日本海学グループ支援事業

2003年度 「環日本海(4ヵ国)の小学校授業研究会を通した共生社会の模索」(中間報告)


2003年度 日本海学研究グループ支援事業

環日本海域小学校授業研究会

韓国慶煕大学校併設慶煕初等学校との授業研究と教員交流報告

(平成15年12月3日~6日、平成16年3月20日~24日)

参考2004年度;中国2005年度;ロシア

詳細内容

1.第一回授業研究会及び教員交流(於 富山大学附属小学校)

 平成15年12月3日~6日に、富山大学教育学部附属小学校(富山市五艘)において、慶煕初等学校の音楽担当教員である教頭の崔應燾先生とその設立母体である慶煕大学校国際教育院教科部長の趙顯龍先生を招いて授業研究会と教員交流会が行われた。

①音楽の授業
 崔應燾先生は附属小学校の第五学年生に対して、韓国の小学校で通常行われている授業のスタイルで、同先生が用意してきたテーマ「主要三和音を使った簡単な作曲」を行った。
 授業の始まりでは、双方(教師・子供)とも通訳を挟んで、ぎこちない動きであったが45分間の後半になり、子供たちがそれぞれ作曲したものを崔應燾先生に添削してもらってそれを鍵盤ハーモニカで発表する段になると、ぎこちなさは消えて、あたかも日本人の教師と子供たちとの教室での信頼に基づいた教室風景となって、通訳の出番もすくなっていった。それを見学していた日本の教師の多くは、日本における小学校での音楽授業のねらいとの違いについて気づいた点も多かった。

授業のねらい
「本授業は児童の音楽的知識を基に初歩的な作曲方法を習得することを目的にした。資料からある規則性と主要3和音の美しさを感じ、和音にふさわしい曲を作曲しながら自身の内面にある音楽的な想像力を楽譜上で表現できるであろう」

②シンポジウム
 午後は、二人の韓国人の先生にシンポジストになってもらい、「環日本海授業交流から学ぶもの」というテーマでシンポジウムを行った。
 その中で印象的であったことが二つある。一つは韓国の小学校教育が抱える問題として、崔應燾先生が指摘したことは、子供のマナーが大変悪くなり、小学校では基礎学力を重視すると共に、いかに子供らしい活発さのなかに、伝統的礼儀作法を教えていくかが重要な課題である、と発言したことである。二つ目は趙顯龍先生が、国際交流の実践を長続きさせるために必要なことは、対立点はそのままにして第三の未知を探す工夫であるとし、日本人による「日本海」と言う呼称と韓国人による「東海」という呼称の対立の場合は、とりあえず交流の中で「青い海」と呼ぶようにしてはどうであろうか?と提案したことであった。

2.第二回授業研究会及び教員交流(於 韓国慶煕初等学校)

 平成16年3月20日~24日に、韓国のソウルにある慶煕初等学校において、富山大学教育学部附属小学校の図画工作担当の荒治和幸教官、同副校長の瀬戸健教官およぴ富山大学教育学部教授兼小学校校長の雨宮洋司教官の三人が、韓国のソウルにある慶煕大学校併設慶煕初等学校を訪れ、授業研究会と教員交流が行われた。

①図画の授業
 荒治教官は同小学校の第三学年生の33人に対して、日本の小学校で通常行われている授業のスタイルで、同教官が用意してきたテーマ「海底1万メートルを探検したよ」に基づいて、子供たちが想像する絵を自由に描かせた。最初の第一日目の授業(40分)では、各人に与えられた面用紙のうえに、それぞれ思いついた絵をクレヨンで描かせた。韓国の子供たちは最初こそ日本の先生と韓国の先生の指図の違いに戸惑うようであったが、描いている途中で、見回ってきた荒治先生による手直しが始まると、くつろいだ雰囲気になり、ごく自然な振る舞いのなかで熱中し始めた。
 翌日の二回目の授業では通訳なしで、荒治先生が見本を示した。水彩絵の具に水をたっぷりと染みこませた筆を、前の日にクレヨンで描いた絵の箇所にそれを塗りつけると共に、ティッシュペーパーでその水を吸い取るという作業である。それを子供たちは真似しながら、好みの色で自分の絵を夢のあるように仕上げるのである。途中で通訳が入ったが、もはや言葉の介添えは不要のようだ。子供たちは得心のいく絵になると、荒治先生の所ヘ出向いて見てもらい、直してもらったり、誉められたりなどのために、ずらっと順番を作るのである。荒治先生は何枚かの良く描けた絵を黒板に貼り付けながら、何処が良いかを解説した。そして、同年令の附属小学校の子供たちに前もって描かせた同種の絵を韓国のその子供たちに見せたのである。ワーという歓声が上がった。よく見ると子供たちが想像して描いた海の中の絵はほとんど同じで、いずれも夢のある色彩を使って仕上げているのである。まさに、そこには国境がないことが確認されたのである。

②授業研究会
 午後は、日本から来た先生方と慶煕初等学校の先生方とのセミナー「図画の授業実践の質疑応答と両国の小学校交流の在り方について」が開催された。そこでのやりとりで印象に残ったことは、このような魅力ある授業の展開が評価されたこと、これを機会に授業研究交流を盛んにしようということ、子供たちの反応は教授目的とその内容が的確であれば大変良く、その先生が外国人であるかどうかには関係ないということ、等々についての意見の一致であった。そして、交流を長く続けていく方法についての議論が活発に行われた。

3. 成果と今後の課題

(1)友好協定の締結

二回にわたる日韓両国の小学校間での授業研究と教員交流は大変有意義であることが確認された結果、両校間で「友好交流協定」と「覚え書き」の内容が合意されて、正式の協定書の締結となった。それは、教員間及び児童間、保護者間の交流はもちろん、それぞれの小学校が付近の小学校などへの日常的情報発信が可能なように、ITの基盤を整えていくことも話し合われた。

(2)関係者への成果の報告

 富山県教育委員会関係者ヘの報告も行うと共に、今年度の取り組みとその成果については報告書を作成して、関係機関に送付を行い、ホームページにも掲載して関係者の便宜をはかった。このような交流の成果を広く県内の小学校に提供して、そういった情報の発信拠点校として、附属小学校の役割が強化されていく必要がある。