日本海学グループ支援事業

2004年度 「環・日本海国際フォーラム開催事業」


2004年度 日本海学研究グループ支援事業

 NPO法人設立に先駆け、平成16年10月22日(金)14時から東京大学医科学研究所大講堂にて、NPO法人環・日本海との共催で、第1回環境・農業シンポジウム「21世紀の危機:環境・食料・水―日中は危機を乗り越えられるか」を開催した。参加者は136名で、登壇者のスピーチの骨子は以下の通りであった。

第一回
日中産学官交流機構
NPO法人「環・日本海」共催シンポジウム

日時;平成16年10月22日(金)
場所;東京大学医科学研究所大講堂

挨 拶 福川伸次 電通顧問
         日中産学官交流機構理事長
第一部 基調講演:枝廣淳子
        環境ジャーナリスト
第二部 パネルディスカッション
  「21世紀の危機;環境・食料・水
   ―日中は危機を乗り越えられるか」
 パネリスト
    山本良一 東京大学生産技術研究所教授
    山口寛治 三菱商事常任顧問
    枝廣淳子 環境ジャーナリスト
    阮  蔚 農中総研副主任研究員
 コーディネーター
    岸本吉生 経済産業省環境経済室長

第一部 基調講演
 枝廣淳子氏 環境ジャーナリスト

 これからの世界では「もったいない」という言葉に象徴される価値観が重要である。 1972年にローマ・クラブがデニス・メドウズ氏のグループにシミュレーションを委託し「成長の限界」という本を出したが、同じグループがその20年後に「限界を超えて」という本を出し、その約10年後である今年、デニス・メドウズ氏が「成長の限界から30年後」という本を出した。この本で、人目増加の状況下での環境・資源・食料・エネルギーの制約から、世界は相変わらず崩壊へのパターンをたどっていると警告を発している。
 デニス氏は本の中で新たに、エコロジカル・フットプリントという考え方を使って、一般の人たちの理解を促すための工夫をしている。これは人間の活動がどのくらいの大きさの足跡で地球を踏みつけているかを示すもので、これによれば、「成長の限界」が書かれた1970年では、世界全体のエコロジカル・フットプリントは0.8くらいで、人間の様々な経済活動を支えるために必要な地球は0.8個で済んでいたが、現在は、地球が1.2個必要な状態、すなわち地球の持続可能な能力を20%超えているという。
 日本のエコロジカル・フットプリントは2.7で、世界中の人が日本人と同じ生活をしようと思ったら地球が2.7個必要になる。ちなみに、一番大きい国はアメリカで、なんと地球5.6個分である。
 「成長の限界から30年後」では、持続可能な開発の道は残されているが、30年前と比べてどんどん狭まっていると指摘している。持続可能な開発に必要なものとして、まず様々な分野での新しい技術が必要である。そして、GDPに代わり、私たちの幸せ度を測る指標として、GPIの導入を提唱している。GPIとは、GDPを基にして、ボランティア活動など人々の幸せにつながっているがカウントされていない活動を加え、公害など外部不経済を差し引いたものである。これでみると、GPIは1960年から1970年をピークに下がっている。
 中国については、レスター・ブラウンが、中国における環境・資源・食料・水・エネルギーの危機について、10年前から警告を発し続けている。 1998年に揚子江で大洪水が起こったが、中国政府は上流における過度の森林伐採が保水力を弱めたことによる人災の可能性を認め、素早く大規模な植林を開始した。中国が直面している大きな課題は、経済成長を止めずに持続可能な社会や経済の仕組みに変えていかなければならないということであり、日本の技術や経験が大いに役立つと思う。
 なお、エコロジカル・フットプリントが2.7の日本としては、中国などと協力していくことに加えて、食料・資源面で、まずは日本自体が世界に迷惑をかけない国になることが重要である。

第二部 パネルディスカッション

阮 蔚氏 農中総研副主任研究員

 中国の食料・農業が抱える課題の第一は高い食糧自給率を維持していかなければならないということである。世界の穀物輸出量は全部で2.3億トンと中国の需要量(4.5億トン)の半分しかなく、中国が大量に輸入すると、世界の穀物相場が暴騰してしまうため、人口大国の宿命として高い自給率を維持していかなければならない。そのため、途上国の盟主としての立場から、96年の世界食糧サミットで中国の総理は「95%以上の自給率を維持していく」と宣言している。
 第二の課題は、水不足が深刻化していることである。特に中国耕地の6割を占める華北地域の水資源は全国の2割と、水不足が深刻であり、将来の食糧生産の最大リスクとなっている。そのため、中国は退耕還林政策をとっている。 第三には、無公害の農業とか有機農業の推進、消費者への教育があるが、この2~3年始まったところである。
 第四には、人口と食糧需要がこれからも増えることから、95%の自給率は維持しつつ、反収増による食糧増産と輸入拡大の同時進行が必須となっている。特に、数億人の農業分野の労働力が農業以外の産業に移出することが想定されており、耕地面積は増えることはまずない。
 こうした点を踏まえて、高収量品種の導入をはじめ様々な技術交流により、日中が協力していくことが重要であり、日本はそれをアジアに発信していくべきである。

山口寛治氏 三菱商事常任顧問

 世界の人口が2050年には90億人を超える予想の中で、その半分以上がアジア人であり、食糧危機や水の危機が起こると、アジア人への影響が大きい。鶏肉1キロを生産するには飼料穀物が2キロ、豚肉1キロには4キロ、牛肉1キロには8キロ必要である。現在の世界の穀物生産総量は20億トンだが、全員が穀物だけを食べて生きるとすれば、91億人が養えるが、肉類を摂取するという要素を加えると、地球の扶養能力は限界を超える。
 また、水については食糧以上に危機的状況にある。国連の発表では80カ国で水が不足しており、慢性的な水不足で苦しんでいる人は全人口の4分の1といわれている。世界の水使用量は、戦後急上昇しているが、その一番の原因は、人口増に伴なう農業用水使用量増加である。輸入された農産物を水に換算するバーチャル・ウオーターをカウントすると、日本は900億トンの国内水消費量に対し、640億トンの水を輸入している。
 一番の問題は、凶作のサイクルに入って、水の問題とかエルニーニョによる気候変動などが起こると、大変大きな危機が生ずるということである。

山本良一氏 東京大学生産技術研究所教授

 自分はこの21年間、中国の経済発展は必至であり、それによる資源制約、環境負荷が最大の問題であると訴え続けてきた。これは現在2020年危機として語られている問題であり、例えば炭酸ガスは地球の吸収能力を超えて溜まってきている。我々は既に地球温暖化地獄の入り口に入ってしまったという認識が重要である。要するに中国側から見ても今後の経済発展にボトルネックがあることは明らかであり、有限な地球環境に徹底的に配慮した生産あるいは材料設計、製品設計即ちエコデザインというものの普及を徹底する必要がある。私は日本のエコデザインの100のベスト・プラクティスを刊行し、その中国語版を中国50大学に寄贈し、それらをしらみつぶしに回って啓蒙しつつある。しかし、これでは大きな流れには影響を与えるに至ってない。
 今一番重要なのは、エコデザインの動きをマッシブに大規模に緊急に展開していくことであり、具体的にはサステイナブル・テクノロジー・エキジビジョンとかエコプロダクツ展示会を毎年中国の5つの都市で開催していくなどである。