日本海学講座

第2回 「環日本海のバイオマスと環境」


2007年度 日本海学講座
2007年7月7日
富山県民会館 401号室

講師 富山国際大学地域学部環境系コース 教授
才田 春夫氏

環境の現状

 きょうは、「バイオマス」とは何か、どのように利用されているか、またバイオマスを使っていく上で問題はないのかというお話をしたい。

 これから「人類の罪」ということで、スライドを見ていただくが、最初は南極の上空から見た地球の地図(※事務局 注:この地図は、ここでは未掲載です)で、オゾン層がどれくらいあるかを調べた写真である。1979年とその5年後の同じ場所の写真では、オゾンホールがかなり広がっている。オゾン層が薄くなると、紫外線が直接当たるので、人に害をもたらすことになる。

 この表(※事務局 注:この表は、ここでは未掲載です)は世界各地の酸性雨の大きな被害をあらわしているが、スウェーデンでは、多くの湖で酸性度が強くて魚が生息できない状態である。ノルウェーでは、全く魚がいなくなってしまった地域もある。またカナダでも、魚がすめないような湖がたくさん出てきた。酸性雨の影響は日本でも出ていて、年々酸性度が強くなっているというデータがある。雨の酸性度が強くなると、植物の成長に影響が出たり建物などに腐食をもたらしたりする。

 3つ目の罪としてごみ問題を取り上げた。下の写真は、南太平洋の小国、サモア独立国のごみ埋立地で、そこでは、生ごみからプラスチック、缶にいたるまで、何でも混ざった状態で処理されている。このようなごみの山は世界じゅうあちこちにあり、我々も毎日大量のごみを出す生活様式に変わってきていることを認識せねばならない。

 このグラフ(※事務局 注:このグラフは、ここでは未掲載です)は東京に入ってくる野菜の産地をあらわしている。昭和40年、50年、平成6年と生産地が変化し、関東が減少、北海道など関東から離れた地域に生産地が移っている。

 トマトやカボチャは、今や年じゅう出回っている。トマトは温室で、カボチャは南半球など外国から輸入され、ほかの野菜も中国などから入ってきている。

 この図(※事務局 注:この図は、ここでは未掲載です)は、キュウリの温室栽培が露地栽培のものと比べ、約5倍のエネルギーを要することを示している。我々の生活はたくさんのエネルギーを使って成り立っているのである。

 これ(※事務局 注:この資料は、ここでは未掲載です)は経済成長とエネルギーの使用量の関係であるが、1965年から2004年までは右肩上がりである。同じように、電気をつくるために使われる一次エネルギーやガソリンも含め、我々が使っているすべての最終エネルギー消費量も上がってきている。そのような我々のライフスタイルが地球に大きなダメージを与えていると言えよう。このような人類の活動が地球環境に大きく影響していることを示すのが下の図(人間活動とCO2排出量の関係)である。右側のグラフは人口の推移を表しているが、それによると1800年あたりから急激に人口が増加している。なぜならば産業革命で石油・石炭が使われ出し、機械化が進んで食料の生産が急激に増え、人間にとって生活しやすい状態ができてきたためである。そして、人間の数が急激に増えたことによって、大気中の二酸化炭素の量が増加したことを示しているのが左側のグラフである。1000年代から2000年近くまで測定した大気中の二酸化炭素の量は、人間の増加カーブとぴったり一致する。このように、人類が地球上に出現して、さらによりよい生活を求めてきた結果、逆に生活環境を壊してしまっているということである。

温暖化防止に向けて

 そこで、地球温暖化防止のために、二酸化炭素の排出抑制に世界の人々が合意したのが1997年の京都議定書である。そこでは、二酸化炭素だけでなく温暖化をもたらす6つのガスを、目標年次までに決められた割合だけ減らそうということで、日本は二酸化炭素の量を1990年のレベルから6%減らすことになった。

 ところが、90年から現在までの間に7%ほど増えているので、トータルで13%以上の二酸化炭素を減らす必要がある。減らそうと決めてからこれまで10年間、増え続けているものをそれよりも短期間で減らす方策であるが、それに関しては排出権取引ということで、日本が他国の二酸化炭素の排出抑制を支援すると、日本がその分の二酸化炭素を減らしたとみなしてくれる。外国で植樹したり、省エネタイプの機材を送ったりして減らすことも可能なわけである。今日本は、発展途上国に対して世界第2位のODA支援国である。そのお金を二酸化炭素排出権取引に使えば、日本は義務を果たすことができるという考え方もあるが、そういう見かけ上の二酸化炭素削減は、地球全体にとってよくないので、何らかの努力は必要である。

期待のバイオマス

 そこで、バイオマスが一つの手段として注目されている。バイオマスは生態学の専門用語で、生物の量をあらわすが、少し範囲を狭めると、石油・石炭などの化石燃料、化石資源以外の再生可能な生物由来の有機資源ということになる。さらに意味を狭めて、エネルギーとして利用できる植物起源の物質と限定した言い方もする。

 普通、物は使ったら消えてしまうが、使ってもなくならない、どこかから補充されるという意味で再生可能という。例えば太陽エネルギーや風。地球上から風がなくなることはない。バイオマスも消費と生産のバランスをうまくとればなくならないという意味で、再生可能エネルギーという。そのほか資源として考えた場合、工業製品や食品も含めてバイオマスということもある。

 具体的には、まず薪炭材。木材がバイオマスになるし、木材として使えない間伐材や剪定した枝などの林業廃棄物もバイオマス資源として扱われ、従来、農業廃棄物とされたもみ殻、わら、ふすまなどが資源として見直されている。また本来、食料である作物を食料に回さないでエネルギー生産に使う。そのほか畜産廃棄物など、昔はごみであったものが今は資源として見直されており、うまく使えば枯渇しないということが、ごみ扱いされてきたバイオマス資源の利点である。

 化石燃料だと、できるまでに何億年という長い年月を要しているため、使いながら増やすのは無理だが、バイオマスはライフサイクルが短いので、使いながら使う量と新しくつくる量の調整ができる。また燃料だけではなく、化学原料や工業用品をつくる際にも使われ、液体燃料として形を変えて運搬や貯蔵が可能である。

 また、太陽エネルギーや風力発電はバッテリーに蓄えるしかないが、バイオマスの場合には、液体や気体にしたり、あるいは木材としてそのまま使用したり、備蓄も長期間可能である。また、太陽や風は天候に左右されるが、バイオマスの場合にはそれがない。さらに、石油のように特定の地域に集中しておらず、世界の広い地域でさまざまな形のバイオマスがあり、人の住んでいるところではどこでも何らかのバイオマスができると言える。

一番大事な点は、大気中の二酸化炭素の量を一定に保ってくれることである。植物は大気中の二酸化炭素を吸って成長し、それだけを燃やせば、その二酸化炭素は大気圏に戻って、それを別の木が吸って育つから、大気中の二酸化炭素を増やすことにはならない。

 また、石油・石炭に比べて、汚染物質が少なく、これまで使われていなかったものを資源として活用していくので、バイオマスが存在する地域の活性化につながる。放置されていた山を整備することで、出てきた間伐材を有効利用すれば、地域の活性化や経済面でも大きな利点になり、ごみも減らせる。

 また、発電コストを考えると、太陽発電や風力発電よりも安く上がることがある。ただ、石油・石炭に比べて、どうしても割高であり、発電効率や熱量が低い。また、農産物の要らない部分をメインに扱っていくバイオマスは、どうしても季節的にむらがある。

バイオマスの問題点

 一番の問題点は、食料との競合である。バイオマスエネルギーのエタノールは、アメリカではトウモロコシ、ブラジルではサトウキビを使っており、どちらも食料になるものなので、食品の値段が上がってしまう。東南アジアでは、パームオイルをディーゼルエンジン用にエネルギー変換しているし、パームヤシの生産量を上げるために、熱帯雨林の破壊が進んでいる。生産調整がうまくできなければ、生態系の破壊につながる。

 1年間に生産される植物のバイオマスは1,000~1,500億トンである。陸上が1,150億トン、海洋のバイオマスは550億トンとも言われる。海洋のバイオマスは陸上の半分くらいとして、それらを合計すると世界で消費されているエネルギーの10倍に相当するので、生産量を減らさないようにして使えば、バイオマスはなくならない計算になる。世界的に見て、バイオマスがエネルギーに使われる割合は約12%で、石油や天然ガスに次ぐ消費量である。

 日本では、2002年から貴重な新エネルギーとして認められ、2010年の目標数値は、バイオマスによる電気を原油に換算して34万キロリットルである。今つくられているバイオマスは30キロで、まだまだ目標には遠く、それを急ごうというのが今の日本の姿勢である。日本のガソリンの消費量は大体6,000万キロリットルで、この1割あるいは5%くらいをバイオマスで賄う計画である。

 バイオマスの発電量は一次エネルギー消費の12%、つまり発電に使われる全体のエネルギーの約1割を賄うことが可能である。日本のバイオマスの主体は農林系であり、廃棄木材や畜産廃棄物からメタンガスを出してエタノールをつくる。

 バイオマスからのエネルギー変換には、大きく分けて4つの方法がある。1つは直接燃やして熱を取り出す、昔からの方法である。2つ目は熱化学的な変換で、ガスを取り出し液化する、低温ガス化してメタンや水素を取り出す物理的な方法である。3つ目が今バイオマスとして注目されている生物化学的な変換である。日本でも、ガソリンにエタノールを3%まぜることになっているが、アメリカでは既に8%まぜており、ブラジルではより高濃度のアルコールだけで走る車もある。

 このように、エタノールも、家畜ふん尿や下水処理水からのメタンも、すべて微生物の力でつくっている。ほかにエネルギーとして使うものには、バイオガソリンやバイオディーゼルがある。またRDFという固形化したごみもある。

なぜ変換するか

 では、なぜそのように変換するのか。木材を燃やしたときの発熱量を100とすると、エタノールに変換した場合は2倍の発熱量になるというメリットがある。したがって、多少エネルギーをかけても変換したほうが効率がよく、また、変換することにより、固体から液体あるいは気体にかえることもできるので、貯蔵、運搬がしやすくなる。

 石油・石炭は、あと30年とか50年でなくなると言われ、石油と同じように使いやすい形の燃料をつくる必要がある。今世界は、一番必要な車用のバイオディーゼルやバイオエタノールの生産を増やしている。その中でも、アメリカの増産割合が一番高く、2年ほど前はブラジルが1位で、サトウキビからつくったエタノールを供給していたが、2005年にアメリカが生産量1位になった。このように、アメリカは急激に生産量を増やしているが、その材料の主流はトウモロコシである。今アメリカで生産されるトウモロコシの10%ほどがエタノールの原料として使われており、2020年には倍増する計画である。そうすると、トウモロコシの生産量が増えなければ、燃料に回るトウモロコシの割合は倍になり、食料用のトウモロコシの値段が上がる。そこで、生産地を増やす努力もされているが、土地が限られることと、トウモロコシの倍増生産には大量の地下水が必要で、地下水の枯渇が心配されるために、限界がある。

バイオエタノール増産の陰で

 そのように便利な燃料を増やそうとする裏では、いろいろな問題が発生している。1つは、食料と競合しているために、値段が上がっていること。トウモロコシの値段だけでなく、トウモロコシは家畜のえさにも使われるので、えさの値段が上がり、それから派生して食肉、卵、食料品が、すべて連鎖的に上がっている。

 アメリカがエタノールを倍増すると、2020年にはトウモロコシの値段が41%上がるという予測もある。ブラジルではサトウキビを使っているので、砂糖の値段が上がっている。砂糖やトウモロコシの価格上昇は、先進国よりも発展途上国の人々に大きく影響し、食料難が深刻化し、物はあっても高くて買えない状況になって、治安が悪くなるおそれがある、とレスター・ブラウン氏が警告している。また、生産量を増やすために、大量の化学肥料や農薬を使うことになり、さらには遺伝子組み換え食品の出現によりいろいろな害をもたらすことが懸念されている。

 それで、食料と競合しない材料に着目し力を入れているのが日本である。木材は、トウモロコシやサトウキビに比べると、エタノール変換の際一つ面倒な作業が要るが、その作業に加え、エネルギーに変換できる効率が悪いために、高くついてしまう。日本では大量の建築廃材が出るが、比較的質がそろっていて、エタノールをつくるのに有効ではある。その一方、その建築材料をリサイクルする動きもあり、今度は食料との競合ではなくて、建築材料同士の競合という問題もある。

 発電に関しては、小規模な発電施設をあちこちにつくることで運搬コストを軽減する方法をとりながら、各地に散らばった材料をうまく活用するべく、日本政府がバイオマス日本総合戦略として、利用できるものはリサイクルしながらむだを省き、新しい原材料を節約する循環型社会を目指している。

 さらに、新潟などで休耕田を使って、食用ではなく単に収穫量の多い米をつくり、それでエタノールを生産する試みがなされている。仮に6万ヘクタールの休耕田でエタノール米を生産すると、15万キロリットルのエタノールを生産できる。日本で消費されるガソリンの6,000万キロリットルに混入するエタノール3%分は180万キロリットルになり、単純計算でいうと全国の休耕田を活用すれば日本が必要としている量をほぼ生産できることになるが、現状ではなかなか難しい。

海洋バイオマス

 海洋バイオマスは、食料としてはもちろん、藻類やバクテリアを固定させて水質浄化に利用することも可能である。アメリカでは、昆布からメタノールを取り出している。倍増す利用は燃料や工業原料としてだけでなく、環境浄化の点でも注目されている。中国でもそうした動きがある。これはまだ研究段階でが、青島の海水を使った養殖池を対象とした実験では、養殖期は非常に汚れているので、アンモニアを減らすため現場から今までに見られなかった有効なバクテリアを採取して条件を整えたところ、うまく減らしてくれることが判明した。実用化へ期待されるとことである。

サモアの環境問題

 ごみ問題で紹介したサモアは、赤道付近の人口17万人のきれいな海のある小さな島国だが、世界と同じような環境問題があった。不幸なことに、輸入品が多いのでごみも多い。ところが、ごみ焼却場やリサイクル施設がなく、ごみも分別することなく埋め立てるしかない。元来人々のごみに対する意識がものすごく低い。この国に循環型社会をつくっていくためには、リサイクルシステムの確立と人々のごみに対する意識変革をしていく必要がある。

 意識変革はサモアの人々だけでなく、全人類に投げかけられており、環境に配慮したライフスタイルへの見直しが求められている。そのひとつとしてバイオマス利用を考えていく必要がある。