日本海学講座

第1回 「日本海側気候と植物」


2004年度 日本海学講座
2004年6月5日
富山県民会館701号室

講師 富山県立上市高等学校
教諭 佐藤卓 氏

1.日本海指数

 横軸に月平均降水量、縦軸に月平均気温をとって、クリモグラフを作成する。その際、降水量100ミリの幅と月平均気温10度の幅とを同じ長さにする。8月と1月の点を結ぶ直線と降水量を示す横軸の間の角度を、鈴木時夫、鈴木和子という二人の生態学者は日本海指数と名付け、日本海側気候の程度を表すのに使えると考えた。

富山気象台の平年値から日本海指数を算出すると119だが、県内を1km2メッシュに区切って日本海指数の分布を推定すると、ほとんどは90から124ぐらいの範囲にあった。日本海指数が125より大きい地域は、五箇山地方と立山連峰及び後立山を中心に分布していた。有峰地域は90より小さい値を示し、内陸側の岐阜県や長野県に近い気候を示した。
 アメダスデータを用いて全国の日本海指数を推定すると、日本海に面した地域は大きな値、太平洋側は小さな値を示した。日本海指数100以上の地域は、鳥取、京都、福井、石川、富山、新潟、そして北海道の小樽より少し西側あたりであった。
 日本海の反対側のウラジオストクは66、ピョンヤンは59、釜山は49で、日本海側気候でない。
 世界の中で日本海指数95~135の場所は72地点あったが、富山県のように年間降水量が2000ミリ超、かつ年平均気温13℃前後の地点はなく、日本海側の気候は、非常に特殊であることがわかってきた。

2.日本海要素

 日本海要素は、日本海側に分布の中心がある植物のことで、複数の研究者の報告をまとめると212種ある。
 富山県には全部で2018種類が分布しているといわれており、そのうち198種が日本海要素で、全体の9.8パーセントを占めた。石川県と福井県に分布する日本海要素の種類数は富山県より少なく、しかも、富山県で確認されていない植物は2種類しかない。その意味では、富山県は日本海要素のほとんどが分布している中心地である。

 日本海側と太平洋側に分布する植物を比較すると、両地域間でほとんど違わない植物から、徐々に変わっているというクラインを示す植物、亜種や変種レベルに分化している植物、そして、別種として認められるレベルにまで分化した植物がある。

 平瀬さんが発表している図によれば、1億3000万年前の日本列島は、ちょうど中央構造線で分断されていて、一部は南の別なところにあったが、プレートの移動によって、今の日本列島になったと考えられている。同様に1億3000万年前に東アジアの端に既に分布していた植物群が、そのまま日本列島に生き残ったケースがあったと考えられる。そのケースはハイマツやチョウセンゴヨウで、大陸と日本の両方に分布している。
 もう一つは、その後、日本列島が形成された後、氷河期と間氷期の気候変動にあわせて、植物が南北に移動し、それが生き残ったとする考え方がある。

 寒帯系植物は、氷河期の終わりの温暖化に伴い、北上するうちに北上しなくても自分の居場所が見つかった植物たちはそのまま残った。つまり多くの高山植物がこの様な植物で、寒帯系植物から由来したと考えられている。


 暖温帯系植物から由来した日本海要素は数はそんなに多くないが、寒冷化した時に、南下していくと海岸のような暖かいところに分布が押し込められた結果、太平洋側に分布している「そはやき要素」と呼ばれるものと、日本海要素とに分かれたと考えられている。



 海岸は、北方系の植物と南方系の植物が、塩分に対する適応、つまり乾燥適応の結果として、同時に生き残ることができる場所であるといわれている。乾燥適応とは、寒さに対して適応できる植物は、塩分に対しての適応も同様の仕組みで対応できることを指す。
 ヒメアオキは、典型的な日本海要素で、日本海側の気候に適応した植物という話をしてきたが、太平洋側のアオキとよく比べてみると、クライン程度の差としてとらえるべきであろうと考えられる。
富山県に分布する日本海要素植物は、太平洋側のような暖かくて雪が降らないところの植物とは全然違うのだと思っていたが、実はほとんど差がないという場合もあることがわかってきた。