日本海学グループ支援事業

2003年度 「日本海深部における無脊椎動物の繁殖に関する研究」


2003、2004年度 日本海学研究グループ支援事業

個人 小松美英子氏


 本研究によって,富山湾で水深300~800mに生息するウスモミジガイとスナイトマキの生殖期は,それぞれ1月と11月であることが推定された。それ ゆえ,深海性ヒトデは特定の生殖期を持たず周年を通して繁殖活動を行っていると従来より言われてきたが,多くの浅海性ヒトデのように一定の生殖期を持つこ とが示唆された。これらの成熟卵は,直径が450μmと550μmで(図中,最上段),ヒトデの卵としては比較的大形であることが分かった。また,人工受 精によって,ウスモミジガイでは変態期まで,スナイトマキヒトデでは 皺胞胚期まで観察することが出来,前者の種では幼生が非摂食性であることが確認さ れ,発生は直接型であることが明らかになった。また,後者の発生も非摂食性幼生期を経過する直接型であると考察される。

 ウスモミジガイとスナイトマキヒトデの体腔内に無殻の貝類,Asterophila japonica(軟体動物,頭足類)が寄生していることが見つかった(図中,上から3と4段目)。本種の寄生貝は,Randall & Heath(1912)によって記載されて以来,現在まで日本国内から全く採集されていなかった。本研究で本種の卵を飼育しベリージャ幼生になることを確 認したことによって,この寄生動物がA.japonicaであることが判明した。現在は,特異な形態と生活様式について研究を進めている。

 ウスモミジガイの雌雄の胃の中に,稚ヒトデが存在し,それらの稚ヒトデが管足を動かし生きていることが確認できた(図中,上から2段目)。また,その稚 ヒトデにはウスモミジガイとスナイトマキヒトデの2種類いることも分かった。しかし,現在まで調べた614個体の稚ヒトデのうち,スナイトマキが612個 体,ウスモミジガイが2個体と,圧倒的にスナモミジガイが多い。

 ヒトデは世界で2000種,日本では200種報告されているが,現在のところタスマニア産の一種が胃内保育であることを見出している。従って,ウスモミ ジガイは他種の稚ヒトデを胃の中で保護する,今までに報告されていない新しい保育習性を有するヒトデであり,このように珍しいヒトデが富山湾に生息してい ることが本研究で明らかになった。