日本海学講座
第2回 「海人の信仰をさぐる」
2000年度 日本海学講座
2000年6月10日
黒部市民会館
講師 漆間 元三
前富山大講師
講演要旨
1.東方聖地から西方浄土へ、2.舟と霊魂と霊の木、3.寄り神、4.常世と竜宮の4つの観点から「海人の信仰」を考察。
1.東方聖地から西方浄土へ
・東風─「 あゆのかぜ東風いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小舟こぎかくるみゆ」大伴家持の歌で、アユは東風の字が当てられ、そよそよとした風をイメージするが、非常におそろしい真東の風で、年に1~2回しか吹かない。吹かないこともある。また、海で吹いても、陸では吹かない。アユを東風と尊んだ背景には東方を聖地と見る考え方がある。これは、大和の真東に伊勢神宮が創設された4~5世紀の時代背景と関係深いのではないか。
・アユの意─アユの風の後は必ず大漁になる。すなわち、大漁をもたらすことがアユ。アユ(アエ)は饗。もてなしがアエ。アエ味噌があるように、冬から春へとアエは季節などをつなぐ意、食事をするところの意がある。能登のアエの行事は神と我れが共に食べ合う。民俗学は宮中の新嘗の行事との共通性に注目した。富山湾をアユ(アイ)甕というのも、アエをもたらすからではないか。
・西方浄土につながる風─氷見では「タワカツ」という、西北西の風が吹くと2~3日後に必ず大漁になるという。生地、滑川、四方でも同じ見方がある。この西北西の風は、漁で非業の死をとげた漁師の魂の風でタマ魂風でもある。こうして海人は、西の風も期待している。これは、西方浄土という浄土思想の影響か?
2.舟と霊魂と霊の木
・タブはタマ(魂)の木─「磯の上の都万麻を見れば根を延えて年深からし神さびにけり」青木であるタブの木はツママとも呼ばれ、神木として崇められタマ(魂)が宿るとされてきた。タブは暖国系で、北へ行くと生息しなくなるが、松の木をもってタブと呼ぶ地域がある。タマの木を持たないと納得できなかったと考えられる。遺体を埋めてその上タブの木を植えた。民俗学では原始信仰を考える題材となっている。能登の鏡の宮、氷見の長坂などのタブが神木として崇められてきた。
・タブと舟─遺跡からタブの木の丸木舟が出てくる。北陸では丸木というよりドブネであるが。能登ではタマの木で多くの舟を作った。何か特別な役割をせおわせていたとも考えられる。漁民は舟と死とタマ(魂)をどう捉えていたかが重要な問題として浮かび上がってくる。
3.寄り神
・漁師と信仰─海に生きる男たちは言葉は荒いが、非常に強い信仰心を持っている。海から上がるものを大切にした。
宮崎鹿島神社(神像)、八尾の本法寺(法華経曼荼羅)、魚津の小川寺(千手観世音菩薩像、鎌倉時代のもの)生地の光明寺(観音像、廃寺、)などがある。生地のものは、夢枕に現れ、引き上げてくれとのお告げによるものであった。氷見には3~4軒に、網で引き上げた恵比寿が奉ってある。
・上がった死体─死体が上がると大漁になるという話がある。寄り物(流れくるもの)には魅力がある、神がいると考えている。
4.常世と竜宮
・竜宮信仰の富山湾─ハマグリが気をはいて竜宮が描かれている蜃気楼の絵がある。氷見では亀が上がると酒を飲ませて竜宮へ帰すという。また、氷見では7メートルもある人面の紐帯魚が上がる。これは人魚でもある。富山湾には竜宮信仰の条件がそろっている。黒部にも浦島伝説と共通するものがある。
・常世のアイガメ─富山湾深くえぐられたアイガメにあると考えられてきた竜宮は、時の移ろいのない常世の世界で、海神の神がつかさどる世界でもある。死んだら常世の世界に往くとも考えられてきた。