日本海学講座

第3回 「ライフスタイルの変化と富山の水環境」


2004年度 日本海学講座
2004年9月11日
富山県民会館701号室

講師 富山国際大学
教授 尾畑納子 氏

1.はじめに

 戦後60年間というわずかな時間に私たちのライフスタイルが大きく変わりました。技術革新に伴い、情報化、デジタル化、或いはグローバル化などが進む中で、我々の生活の場である、これからの地域づくりを考えますと、モノやお金だけではなく、むしろ人と人とのコミュニケーション、人と自然との関わりといったものが非常に重要になってくると思います。
 今回は、戦後から現在までのライフスタイルの変化と水環境について考えたいと思います。


2.戦後のライフスタイルの変化

 急速な経済成長をとげた1960年代では、いわゆる生産者中心の大量生産・大量消費型の社会が形成されました。同時に、個々人が便利で充足した生活、快適な都市型生活を享受するようになりました。一方で急速な都市への人口の集中によって、ゴミ、水質汚染など都市型公害とも呼ばれる環境問題が発生しました。
 2度にわたるオイルショックを経験した1970年代以降は、ものが充足してきたため、次第に自分にあったもの、自分らしいものを自由に選択する消費者主導の時代となっていきました。80年代以降今日に至まで、科学技術の進歩とともに、ますます便利で快適な生活が求められるようになり、大量消費時代同様に廃棄物の増加は止まらず、ゴミ問題や水質汚濁などの環境問題はますます深刻化しています。
 「洗濯」を例に挙げますと、かつては、洗濯は「たらい」と「洗濯板」でやっていました。作業は大変なため、毎日衣類を洗うことができず、逆に衣類を洗わない、水を使わない、洗剤を使わないという状況ですから、水も汚れませんでした。ところが、昭和28年に洗濯機が登場しました。洗える量は1キロ程度ですが、たらいで洗うのに比べると家事労働が格段に減少しました。この洗濯機の登場により、従来石鹸を使って洗濯をしていたものが、合成の粉末洗剤に代わってきます。今では洗濯機の普及は、98%ぐらいにまで達しています。きれい好きな日本人は、洗濯機を使用して、これまで大量の水を使って洗ってきましたが、平成6年の猛暑で水不足になって以来、水使用量の少ないヨーロッパ型のような洗濯機が日本でも発売されるようになりました。しかし、この方式は水を使わない点はいいのですが、逆に電気を多く使いますので、エネルギー消費、すなわち二酸化炭素発生の面では少々問題がありますが、利便性の面で消費者ニーズに合わせ工夫された新機種が次々と開発されています。私としては、何が本当に環境に負荷を掛けないのか、消費者がもっと総合的に評価する視点が重要だと思います。

3.水の循環

 水の循環の仕組みを考えますと、雨が降り、一部は表面水として川に流れ湖や日本海に流れ出ます。一部は地下に、一部は蒸発します。このように 水は循環しながらきれいになっていくはずです。
 ところが、自浄能力以上の大量の汚水が排出されると、当然ですが汚れが残ります。それを何とかするため浄化処理システムの整備が必要となりますし、同時に汚水をできるだけ出さない取り組みが重要になってきます。企業では厳しい水質規準によって排水していますし、最近では企業内部での水処理による循環型システムを導入するところが多くなっています。循環しないで使い捨てをしているのは、一般家庭から出る水です。

4.くらしと水

 最近のエコ住宅の中には、電力と水を自力でまかなうような設計が考案されていますが、上下水は、通常、公共の施設に頼らないといけないのが現実です。水循環の仕組みを破壊するような汚物を出すと、時には私たちの生活が危険にさらされたり、処理による環境負荷が大きくなります。
 家庭用水ですが、1970年代の終わりには1人1日に266リッターの水を使っていました。それから22年後、富山市のデータによれば、私たち富山市の住民はだいたい1人1日約360リッター、22年前の約1.5倍の水を使っており増加傾向にあります。

5.富山の水環境

 近年の富山県内の湖沼や河川の汚染状況はそれほどひどくなく、むしろきれいな水環境が保たれているという感じがします。しかし、富山湾水域で、原因がはっきりしませんが、1999年から2001年にかけてCODが高くなっています。2002年は少し回復していますが、まだ水質基準に完全には達せず、水質汚濁の原因究明と問題解決の方法が模索されています。そこで、家庭から出る生活排水と水質汚濁について触れます。

6.家庭生活と水質汚濁

 私たちの生活によって出される1人当りの汚物割合ですが、だいたい屎尿が3割、残り7割のうち台所が4割相当、次いで、洗濯、風呂の順です。
 私どもの研究室では、洗濯と水環境について研究しています。そこで、水道水や洗剤などを使用し衣類からの汚れ落ちと水質汚濁の関係について調べてみました。水道水だけでは汚れが落ちないので、逆に水自身の汚れは少量です。4年程前に出た電解水洗濯機で洗うと、若干汚れが落ちるので洗浄率も少し上がり、水も汚れてきます。次に洗剤を入れて行うと、洗剤を指定の半量、指定量、指定の1.5倍量に分けて比較すると、半量に比べ指示量で洗うと洗浄率はよくなりますが、やはり水も汚れました。次に洗剤の量を1.5倍に増やしたら、汚れの落ち具合は変わらないのに、水の汚れは2倍以上になります。洗剤をたくさん使うと、いかに水を汚すかということを数値として分かっていただきたいと思います。きっちり必要分しか使わないことが大事です。
 また、台所から出るすすぎ水の汚れ具合について、例えば、ビールを飲んだあとの缶を水ですすいだあとの水の汚染性をみると、検査液(汚れを調べる)の色が瞬間に変わり、ひどく水を汚すことがわかります。回収のためのビール缶でも家庭で洗わないで出したほうがいいのではないかとさえ思います。
 同様に、牛乳は普通の家庭では牛乳パックの中を洗って回収に出しますが、今日は2回すすいだ後の水を測定しましたが、少し汚れています。さらに、3回すすいだ米のとぎ汁は、牛乳パックの水よりも汚れています。ここで私は、ビール缶や牛乳パックを洗って出すのは良くないと言っているのではありません。循環型社会に最もふさわしいシステムについて、部分的ではなく全体としての環境負荷量の数値化が必要であるといいたいのです。


7.おわりに

 最近は衣類の下着など、洗剤を使わなくてもいいものが出ています。これは衣類の表面を加工したものです。皆さんは洗剤を使わないなんて汚いと思われるでしょう。しかし、通常の衣類よりは汚れにくいということです。ですから汚れがひどい場合は、従来の洗剤の量を減らして洗えばいいわけです。それでも全体的には洗剤使用量が減るので私たちだけでなく川にすむ生物の水環境にはいいと思います。食洗器についても同様です。利便性だけを考えるのではなく、利用する家族の人数やライフスタイルによって、水、洗剤、電気の使用量などが違いますので、それぞれの生活条件にとってもっとも環境負荷が小さくなる方法を選択すべきではないでしょうか。
 このような日々の生活におけるささやかな努力の積み重ねによって、富山湾や日本海の水環境ばかりでなく地球環境全体を改善していくと思います。