日本海学講座
第4回 「有孔虫からみる日本海の環境変遷史」
2000年度 日本海学講座
2000年8月11日(金)
富山県総合教育センター
講師 野村律夫
島根大学教授
1.講義内容要旨「有孔虫からみる日本海の環境変遷史」
・気象庁から出された平均気温の変動予測によると、70年後には1.5℃上昇するといわれている。原因としては、大気中の二酸化炭素の増加があげられる。二酸化炭素は太陽から送られてくる熱を吸収し蓄えるはたらきをする。また、東大海洋研から、日本海盆(-3000m)の溶存酸素が年々減少しているという調査結果が出されている。溶存酸素は水温が高くなると減少することから、日本海の水温が年々上昇しているということがわかる。このように、気温、海水温ともに上昇していることは、今後大きな問題となる可能性がある。これまでの環境の変化を明かにし、今後の変動を予測することはたいへん重要なこととなっている。
・日本海へ流れ込む対馬海流は日本海を北上し沿海州付近で沈み込み、深層水となって海底を南へ流れている。それは、沿海州付近で海水が冷えて比重が大きくなり沈み込むためである。海底には栄養塩類が多く、深層水がわき上がるところでは魚がたくさん生息している。現在の日本海にはこのような水の循環のシステムができている。・過去には今よりずっと水温が高かった時代や低かった時代があった。このような海洋環境の変化は、有孔虫などの化石からよくわかる。実際CODと有孔虫の分布がはっきりと対応している。また、有孔虫の殻の成分(同位元素の割合)と海水の成分が一致した値を示す。
・現在の日本海は、表層を流れる対馬海流と深層水が循環しているが、過去寒冷化したときには海水準が低下し、対馬海峡が閉ざされて対馬海流が流入しなくなったり、大陸から海へ流れ込んだ淡水が対馬海流に大量に含まれて海水の塩分濃度が低下したりした。その結果、海水の沈み込みがなくなって深層への海水の供給がストップし、海底の酸素量が減少し海底は汚れたヘドロに覆われて有孔虫も生息できなくなった。この地層には還元的堆積物の中に氷河によって大陸から運ばれた大きな石が含まれているのが発見されている。
・現在、世界中の海で深海掘削が行われており、日本海でも、水深3,300mの海底を762mの深さまで掘削している。そこからとれる有孔虫の化石をみると過去の日本海の環境の変化が手に取るようにわかる。
・現在、海水温が高くなる傾向があるが、海水温が高くなると海水が軽くなって沈み込まなくなる。そうなると、海底が有機物に覆われ汚い海になってしまうという心配がある。
・科学技術庁では、21世紀に向けて日本が世界をリードし、地球温暖化や地震の発生機構などの地球のシステムを明かにしていこうとするプロジェクト(OD21)を進めつつある。特に地球温暖化が大きな問題であるが、今後21世紀の地球はどうあるべきかを真剣に考えていくことは、若い皆さんにとってたいへん重要なことである。
2.実習①生きた有孔虫の観察
・富山湾で採集した生きた有孔虫の観察を行った。講師の野村先生が準備されたビデオや石膏でできたレプリカを見ながら説明を受けた後、実際に生物顕微鏡で観察した。中には仮足を長く伸ばした有孔虫も見られ、それを発見した高校生たちから歓声があがった。
3.実習②有孔虫の化石の観察
・高岡市の頭川層から採集した砂岩の中に含まれる有孔虫の化石(約200万年前)を実体顕微鏡で観察した。ふるい用メッシュクロースに包んでよく水洗いをし、乾かしてから観察すると、いろいろな種類の有孔虫化石が観察できる。高校生たちは、時間を忘れて有孔虫化石を一つ一つ拾い上げ、群集スライドに並べる作業に没頭していた。そして、有孔虫の美しく不思議な姿に感動の声をあげていた。