「誰が中国を養うのか」
―食糧供給の課題の顕在化―
「誰が中国を養うのか」は、ワールドウオッチ研究所レスター・ブラウンの1994年著作の表題である。1990年代末は、中国の食糧生産が概ね自給水準に達していたといわれるが、2000年以降は、生産の減少が続き、この課題の先行き懸念が明確になってきている。
2003年の穀物生産量が明確になったので、取り敢えずのメモを掲載しておく。
2003年の穀物生産量は、前年比△5%を超える減少であったと伝えられている(「人民日報Web版、Feb.28,2004.)。
中国の穀物生産は、1996-1999年において、450百万tを超えていたが、2000-2002年は、約400百万tで推移し、さらに、2003年は、5%強の減少で、380百万tを割っている(FAO_STAT)。
中国での穀物の生産については、華北での水不足による小麦の減産、華南での水害への脆弱化と耕地の都市的用途への転換などによる米の減産が今後とも見込まれ、厳しい状況にある。
穀物供給の構成については、FAO_STATには、2001年までしか掲載されていないが、2002年、2003年の状況については、在庫は既に少なくなっていると考えられ、仮に輸出が小規模に留まり、また国内供給必要量が若干減少するとしても、2003年には輸入を大幅に増加させているのであろう。
なお、一般に、所得水準の上昇とともに、穀物消費量の減少が起こるが、これは、食肉消費等によって代替されるものであり、それをどこで生産するにしろ必要な穀物の総量を削減するものではない。
いずれにしろ、今後とも、事態の推移を見つつ、中国での穀物供給についてのシナリオを想定していくことが必要である。
農業生産の落ち込みは、主として、低水準の穀物価格が農民の農業生産への意欲を削いでいるためであり、税の軽減、農業資機材への補助等により、2004年の冬・春の作付面積は増加しているとの報道もある。また、この報道では、2003年の穀物生産量431百万tに対し、国内需要量485百万tで1割強の不足となっている(人民日報Web版Mar.04,2004.)。
(統計データ)
(Mar.01,2004.)
以下は、2003年6月の分析
懸念される中国の食糧生産
―2000年以降の生産の減少―
中国での食糧(穀物)生産は、建国以来次第に増加してきた。この結果、1990年代後半に至って、450百万t程度の生産となり、自給水準に到達したと言われるようになった。
これまで、経済力を付けるとともに、穀物の輸入量を拡大していたが、1990年代後半には、10百万tを割る水準に縮小している。
しかし、2000年以降の生産については、400百万tに落ちており、今後の動向が注目される。
なお、輸入については、2001年までのところ10百万t水準にとどまっている。
生産の減少にもかかわらず、輸入が増加していないのは、備蓄の取り崩しによるところが大きい。
右図と上図と穀物生産量にはギャップがあるが、これは米の計量の基礎が異なるためであろう。
中国の穀物生産量の内訳を穀物別に見ると、米が全体の約1/2、小麦、トウモロコシがそれぞれ約1/4を占めている。
それぞれの生産量には、年々の変動があるが、2000年以降の穀物全体の減産については、米及び小麦の減産が大きな原因となっている。
なお、穀物の国内供給量の減少に対しては、直接的な食糧としての消費量も減少しているが、それと同時に飼料としての利用がも減少している。
ちなみに、1999年から家禽類、豚肉の輸入が急増しているが、このことに対応しているものであろう。年次について厳密に対応しないようにも見られるが、基本的には、このように捉えて間違いないであろう。
米の生産
米の生産については、1970年代半ばまでは、作付面積を拡大し続けると同時に土地生産性も向上していた。
'70年代後半以降においては、作付面積を縮小しているが、概ね'80年代末までは、生産性の向上がこれを上回っていた。しかしそれ以降においては、生産性の向上も緩くなり、結果として生産量は横ばいで推移し、さらに2000年代に入って、減少に転じている。
米の国内供給量については、若干の在庫調整もあるが、概ね生産量と等しいものとなっている。
作付面積の減少については、食料の潜在的不足が解消されるにつれて起こっているものと見られる。しかし、一方で、米の生産は主として華南地域で行われており、近年、洪水等の自然災害が増えており、また、経済開発の中で、生産性の高い農地が工場適地、都市適地でもあり、農地の都市的用途への転換も進んでいると見られ、今後の動向に懸念がある。
小麦の生産
小麦の生産については、1990年まで、生産性の向上と作付け面積の向上が重なり、生産量を急速に拡大していた。
しかし、'90年代以降については、生産性の向上はほとんどなく、作付け面積も減少させているため、生産量を次第に減少させている。
かつて小麦の国内供給の不足を輸入で補ってきていたが、'90年代後半に至り自給水準となり、輸入数量はごくわずかとなっている。近年の生産量の減少の中でも輸入を特に拡大しておらず、肉類等を直接輸入することで補っていると考えられよう。
小麦の作付け面積の減少については、米の場合と同様の背景が考えられるが、小麦の生産は、主として華北で行われており、過剰な潅漑により、黄河の流れが下流域まで届かず、また井戸水用の地下水位が著しい低下を続けているため、常に旱魃の被害に晒される状況となっており、一層の作付けの困難化が懸念される。なお揚子江の水を引く工事(南水北調計画)が開始されている。
トウモロコシの生産
トウモロコシの生産については、土地生産性の向上と作付け面積の拡大によって、生産量を増大させてきていた。しかし、1990年代末に至って、生産性の向上は限界にきてと見られる。特に、トウモロコシの生産は東北地方及び華北を中心に行われているが、潅漑が十分に行われておらず、収穫が天候に左右されているものとみられる。
この結果、最近のトウモロコシの生産量の変動が激しくなっているが、これまでのところ在庫の調整で平準化されている。
トウモロコシは米・小麦と異なり飼料への需要が大きく、国内需要は今後とも拡大していくであろう。しかし、国内生産がこれに応じることができるか、さらに世界市場と競合しつつ国内の供給者であり続けることができるかといった懸念もある。
以上のように中国の食糧生産は、20世紀後半において、漸次拡大を続けてきたが、主要3穀物の生産については、土地生産性の伸びはそれぞれ限界にきており、さらに、米・小麦の作付面積はそれぞれ減少に転じている。これは、自給水準に到達したことによる当然の結果ではあろうが、一方で生産体制を脆弱化させているともいえる。今後の異常気象の中での変動や食肉(特に牛肉)消費の増加などにより、拡大した経済力を背景に、食料を国際市場に求める可能性でてきている。
(統計データ)
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(Jun.06,2003.Rev./May.21,2003.Orig.)