日本海学講座
第1回 「天気図から読み解く気候」
2005年度 日本海学講座
平成17年5月28日
サンシップとやま601号室
講師 富山地方気象台
防災業務課 山田年秋 氏
1 気候とは?
気象、天気、天候、気候という言葉が使われているが、それぞれどのような使い方をしているのか考えてみましょう。 |
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気 象: | 大気の状態および雨・風・雷など、大気中の諸現象。【広辞苑】 | |
天 気: |
任意の場所の任意の時刻の気象状態。【広辞苑】 気温、湿度、風、雲量、視程、雨、雪、雷などの気象に関係する要素を総合した大気の状態。【気象庁予報用語集】 |
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天 候: |
ある地域の数日間以上の天気の状態。持続した状態、また同じ変動傾向のときにいう。天気と気候の中間概念。【広辞苑】 天気より時間的に長い概念として用いられ、5日から1か月程度の平均的な天気状態をさす。【気象庁予報用語集】 5日以上の平均的な天気状態を述べる季節予報、天候情報等に用いる。【気象庁予報用語集】 |
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気 候: | 各地における長期にわたる気象(気温・降雨など)の平均状態。ふつう30年間の平均値を気候値とする。【広辞苑】 | |
気候帯: | ヨーロッパで「気候」という意味は、「地軸の傾き」を意味するギリシャ語からきている。地球が太陽面に対して傾いており、日射量が緯度によって変化するため、緯度によって異なる気候が形成される。地球上の気候を寒帯・亜寒帯・温帯・亜熱帯・熱帯の5温度帯に分けることが普通行われている。 | |
気候型: |
ある特性によって分類された気候の型。分類の方式は種々あって、原因によるもの(大陸気候・海洋気候・季節風気候など)、植生によるもの(熱帯多雨林気候・サバンナ気候・ステップ気候・ツンドラ気候など)等がある。 生活環境として気候を地域的に捉えた、ドイツの気候学者ケッペンの気候区分がよく使われる。【広辞苑】 |
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気候区: | 気候によって区分した区域。同一の気候型をもつ地域。【広辞苑】 |
1-1 新しい概念の導入
現在は、太陽・地球大気・海洋・雪氷・植生という1つの系の中で熱・水蒸気・気体を交換し合って生ずる大気の振る舞いの統計的集合と考え、気候システムという新しい概念が誕生しました。
気候には2つの面があり、1つは空間規模ともう1つは時間規模です。
空間規模は、モンスーン規模以上の大気候、関東地方程度の中気候、山谷風程度の小気候、耕地や温室程度の微気候に分けられます。
時間規模は、数億年以上から10年程度までで、近年はエルニーニョの影響など、数年規模やもっと短い時間規模の変動も気候の対象に含めるようになりました。
2 世界の気候
気候を分類することについては、色々な方法があることを述べてきました。ここでは、世界から見ると日本はどのような特徴があるかを簡単に触れておきます。
普通よく使われる緯度によって表す気候帯では、日本は温帯に属します。温帯の中でも大陸の東岸に位置して、温暖湿潤気候で四季が明瞭に現れるのが特徴的です。
3 日本の気候
前述したように日本は、温帯に属していますが、国土が南北に長い島国で、地形も複雑なためにさまざまな気候がみられます。さらには大陸と海洋との間に吹く季節風の影響が強く現れ、大別すると日本の気候は太平洋側気候と日本海側気候に分けられます。
太平洋側は、夏は暑く、冬は乾燥した気候が特徴となっています。特に夏の南よりの季節風の影響を受けやすく、梅雨や台風による降水量が多いのも特徴です。
日本海側は、夏は比較的温暖であるが、冬は寒冷で北西の季節風の影響が大きく、降雪量が多くなるのが特徴となっています。梅雨や台風についても太平洋側と同様に影響を受けやすくなっています。
3-1 メッシュ気候値
気象庁では、地域を一定の間隔で網の目状(メッシュ状)に区分し、この区分ごとに観測値をもとにして多変量解析等の手法を用いて計算した気候の地域差を表す目安としてのメッシュ気候値を作成しています。観測が行われていない場所についても気候値が得られているため、いろいろな事象と気候値の関係を調べるのに便利です。
降水量、気温、最深積雪、日照時間等を要素として、日本全国を経度45秒*緯度30秒ごとにメッシュ気候値を求めています。このメッシュの大きさは、日本の中央付近で約1Km*約1Kmで、日本全国は386,400個のメッシュで覆われています。
3-2 富山と東京の気象要素の比較
ここでは、気温・降水量・日照時間の気象要素をもとに、日本海側の富山と太平洋側の東京を比較し、その特徴を見ていきましょう。
平均気温は、富山が東京と比べると春から夏にかけては若干低い程度ですが、秋から冬にかけてはその気温差が大きくなっています。
降水量は、4~5月と10月は富山と東京では、ほぼ同程度となっていますが、その他は富山が上回っています。特に冬の富山は降雪によるもので、東京に比べ圧倒的に多く、日本海側と太平洋側の気候の特徴を表しています。
日照時間は、春の4月から秋の10月までは、富山の方が多くなっています。しかし、秋の11月からはそれが逆転し、特に冬は東京の50%未満となっいます。これも冬に降水量が多いことと同様に日本海側の気候の特徴をよく表しています。
4 四季
それぞれの四季によく現れる天気図と合わせながら、四季の移り変わりを見ていくことにします。
よく「暦のうえでは」と季節の節目節目に使われている二十四節気があり、春夏秋冬を立春~立夏~立秋~立冬という区分により表されていますが、気象庁では春夏秋冬を月単位で、3~5月を春、6~8月を夏、9~11月を秋、12~2月を冬として、各種の気象要素を統計して用いています。
4-1 日本で初めての天気図
この天気図は、日本で初めて天気予報を発表したときに用いられたものです。
現在の天気図と比較すると観測点が少ないために、等圧線が1・2本引かれたもので、天気予報を発表した日付がなければいつ頃の季節の天気図か知ることは難しいものです。
4-2 春の気候
冬の期間に吹き続けていた冷たい北西の季節風が弱まり、西から低気圧と移動性高気圧が交互に現れるようになり、天気も周期的に変わり、寒暖をくり返しながら春へと季節が変わっていきます。また、冬から春への移行期に低気圧が日本海を通る場合、太平洋側から強い南風が吹くことがあります。立春から春分までの最初に吹く暖かく、強い南よりの風を「春一番」といっています。
4-3 夏の気候
春から夏に移っていく過程で、「梅雨」という期間が現れます。梅雨の原因は、太平洋高気圧の勢力が強まりはじめ、性質の異なったオホーツク海高気圧とが、本州付近でぶつかり合って梅雨前線が形成され、雨の降りやすいぐずついた時期があります。
さらに太平洋高気圧の勢力が増して、梅雨前線を北上させて本州付近が太平洋高気圧に覆われるようになると、いよいよ暑い夏の到来です。このような時期は、日本付近は南よりの季節風が主体となり、太平洋側の海上から暖かく湿った空気が入りやすくなります。このような状態のときに、上空に冷たい空気が入った場合には、大気の状態が不安定となり、夏特有の積乱雲が発達しやすく、時には雷を伴った雨の降ることがあります。
4-4 秋の気候
夏から秋に移っていく過程は春から夏に向かう過程とは逆に、太平洋高気圧の勢力が弱まりを見せ、本州付近に前線が形成されやすくなり、雨の降りやすい時期があります。これを「秋りん」と言っています。
太平洋高気圧が弱まり始めると、この高気圧の周辺を回って熱帯低気圧(台風)が北上し、本州に近づくようになります。また、春と同様に移動性高気圧と低気圧が交互に現れるようになり、短い周期で天気が変化します。
大陸では徐々に優勢な高気圧が現れ、乾燥した冷たい(シベリア気団)空気を吹き出すようになります。
4-5 冬の気候
すっかり太平洋高気圧の勢力が弱まり、代わってシベリア高気圧が勢力を増してきます。冬の期間によく現れる天気図の気圧配置は、「西高東低型」といわれ、日本を中心として西側の気圧が高く、東側の気圧が低いということを意味しています。風は気圧の高い方から低い方に向かって吹きますので、日本では北西の季節風が吹きやすくなるのです。また、こうした風が冷たい空気を運び、相対的に暖かい日本海上で雲が発生し、脊梁山脈や北アルプスなどの山岳の影響で日本海側に雪を降らせることになりますが、太平洋側の風下側では、北西の乾燥した季節風となるため、晴れの天気が持続することになります。