日本海学講座

第1回 「環日本海の水資源」


2002年度 日本海学講座
2002年5月11日
富山県民会館

講師 谷口 侑
富山国際大学教授


○「水の惑星」と呼ばれる地球だが、ほとんどは海や極地の氷のため、利用できる淡水は0.5パーセント以下。しかも、水は偏在し、急速な水需要の増加にこたえられなくなっている。2025年では世界の3分の1で水不足が起き、2050年には地球全体での水不足となると予想される。世界的な規模で水を考えることが求められている。日本は、水に関して、対岸諸国との関係で目配せが必要になる。

○富山県は豊富な水資源に恵まれている。淡水、深層水、温泉水と多い。それだけに水の戦略的価値について理解していないのではないか。たとえば、フランスのように、温泉水医薬品として戦略化したらどうか。

○今年の黄砂の被害は深刻であった。北米大陸にまで到達したという。中国奥地、ゴビ砂漠からの砂塵だけでなく、内モンゴルなど中国内陸部の砂漠化が進んでいることを示している。これは灌漑の汲み上げ過ぎによるものである。アラル海も灌漑用水の汲み上げすぎで、流入する水量が減り干上がり縮小している。このように、対岸での水不足は今後さらに黄砂のような形で日本列島に影響を与える。

○水という点で海面上昇の問題も重要である。地球温暖化による気候変動の影響で、南太平洋上の小さな島国ツバル(国連第189番目の加盟国)は、上昇する海面との戦いに破れたことを認め、ニュージーランドに対して、1万1千人の島民の移住を受け入れてくれるよう交渉中である。中国やインドなどの巨大人口を抱える国の人々が米国のように大量消費をするようになれば、地球の温暖化は急ピッチで進み、日本の海岸線も大幅に内陸に後退して打撃をうけるだろう。

○南シベリアの世界最古で最大級の湖バイカル湖は、透明度世界一、深度1600メートルで世界最深でもあり、また、利用可能な世界の淡水資源の20パーセントを保有すると言われている。このバイカル湖でパルプ工場からの廃液の垂れ流しによる汚染が進んでいる。その汚染状況は深刻で国連ユネスコから「危機にされている世界遺産」に登録するように勧告されている。淡水産世界唯一のアザラシであるネルパの数も激減している。環日本海の対岸国日本は汚染防止に協力する必要があるのではないか。

○今世紀が「水の世紀」だと言われるが、水が国際紛争の原因になるという見方もできる。一方では、インドとパキスタンのように水資源が戦争の最後の段階の抑止力になっているという見方もある。
 北朝鮮は難民化と水資源の不足の問題がある。土地の砂漠化につながるような灌漑水の使い方をしている。環日本海地域の安全保障の面から水資源は重要になる。

○今年9月に南アメリカのヨハネスブルグで国連主催の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が開かれる。地球温暖化による気候変動や海面上昇などの問題が議題となる。来年3月には京都で国連主催の「世界水フォーラム」が開催される予定である。富山県としても、自分達の経験を生かしながら、協力すべきだろう。