日本海学講座
第2回 「海の生物教室(親子対象)」
1999年度 日本海学講座
1999年7月10日
講師 小松美英子
富山大学教授
小松研究室学生5名
1.講座の目的
珍しいものや不思議なものを見ているときの子どもの目は、キラキラと輝いている。とりわけ、生命の神秘に触れたときの感動は、好奇心をかき立て、自然を探究する心を育てる原動力となるだろう。
本講座は、ヒトデやウニなどの身近な海の生物を観察し、また実際に手にとって触ってみることによって、子どもたちの海産生物に関する興味・関心を引きだすことを目的としている。
2.小松先生の講義内容要旨
・ウニ・ヒトデの仲間は体表に突起(棘<キョク>)を持ち、棘皮動物と呼ばれる。ナマコやウミユリもこれらと形は異なるが、クモヒトデとともに棘皮動物の仲間である。
・イトマキヒトデやキヒトデは富山湾で普通にみられるヒトデである。また、エゾクシノハクモヒトデは富山湾の深海に棲み、カニの餌になっている。
・南の海、沖縄からコブヒトデやマンジュウヒトデ、ルソンヒトデ、カスリモミジガイのヒトデを準備した。ルソンヒトデはフィリピンのルソン島にその名前の由来がある。
・カスリモミジガイは雌の上に雄がのる"交尾"習性をもつ。
・モミジガイはヒトデであるが、アリストテレスの時代にヒトデは貝の仲間だと考えられていたなごりで"カイ"と命名されている。
・マボヤは東北地方を中心に食用として珍重されている。ホヤ類は"オタマジャクシ"幼生の時期に尾部に脊索<セキサク>を持ち、ヒトデやウニよりもよりヒトに近い生物である。
・ヤドカリの殻やハサミに、イソギンチャクが付着していることがある。両者は生活をともにしている共生動物である。
・ヤドカリとカニは同じ仲間であり、十脚類と呼ばれる。ヤドカリは殻の中に入っているため、腹部が柔らかい。
・サカサクラゲは逆さになって泳ぐことから命名された。沖縄の海岸にみられる。
・イトマキヒトデでは、ヒトデによって雌と雄がわかれている。これに対してチビイトマキヒトデは卵と精子の両方をもつ、雌雄同体である。チビイトマキヒトデは、イトマキヒトデの小さいもののようにみえる。このように、見かけが類似していても、異なる種であり、これから、富山湾でも新種が見つかる可能性は高い。
3.各観察・実験コーナーの紹介
(観賞用プール)
・野外プール1
幼児用プールにイトマキヒトデ、アカヒトデ、クモヒトデ、モミジガイ、カシパンウニ、マナマコが入っている。自由に触ることができる。最初は恐る恐るプールに手を入れていた子どもたちも慣れてくると平気で手づかみできるようになった。
・野外プール2
イトマキヒトデ、ムラサキウニ、バフンウニ、ヤドカリ、サザエが入っているプール。ちょこまか動き回るヤドカリは、子どもたちの笑顔を誘っていた。
・展示水槽①:沖縄のヒトデ
沖縄の石垣島で採取したマンジュウヒトデ、コブヒトデ、ルソンヒトデ、カスリモミジガイが展示されている。マンジュウヒトデ、コブヒトデはとても大きく迫力があり、子どもたちの人気者だった。カスリモミジガイは雄と雌が重なる珍しい性質がある。
・展示水槽②:富山湾のヒトデの仲間
イトマキヒトデ、モミジガイ、キヒトデ、ニホンクモヒトデ、ムラサキウニ、バフンウニ、ヒラタブンブクなどの富山湾で見られる棘皮動物の紹介水槽。動きの様子や給餌の様子を観察する。石川県の千里浜で採集したナミベリハスノカシパンも展示してある。
・展示水槽③:その他の富山湾の動物
棘皮動物以外の富山湾にすむ動物を展示している。サザエ、ミガキボラ、ツメタガイ、ニシガイ、オオコシダカガンガラ、クボガイなどの貝類、マボヤ、ヤドカリなどの動きを観察する。ヤドカリのハサミの上にイソギンチャクが付着しており、両者が共生関係にあることが理解できる。
(観察コーナー)
・観察コーナー①:ヒトデの幼生の観察
カスリモミジガイとイトマキヒトデの浮遊幼生を顕微鏡で観察する。カスリモミジガイではビピンナリア幼生、イトマキヒトデではブラキオラリア幼生を準備した。ヒトデの親と子供ではかなり形が異なっていることが理解できる。
・観察コーナー②:コウイカの赤ちゃんの観察
コウイカの赤ちゃんの泳ぐ様子を観察できる。
・観察コーナー③:サカサクラゲの観察
逆さになって泳ぐ珍しいクラゲを観察する。
(実験コーナー)
・貝殻から出たヤドカリの観察
ヤドカリとカニは、ともに10本の脚を持つ十脚類の仲間である。ヤドカリの殻をライターであぶり、殻からはい出てきたヤドカリの柔らかい腹部の様子を観察する。
最も子どもたちの関心が集まったコーナーの一つであり、自主的に実験に参加する様子が見られた。
(展示コーナー)
・乾燥標本コーナー
ウミユリ、セミエビ、オニヒトデ、パイプウニ、コウイカ、ヒラタブンブク、マンジュウヒトデなどの乾燥標本の展示。ウミユリは貴重品。ウニの乾燥標本と貝殻は、お土産用として持ち帰ることができる。
・Tシャツコーナー
おもに国際学会のTシャツであり、日本では関係者にしか手に入らないもの。
・書籍コーナー
海生生物に関する図鑑、写真集を展示。自由に閲覧できる。
・ビデオコーナー
NHKで放送された海生生物の特集をビデオで流す。クラゲの発生の様子を真剣に見入る子どもが多かった。