中国経済開発の隘路
−−失業・国有企業・所得格差・環境制約・政治体制−−
Gordon G. Chang "The Coming Collapse of China" 2001(栗原百代・服部清美・渡会圭子訳「やがて中国の崩壊がはじまる」草思社)では、中国の経済開発は順調に続かないと警告を発している。
主観的には、順調に成長し続け、世界に開かれた国へと変わっていくことを期待するが、客観的には、実態をしっかりと把握するよう注視していかざるをえない。
中国は、近年一部の地域において急速な経済開発が達成された。当初の経済規模が極めて小さかったため、極めて高い水準の成長率が続いた。
しかし、この成長が、順調に全国に広げることが可能かどうかについては、成長の実態を吟味してみる必要がある。
結論的には、成長の過程で発生している多くの課題も、中国が全体として成長し続ける中で解決が図られることが不可欠であろう。WTOへの加入は、さらなる成長を続けるとともに、国有企業等の改革を促す手段とも考えられている。
ただし、速い成長による経済開発の持続が実現するとしても、さらに水資源や食糧問題等の環境制約の課題がある。
また、市場経済の中での共産党体制の維持についても疑問符がある。
こうした課題を現時点で的確に予測することは困難であるが、問題の存在を十分に留意しておく必要がある。
失業
現在、直面している大きな経済的課題は、失業問題である。
中国政府が毎年発表している失業率は「都市部登録失業率」であり、この統計は「都市戸籍を有する者の中で失業登録を行った者」の率であり、失業全体の一部にすぎない。
実際には、このほかに「都市部に暮らす農村戸籍の失業者」、「国有企業レイオフ者」、「郷鎮企業の失業者」、「農村部の余剰労働者」なども実質的な失業者に含まれる。
中国での失業者の増加は、一部地域の経済成長を契機として、農業を中心とする第1次産業から大量の労働力が流出したことが大きな原因である。
さらに、国有企業の経営不振・合理化による余剰労働力の放出がこれに加わっている。
経済開発の先鞭を切った私営企業自体はまだ雇用の十分な受け皿とはなっていない。
失業対策として、「対外開放を拡大・開放型経済の発展」を推進し、高度経済成長の継続により雇用をさらに推進させ、失業率を抑制していくという基本方針が立てられている。
年7〜8%の経済成長で当面年間500〜600万人の雇用創出は可能とされている。
しかし、WTO加盟によって、状況が悪化する産業も予測され、さらに米テロ事件の悪影響が長期化すれば、第10次5カ年計画で想定されている失業率5%を大きく上回る可能性もある。
国有企業改革
国有企業の経営については、不合理な内部組織を始めとして多々問題点が指摘され、組織の合理化等が議論されている。
しかし、計画経済から市場経済への転換が進む中で政府に縛られる国有企業自体が制度的欠陥として捉えられるようになっており、一般的には、その経営改善や生産性の向上への期待はもはやないようである。
国有企業の転換は、統制経済体制から市場経済体制への移行そのものであり、決して容易ではない。ソ連の経済転換が中国に比して順調でないのは、この比重が極めて高かったためともされる。
ただし、国有部門の経営は一層深刻化しつつあるが、現在生産の7割以上を占める非国有部門の成長が続けば、中国経済全体としてそれほど大きな混乱に陥らないとの見方もある。
国有企業では生活全般の保障があり、ここでのレイオフは労働者にとって厳しい事態である。しかし、企業自体の経営の不振の中で給与支払いの遅延などもあり、早期退職優遇制度等を勘案すれば選択は容易でない。
この結果、かえって、大量の国有企業労働者の解雇も大規模な混乱を招かないで進んでいるといわれる。
さらに労働者には、失業保障のあるレイオフ状態を続けた方がよいとする発想があり、職探しに消極的な面があるという。
「政企分離」はマクロ的には正しい選択であろう。しかし、政府の各構成員にとって所有制改革を伴う国有企業改革を積極的に推進する動機に乏しい。
政府にとって国有企業は政治的権力基盤であり、企業を倒産に追い込むのは自らの政治権力基盤を弱めることでもある。このため国有企業がたとえ赤字経営に転落しても、手放さない面がある。
所得格差
沿海部地域の経済成長によって、地域間の所得格差の解消が重要な課題となっている。
このため、内陸部の発展方策として西部大開発が掲げられている。
沿海部での経済開発の契機は、広東や福建のように外資が先導したもの及び江蘇や浙江のように農業部門での蓄積から郷鎮企業として発展したものがある。
内陸部では、こうした半ば自立的な発展が期待できるかどうか。優遇策の相当程度の整備によっても困難な面が強いであろう。
ただし、内陸部開発は、伝統経済体制から市場経済体制への移行であり、地域での積極的な投資と知識経験の蓄積により達成されると考えられている。これは硬直した既存組織の打破を伴う統制経済体制からの移行よりかえって容易と考えられる面がある。
このため、西部大開発事業では、優遇策整備とともに、多くの公共投資が進められており、この事業実施自体とそれによって整備される基盤施設を契機に発展し始めることが期待されている。
なお内陸部の西部は西蔵、新疆を含み中央アジアまで達する広い範囲が含まれるが、当面の重点的開発地域として、重慶・成都・西安等の既成都市を核とした開発が念頭に置かれている。
水資源不足等の環境制約
経済開発の円滑な進捗の課題と同時に、水、食糧等の確保も大きな課題である。
西部大開発には、揚子江の水を華北(黄河流域)に送る「南水北調」事業も重要事業として位置付けられている。
この事業によって小康状態を得れるとしても、長期的に課題が解決できるかは不透明な面が多い。
政治体制の維持
国有企業の改廃が共産党組織の基盤を喪失させるものであり、これがどのように解決されるのか方向は見えない。
また、社会主義市場経済が謳われているが、この制度の中で汚職の蔓延を防止していく可能性も未知数である。
さらに、共産党体制のもとで円滑な政権交代が続くかについても、一層不透明といえよう。
これらの課題は、分析的な議論がほとんどできないが、重要な課題であることは間違いない。
その他
以上の課題のほかにも、民族問題や宗教問題など先行き不透明な問題が多い。
関連項目に戻る
(Jan.16,2002.)