日本海学調査研究委託事業

環日本海地域学術情報ネットワークの拡充に関する調査研究


平成14年度富山県委託調査研究報告書
2003年3月

富山大学極東地域研究センター

はじめに~日本海学と学術情報ネットワークの拡充・強化~

富山県は、環日本海交流の拠点たらんことを志向し、それに向けての日本海学の構築をめざしている。国際的かつ多様な視点を要する日本海学を構築するためには、その構成諸分野においてより多くの人材との連携、及び、継続的な情報交換が必要であり、それには環日本海地域の大学・研究機関等との学術情報ネットワークの形成、並びに、その拡充・強化が不可欠である。
本報告は、対岸諸国における主に経済・社会分野の学術研究機関の現状を整理するとともに、富山大学極東地域研究センターのネットワーク化の取り組みを参考にし、そのネットワークのあり方、形成・拡充の方法について取りまとめたものである。また、今年度調査は、平成12年度『環日本海学術情報のネットワーク化と地域交流の活性化』2001年3月、平成13年度『環日本海地域学術情報ネットワーク化等に関する調査研究』2002年3月の問題意識を引き継ぐものであり、3ヶ年にわたる調査を総括する意味も持たせている。
本報告が、環日本海地域における学術情報ネットワークの拡充・強化、並びに、日本海学の発展に貢献することを期待してやまない。

第Ⅰ章 環日本海地域を研究対象とする学術研究機関

本章は、平成12年度以降に調査した研究機関を中心に、環日本海地域を研究対象とする学術研究機関について取りまとめたものである。各研究機関の概要、研究活動や学術交流の内容について整理しているが、前年度までの調査機関については研究活動内容を中心に各年度の報告を簡潔に要約したものである。各年度の調査対象については、巻末の添付資料を参照されたい。また、中国の研究機関のいくつかについては、ホームページ上からの情報もあわせて活用している。

第1節 中国の学術研究機関

近年、中国では、北東アジア地域研究に関し精力的な取り組みがみられる。ここではまず、中国における当該地域研究の現状を紹介した論文の中から、その全体像を把握しておこう。 
 中国国内の北東アジア地域に関する主な研究機関は103機関存在する。設立時期別にみると、1949~59年2機関、1960~69年10機関、 1970~79年8機関、1980~89年33機関、1990~2000年50機関となっている。80年代以降、とくに90年代になって中国の北東アジアに対する関心が急速に高まったことがうかがわれる。
 研究機関を地域別にみると、北京48機関、上海12機関、吉林11機関、天津10機関、山東5機関、遼寧4機関、黒龍江3機関、内蒙古、浙江は各2機関、広東、河北、河南、湖北、湖南、福建は各1機関である。政治、経済、文化の中心地である北京が、北東アジアの研究機関がもっとも多いが、上海、吉林、天津にも多くの研究機関がある。
 研究機関の系統別にみると、大学の附属研究機関や学部が40機関ともっとも多い。社会科学院系統では、中国社会科学院(17機関)と地方の社会科学院(13機関)がある。政府機関は14機関であるが、政策建議を行っており重要な役割を担っている。
 研究領域では、東北アジアの総合領域(45機関)、日本および中日関係(29機関)、朝鮮半島問題(14機関)、その他(15機関)となっている。研究分野は、政治、安保、経済協力、環境などのほか、歴史、社会、文化、教育など多岐にわたる。学術検討会は90年代になって、頻繁に行われるようになった。
スタッフ別にみると、研究人員7,101人、補助人員377人、管理職297人を抱え、研究人員のうち博士が20.7%、修士が30.3%、学士等が 49%となっている。これらが発行する学術雑誌は、51誌にのぼり、10万部を超える発行部数がある。主な雑誌は、表1の通りである(注)。

表1,図1(省略)

中国の主な学術機関としては、上記のように大学と社会科学院(The Academy of Social Sciences)がある。かつては、大学では講義等における国家の規制が厳しかったが、現在は政策提言等を行えるようになってきている。また、1993 年より大学生から授業料を徴収し始め、大学運営も独立採算制がとられるようになった。さらに、広く人材を集めるために総合大学化の動きが活発である。他方、社会科学院は、中央(北京)及び地方(市・省)にあり、研究が基本の機関である。政府から提示される研究課題等、広い範囲にわたる研究が行われ、多くの研究員をかかえている。
 図1は、本節で整理した中国の学術機関の位置を示している。研究分野は、経済・社会分野の研究機関が多いが、地球変化東アジア地域研究センターは環境分野を対象とした研究機関である。

注:
 以上に述べた北東アジア地域研究の現状については、林昶「中国東北アジア研究の現状」『当代亜太』中国社会科学院アジア太平洋研究所、2002年4月からの要約である。中国の当該地域研究がどのように形成されてきたか、研究の中心はどこであるか、どのような研究がなされているか、研究者の分布、さらには主要な北東アジア関連の雑誌を網羅しており、大いに参考となる。

1.吉林大学東北アジア研究院、東北アジア研究センター(長春市)

 吉林大学には、大学内研究機関としての「吉林大学東北アジア研究院」、および国家教育部直属の重点研究機関としての「吉林大学東北アジア研究センター」がある。運営予算の財源は、前者は大学、後者は国家教育部である。研究スタッフは、両機関の間で一部重複するが、後者は全国から研究者を集めている。

(1) 吉林大学東北アジア研究院

1) 概要
1994年、中国の改革開放政策に対応し、東北アジアにおける地域経済協力を促進するという目的をもって、それまであった6つの東北アジア圏域の各国研究所を統合し現在の研究院が設立された。本研究院紹介のパンフレット『吉林大学東北亜研究院』によれば、本研究院がめざすところは、政治、経済、科学技術、人口、歴史、文化などの学際的、多面的な視点からの研究を組織すること、東北アジアに対する国家政策のための科学的基礎を提供しうるシンクタンクとして発展すること、また東北アジア研究の学術センター、専門家養成のためのセンター、東北アジア諸国における協力と交流を促進するための情報センターを築くことにある。
東北アジアに関する研究機関としては、中国のなかでもっとも大きいとされている。スタッフは約90名、そのうち研究スタッフは55名であり、その他は事務局、雑誌編集部、情報センターの職員である。研究者のうち海外留学経験者は30名いる。

2) 研究活動
本研究院の研究分野は、以下の4つに大きく分けられる。

ア、 経済:日本、韓国、北朝鮮、中国東北、ロシア、地域経済
イ、 政治:日本、韓国、北朝鮮、ロシア、東北アジア
ウ、 歴史:世界史、日本史、満鉄、農業史(中国東北)、日中関係史
エ、 文学:日本、外国文学

また、主な研究プロジェクトのテーマは以下のようである(上記パンフレットより引用)。

○ 東北アジアにおける地域経済、歴史と社会発展
○ 東北アジアにおける地域経済の発展と変化趨勢に関する研究
○ 東北アジアにおける国家間関係と政策に関する研究
○ 21世紀における東北アジア地域経済協力の方法と展望、及び我が国の対策
○ 21世紀に向けての日本の産業構造調整と経済政策に関する研究
○ 日韓金融制度改革に関する研究
○ 日本の中小企業の市場における革新的戦略に関する研究
○ 日本の軍国主義と戦争責任に関する研究
○ 1992年以降におけるロシアの企業システムの変化と発展傾向に関する研究、及びその教訓
○ ロシア封建末期における都市化に関する研究
○ 新興産業の選択、伝統産業の改革、地域経済発展戦略に関する研究
○ 近代以降における中国東北地域開発と環境変化に関する研究
○ 開発市場経済の類型比較と中国にとっての教訓
○ 現代化における中国の地域間不均衡発展の影響:評価と戦略
○ 東北アジアにおける高齢人口と高齢者社会保障
○ 貧困地域の発展過程における人口移動の影響:評価と戦略
○ 農村・農業改革の深化が農民の出産願望、出産行動に与える影響
○ 新経済期における雇用と人的資源開発:人口経済分野における新たな展開

現在、『東北亜論壇』、『現代日本経済』、『人口学刊』の3種類の学術雑誌を発行し研究成果を公表している。

3) 学術交流
上記パンフレットによれば、本研究院は、北東アジア地域の研究者との交流を継続してきており、国連や日本、韓国の支援のもとに、本地域の経済協力に関する国際会議を8回にわたり開催し、400名以上の研究者や政府官僚が参加した。また、以下の研究機関と正式の交流協定あるいは交流の意思を確認する協定(大筋合意)を締結している。対象研究機関として、日本の早稲田大学、名古屋大学、島根大学、島根県立大学、鳥取政策総合研究センター、アジア太平洋センター、北朝鮮の金日成総合大学、社会科学院、韓国の江原大学、忠南大学、ロシアの国立極東国立総合大学、米国のハワイ大学東西文化センターがある。さらに定期的な研究者や学生の交換、これらの協定機関と共同による国際会議の開催、学術資料の交換などを行なっている。

(2) 吉林大学東北アジア研究センター

1) 概要
中国には約1,600の大学機関があるが、そのうち15の重点研究施設が指定された。本センターはその一つであり、東北アジア研究の国家的研究機関として位置づけられたセンターとなった。本研究センターには、全国から兼任による研究員を集積している。兼任スタッフは、本大学で年1~3ヶ月研究を行なう。その際、滞在費、資料費、施設、国内出張旅費を提供する。また外国の教授も5名(日本1名、韓国1名、北朝鮮2名、ロシア1名)に依頼している。

2) 研究活動
各年、2本の主要プロジェクトを推進していく計画であり、10年計画を策定している。2000年、2001年の計画では、次のようなテーマをたてている。

○ 経済分野:「東北アジア地域経済および中国の政策」、「東北アジア人口資源および持続可能な発展」
○ 政治分野:「東北アジア国際関係研究」、「東北アジア100年の歴史」

2.吉林省東北アジア研究センター(長春市)

(1) 概要

本センターは、1988年に吉林省社会科学院とは別組織として設立されたものであり、吉林省政府が直接管理する研究機関である。中国東北三省のなかでも東北地域に関する研究機関として、社会科学院とは別組織として設立しているのは吉林省だけである。中国における東北アジアの研究スタッフは、ほとんど吉林省内の研究機関にいるといわれる。吉林省社会科学院のなかにも日本、朝鮮、ロシア研究所があり、吉林大学には上記の東北アジア研究院がある。本センターの運営に要する経費はすべて吉林省が負担しており、当該地域の諸問題に省政府が強い関心を抱いていることがわかる。本センターの研究員は10名、行政事務は2名である。なお、韓国の統一部対外経済政策研究院、現代社会経済研究院、大使館などから他にはない貴重な資料を収集し所蔵している。

(2) 研究活動

 研究課題には、第一に、国からの受託研究(国の部や委員会、企画基金から受託して行なうもので、これがもっとも多い)、第二に、省の政府、企画基金、科学技術庁から受託するもの、第三に、本センターの自主研究という3つのタイプがあるが、国や省からの課題が優先される。主な研究分野は、国際関係、政治、経済、外交、文化である。特に、それらの現代的な諸問題を対象としており、朝鮮半島の政治・経済問題、ロシア極東地域経済、地域経済協力、豆満江地域開発などについて研究している。

3.中国延辺大学東北アジア経済研究所(延吉市)

(1) 概要

本研究所は1991年に設立されたが、その前身は1980年に設置された延辺大学経済研究室である。21世紀における東北アジア経済新秩序の設立は、東北アジアの各国にとっての宿願であるとの認識のもと、当該地域のマクロ経済、政治、財政、金融政策の研究を行い、政策提言や企業に対するコンサルタント活動をも行う。研究員は、延辺大学経済学部の教員27名(教授6名、副教授4名、講師6名、助教授11名)が兼任している。

(2) 研究活動

本研究所の研究課題は、以下のようである。

1) 東北アジア地域の経済研究。各国の政策比較、経済体制、産業機構、貿易体系などの研究。具体的には、東アジア経済発展モデル~1997年東アジア金融危機後の東アジアモデルに対する認識~、中国ネットワーク経済発展の現状と展望、日本金融の国際化とわが国の金融改革への啓発などがある。

2) 朝鮮半島の経済研究。北朝鮮と韓国国内の経済状況、経済政策、貿易状況等への研究。具体的には、中国のWTO加盟による韓国経済への影響、韓国の朝鮮投資への制約要素および対策についてなどがある。

3) 図們江開発の研究。図們江流域の経済交流及び関連する経済政策等の研究。具体的には、図們江の地区開発と観光経済の発展、図們江地区開発の外部環境変化の動きなどがある。

4) 延辺地域の経済研究。延辺地域の経済構造、経済政策および法規等、関連する地域経済研究。具体的には、21世紀初頭における延辺州情報産業発展の潜在力および対策、農業産業化および延辺農業経済の構造調整についての概説、我が州の工業経済増強の要素分析および対策についての研究などがある。

5) 最新経営理論、および、先進企業の経営パターンに関する研究。

また、毎年、韓中朝経済協力等をテーマとした研究会を開催している。

(注)本項の中国延辺大学東北アジア経済研究所については、同研究所のホームページhttp://www.ybu.edu.cn/jgshzh/institute/dbyjjyjs/myweb/index.htmの内容を要約したものである。

4.遼寧大学(瀋陽市)

(1) 概要

遼寧省は、地理的な関係もあり、北東アジア地域研究や日本研究が盛んである。その研究の中心をなしているのが遼寧大学であるが、日本研究所や2000年8月に設立された比較経済体制研究所がある。環日本海地域の研究課題として、環渤海圏、日本企業、遼寧省地域経済分析、国有企業、国際金融と地方の金融制度、農業経済、農業の産業化などに取り組んでいる。

(2) 比較経済体制研究所

比較経済体制研究所は、教育部によって設置された全国唯一の体制比較を行うための研究機関であり、研究領域は、(a)近代経済、(b)中国社会主義経済、(c)世界経済である。理論と現実の融合をめざし、体制比較、例えばマルクス経済と近代経済、計画経済と市場経済、東西体制の比較研究を行っている。今後は、(a)企業制度(国有企業の現代化)(b)政府の役割(マクロ経済管理)(c)ロシアと東欧の経済発展などについて研究していく。専任スタッフは4名で、研究テーマによって内外から広くスタッフを集める。

(3) 日本研究所

日本研究所は、日本研究の総合的な研究機関として、1964年に中国で最初に設立された機関である。文学、歴史、経済の研究部門があり、党と事務局関係者も含めて18名のスタッフがいる。そのうち経済研究室が最大であり、8名の研究者で構成されている。経済研究室の研究課題は、90年代のバブル経済移行の研究が中心となっている。また、日本の企業制度にも関心を持ち、日本のコーポレート・ガバナンスの中国企業への適応可能性等について研究している。

(4) 学術交流

主な国際交流として、日本の大学では、関西、富山、九州国際、奥羽、桐蔭、日本、大阪経済法科の各大学と行っている。交流内容は、富山大学とは研究者交流、桐蔭大学とは博士課程の学生の交換、日本大学、関西大学とは国際シンポジウムを行っている。九州国際大学とは共同研究を行っている。

5.遼寧社会科学院(瀋陽市)

(1) 概要

本社会科学院のなかには、世界経済研究所、経済法研究所、遼寧省情況研究所など17の研究部門がある。このうち世界経済研究所は、以前の東北アジア研究所に欧米研究を加えて拡張したもので、スタッフは20名、うち日本研究3名、南北朝鮮関係4名などがいる。

(2) 学術交流

主な国際交流としては、米国、英国、フランス、スウェーデン、東南アジア、南北朝鮮、ロシア、日本などの機関と行っている。日本との交流では、アジア経済研究所、環日本海経済研究所(新潟)、立命館大学との間で共同研究等を行っている。また、韓国の統一部や複数の大学、北朝鮮の社会科学院や社会科学工作者協会、ロシアの科学アカデミー極東研究所や国民経済予測研究所などとの交流がある。

6.黒龍江大学東北アジア研究センター(ハルビン市)

(1) 概要

本センターは1999年に設立され、内部に7研究所と1新聞をもっている。研究所は、東北アジア経済研究所、ロシア研究所、日本研究所、韓国研究所、法制研究所、環境科学研究所、満語研究所である。このうちロシア研究所と満語研究所は独立した研究所であり、その他の研究所は関係する学院(学部)内の研究組織である。また、新聞『極東経済貿易導報』を発行している。
センターの教官はすべて併任であり、例えば、経済学院の東北アジア経済研究所に所属する7名、ロシア研究所の6名、満語研究所の5~6名の教官すべてがセンターの研究員となっている。

(2) 東北アジア経済研究所

 研究スタッフは、経済学院国際貿易専攻の7名の教官が担当している。その中の主な研究分野として、国際貿易、直接投資、中米貿易、中ロ韓貿易、ロシア経済研究、ロシア市場化後の経済貿易関係、現代ロシア経済、中国とロシアの経済貿易、東北アジア地域経済技術協力などがある。

(3) ロシア研究所

主な研究分野として、ソ連の経済体制改革、ロシア極東経済と国境地方経済貿易協力、極東の政治問題、極東の社会問題(労働就業、所得問題)、ロシアの経済問題、極東の経済貿易問題などがある。なお、新聞『極東経済貿易導報』の記事は、中ロ間の経済貿易に関するものが中心である。中国語版とロシア語版を週報として発行しており、中ロ関係の研究やビジネスには貴重な資料となるものである。

(4) 学術交流

本センターは、1999年以来、毎年1回、ロシア国立アムール大学と国際共同シンポジウムを開催している。テーマは、極東開発の歴史的経験、極東国境上のロシアと中国、極東諸国の経済文化協力と民族間の交流、ロシア文化の極東での経験である。この会議は、ロシアからハルビン市へ移動を含めて計4日間、両国で開催される。

7.黒龍江省社会科学院(ハルビン市)

(1) 概要

黒龍江省社会科学院は、スタッフは総勢306名、そのうち研究員は160~170名、行政関係(人事、科学管理、社宅管理、運転手、会計等)は 130~140名となっている。一部退職者を含んでいるので、出勤者は約270名である。院内に文学研究所、歴史研究所、シベリア研究所、社会及び科学技術発展研究所、経済研究所、政治学研究所、哲学研究所、人生科学研究所、東北アジア研究所、応用経済研究所、現代社会主義研究所の11の研究所を設置している。また、『シベリア研究』(中国語)隔月、『黒龍江社会科学』隔月、『学習と探求』隔月、黒龍江省社会科学院編『黒龍江省年鑑』年1回の雑誌、年鑑等を発行している。

(2) 東北アジア研究所

1990年に設立され、現在の研究員は10名である。専門とする対象地域は、日本2名、韓国1名、北朝鮮1名、モンゴル1名、ロシア5名であり、ロシア研究者の比重が高い。主な研究課題は、日中の地域間交流、特に経済の地域交流問題、中日の農業問題、日本農業の組織化、農協研究、日本文化、黒龍江省と韓国の貿易、韓国からの直接投資、黒龍江省と北朝鮮の貿易、北朝鮮の発展状況、モンゴルの経済状況・貿易、極東・中ロの辺境貿易、東北アジアの経済、物流問題などがある。

(3) シベリア研究所

 1964年、周恩来の指示で設立された。研究スタッフは20名である。大部分の研究員は、「ロシア・シベリア、極東と黒龍江省の貿易関係」について研究している。また、1~2名は、林業、エネルギー問題を研究している。以前はシベリアの歴史研究が多かったが、現在は経済貿易問題が中心になっている。東北アジア研究所と同じく、省政府からの貿易関係についての研究プロジェクトが多い。シベリア研究所は、省政府の対ロ貿易政策に関する提言を行うことが重要な業務である。

8.東北農業大学経貿学院(ハルビン市)

(1) 概要

この学院の教官は40名であり、うち教授8名、助教授18~19名である。農村経済・社会発展研究所をもつが、本学院とスタッフは同じで全員併任である。

(2) 研究活動

研究課題として、食糧問題だけを専門にする研究者はおらず、マクロ経済の観点からの研究が多い。研究課題としては、食糧の主要生産区のWTO対策、WTO加盟による日本の農産物市場への影響、21世紀初期の中国における第二次農業合作化に関する研究などがある。

(3) 学術交流

 日本の新潟大学、北海道大学、東京農工大学、韓国のソウル大学他2大学、ロシアのハバロフスク国立工業技術大学やウラジオストック極東水産大学との間で交流協定を締結している。また、中国、日本、韓国、ロシアの研究機関による国際シンポジウム「21世紀初頭、東北アジア農業と農村経済発展に関する国際研究会」を、開催機関ローテーション方式で毎年開催する予定である。

9.中国社会科学院アジア太平洋研究所(北京市)

(1) 概要

中国社会科学院は、約4000人の研究者を擁し、31の研究所に分かれている。そのうちのアジア太平洋研究所は、中国社会科学院所属の国際問題研究所のひとつとして1988年にされた。現在60人のスタッフがおり、そのうち45人が研究員である。本研究所の下には、経済研究室、政治社会研究室、安全外交研究室、文化研究室、朝鮮半島問題研究センター、APEC政策研究センターなどが設置されている。経済研究室には研究員2名、副研究員3名、補助研究員6 名、政治社会研究室には研究員1名、副研究員3名、補助研究員3名が配属されている。研究課題の選定は、国家の定める課題の他に、自由な課題設定も可能である。

(2) 研究活動

主要な研究領域は、APEC地域の経済、政治、安全保障、外交、社会・文化、地域協力、中国とAPEC主要国との関係などである。このなかで、北東アジア地域の研究も行っているが、現在は中国とASEAN、および韓国、日本のFTAに関する研究が中心となっている。定期刊行物としては、『現代APEC』月刊、『南アジア研究』年二回などがある。
経済成長は、アジア太平洋地域の社会発展の基礎であるとともに、世界経済における当該地域の地位を向上させる重要な要素であり、また、政治、社会、外交および安全保障における各種の矛盾や衝突を解決する前提条件でもある。経済研究室は、こうした基本認識にたち、ますます緊密になっている中国とAPECとの経済関係に焦点をあてている。具体的には、APEC経済の総体的研究、APEC地域の市場開放問題、地域協力と一体化、中国とAPEC地域間の経済関係、及び中国の地域協力参加問題などを研究課題としている。そのなかには、北東アジアの経済協力、中国・日本・韓国の貿易関係、北東アジア経済、安全保障、朝鮮半島の南北関係など、環日本海地域の研究に取り組んでいる研究員もいる。
政治社会研究室は、APEC地域の発展過程における政治と社会に関する諸問題を扱う。2002~2006年に計画されている研究課題は、APEC地域主要国の国内政治勢力の盛衰と政治体制の変動の基本形勢、APEC地域の民族分裂主義、宗教の過激勢力とテロリズムの発展動向とその危害、アジア発展途上国の社会階層構造と変動、APEC地域の人口と労働力の国境を超えた流動と遷移の発展情勢、アジア発展途上国の貧困問題、女性問題や環境保護問題など16課題があげられている。北東アジア研究に関しては2名の研究員がおり、『東北アジアの社会変革』、『中国の東北アジア研究』、『経済のグローバリゼーション、地域化と中国』、『APEC協力と中国』、『21世紀のAPEC経済構造の形勢』などで研究成果を発表している。
また、APEC政策研究センターでは、『APECと中国』、『開放、競争と発展-APEC政策選択へのわが国の参加』、『危機の陰影を超える』などの出版物のほか、APEC発展10年の回顧、アジア金融危機後の東アジア地域における金融政策の調整及び内部貿易構造の変化、国際市場に進出する中国企業の競争力などの課題に関して、毎年、研究報告書(中英文)を出版している。

(3) 学術交流

外国の機関との学術交流としては、韓国、日本との交流が多く、北朝鮮、ロシアがこれに続き、モンゴルとは少ない。韓国とはKDI、産業研究院の他、現代中国研究会やいくつかの大学との交流を行っており、大学とは地域フォーラムを継続していく。日本との交流では、アジア経済研究所とは中国経済の民活問題について共同研究を実施、また、国際東アジア研究センターの研究助成金を活用し、環黄海経済圏における経済協力について研究した。北朝鮮とは、社会科学院(世界経済研究所、南々協力研究所)、国際問題研究所、軍縮問題研究所、対外経済促進委員会との交流があり、ロシアとは、極東研究所、世界経済研究所、東方文化研究所との交流がある。なお、極東地域研究センターとの学術交流に関しては、今後の検討を依頼している。

(注)本項の中国社会科学院アジア太平洋研究所の一部は、同研究所のホームページhttp://www.cass.net.cn/chinese/s28_yts/s28_yts1.htmの内容を要約したものである。

10.中国人民大学(北京市)

(1) 概要

中国人民大学は国家の重点大学のひとつであり、主に社会科学を研究している。本大学は、半世紀にわたって国家機関や企業の中枢部門を担う人材を輩出している。公共管理学院は2001年6月に設立されたが、その前身は1950年に設置された経済計画学院である。本学院には、国民経済・経営学部、公共管理学部、土地・不動産学部の3学部が設置されている。また、学院の付属研究所として、地域経済・都市管理研究所、教育研究所、社会保障研究所、組織・人的資源研究所、財税管理研究所、安全保障研究所の6研究所がある。研究課題は、政府から提示される場合もあるが、外国との共同研究では自由に選定できる。

(2) 地域経済・都市管理研究所

本研究所は、主に中国国内の地域研究に取り組んでいる。現在は、国家の政策に対応し、西部大開発に関する研究が中心となっており、欧米以外の国外研究は少ない。しかし、スタッフは17名のうち5名は、東北アジア問題を研究してきた。研究課題は、環渤海地区経済発展、東北アジア地区経済協力、中国東北地区経済発展、経済のグローバル化、WTO問題、東北アジア政治状況、中朝経済関係、中日経済関係などである。

11.地球変化東アジア地域研究センター

(1) 概況

地球変化東アジア地域研究センター(英文略称「TEA-RRC」)は、1995年、地域性地球変化研究機構として大気物理研究所において設立された。本センターは、国際START(地球変化に関する分析・研究・研修)組織の東アジアセンターとしての機能をも担っている。対象とする東アジア地域(中国、朝鮮、日本、モンゴル、韓国とロシアのアジア部分を含む)は、人口密度が高く人間活動が環境変化に大きく影響を与える地域であり、世界の気候及び環境変化にとって重要な地域となっている。本センターは、東アジアの研究者の組織化、地域内の情報データ管理、人材の養成、環境保全や経済開発政策に対する情報提供などを行う。研究スタッフは、中国科学院院士(日本の学士院メンバーに相当)1名、研究員(教授に相当)6名、副研究員(助教授に相当)5名でいる。本センターでは、地球環境変化の研究に関するデータバンクが完備しており、中国における50年間の気象資料、気候、土壌、植物、水系、水文の全地球及び中国資料、さらに一部の衛星資料などがある。

(2) 研究活動

本センターは、地域レベルにおける地球環境変化の問題に焦点をあて、地域環境変化の法則とメカニズムを認識し、その予測理論と方法を発展させ、人類の秩序ある対応策にとっての科学的基礎を提供していく。現在の主な研究課題は、季節風気候―生態系のモデルと理論研究、気候と生態系過密帯の研究、地球変化のなかの土地利用問題、生存環境変化予測に関する理論と方法の研究である。さらに具体的には、以下のようである。

ア、 地域気候―大陸生態系の相互作用のプロセス研究と類型の発展
イ、 地域環境系統(気候―生態―社会―経済―水文)集成スタイルの発展
ウ、 地域環境系統データモデルと予測研究
エ、 地球変化の地域環境系への影響と評価
オ、 全地球と地域の環境変化の中における人類の秩序ある適応に関する研究
カ、 北方干ばつ化の総合集成研究

これまでの研究成果として、「アジア季節風区域における海―陸―気の相互作用によるわが国気候変化への影響」、「北西干ばつ気候の変化法則・形成メカニズムと予測理論」、「中国森林生態系における炭化循環モデルの研究」などがある。

(注)本項の地球変化東アジア地域研究センターについては、同研究所のホームページhttp://www.tea.ac.cn/の内容を要約したものである。

12.復旦大学日本研究センター(上海市)

(1) 概要

復旦大学には、大学直轄のセンターとして、日本研究センターと米国研究センターがある。これらは学部と同じレベルの機関として位置づけられ、センターの建物・施設を有し、専任研究員も10名規模の研究機関である。日本研究センターは、中国の近代化にあたり日本の経験と教訓を参考にすること、また、学術研究と交流を通じて日本に対する理解を深め、両国の友好の絆を堅固なものとすることを設立の趣旨としている。日本と上海市は、特にここ5年間経済的な結びつきが強くなっており、本センターの役割はますます重要になっていると考えられる。
図2は、本センターの概要を示している。本センターは、本大学の経済学部を母胎として設置されたものである。1980年代ははじめから日本研究を開始し、 1990年にセンターを設置しようということになった。経済学部から、国際関係、日本文化などの教官が配属され、現在は、専任の研究員が8名(経済、国際関係、日本文化)、職員が3名いる。さらに、日本留学の経験者など37名(助教授以上)が学内兼任研究員となっている。研究はプロジェクト方式で行っており、市内の学外兼任者も11名いる。
専任研究員は、学部との人事交流は行っておらず固定している。なお、専任定員枠は12名であり、今後増やしていく計画である。また、本センターの研究予算は①大学予算、②日本の国際交流基金、③その他申請基金(国家研究基金、上海市基金)等から構成されている。本センターには、学部学生はいないが、大学院教育(募集学生数は修士10名、博士4名)には対応している。また、刊行物としては『日本研究集林』年2回発行があり、極東地域研究センター発行の『FES』との資料交換を行うこととした。さらに、研究成果をまとめた図書として6冊を発行済みである。

(2) 研究活動

研究プロジェクトは、年3課題を設定して推進している。2002年に開始した課題は、以下の通りである。

1) 日本のアジア経済戦略
2) 日本の技術開発システムの研究
3) 日本の教育・社会の研究

また、経済分野の専任研究員の専門領域は、日本の不良債権、日本の中小企業、日本の対外経済関係、日本の国際経済学である。

(3) 学術交流と現地事務所

シンポジウムは年2回開催しており、近年のテーマは「東アジアの経済協力における中国と日本」、「WTO加盟と中日産業協力」などを設定している。一回のシンポジウムは、2~3日間の開催期間であり、報告者は国内から10名、国外から6~7名程度である。国外からの参加者については、旅費は本人負担、滞在費は復旦大学が負担する。
日本との学術交流協定は、早稲田、慶応、東洋、創価、関西、関西学院大学などの18の研究機関と締結している。研究会は、不定期で開催している。慶応大学とは、教育面での交流を行っている。相互に講義をもち、互換単位の認定を行っている。今後は、早稲田大学や京都大学とも進める予定である。
交流協定の一番大きな課題として、経費の問題を指摘している。日本の国立大学は、国際交流予算が限られているため対等な交流が難しいという。復旦大学としては、原則として対等な交流を希望している。その上、手続き的にも煩雑である。
2003年1月、京都大学が本センター内に現地事務所を設置することになった。これは京都大学全体としての現地事務所であり、2003年度より京都大学から常駐者が1名来ることになっている。場所は、本センターの正面玄関横の一室を借用しての開設である。京都大学の現地事務所設置の目的は、以下のような点にある。

1) 大学の研究拠点
2) 関西財界の現地調査の拠点。京都大学として受託し、京都大学や復旦大学の研究者が調査を実施し、その結果を返す。
3) 学生の募集。特に院生の募集を行いたいとしている。

なお、復旦大学の事務所を京都大学に設置する予定はない。

(4) 韓国研究センター、ロシア研究センター

本大学には、韓国研究センターとロシア研究センターもあるが、両センターとも歴史学部所属のセンターである。その意味では、大学直属の日本研究センターとは大学内での位置づけが異なる。
韓国研究センターは、専任研究員が4~5名、韓国の歴史を中心に研究している。現在、歴史学部の一室で活動している。また、ロシア研究センターの専任研究員は1名であり、ロシアの歴史研究を行っている。

図2 復旦大学日本研究センターの概要(省略)

13.上海社会科学院(上海市)

(1) 概要

本社会科学院の中には、次の15研究所と7研究センター等がある。研究所は、経済、産業(部門)経済、世界経済、東欧中西アジア、アジア太平洋、文学、歴史、哲学、情報、新聞、法学、社会学、宗教、青少年、人口・発展研究所があり、研究センター等には、鄧小平理論、地域発展、国際戦略、上海、インターネット、人的資源研究センター、並びに社会調査センターがある。各種センターは、新たな課題に対応していくために設置されたものである。このうち世界経済、東欧中西アジア、アジア太平洋研究所は、2003年には合併予定とされている。

(2) アジア太平洋研究所

本研究所は、1990年に設立されている。図3は、その概要を示している。所属する研究員は約10名である。研究対象国は、日本、韓国、台湾が中心であるが、なかでも日本と台湾の研究に力を入れている。研究領域は、政治問題が中心であり、経済分野は1~2名である。

(3) 世界経済研究所

本研究所の設立は1978年である。所属研究員は、約30名。経済分野の研究者は、本研究所に集められており、国際金融、国際貿易、国際関係の研究者がいる。東アジアの研究を行っているのは2名であり、うち1名は、日本の金融・貿易問題を研究している。

(4) 産業経済研究所

本研究所の設立は1978年である。所属研究員は約40名。研究領域は、農業、工業、商業、観光、不動産、中小企業問題と広範囲に及ぶ。このうち農業問題を研究しているのは3名である。例えば、上海市政府からの委託研究により、上海のアグリビジネスに関する調査を行った。

(5) 地域発展研究センター

ほとんどが経済分野であり、国内の地域を研究対象としている。周辺の省の県政府等からの委託などにより、地域(長江デルタ等)発展戦略の設定などを行っている。専任研究員は3名であり、主任、副主任だけが専任となっている。プロジェクトの研究課題に対応して、研究者を各研究所から集め、本センターはコーディネイト機能を有している。

図3 上海社会科学院太平洋研究所の概要(省略)

第2節  韓国の学術研究機関

1.江原大学産業経済研究所、経営研究所(春川市)

(1) 概要

江原大学(大学校)は、全国の総合大学10拠点のうち、江原道における拠点大学として位置づけられている。図4は、大学の概要であるが、組織機構に示されているように、学内に36の附属研究所を設置しており、そのなかに産業経済研究所、経営研究所がある。1995年に環東海(日本海)経済研究所の設立をめざしたが実現を見ず、現在のところこの両研究所が、その研究領域を担当している。

(2) 産業経済研究所

1) 組織
本研究所には、江原大学のなかの単科大学のうちの1つとして経営大学があるが、そのなかの2学部(経済貿易学部、経営・会計・観光学部)の教員35名が所属している。

2) ジャーナルの発行
①『産業と経済』(査読制ジャーナル誌)を年1回発行している(昨年までは年2回)。
②ソウル大学を除く、8つの拠点国立大学の経済・経営系の学部で構成している韓国経営経済学会のジャーナル(査読制)の発行(年3回)に参画している。

3) シンポジウム、研究会の開催
①経営研究所と共同で北東アジア経済協力シンポジウムを開催。
②経営研究所と共同で、日本(岡山大学、新潟大学、富山大学)、中国(吉林大学、遼寧大学)、ロシア(ハバロフスク国立法律・経済アカデミー)とのシンポジウムを開催。2003年は、中国(瀋陽)で開催予定。
③大阪商大、上海財経大と江原大学校の3研究機関共同で、シンポジウムを開催。2003年は上海で開催予定。
④Asian Crisisをテーマに、ワシントン大学(アメリカ)、韓国対外経済政策研究院と江原大学校の3研究機関共同でシンポジウムを開催予定(2003年6月)。
⑤企業、銀行等と共同でセミナーを開催。

(3) 経営研究所

1) 組織
産業経済研究所と同じく、経営大学の2学部(経済貿易学部、経営・会計・観光学部)の教員35名が所属している。

2) ジャーナルの発行
①『経営学研究』を年1回発行。
②ソウル大学を除く、8つの拠点国立大学の経済・経営系の学部で構成している韓国経営経済学会のジャーナル(査読制)の発行(年3回)に参画。
③ハバロフスク国立法律・経済アカデミーと共同でジャーナルを発行。

3) シンポジウム、研究会の開催
①学術セミナーを年に数回開催。
②企業、銀行等と共同で、地域発展のためのセミナーを開催。
③産業経済研究所と共同で北東アジア経済協力シンポジウムを開催。
④産業経済研究所と共同で、日本(岡山大学、新潟大学、富山大学)、中国(吉林大学、遼寧大学)、ロシア(ハバロフスク国立法律・経済アカデミー)とのシンポジウムを開催。2003年は、中国(瀋陽)で開催予定。
また、本研究所は、地域発展のためのコンサルティング事業を実施している。

(4) 研究活動

両研究所をあわせると、約10名の研究者が北東アジア地域研究を行っている。例えば、具正謨教授は財政問題を中心に日本研究を行っており、李鉉勲教授はFTAや北東アジアでの経済交流を研究している。両教授の近年の研究成果は、以下のようである。

・ 具、李、Lloyd 共著, New Regionalism in East Asia and its Relationship with the WTO and APEC, International Area Review, Vol.5, No.2, 2002.
・ 具、Beason 共著, Prospects and Challenges for Northeast Asia Free Trade Agreement, The journal of the Korean Economy, Vol.3, No.1, 2002.
・ 具, Fiscal sustainability in the wake of the economic crisis in Korea, Journal of Asian Economics, 2002.

また、朴義範氏は、ロシア、中国に進出した韓国系企業の経営について研究している。その他に中国に対するマーケティングを研究している専門家が2名おり、マネジメント関係でも2~3名が北東アジア地域研究を行っている。また経営大学以外の大学の教員(産業経済研究所所属)で、日本や北東アジア地域の農業経済を研究している専門家が7名いる。

図4 江原大学の概要(省略)

2.東国大学国際貿易経済学部(ソウル市)

(1) 概要 

本大学は、1906年、仏教を専門とする東国大学として設立され、40年に平和専門大学として改組されたが、第二次世界大戦後の46年に再び東国大学に戻った。その後、53年には大学院、70年には東国大学師範学部の付属中学・高校、78年には京畿道に地域政策学部、91年には医学部付属医院が設置されている。
本学部以外の学部としては、その設立の経緯からまず仏教学部があり、文化学部、医学・理学部、法律学部、経営学部、生命支援科学学部、工学部、情報産業学部、師範学部、芸術学部があり夜間講座も設けられている。また、独立した研究機関としては、仏教文化、社会科学、経済経営、北韓、自然科学などの研究機関がある。

(2) 研究活動

本学部の研究スタッフの主な研究領域は、中国経済および北東アジア経済・貿易、国際ビジネス、貿易理論、資源および環境経済、国際金融論、電子商取引と国際貿易、国際金融及び管理、国際貿易政策、国際交渉、日中韓の自由貿易協定などである。

(3) 学術交流

現在、国際貿易学部として国際交流に積極的に取り組もうとしている。研究スタッフには海外留学の経験者が多く、すでに属人的な交流は多く行われている。また、北東アジアの安定には欠かせないテーマである北朝鮮の研究に関しては、北韓研究所もあることから、同研究所との交流にも期待できる。

3.韓国農村経済研究院(ソウル市)

(1) 概要

本研究院は、韓国政府が1978年に設立した農業・農村経済研究のための非営利組織である。研究スタッフは約100名であり、農産業研究部(農産物品目ごとの研究)、農村開発部(農村振興関係)、農業観測センター(農業データ観測と予測)、北韓農業研究センター(北朝鮮農業の研究。研究員は5名)、知識情報センター(図書・資料室。情報研究)、国際農業研究室(日本、中国、米国等の農業及び貿易に関する研究。研究員は6名)、林業政策室、農業政策分析室の研究部門を設置している。また、定期刊行物としては、『農村経済』(韓国語)、季刊、及び"Journal of Rural Development"(英語)、年二回を発行している。

(2) 研究活動

研究課題は、比重の高い順に次の3つのタイプに分けられる。
ア、 政策課題:農林水産省等からの研究課題であり、研究課題を申請する。他の研究機関、大学と共同研究することもある。
イ、 用役課題:民間企業等からの受託研究。
ウ、 基本課題:総理府からの研究課題。

(3) 学術交流

2001年10月に、日本の農林水産政策研究所(旧農業総合研究所)と協定を締結した。今後、韓国と日本で年一回ずつ共同研究会を開催する計画である。また、中国とは、次の2機関と協定を結んでいる。
①農業科学院農業経済研究所(北京市):2000年から年一回のシンポジウムを開催。
②上海市農業科学院:2001年に締結。
以上のように、ここ数年で外国研究機関との提携関係を構築しており、学術交流ネットワーク化を進めていることがわかる。北東アジア地域研究の領域では、特に、国際農業研究室と北韓農業研究センターが注目される。

第3節 ロシアの学術研究機関

ロシア(旧ソビエト)の特徴として、大学は主に教育を行い、研究は科学アカデミーが行うという分業体制がある。もちろん大学と科学アカデミーは相互に交流があり、科学アカデミーにおいても専門家の養成が行われ、大学においても研究は行われている。だが大学の力点は専門家の養成にあり、科学アカデミーの力点は研究にある。また、ロシアの大学は、университет ( university、大学) 、институт ( institute、大学)、 факультет ( faculty、学部 ) の三層構造になっている。

1.ロシア科学アカデミーシベリア支部経済・工業生産組織研究所(ノボシビルスク市)

(1) 概要 

経済工業生産組織研究所は、1958年に創設されたロシアのウラル以東最初の経済専門の研究機関である。ノボシビルスク学派と呼ばれる知的集団を形成し、世界的に知られている。ノーベル賞に輝いたL.A.カントロヴィッチは、この学派の形成に大きな影響を与えた人物であり、現在でもA.G.アガンベギャン、A.G.グランベルグ、V.V.クレショフなど世界的に知られている研究者を輩出している。また、通称EKOとして知られるロシアの代表的な雑誌のほか、REGIONといった雑誌の発行も行っており、ロシア経済を研究する者にとって重要な論考が発表されている。

(2) 研究活動

この研究所は、旧ソ連時代には地域経済開発計画に大きな役割を果たしてきたほか、現在でもシベリアの開発において主導的な役割を果たしている。ノボシビルスクの学園都市を本拠地とし、イルクーツク、クラスノヤルスク、オムスク、ケメロボ、バルナウルなどに研究施設をもつ。産業複合体の設計、地域経済システムから工業企業の経営、地域経済予測まで幅広い研究を行っている。

2.ロシア科学アカデミー極東支部(ウラジオストク市)

(1) 概要

ロシア科学アカデミー極東支部は39(沿海地方18、アムール2、カムチャッカ5、サハリン2、北東地域4、ハバロフスク8)の研究所・研究施設を有し、支部の事務局はウラジオストク市にある。本支部の研究対象は、極東ロシアにおける人文、社会、自然科学研究であるが、その中心は自然科学である。

(2) 学術交流

本支部と交流協定がある機関は122機関にのぼり、その内訳は、日本(32%)、中国(29%)、アメリカ(21%)、韓国(6%)であり、パートナーの 90%はアジア太平洋地域の機関である。日本との交流に関しては、富山、金沢、新潟、仙台、筑波、東京、京都、大阪の大学や研究者との交流がある。そのうち富山に関しては、富山国際大学と富山工専高校との交流がある。金沢大学とは交流協定があり、本支部の2人の研究者(専門はコンピュータと科学技術)が金沢大学で研究を行っている。なお、日本の研究者との共同研究として、カムチャッカ、北方海域での地震、大気、海洋に関する研究を定期的に行っている。

(3) 歴史・考古学・民俗学研究所

本研究所の研究対象は、1つは名称どおりの歴史、考古学、民俗学の研究であり、もう1つの柱はロシア極東地方の社会・経済問題(ロシア極東地方の社会・経済的発展の歴史、中国移民の問題等)である。
本研究所と協定のある海外の学術機関としては、プリンストン大学(アメリカ)、カーネギーセンター(アメリカ:中国移民に関する共同研究)、北海道大学スラブ研究センター(日本)、黒龍江省社会科学院(中国)等があり、国際会議やシンポジウムを開催している。

(4) 太平洋地理学研究所

本研究所は、北東アジア地域(環日本海地域)を1つのコンプレクスと考えているという。極東地域研究センターとは、環日本海地域の開発(資源利用)と環境に関して双方に共通の研究課題があるといえ、具体的な課題としては、自然システムの評価(人間の活動による自然の変化に対する評価)、自然資源(木材、土地、水、原料、石炭等)の評価等が考えられるとしている。

3.ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所(ハバロフスク市)

(1) 概要

ハバロフスク市に所在する本研究所は、極東の経済・社会を対象として広範な研究を行っている。主要な研究領域としては、極東の経済改革問題、社会・経済的発展の考察、自然資源利用とインフラ問題を対象としている。研究所の機構(部門)は、社会・経済部門、国際経済統合部門、個別経済部門、極東地域研究部門から構成されている。なお、本研究所には大学院生も多数在籍しており、研究とならんで院生への教育も研究所の重要な機能の1つとなっている。

(2) 研究活動

各研究部門では、以下のような研究が行われている((  )内は責任者)。

1) 社会・経済部門(ミヘーバ):人口学、雇用、マクロ経済分析・予測、金融問題等を研究。人口、移民、労働市場問題の最近の研究課題は、ウラジオストクへの中国移民の問題である。研究手法としては、アンケート調査と聴き取り調査が中心である。

2) 国際経済統合部門(デバエバ、アドミージン):対外貿易・投資、国際経済交流(北東アジアの経済協力等)を研究。具体的な研究課題は、極東の交易の動向、極東の貿易に関する問題点と発展可能性について、北東アジア地域の経済発展、北東アジア地域の国際協力、ロシアへの外資の進出等である。

3) 個別経済部門(シェインガウス):燃料・エネルギー(カラシニコフ)、鉱物資源、水産・林業資源等の問題を研究、企業経営(グドコバ)に関する研究があり、また、継続的に行っている事業として、極東の経済地図の作成がある。これは、研究所の中でもっとも伝統的な活動の1つである。  企業経営部門では、中小企業問題等を主要な研究対象としており、統計データやアンケート調査分析を中心に行っている。特に、企業家養成のための条件解明や中小企業の発展を妨げているバリアーの解明に力を入れている。本部門では、日・中・韓・露の企業経営の比較研究に意欲的であり、この分野での研究交流と共同研究を要望している。
自然資源の利用とインフラ研究に関しては、マクロではなくミクロ的な問題を対象としており、主に、自然資源(森林、漁業資源、エネルギー資源、鉱物資源等)の有効利用のあり方について研究している。現在のロシア政府ならびに地方政府(ハバロフスク地方政府)は、経済開発と環境保全の両立、特に環境保全の重要性に理解を示しており、今後、この分野の研究は一層重要になるとしている。  ロシア極東の燃料・エネルギー研究では、ルテック社(沿海国営区発電所とルチェゴルスク炭田を統合した、ロシア最初の電力・石炭合同企業)の経営問題、同社の石炭の低品質(低カロリー)問題、ロシア極東の燃料バランスに占めるガスの割合増大の推進、それに際してのガスの内外価格差問題(国際価格の数分の1といわれるロシアのガスの国内価格)等が研究課題となっている。

4) 極東地域研究部門(責任者の氏名は不明):モニタリング、経済政策等を担当。

(3) 学術交流

本研究所の各部門において、それぞれ学術交流を行ってきている。例えば、対外貿易・投資、国際経済交流部門では、毎年、日本で開催されるセミナーに参加しており、自然資源の利用とインフラ研究部門では、日本の大学やIGES(地球環境戦略機構、在神奈川県)と林業問題(森林問題)、及び、エコロジーに関しての共同研究をすでに行っている。また、移民問題については、アメリカ(カーネギー基金)、中国(ハルビンの科学アカデミー)及び日本(北海道大学)と共同研究を行った実績がある。  経済研究所は、毎年2~3回、定期的に国際的な学術集会を開催しており、極東地域研究センター主催のワークショップおよびセミナーとの相互の報告者派遣等は可能であるとしている。研究集会等で協力可能な分野として、以下の7分野をあげている。

ア、 自然資源の利用について
イ、 社会問題(雇用、移民問題等)
ウ、 貿易、投資問題
エ、 北東アジア地域諸国間の交流、協力について
オ、 北東アジア地域諸国の経済について
カ、 ロシア極東の経済について
キ、 経済発展予測について

ロシア科学アカデミー極東支部・経済研究所は、ロシア極東の経済をマクロ、ミクロレベルから広範に研究し、優れたスタッフを有しているロシア東部の研究拠点である。これらの研究領域は、極東地域研究センターのそれと共有する部分が多く、研究交流の意義と可能性は大きいといえる。なお、研究交流の促進のためには交流協定を締結することが望ましいとしている。

4.極東国立総合大学、ウラジオストク国際関係大学(ウラジオストク市)

(1) 概要

極東国立総合大学の附属機関として、ウラジオストク国際関係大学が設置されている。ウラジオストク国際関係大学は、アジア太平洋地域研究(政治、経済、交流)を行っており、環日本海地域研究と重なるところが多い。

(2) 学術交流

交流協定を締結している海外の研究機関としては、ヤンリン大学(中国)、ハルビン大学(中国)、メリーランド大学(米国)、立命館大学(日本)等があり、アジア太平洋地域の大学との学術交流を進めている。日本の学術機関との交流については、共同研究を行える課題は十分に存在すると認識しており、主要なものとしては、環境問題、資源問題、インフラ・交通問題、犯罪問題、安全保障等が考えられる。これらの問題は日露間だけでなくアジア太平洋地域共通の問題であり、当該地域の安定と発展を考える場合、共同研究のテーマとして大きな意味をもつものと言える。

5.ウラジオストク国立経済・サービス大学(ウラジオストク市)

(1) アジア太平洋法律・政治大学

1) 概要
 ウラジオストク国立経済・サービス大学は、ロシア極東を代表する経済系の大学である。本大学は、附属する7つの大学から構成されており、そのうちの1つとしてアジア太平洋法律・政治大学がある。アジア太平洋法律・政治大学は、さらに2つの学部(経済・法学部、言語・東洋学部)からなり、アジア太平洋地域研究に関する専門家の養成を目的としている。主要な分野としては、アジア太平洋地域諸国の法、経済・法律系の言語・国際コミュニケ-ション、地域学(東洋学)等であり、環日本海地域研究と重なるところが多い。また、アジア太平洋法律・政治大学は、ロシア科学アカデミー極東支部の歴史・考古学・民俗学研究所との関係が深く、東洋学の分野の学術・教育レベルは高い。

2) 学術交流
 交流のあるアジア太平洋地域の学術機関としては、札幌大学(日本)、立命館大学(日本)、遼寧教育大学(中国)、ソウル女子大学(韓国)等がある。しかしながら、具体的なテ-マに基づく継続的な交流という点では、まだこれからというのが実情のようである。なお環境モニタリングに関しては、上海大学との間で協定があり、スタッフ40人を擁する共同研究を実施している。

(2) 地域研究・異文化コミュニケーション大学

 ウラジオストク国立経済・サービス大学の基幹的附属大学の1つとして、地域研究・異文化コミュニケーション大学がある。雪氷研究を行うエコロジーの専門家、自然資源利用、特にエネルギー資源利用の経済的研究を行う専門家がいる。

6.極東国立工科大学(ウラジオストク市)

(1) 概要

極東国立工科大学には、多様な形態の研究所や学部、そして極東国立工科大学と提携した関連機関の支部がロシア極東地域やシベリアの市や町に分散している。ウラジオストク市にある極東国立工科大学の中心キャンパスには15の附属大学がある。このなかにロシア科学アカデミー極東支部、自然資源省、危機管理省、気象予測委員会、環境保全委員会と共同で設立した大学(Institute of Ecology for Engineering and Society)があり、エコロジー、テクノロジー、社会関連の研究教育に大きな成果をあげている。

(2) 研究活動

 本大学は、エネルギー関連企業と連携し、エネルギー分野の専門家養成に大きく貢献している。また、気候変動研究の一環として雪氷研究に取り組んでいる。本大学は、極東地方において最も有力な理工系の大学であり、エコロジー問題を中心に学術交流を行える可能性が高い。

(参考)ハバロフスク日本センター(ハバロフスク市)

(1) 概要

 日本センターは、ロシアの市場経済への移行を支援する為に、必要な人材を育成することを目的として日本政府(外務省ロシア支援室)が開設している。これまでモスクワ、ハバロフスクに開設され、その後、ウラジオストク、サンクトペテルブルグ、モスクワ大学、ニジネノブゴロド、ユジノサハリンスクに開設されて、現在ロシア国内に7ヶ所設置されている。ハバロフスクでの開設は1994年であった。本センターの事業は、経済セミナーの実施、日本語教育、ビジネス・コンサルタント等である。セミナーでは、日本とロシアの政府間協議により、各地域の要請に合わせて、必要な講座を開設している。講座には、日本から各分野の専門家を派遣し、受講者は、主としてビジネスマンである。市場経済に関する各種講座を無料で受講でき、受講者の中から優秀者を選抜して訪日研修も実施している。ハバロフスク日本センターだけで、これまで3,000人以上の受講生を受け付けており、そのうち約300名が訪日研修を受けている。
 今日では、受講者の中から地域経済をリードしていく若手の実業家が輩出し始め、ロシア政府、及び、各地のロシア側関係者からも、日本センターの活動には多大の期待が寄せられているという。また、日本センターは、これまでのビジネスマンの教育に加えて、今後、日ロ経済交流のための橋渡し役、牽引役としての機能を果たしていくことも期待されている。
 本センターは、組織の性格上、学術交流の拠点とすることは困難であるが、日露経済交流を中心としてロシア東部の情報が集積する機関となっており、環日本海学術情報ネットワークの拡充にあたっては有用な機関といえる。

(2) 経済交流等の現状

 ロシア東部(ロシア極東、シベリア)との交流に関して重要となる地域は、ハバロフスク地方と沿海地方であり、大学については、特にイルクーツク大学が日本との交流に極めて積極的であると指摘している。
現在、日本企業がロシアで成功している例として木材加工業がある。その際、重要なことは、適切なロシア人のパートナー(経営者)を選ぶこと、また、経済交流が互恵的であるためにも、単に原木を輸入するのではなくロシアで加工し、ロシアの製造業を育成することである。今後のロシアとの経済交流を推進させるには、一般的な視察や調査ではなく、具体的な事業目的(家電、バイオ等)をもって訪ねることが必要であり、ロシア側にとって目に見える魅力を提示することが交流を円滑化させることになろう。

第Ⅱ章 学術情報ネットワークを基礎にした共同研究体制の整備

 富山大学極東地域研究センターでは、これまで形成してきた学術交流ネットワークを基礎にして、より強固な共同研究体制を構築しつつある。本章では、学術交流協定の締結、北東アジア地域研究コロキアム(研究集会)の継続、韓国研究機関との連携について、その具体的な交渉過程と内容を整理したものである。

第1節 学術交流協定の締結

富山大学極東地域研究センターは、単発的な情報交換ではなく研究機関同士の安定的な学術交流を図るため、学術交流協定の締結に向けての協議を重ねてきた。従来の交流協定では、形式的に文書を取り交わすものの、その後の実質的な学術交流を伴わないものも多々見受けられる。本センターとしては、あくまで実質的な交流を長期的に実現したいとの考えのもと、まずは学術交流を先行させ、今後とも交流継続が可能であると判断した機関に対し、交流協定締結を申し入れた。現在、交渉中の研究機関との今年度の交流実績は、以下の通りである。

1. 吉林大学東北アジア研究院

富山大学極東地域研究センター、吉林大学東北アジア研究院、ロシア科学アカデミーシベリア支部経済工業生産組織研究所の3研究機関連携のもとに、次節で述べるコロキアムを毎年開催することで合意している。第1回コロキアムは2002年9月25・26日に開催したが、吉林大学東北アジア研究院からは2名が参加し報告した。また、第1回極東地域研究センターワークショップ(2003年1月23日、富山大学にて開催)では、報告者として本研究院の李玉潭教授を招へいした。

2. ロシア科学アカデミーシベリア支部経済・工業生産組織研究所

 今年度の上記コロキアムを本研究所にて開催し、本研究所から3名が報告した。また、第4回極東地域研究セミナー(2003年1月24日、富山大学にて開催)では、燃料・エネルギー部門部長ビクトル・チュラシェフ氏を報告者として招へいした。さらに、交流協定締結に向けて本研究所を再度訪問している。

3. 中国農業大学経済管理学院

今年度の非常勤研究員として、本学院に在職する武拉平助教授を採用した。武氏は、中国の穀物問題を専門とするが、本センターの酒井富夫教授と日米中の飼料穀物に関する共同研究を推進している。また、第3回極東地域研究セミナー(2002年10月17日、富山大学にて開催)への本学院からも参加があった。今年度は、交流協定締結に向けて本学院を訪問している。

4. 吉林農業大学管理学院

第3回極東地域研究セミナー(2002年10月17日、富山大学にて開催)へ郭慶海教授を報告者として招へいした。郭氏とも、上記飼料穀物流通問題に関し共同研究を推進している。
以上のように、コロキアム、ワークショップ、セミナーを通して、研究交流を深めることによって、共同研究の可能性を模索してきたのであり、着実にその成果は生まれてきているといえる。吉林大学東北アジア研究院、ロシア科学アカデミーシベリア支部経済・工業生産組織研究所は今後とも多面的な協力関係を維持していく研究機関であり、中国農業大学経済管理学院、吉林農業大学管理学院は、北東アジアの農業問題に関する研究プロジェクトを推進する上で不可欠な研究機関である。これらによって培われた関係を土台にして、以下の項目の実施とその発展への協力に合意する交流協定を締結することにしている。

(1)  教員の交流
(2)  学術出版物及び情報の交換
(3)  共同研究及び研究集会

以上のように、交流協定の締結自体が目的ではなく、その協定によってどのような交流を行うかこそが本来の目的である。相互に交流のあり方を模索しつつ、その上で協定を締結することが、安定的な学術交流の継続に向けて協定を実質的に機能させるポイントであるといえる。

第2節 北東アジア地域研究コロキアム(研究集会)の継続

1.第1回北東アジア地域研究コロキアム(研究集会)の開催

富山大学極東地域研究センターでは、北東アジア諸国の研究者による共同研究に向けての枠組みづくりを行うことを目的として、毎年、北東アジア地域研究コロキアム(研究集会)を開催することにしている。これは本センターと吉林大学東北アジア研究院、ロシア科学アカデミーシベリア支部経済・工業生産組織研究所の3研究機関の連携のもとに実施するものであり、輪番制で開催することで合意している。今年度は2002年9月に、第1回コロキアムをロシア科学アカデミーシベリア支部経済・工業生産組織研究所において開催した。その際の研究発表の内容については、巻末の添付資料を参照されたい。コロキアムは、数年間は「北東アジアにおける社会経済的発展と安定化(Socioeconomic Development and Stability in Northeast Asia)」という共通課題で行うことにしている。今年度の発表者は、日本3名、ロシア3名、中国2名であった。討議では、相互の問題意識を確認しつつ、経済・社会制度の国際比較の必要性等が論じられ、大きな成果があったといえる。

2.継続のための協議

コロキアムを継続・発展させるために、今後の交流方法について3研究機関で協議の場を設定した。そこでは、近年、ますます北東アジア地域研究の重要性は高まってきているという認識を改めて共有し、当該地域の研究に関しての共同研究の枠組みをつくるというコロキアムの開催目的を確認した。その上で、以下のような内容について協議を行っている。

(1) 今後の方向について

まず、次年度以降、今回の成果をさらに高めるため、コロキアムの継続と拡充を図るということで合意した。具体的には、核となる3機関の連携・協力を基礎にし、当該地域研究のネットワークを拡大する。例えば、3機関がそれぞれ有する既存のネットワークを結びつけることを考える。また、来年度8月には、吉林大学東北アジア研究院にて開催すること、共同研究の課題を模索し独自の予算獲得の努力をすること等が合意された。

(2) 研究集会の方法

研究集会の具体的な方法として、以下の点が確認された。

1) コロキアム開催時に各機関の代表者会議を開催し、各地域における研究課題や運営方針等について意見交換を行うこととする。代表者については、必要な場合は招へいする。

2) 報告は、3機関及びネットワーク機関から募集する。

3) テーマは、「北東アジアの社会・経済的発展と安定化」を継続する。副題、セッション方式等運営方法については開催機関の考え方を尊重する。さらに具体的なテーマについては、経済の基本部門の投資と発展、北東アジアの国際協力と基本部門の発展、北東アジア協力のメカニズム・モデル、労働資源、エネルギー、貿易と投資、金融、北東アジア諸国の制度と発展パターン(経済開発のあり方)などが提出されたが、今後さらに協議することとなった。

4) 研究集会での使用言語は、通訳をつける努力をする。提出論文の要約は英文とするが、提出論文については以下の成果の公表言語と併せ、今後の協議課題となっている。

(3) 成果の公表

コロキアムの成果は、富山大学極東地域研究センターがワーキング・ぺーパーとして発行する(サマリーは英文)。ただし、成果の公表については、開催機関の意思を尊重した方法で行うことを確認した。来年度の開催機関である吉林大学東北アジア研究院は、吉林大学が発行する研究雑誌に掲載する意向であった。言語は、原則として中国語とのことであったが、これについては今後検討することとなった。

以上のように、研究集会を継続するためには、定期的な学術交流に関する協議の場の設定が必要であり、開催機関の意思を尊重しつつ、研究機関相互の役割分担を明確にしておくことが必要である。また、複数の言語を使用する当該地域研究においては、発表や成果の公表における使用言語については、特段の配慮が必要である。

第3節 韓国研究機関との連携~江原大学産業経済研究所、経営研究所~

これまでのネットワーク化のなかで、韓国研究機関との連携が相対的に弱く、コロキアムの実績を基礎にしてその部分を強化することとした。前章でみたように、江原大学の産業経済研究所、及び、経営研究所両研究所は、北東アジア地域研究者を擁し、活発なシンポジウム、研究会等を開催してきているという実績をもつ。
双方の研究機関の説明に続いて、コロキアムを軸とした具体的な研究交流と交流協定締結の問題について意見交換を行った。その結果、2003年8月に長春で開催されるコロキウムへの参加、及び、開催機関としての参加について積極的に検討することとなり、交流協定についても進展させることで合意した。  江原大学は韓国の拠点国立大学の1つであり、北東アジア(環東海(日本海))地域研究にも力点をおいており、環日本海地域学術情報ネットワークの拡充に向けて重要なパートナーの1つとなりうる研究機関であるといえる。また、極東地域研究センターとしては、ロシア、中国に続いて、韓国での研究交流の一拠点として位置づけ、今後、コロキウム、セミナー、ワークショップ等における研究交流により、両機関による北東アジア地域研究の進展が大いに期待できる。
 以上のように、新たなネットワーク化にあたっては、双方の研究機関や研究状況を確認した上で、これまでのネットワーク実績を軸に展開したことが、円滑なネットワーク拡充を可能にさせたといえる。

まとめ~日本海学を支える学術情報基盤の形成~

日本海学を支える学術情報基盤は、いかなる内容のものとして、また、それをいかに構築し拡充していくか、これが本報告の課題である。日本海学は、「環日本海の自然環境」、「環日本海地域の交流」、「環日本海の文化」、「環日本海の危機と共生」といった実に多様な研究分野から構成されている。そのうちの「環日本海の危機と共生」は、「閉鎖海域としての日本海の環境保全のための方策や国際協力、未来の環日本海地域の可能性をさぐり、人間と自然との共生、環日本海地域の共生を提示する」ことが課題とされている。当該分野は、経済、社会、環境分野から北東アジア地域の持続的発展の道筋を探求する富山大学極東地域研究センターの研究領域と重なる部分がある。したがって、極東地域研究センターの学術情報ネットワークは、日本海学の学術ネットワークの一角を構成する。極東地域研究センターは、本委託事業の支援をうけつつ、手探りの中から独自の学術情報ネットワークを構築し拡充しつつある。日本海学の学術情報ネットワーク構築にあたり、その活用を期待するとともに、その構築のあり方は他の分野の学術情報ネットワーク構築にあたっても参考になる部分が多いであろう。
学術交流には、学部間もしくは大学間・研究機関間の協定を結んで行う学術交流、日本側で行われるシンポジウム・講演会への招へいを通じた学術交流、科学研究費や研究助成による研究を通じた研究協力、研究者個人間の研究交流などの形態がある。3年間の学術情報ネットワーク関連調査を振り返ってみると、まず、これまでの学術交流のあり方の問題点は、一体どこにあるのかを明らかにすることから始まっている。平成12年度報告書では、中国及びロシアの研究機関を対象に、以下のような学術交流の問題点を把握した。

① 共同研究を行う際の研究テーマ設定が難しい。
② 研究手法の違いや研究方法の違いが生じる。
③ 日本との大学間交流では、日本語を学ぶ学生が少ないために学生同士の交流は困難であり、大学院生以上の交流が必要である。
④ 特に日本との学術交流では、それを支える資金確保が難しい。
⑤ 学術交流のための渡航費の捻出に困難がある。
⑥ 学術交流といっても、出版物交換以外、目立った交流ができていない。
⑦ 日本の大学は、協定を結んでも、その後具体的な交流提案がなされない。
⑧ 日本語による定期刊行物が出版物交換として送られてきても、それを読める研究者や学生がいないため、あまり有益ではない。

以上のように、確かに資金面の問題はあるのであるが、むしろその基礎となる学術交流の内容自体が原因となって、交流活性化にブレーキをかけている現状が明らかになった。要は、交流の継続性と具体性が欠如しているのである。国際交流の基礎は、人的ネットワークである。学術交流に関して言えば、その人的ネットワークは、交流主体の専門研究に根ざしたネットワークがあって,初めて成り立つ。個と個がつなぐネットワークを基礎とし、適切に専門化された情報を共有し、具体的な研究課題を設定し、継続的な学術交流を創造するための組織的努力が必要なのである。
 平成13年度、極東地域研究センターは、そうした方向に向けて取り組みを開始した。前章で述べた国際共同研究集会(コロキアム)の具体的な交渉が大きく前進し、日本での学術交流集会を開催し、それを軸に具体的な共同研究プロジェクトが進み始めたのである。しかし、さらなる交流対象研究機関の拡充、及び、交流協定の締結等による確実、かつ継続的な交流関係の構築の必要性などを、今後の課題として指摘した。
 今年度は、対岸諸国の調査学術機関を整理するとともに、こうした課題を受けて、国際共同研究集会(コロキアム)の連携機関である吉林大学東北アジア研究院、ロシア科学アカデミーシベリア支部経済・工業生産組織研究所等との交流協定の準備を進めた。実質的な交流を先行させ、その上で協定を締結すること、これによって交流に具体性を持たせることになったといえる。また、第1回国際共同研究集会(コロキアム)を成功させ、今後の継続のための協議の場を設定し、翌年以降にもコロキアム開催時に各機関の代表者会議を開催していくことで合意した。継続性を確保するためには、交流のための多国間定期的協議が必要である。さらに、こうした先行実績を土台にして交流対象機関を拡充することができた。韓国の江原大学産業経済研究所、経営研究所との連携は、コロキアムをより充実したものにしていくことになろう。なお、交流形態として、黒龍江大学、東北農業大学、江原大学などでみられたように、こうしたローテーション開催方式を採用するケースが増えている点は注目すべきであろう。これらの試みは、単発的、イベント的な交流ではなく、研究機関の間の対等性を前提にしての継続性を追求しているものと考えられる。
今後、学術情報ネットワークのさらなる充実を図るため、中国現地事務所の設置を検討したい。復旦大学日本研究センターにおける京都大学の現地事務所の設置にみられたように、既にそうした動きが出始めている。いうまでもなく、従来の出張型の往来では交流人数や頻度に限界がある。現地事務所を置くことによって、より多様なタイプの研究者との交流が可能になり、極東地域研究センターの研究をいっそう深めることができる。現地事務所を現地研究機関のネットワークの結節点として位置づけ、研究・教育の拠点(共同研究等の推進、留学生対応等)としての機能を果たしていくのである。さらに、それを産学官の連携のもとに運営することにより、現地での富山の存在感を高めることができ、現地事務所の活動が経済交流や自治体交流とともに学術交流の幅を広げる基盤となることは間違いないであろう。