的にどのようにどの程度補完していくかが、先進国の厳しい課題となっていこう。

知的生産の担い手
 さらに、このような厚みのある知的生産を誰が担うのか。既存の研究機関・教育機関等がこの役割を担えるかには疑問も多いだろう。
 しかし、これを避けることはできず、担わない組織は淘汰されていく社会システムを早急に整備せざるを得ない。


 以上、極めて古典的な開発経済学のイメージでコート・アップモデルを描いた。
 しかし、実態としては、日本、韓国及び東南アジアの一部の国は、一斉に並んで切磋手琢磨しており、中国も着実に成長し、量的には逐次他国を追い抜いていく状況に至っているということかもしれない。
 さらに、日本は、一時の成功の夢から抜けきれず、今後も停滞が続くというシナリオに入り込んでいる可能性もある。ちなみに、いわゆる構造改革は滞っており、また産業活動に不可欠な情報システムの活用や英語の利用については、明確に遅れている。



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(July.03.2001.)