日本海学講座

第5回 「地域の水を生かす取り組み」


2005年度 日本海学講座
平成18年2月4日
県民会館(富山市)

講師 富山県立大学助教授
瀧本 裕士 氏

1.地域用水について

 富山県における農業用水、工業用水、生活用水といった用途別水需要を調べてみると、農業用水量が水需要量全体の92%であり、他の用途に比べて格段に高い割合を示している。農業用水は長い歴史の中で農業生産を支えて食料を確保する重要な役割を担ってきた。最近では水田が少なくなりかんがい水量も減少するように思われるが、一方で農業用水は野菜の洗い場や水遊びの場,防火用水などに利用されたり、生態系の保全や憩いの場として利用されたりするなど地域住民に親しまれてきた。地域用水とは、このように農業以外のいろんな働きを持つ農業用水のことを言う。現在では、維持管理のし易さや危険を回避するために、水路にふたやフェンスを設けたり、管水路として地下に埋めてしまったりと農業用水は地域住民にとって遠い存在となりつつある。しかしながら、農業用水を地域用水と見たときには地域住民にとってその存在自体が環境を保全し、やすらぎや憩いの場として欠かせない貴重な財産となり得る。
 このような観点から、歴史の中で人々の暮らしと密接に関わってきた農業用水を復活させるために、より良い水の利用と管理のあり方について考えいく必要がある。本講座では、地域用水の中で富山県の産業遺産であるらせん水車を活用したマイクロ発電とそれに伴う地域振興の可能性について検討してみたい。

2.らせん水車について

 戦前までらせん水車(写真1)は、重要な農業動力源として脱穀作業や藁(わら)加工作業に用いられてきた。この水車は富山県の急流農業用水の特徴を巧みに利用した水車で、簡便性と経済性に優れた移動型動力源または定置動力源として全国に普及が進み使用されてきた。しかし、戦後になって機械化の進展に伴い、らせん水車の数は急激に減退してしまった。 ところで、近年では水害・台風・地震等の災害時の非常用電源や農業の生育管理用電源として、移動可能かつ、利便性に優れた小型発電機の開発が望まれている。自然エネルギー利用発電のうち水力発電は風力や太陽光発電に比べ24時間安定した出力が得やすい発電方式である。 
富山県には大小様々な多くの河川が身近に存在するが図1に示すように低落差・低流量を利用した高効率のマイクロ水力発電システムはいまだ製品化されていないのが現状である。そこで、富山県の産業遺産であるらせん水車に注目し、これをマイクロ発電システムとして復活させる試みがなされている。
 らせん水車は従来農業用動力源として利用されてきたが、動力特性の理論的解明はなされていない。先人達の経験に基づいた知恵を科学的に解明することで、より発電効率の高い水車の開発が可能となる。そこで現在富山県立大学では、「低落差・低流量でいかに効率よく水車を回転させるか」をテーマに、出力特性に及ぼす羽根構造(羽根材質、形状、枚数、羽根の間隔、水流との角度等)および水路条件の影響について実験を通じて研究を進めている。

3.動力特性解明に向けた実験の取り組み

 富山県立大学短大部では写真2のような可変水路実験装置を設置し、らせん水車の動力特性を計測している。実験装置全体の総寸法は、最大高さ5,200mm、最大長さ9,000mm、最大幅3,000mmである。実験に使用したらせん水車の大きさは羽根直径450mm、水車全長1,000mmであり、羽根の間隔ピッチ125mmの4重巻き羽根である。これは現物らせん水車の1/2サイズである。水路は幅720mm、高さ800mmの長方形断面であり、水平から最大傾斜30度まで5度ピッチの傾斜可変型開水路である。
 実験では,水路勾配が10°、20°、30°の3パターンについて調べ、流量は約290L/min~970L/minまで変化させた。この流量については図1の単位に換算すると最大でも0.017㎥/sであることから非常に低流量の場合を想定していることになる。簡単に実験の結果を紹介すると、出力は最大で50W程度得られた。また水車の効率は水のエネルギー(有効落差)に対する出力の比で表されるが、この効率は40%程度であった。下掛け水車のような在来水車の効率は10%~30%程度であることから,らせん水車の効率はそれに比べて高く、実用化に向けて期待できると思われる。今後は,近代水車に近い効率(80%以上)をめざして水車の改良を進めていく予定である。

4.地域の取り組み

  平成13年に富山県立大学の分野別研究会「自然エネルギー農業利用研究会」の会員の中かららせん水車発電に取り組もうという声が上がり、南砺市高屋の「螺旋水車の館」を現場として実験が試みられた。水車は直径90cm、長さ160cmで四枚羽根構造の標準仕様である。平成13年11月に地元保存会の協力を得て「高屋螺旋水車フォーラム」が開催され,その際の発電実験でピーク値1kwの発電に成功している(宮崎、2006)。現在、「螺旋水車の館」では発電施設が常設されており、水車小屋のライトアップに利用されている。
 自然エネルギーはエネルギー密度が希薄であることや地域的・時間的な制約条件等の弱点もあり、技術レベルの向上を図ると共に地域全体で解決に向けた方策を考える必要はある。しかしながら、自然エネルギーは化石エネルギーと違ってクリーンで再生可能な資源である。らせん水車による水力発電は、個々の発電量は少ないものの適用可能な箇所は数多く存在すると見られるので、地域分散型エネルギーシステムの一環に導入することができれば地域用水として地域振興に役立つものと期待できる。

【参考引用文献】 宮崎平三:螺旋水車で水力発電、現代農業1月号(2006)、p260-263