日本海学講座

第5回 「日本海を渡る鳥たち」


2001年度 日本海学講座
2001年10月13日
富山新港臨海野鳥園

講師 酒井初江
富山県野鳥観察指導員
(バードマスター)

*講座の概要

 講師の酒井初江富山県野鳥観察指導員による渡り鳥に関する講演の後、観察センターや野外の観察小屋、観察壁、園路から渡り鳥等の自然な姿の観察を行った。
 講師の酒井先生には、渡り鳥についてわかりやすくまとめられた資料をもとにていねいな解説をしていただき、参加者から好評であった。天候にも恵まれ、ゆっくりとバードウォッチングをすることができた。

*講演の要旨

○記録されている鳥類
 世界で8600~9000種、日本で約630種、富山県で約330種の鳥が記録されている。分類の仕方により種の数に幅ができている。臨海野鳥園ではこれまでに35科130種が確認されている。富山県では毎年240種くらいの鳥が観察されるが、夏鳥が約50種、冬鳥が約70種、旅鳥が約50種、留鳥が約70種であり、70%が渡り鳥である。 

○生活の仕方による野鳥の分類
夏鳥:春に繁殖のために南の地域からやってくる。
    ツバメ・カッコウ・キビタキ等
冬鳥:秋に越冬のため北の地域からやってくる。
    ハクチョウ類・ガンカモ類・カモメ類・ツグミ等
※カモメ類は夏になると北の繁殖地へ行き数が減る。夏に見られるのはウミネコである。
旅鳥:日本より北で繁殖し、日本より南で越冬するため、春と秋の渡りの途中に見られる。シギ・チドリ類はオーストラリアまで渡る。
シギ・チドリ類・アジサシ・ムギマキ等
漂鳥:狭い範囲を移動する鳥。夏に高山で繁殖し、冬に低地へ下りてきて越冬する。
    トラツグミ・キクイタダキ等
留鳥:一年中同じ地域で見られる鳥
    スズメ・カラス・ムクドリ等
※留鳥とされているが、スズメは移動することが知られている。若鳥は群をつくって移動し、空いたテリトリーで落ち着く。調査の折り、玄界灘に浮かぶ沖の島で発見されたこともある。この移動により遺伝子がばらまかれることになる。

○「渡り」とは
 鳥類が季節的に特に繁殖地と越冬地との間で行う移動である。渡り鳥の多くは、北半球の高緯度にある繁殖地から低い緯度にある越冬地を南北に結ぶ線上を渡りのコースにしている。大洋や大山脈を避けるようにして、アメリカ大陸縦断ルート、ユーラシア大陸東部~東南アジア縦断ルート、ユーラシア大陸西部~アフリカ縦断ルートの三大ルートがある。
 「渡り」の原理に「蛙跳び渡り」というのがある。より北で繁殖する鳥はより南で越冬する傾向がある。また、オスはメスや若鳥より北で越冬する。その理由としては、次のようなことが考えられる。オスは体力が強いので、餌をひとりじめし、メスや若鳥をより南へ追い払う。オスは繁殖のときテリトリーをつくらねばならず、繁殖地に近い北よりの地にとどまる。オスは羽の色が鮮やかで目立ち天敵に狙われやすいので、渡りの距離を短くする。オスは体力があるので多少の寒さに堪えることができる。

○渡りは本能か学習か
 カッコウは託卵によって繁殖しヒナは本当の親鳥に育てられないにもかかわらず渡りを行うので、渡りが本能によるものであると考えられる。ハクチョウ、ガン、ツルは、数年の間家族で行動することから、渡りが学習によって行われると考えられる。
 イギリスの研究者が行った実験によると、本能と学習の両方の例が確認されている。渡りをしないセグロカモメのヒナと渡りをするニシセグロカモメのヒナを交換して育てさせたところ両方のヒナが渡りをしたという。このことから、渡りをしないセグロカモメに育てられたニシセグロカモメのヒナは本能によって渡りをしたと考えられ、渡りをするニシセグロカモメに育てられたセグロカモメのヒナは学習により渡りをしたと考えられる。

○行き先をどうやって知るのか
 プラネタリウム内に置かれた小鳥が、ある星座の方向に向かって一斉に飛びたとうとしたという実験結果が出ている。星座、磁気、風、臭い、太陽の位置などによって方向を知るのではないかと考えられている。

○渡り鳥が旅立つ仕組み
 体内時計のリズム、日照時間の変化による刺激がホルモンの分泌を促して、「渡り」をする生理状態にする。

○渡り鳥は昼と夜、いつ渡るのか
 大型のワシ、タカ、ハクチョウ、ガン、ツルは、上昇気流を利用し体力の消耗を防ぎながら昼渡りを行う。小型の鳥類は、天敵を避けて夜渡りを行う。小型の鳥でもツバメは速く飛べるので天敵から逃げることができるし、空中を飛ぶ昆虫などの餌を捕食しべながら昼渡りをする。ガン・カモ類は昼夜渡る。

○渡りはいつ始まったのか
 氷河期に冬を越せないため南へ移動するようになったという南下説と温暖化により北へ移動するようになったという北上説とがある。

○なぜ渡るのか
 生活しやすい気候を手に入れる、餌の資源を広く利用できる、高緯度は夏の日照時間が長くヒナを育てやすい、適応力が高まり強い子孫を残すことができる等の理由が考えられる。

○富山県の渡り鳥調査
・ 昭和49年に婦中鳥類観測ステーション(一級)が設置された。全国には一級施設が 9ヶ所ある。一級のステーションとは、宿泊して研究できる施設である。
・ 平成10年度から渡り鳥保護のためロシアと共同調査を開始した。渡り鳥の調査は広 い範囲で行わないと成果が上がらない。そのため、国際的な調査が必要となる。
・ 日本海側は潮の干満が太平洋側に対して小さいので干潟ができにくい。臨海野鳥園が できる前、越の潟の埋め立てがおこなわれた際に人口の干潟ができてシギ・チドリ類な どの多くの鳥が飛来した。1979年から1988年までの10年間で、カモ、カモメ、 シギ、チドリなどの水鳥を中心とする34科165種の鳥が確認された。

*本講座で確認された鳥

<冬鳥>
 マガモ、コガモ、カルガモ、オナガガモ、
 ヒドリガモ、ハシビロガモ、オオバン、
 ユリカモメ

<留鳥>
 アオサギ、チュウヒ、トビ、ムクドリ、
 ハシボソガラス