日本海学グループ支援事業

2006年度 「二枚貝を用いた日本海の海洋モニタリング手法の開発と検証」


2006年度 日本海学研究グループ支援事業

楠井 隆史

1.はじめに

 東アジア諸国の発展に伴い半閉鎖的な性質を有する日本海の汚染が懸念されており、その未然防止が求められている。そのためには海洋環境モニタリングの充 実が求められており、従来は化学分析による手法が採用されてきた。しかし、測定すべき化学物質が多数あり、また、化学物質間の複合的影響が予想されること からより包括的なモニタリング法が求められている。こうしたニーズに応える手法として水生生物を用いたバイオモニタリング法があるが、日本海での実績は少 ない。
 本研究では、日本海に適した海洋モニタリング手法の開発しその有効性を検証することを目的に、指標生物としてはムラサキイガイを選び、重金属の影響を評 価するバイオマーカーとしてメタロチオネインを用いて、その有効性を室内実験および富山湾で検討した。

2.方法

 実験には富山県内の漁港で採取した室内実験では、富山県内の漁港で採取したムラサキイガイを用いて、重金属の蓄積過程を検討した。暴露実験は、ムラサキ イガイへの給餌に用いる珪藻に重金属類を吸着させ、その給餌する量を変化させた。それにより溶存態、懸濁態重金属類の割合を変化させ、存在形態の違いが蓄 積に与える影響について検討した。
 移植試験では、室内で飼育したムラサキイガイを移植装置(図1)を用いて、魚津沖、四方沖、氷見沖の定置網に繋留し約3ヵ月後、6ヵ月後に回収し、重金 属蓄積量およびメタロチオネインを測定した。メタロチオネインはViarengoらの比色法による方法を用いた。
重金属の測定は、海水の全濃度は硝酸を加えて加温分解した海水を3M EmporeTM chelating resin diskに通水して重金属類を回収し、試料を調整した。ムラサキイガイは柔組織を取り出し、湿式灰化法で分解し、試料を調整した。以上の試料を日立偏光 ゼーマン原子吸光光度計Z8200にて分析した。

 

図1.ス テンレス製移植装置

 


 

3.結果と考察

3.1. 室内実験による重金属蓄積

 本研究室が今まで富山県内の漁港で実施してきた野外調査において、海水中の溶存態総重金属類濃度と組成はZn>Cu≒Ni>Pb> Cd、ムラサキイガイ中はZn>Cu>Ni>Cr≒Pb>Cdであった。以上の結果より、溶存態とイガイ中の重金属類濃度の地点 間の大小関係が一致しており、溶存態重金属類がムラサキイガイへの蓄積に大きく影響している可能性がありこの検討のために、室内実験を実施した。室内実験 では、ムラサキイガイに給餌する珪藻濃度を変化させることで、溶存態と吸着態量の比率を変化させて形態の違いによるムラサキイガイへの蓄積の影響を検討し た。
重金属類吸着珪藻の給餌量の差異が与える重金属類蓄積への影響について、Cu、Crは給餌量の少ないイガイに比較的高い蓄積が見られた(図2)。しかし、 Crは3日目と7日目とがほぼ同レベルであり、体内濃度が平衡に達し、Crが体内に入っても排出されたと推察される。
しかし、Cdは給餌量の多いイガイに比較的高い蓄積が見られた(図2)。また、7日間の暴露において、日数が経過するにつれてCdの蓄積量が増加していく 傾向傾向があった。

 

 

◆:コントロール、■: 給餌量小、▲:給餌量大
図2.金属蓄積量の経日変化

 


 

 Niは1日目はほぼ同レベルであり、3日目は給餌量の少ないイガイが高い蓄積を示し、7日目には給餌量の多い方に高い蓄積が見られた。Znは1日目と3 日目には給餌量の少ないイガイに高い蓄積が見られ、7日目には給餌量の多いイガイに高い蓄積が見られた。
蓄積濃度は、Cu(13.93-163)、Cd(15.01-79.38)、Cr(51.79-152.6)、Pb(9.04-31.51)、Ni (34.14-89.8)、Zn(334.7-812.2)(nmol/g.w.w)であり、Znが最も高濃度の蓄積があり、次いでCuとCr、Ni、 Cd、Pbであった。金属により異なる蓄積量が認められた。珪藻給餌量毎では、0.5L給餌したイガイCu(42.09-163)、Cd(15.01- 44.94)、Cr(61.60-152.6)、Pb(10.22-31.51)、Ni(34.14-86.90)、Zn(474.5-812.2) (nmol/g.w.w)であり、 1.0L給餌したイガイCu(13.93-126.8)、Cd(17.02-79.38)、Cr(51.79-148.1)、Pb(9.04- 28.86)、Ni(53.12-89.8)、Zn(334.7-590.7)(nmol/g.w.w)であった。給餌量の少ないイガイはCu、Cr、 Pb、Znが比較的高い最大・最小値を示し、給餌量の多いイガイはCd、Niが比較的高かった。
 以上の結果より、金属により異なる蓄積パターンがあり、溶存態重金属が蓄積に強く影響している傾向が見られた。

3.2 富山湾での移植実験

 野外移植実験では移植したイガイは期間を通じて無事、回収され、装置の強度等の問題は見られなかった。しかし、回収したイガイは4割程度の致死が認めら れ、また、地点により多数の付着物が認められた。付着物による海水交換の減少が酸素不足等によりの致死あるいはストレスを引き起こしている可能性があり、 この点は今後検討する必要がある。
 回収したイガイを分析すると、漁港で採取直後に値に比べ、3ヶ月間繋留した後の金属蓄積量はいずれも減少している(図3,4)。特に、銅と亜鉛の減少が 半減している。一方、理由は不明であるがカドミウムは逆に増加している(図3)。しかし、地点間の相違は小さく陸域より富山湾全体の動向を反映していると 考えられる。また、この蓄積量を漁港内と比較すると(魚津と四方)、どちらの地域も沖合の方がほぼ3分の2~2分の1の値を示している。これは、今回の繋 留地点が主要河川からは離れているため、沖合数百メートルになると陸域の影響をあまり強く受けないためだと考えられる。
 今回は、金属蓄積量と海水中濃度の関連を検討するために、移植・回収時(n=2-3)に移植装置周辺の海水を採取し分析を行なった(図5,6)。イガイ 中の蓄積量に比べ変動が大きいが採水時の船舶に起因する汚染も考えられ、今回のデータは参考値とし今後も引き続き測定を実施する必要がある。

 

 


 

 採取したイガイの室内飼育中の中腸腺のMTの変化を図7にしめす。室内飼育中には重金属蓄積量が低下しているにもかかわらず、MTは増加している。した がって、重金属ストレス以外の飼育に伴う生理的ストレスなどの要因がMT誘導に関与している可能性があり今後の検討が必要である。
一方、移植3ヵ月後、6ヵ月後のMT誘導量は必ずしも重金属蓄積量との明確な相関を示していない。3ヵ月後(図中12月)の亜鉛以外の金属量の総和とMT は関連性が認められる。一方、6ヵ月後にはすべての地点でMTが減少しているが、このときには氷見で最大値が認められる。この地点間の相違は、6ヵ月後の 重金属蓄積量とは相関していない。

 

 


 

 今回の移植実験で初めて3ヵ月後および6ヵ月後の2回にわたるデータを取得することができたが、従来の室内実験で確認されたような重金属蓄積量とMTと の間の明瞭な相関は認められなかった。今後、室内飼育時のストレス、環境ストレス因子、生理的周期(性的成熟、産卵等)などMT誘導に影響を与える非重金 属因子を明らかにし、野外における重金属曝露指標としてのMTの有効性と更に、簡易法の確立を検討する必要がある。