日本海学講座

第3回 「富山湾・日本海の魚介類」


2001年度 日本海学講座
2001年7月21日
魚津水族館

講師 加野泰男
魚津水族博物館飼育研究係長学芸員
講師 高山茂樹
魚津水族博物館学芸員

*講座の概要

 受講者の年齢層が幼児から中高年層まで幅が広いため、A班:子供及びその保護者、B班:一般の2班編制とし、それぞれに応じた内容で実施した。A班では、飼育水槽のタコやカニ、魚への餌やりをしたり、タッチングプールでウニやヒトデに触ったりという体験活動を取り入れた。B班では、富山湾・日本海の自然環境とそこに生息する魚介類との関係について、やや専門的な詳しい解説がなされた。A班は高山学芸員に、B班は加野飼育係長 学芸員に、それぞれ解説をしてもらいながら飼育水槽や日頃一般には公開されていない裏方の見学を行った。
 A班では、生きている海の生物を触ったり餌をやったりしているときの子供たちの目の輝きが印象に残った。また、B班では、メモを取りながら熱心に質問する受講者もおり、講師の解説にも力が入った。

*飼育水槽の見学

 富山湾・日本海に生息する魚介類を展示してある飼育水槽を中心に見学した。まず初めに、富山県の河川や池・沼に生息する淡水魚、次に波の水槽で富山湾沿岸に生息する魚介類、深海に生息する冷水生物、表層に生息する温帯海水魚、また水量240トンの海洋水槽を泳ぎ回る大型魚類の順に観察を進めた。

○河川や池・沼の淡水魚(富山の淡水魚水槽)

 このコーナーには、富山を代表する主な淡水魚が上流から下流にかけて、生息域ごとに飼育展示してある。上流域のイワナ、ヤマメは、天然魚ではなく養殖魚を購入したものである。メダカは、地元産であり飼育・増殖を行っている。オオクチバス(ブラックバス)は、外来種で、フィッシング用に放流されたものであり、生態系へ悪影響を及ぼしている。皮の臭いはきついが、皮をとって食べるとおいしい魚だということである。その他、カンキョウカジカ等について解説があった。

○富山湾沿岸の魚類(波の水槽)

 岩礁が少ない富山湾沿岸の環境を再現した水槽である。カワハギ、マダイ、イシダイ等が、波に揺られながら泳いでいた。

○日本海の深海(冷水生物水槽)

 水深300m以深には、日本海固有水(深層水)と呼ばれる水温0~2℃の冷水塊がある。日本海の海水全体の85%を占め、ホッコクアカエビ(アマエビ)、バイ類、ベニズワイガニなど日本海の味覚を代表する生物がたくさん生息している。冷水生物水槽は、結露防止のため二重構造になっており、そのような特徴ある冷水性の生物たちの自然のままの生態を見ることができる。コイボイソギンチャク、ニッポンヒトデ、アカモミジヒトデ、ミズダコ、ベニズワイガニ、ズワイガニ、ケガニ、カガバイ、ホッコクアカエビ、トヤマエビ等の無脊椎動物、ザラビクニン、ホテイウオ、ノロゲンゲ、セッパリカジカ、タナカゲンゲ、イサゴビクニン、マダラ、ホッケ等の魚類が飼育展示されている。
 ここに飼育展示してある魚介類の多くは、アマエビの底引き網やカニ籠、バイ籠、刺網にかかったものだそうである。ザラビクニンは産卵すると死んでしまうので、冬から春の寒い時期に補充している。ホッコクアカエビは、日本海だけではなく北極周辺に広く生息しており、多くが冷凍で輸入されている。ホッコクアカエビやトヤマエビ等のタラバエビ科のエビは性転換を行う。深海では餌が少ないため、少量の餌があるとそのにおいを嗅ぎつけてそこにたくさんの生物が群がってくる。この性質を利用した漁法が籠漁である。等々、興味深い話を聞くことができた。

○温帯海水魚(温帯海水魚水槽)

 水深の比較的浅いところに生息する温帯海水魚である、ウスメバル、シマソイ、ニジカジカ、タカノハダイ、ハリセンボン、カサゴ、クエ、エビスダイ、マツカサウオ、オニオコゼ、コバンザメ等が、飼育展示してある。
 ハリセンボンの針は、実際に数えてみたら300~450本だった。発光魚のマツカサウオには、下あごの先端に一対の小さな発光器があり、そこに発光バクテリアが共生している。大正3年(1914年)、初代の水族館で、停電の際に発光することが初めて発見され、学会に発表された。等、ここでも興味深い解説がなされた。

○日本海の大型魚類(海洋水槽)

 水量240トンの海洋水槽では、日本海で見られる魚の中から、大きく育つ種類を中心に飼育展示してある。水槽の中をゆったりと泳ぎ回るブリ、ホシエイが印象的だった。ブリは成長によって呼び名の変わる出世魚で、コズクラ、
ツバイソ、フクラギ、ガンドなど富山県内でもたくさんの呼び名がある。ホシエイは水族館にきたときは小さかったが、年月とともにかなりの大きさまで成長したということである。その他、コブダイ、コショウダイ、シマイサキ、マダイ、キジハタ等が飼育されている。実際の海は、この水槽の中ほど混雑はしていないそうである。

○沖合の無脊椎動物

 水深100m前後の沖合に生息する無脊椎動物が飼育展示されている。まるで海に咲いた花のようなニホンキサンゴ、ニッポンウミシダが美しい姿を見せていた。イソギンチャクの仲間は現在でも新種が発見されことがあるということである。その他、トゲクモヒトデ、オオハネガイ、ダイオウウニ、サナダミズヒキガニ、フトヤギの一種、ゴトウヤドカリ等、日頃目にすることのない生物を見ることができた。

*富山湾の立体模型

 富山湾の立体模型を見ながら、富山湾・日本海の環境とそこに生息する生物について詳しい解説があった。
 3,000m級の山々が連なる北アルプスに源を発する富山県の河川は、急勾配をなして山岳地帯から富山平野を貫き、3,000m以上の水深を有する日本海に注ぎ込んでいる。日本海は、浅い海峡でしきられた内海のような性格をもつ深い海である。
 富山湾は日本海の中央に位置し、暖流性と寒流性の生物が生息している。日本海の表層は、対馬暖流の影響を受けてクロマグロやブリなどが回遊する。暖流の弱まる秋から冬にかけ、暖流にのって北上してきた暖流系の生物が富山湾にまぎれ込む。また、富山湾は駿河湾、相模湾とならんで日本三大深湾のひとつであり、その最深部は水深1,200mに達し、富山舟状海盆、富山深海長谷、水深3,000mに達する日本海盆へとつながっている。特に300m以深では日本海固有水(深層水)と呼ばれる水温0~2℃の冷水塊があり、特徴ある冷水性の生物が生息している。
 富山湾の立体模型は、水深と水温、生息する生物について示している。
   0m(夏28℃、冬10℃) マンボウ、ブリ
-100m(夏16℃、冬 9℃) ニホンキサンゴ、ウスメバル、キアンコウ
-200m(夏 3℃、冬 1℃) マダラ、ズワイガニ、シラエビ
-300m(夏 2℃、冬 0℃) ホタルイカ、ホッコクアカエビ、ザラビクニン
-500m(夏 1℃、冬 0℃) ベニズワイガニ、オオエッチュウバイ、ノロゲンゲ
 日本の海は寒帯から熱帯まで広がっており、3,600種の魚類が生息している。なお、世界の海には20,000種の魚がいる。富山湾には550種、日本海には700種の魚類が生息している。
 日本海は、約2,500万年くらい前から開き始めた新しい海である。また、海水準の変動等の大きな環境の変化があり、一時は淡水化したこともあった。そのため、日本海の深海に生息する生物は、日本海で独自に進化した生物はきわめて少数で、そのほとんどが北方の冷水性の生物が日本海の外から入ってきたものである。

*裏方の見学

 海洋水槽の構造、水質・水温調整の方法、濾過装置等について説明された。飼育水槽には、常に新しい海水を入れているのではなく、温度調節をして酸素を送り込むとともに濾過をして循環させている。水温が高くなった場合は冷凍機で冷やしている。