日本海学グループ支援事業

2006年度 「シンポジウム"ナホトカ号重油流出事故から10年 「我々は何を学んだか?」"」


2006年度 日本海学研究グループ支援事業

金沢大学大学院自然科学研究科
代表 田崎 和江

1.はじめに

1997年1月に起きたロシア船籍ナホトカ号のC重油流出事故は私たちに、今まで誰も経験したことのない日本海の海洋・海岸汚染を突きつけ た。何をどうやって、どこから手をつけ、誰がそれをやり、誰がその方法を知っているのか、五里霧中の状態であった。その中で、行政、住民、自衛隊、科学 者、全国からのボランティアがそれぞれの持ち場で知恵を出し合って、この苦難を乗り越えた。あれから10年が経ち、私たちの記憶から重油流出事故が薄れ、 事故そのものを知らない世代が増えた。金沢大学ではその後も、汚染地の追跡調査、経過観察、実験による環境修復の試みについて研究を続けてきた。その成果 と教訓を広く、次代に引き継ぐという考えのもと、書籍「ナホトカ号重油流出事故から10年、私たちは何を学んだか?」の出版を行った。この本には研究成果 に加え、行政、住民、ボランティアの体験談やその話を聞いた学生の感想も多数掲載した。 今回、日本海学研究グループ支援事業に助成して頂いたシンポジウムは、「ナホトカ号重油流出事故から10年、私たちは何を学んだか?」をテーマに展示会 とフォーラムという形で金沢大学自然科学研究科棟にて開催された。展示会は2006年12月18-22日に、当時の写真や重油回収に使った物品、ナホトカ 号から抜き取ったC重油、汚染された海岸の砂礫などが展示された。また、フォーラムでは、12月19日には体験談、研究成果、今後の対策などについて話し 合いが行われた。以下にシンポジウムの内容と成果について報告する。

2.シンポジウムの内容と成果

書籍の出版

 

写真1 出版された書籍

 シンポジウムに先立ち、重油流出事故の教訓を総括し、重油流出事故に関する研究成果を発表するた め、書籍の出版を行った(写真1)。出版された書籍は、サイズがA4サイズ、ページ数が98ページ、発行部数が千部である。具体的な内容は、10年間追跡 調査を行ったナホトカ号重油流出事故の教訓、各研究者の研究成果、ボランティアの方々の手記やアンケート結果、当時深刻な被害を受けた地域の小学生の作 文、金沢大学で重油汚染の講義を受けた大学生の感想文が掲載されている。
 この書籍は関係者や報道機関の方々に事前に配布され、当日展示会およびフォーラムに記帳された方々に配布された。展示会およびフォーラム終了後も、自治 体や市民の方々から数多くの問い合わせがあったため、希望する自治体や市民の方々へ書籍の送付を行った。

 


 

展示会

 展示会は、金沢大学自然科学研究科棟の玄関前ホールの一 角を使用し、 12月18-22日の日程で午前8時半から午後6時半の時間帯に開催された(写真2)。
 実際の展示は、パネルに重油流出事故当時の写真、研究成果のポスター、重油流出事故当時使用した衣類や防塵マスクが掲示された。床にナホトカ号から抜き 取ったC重油、三国海岸をはじめに各地で採取された漂着重油、重油に汚染された砂、重油分解実験中の味噌樽などが陳列された。さらに、テーブルには重油関 連の書籍および文献、重油流出事故当時の写真アルバム、当研究室で公表された論文の別 刷りが陳列された。

写真2 展示会の様子

 展示会の来場者は、金沢市の中心から7、8km程離れた金沢大学内で開催されたのにも係わらず、フォーラム当日を中心に多くの市民、ボランティア、自治 体関係者の方々が来場された。北国新聞の協力で展示された当時の迫力ある報道写真が目を引いたためか、当大学の学生や教職員も足を止めて、展示された写真 や重油に見入る姿が多く見られた。展示会とフォーラムには、併せて256名の方々に記帳頂いたが、記帳されなかった来場者の方も多く、実際には数倍以上の 方々が来場したとみられる。

 


 

フォーラム

 

写真3 フォーラムの様子 

 フォーラムは12月19日に金沢大学自然科学研究科棟の 大会議室にて、開催された(写真3)。フォーラムの内容は、表1のプログラムに示した様に、研究者による研究成果の発表のみならず、重 油との戦いをモチーフにした舞踏の発表、ボランティアの方々の回想、重油被害の講義を受けた学生達の感想と多様な内容とした。研究者による研究成果の発表 では、外国人研究者の発表にて同時通訳を行うなど一般市民に分かりやすくなるよう配慮を行った。
 フォーラムの来場者は、重油流出事故から10年という社会的関心の高さと後援を頂いた報道機関の協力もあって、多くの市民、ボランティア、自治体関係者 の方々が参加し、用意した大会議室の席が満席となり、追加で席を急遽用意するほどの盛況であった。

 


 

3.結び

 シンポジウムは予定以上の盛況で、フォーラムは会場が満席となり、終了後も自治体や市民の方々から問い合わせが数多く寄せられるなど成功裏に終わったと いえる。本シンポジウムの成功には、市民や自治体の方々の関心の高さに加えて、多くの方々のご協力があった。今回のシンポジウムでまとめられた研究成果、 災害対策の教訓およびボランティアの方々の体験談は、現在も世界中で発生している重油流出事故へ活かせるよう、つなげていきたい。

謝辞
 今回支援を頂いた富山県日本海学推進機構には深く感謝の意を表します。また、特別協力をして頂いた北国新聞社や、後援をして頂いた報道機関の方々 (NHK金沢放送局、テレビ金沢、北陸放送、金沢ケーブルテレビネット、ラジオかなざわ・こまつ・ななお、北日本新聞社、福井新聞社、東奥日報社、秋田魁 新報社、山形新聞社、新潟日報社、京都新聞社、山陰中央新報社)には、この場をお借りして感謝の意を表します。

表1 開催されたフォーラムのプログラム