世界の食糧需給
世界の穀物生産・貿易については、人口規模に見合った自給的生産としては中国、インドが極めて大きく、国内需要を超え貿易市場に提供される生産としてはアメリカが極めて大きい。ただし、アメリカの生産は極めて不安定化していると見られる。
穀類別には、貿易市場では、小麦・トウモロコシは拡大の限界にきている。一方、米の貿易市場は拡大しつつある。
世界の食糧需給の構造については、理屈として比較的明快な図式が描ける。また、ある程度の数量的検討もなされている。
例えば、ワールドウォッチ研究所所長のレスター・R・ブラウンによれば、現在の人口増加に対して極めて厳しい供給事情にあることが示されている。さらに、生産拡大のための多くの手段が、既に講じられてきており、いずれも飛躍的な改善を期待できるものはないとしている。
需要
食糧需要量の基礎は人口である。
かつての開発段階以前にあっては、マルサス的な意味で、地域の人口数は、それぞれの地域の食糧生産力によって決定されていた。
実態としては、労働力としての子供は多いほどよく、高出産であったが、一方で死亡率も高く、結果として人口は、抑えられていた。
その後開発が始まり、医療や衛生環境の改善により、死亡率が低下し、人口増加が始まるが、いずれ、一定の生活水準に達すると子供の教育等を重視することなどから、出生率も低下しする。
この経済開発にともなう、高出産高死亡から低出産低死亡への移行は、一般に人口転換と呼ばれている。
しかし、開発の過程で低死亡にある程度進みながらも、十分な発展段階に達せず、厳しい食糧難に陥っている国も多い。
これが、現在の世界の食糧難の基本的な状況であり、人口の抑制が実現しなければ、極度に困難な状況に陥ると警告されている。いわばマルサスの再来の様相を呈している。
中国については、離陸が遅れたが、人口増加に対しては、強力な一人っ子政策で押さえ込みに成功している。その後、現在は、一部地域の経済開発が進む、全国土への展開が首尾よくなされるか注目されている。
一方、所得水準が上がってくると、食事の内容も変化してくる。
特に、豚肉、牛肉等の高品質の蛋白の需要が拡大し、その飼料として、一層の穀物ひいては一層の耕地が必要である。この嗜好への変化による実質的な需要増加が困難な課題となる。
| 事項 | 否定的見解 | 肯定的見解 |
| 需要増加 | 人口 |
| 一人っ子政策 |
| 一人当たり消費量増加 | 牛肉等指向 | 東洋的食事 |
| 耕地面積減少 | 他用途転換人口 | 都市的利用への転換 |
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| 砂漠化 | 森林の減少 化学肥料による塩化 |
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| その他の崩壊 | 森林の減少 |
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| 水資源の枯渇 | 森林の減少 断流の拡大 |
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| 生産性向上の限界 | 緑の革命の限界 農業投資の萎縮 | IRRIの品種 |
| 市場の不安定性 |
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供給
食糧供給量の基礎は耕地面積である。
水不足等による砂漠化などで耕地の減少が進むことが懸念されている。これまでの文明でも水の枯渇で衰退したものがある。
一方、経済開発の過程で都市化が進み、耕地の都市的利用への転換が進むことも、面積の減少をもたらす。
土地の生産性については、幾つかの要素がある。
まず、品種改良による増産については、かつて「緑の革命」として飛躍的な成果を収めたが、その効果は限界に来ているとされている。
ただし、近年のバイオ技術の進歩がどのような成果をもたらすかは、未知数である。世界的な食糧難に直面して、多少の危険性を含みつつも、食糧の飛躍的な供給が増加がもたらされる可能性もある。これは、原子力発電と類似した性格を持っていると言えよう。
化学肥料については、その増産効果は限界にきているとされている。
一方、灌漑の徹底については、一部にその余地があるが、水位の低下や土壌の塩化をもたらし、結果として砂漠化に拍車を掛ける懸念を持っている。
さらに地球温暖化等の環境の変化については、地域によっては農業生産に好ましい変化となることもありうるが、その場合でも、それに対応した設備等に相当の経費がかかり、基本的には、環境の変化は好ましくないものと捉えざるを得ない。
農業開発
開発論
発展途上国の経済開発論では、かつては、農業開発はあまり省みられなかった。都市を中心とした開発の中で、農村は過剰就業状態にあり、一定の所得格差によって労働力を供給する集団として捉えられていた。
しかし、農村の過剰人口を吸収するには、それに見合った規模の都市経済の発展が必要である。人口規模の極めて小さな国家はともかく、通常は、農村自体の自立的発展メカニズムが形成されないと、国全体としての発展は期待できない。
限られた都市開発では、農村から都市への過剰な人口流出が起き、スラム形成に陥る。この人口移動を強制的に抑止したのが、中国の戸籍制度である。
このような事態を避けるためには、農村の自立的発展が求められる。自給的食糧生産に、換金作物を取り入れた混合生産方式から次第に多角化していくことが考えられる。さらに蓄積された資本と知識の下で、工業等を興すとともに、農業自体としては専門特化型へと展開していくシナリオである。
中国においては、生産の自由化の中で、換金作物の生産が始まり、ついで郷鎮企業の形成へと展開していった。一方、専門特化型農業への発展については、日本への輸出野菜の生産などが重要な核としてある。
(ここれは、日本のセーフガード発動に対して、強力に対抗せざるを得ない背景となっている。)
しかし、途上国の農業開発は、必ずしも順調に発展軌道に乗っていない。このため、経済開発の目的自体を問い返し、その社会システムのあり方を議論することも始まっている。
離陸可能性
農村が、実際に自立的発展に進めるか。
多くの途上国の農村での生産の現状では、自らの生存を賄う以上に殆ど余裕がない。
このため、新たな事業展開のリスクを負うことは極めて困難である。
特に、土地所有制度の改革がまずないと、殆ど農業開発は期待できない国が多い。土地改革のもとで、生産の多角化へのきめ細かな支援がなされれば、次第に総合的な発展への可能性も見えてこよう。
この点について、中国の社会体制は、農村の離陸を可能としている。
農業開発を継続できるか
農業開発が離陸するとしても、その持続可能性についても課題がある。
一つは、水不足等の環境変化の中で、農地としての継続可能性である。このことについては、中国の農地の砂漠化が特に懸念されている。
他の一つは、農業の土地生産性がよほど強くないと、都市的利用への転用が進むことである。
中国では、国全体の農業地面積は、1990年代を通じて安定していた。しかし、製造業の発展発展が著しい地域では、順次転用が進んでいる。
他方、韓国、日本では、都市地域の拡大の中で、耕地を急激に減少させている。このことについては、ブラウンの「飢餓の世紀」でも特記されている。
農地の都市的用途への転換については、国全体としての総合的な視点が必要であり、この下で、強い規制が制度的に確立していないと、なし崩し的な農用地の減少が進むこととなる。
FAO統計のAgricultural Areaには、放牧用の草地等も含まれる。このため、特に、中国では耕地は農業用地全体の30%以下と見られ注意する必要がある。
食糧不足による混乱
現実の世界では、食糧不足から、極度の栄養不足に陥っている地域、さらには、住民が難民化している地域が既にある。また、将来の食糧需給について極端な不安定要因が並んでいる。
こうした中で、各国にとって、開発をどう進め、安定した食糧の確保を図っていくかが重要な課題となっている。
日本、韓国については、自給水準を既に大きく割り込み、輸入に依存しているが、食糧の欠乏下でどこまで輸入が継続できるか。食糧安全保障に関する危機管理が不可欠である。
参考文献等
レスター・R・ブラウン、ハル・ケイン(小島慶三訳)「飢餓の世紀」ダイヤモンド社1995年。
マイケル・P・トダロ(岡田靖夫監訳)「M・トダロの開発経済学」国際協力出版会1997年。
G.M.マイヤー編著(松永宣明、大坪滋訳)「国際開発経済学入門」けい草書房1999年。
情報源
FAO統計
中国の穀物生産等の状況
食料・農業・農村基本問題調査会答申
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(Apr.19,2001./Jul.11,2001.Rev.)