日本海学講座

第5回 「異常気象と気候変動」


1999年度 日本海学講座
2000年2月5日
日本海交流センター

講師  中垣昭夫
富山地方気象台技術課長

1.異常気象とは

①「天気」、「天候」、「気候」の違いは?
  ・天気:ある時刻または2~3日程度の期間の大気の状態
  ・天候:数日から3ヶ月間程度の大気の状態
  ・気候:1年をリズム(周期)として繰り返される長期間の大気の状態で、その地域に現れやすい気象状態

②平年とは
  ある大気現象の出現状況を長い期間について平均したものを「平年値」という。平均をとる期間は、国際的に過去30年と決めている。ただし、毎年変えるのは大変なので 10年ごとに切り替える。2000年までは1961~1990年の30年平均を用い、 2001年からの10年間は1971~2000年の30年平均を平年値として使う。  気温を例にとると、平年値を計算する30個の値を高い方から順に並べ、その出現の 割合が3分の1ずつになるよう3つのグループに分ける。そして高い方から順番に気温が「高 い」、「平年並み」、「低い」と呼ぶことにしている。

③異常気象とは
  1ヶ月の平均気温などが平年値をとる過去30年という期間、あるいはそれ以上の期間、1回も観測されなかったほど平年から偏った値が現れた場合を「異常気象」という。

2.気候変動

①気候変動とは
  1年をリズムとして繰り返される大気の状態(気候)が少なくとも10年~数10年以上という長い期間で変化することを「気候変動」という。 
  ・日本:約1.0℃/100年の割合で上昇
  ・地球全体:約0.6℃/100年の割合で上昇
  ・低緯度に比べて高緯度での上昇量の方が大きい。
  最近、地球の温暖化が話題となっているが、過去100年をみると気温は上昇し続けており、また、約1000年前(平安時代)は、現在と同程度に気温が高かったと考え られている。さらに1960年代には地球の寒冷化が話題になっていた。現在問題になっているのは、気温の上昇そのものだけでなく、過去類を見ないほどハイペースなことである。

②異常気象と気候変動の違い
 異常気象の継続期間は数ヶ月程度、気候変動のそれは人の一生程度またはそれ以上の期間での気象の変化をいう。「地球の温暖化」は「異常気象」ではなく「気候変動」の問題である。
  ある時期を境に気温のベースが大きく変わることを「気候のジャンプ」という。このような時には、平年値から大きく偏った現象が現れやすい。

3.近年の異常気象

①1999年の夏
  ・「とにかく暑かった」という印象が強い。とくに気温が高かったのは7月下旬から8月上旬までで、この約20日間が記録的な高温となった。
  ・7月上旬から中旬にかけての平均気温は、平年値を下回っている。
  ・日最高気温38℃以上が3日連続して現れ、富山市における過去60年あまりの中での最高気温記録の第2位、4位、6位となった。
  ・最高気温30℃以上(真夏日)の日数の合計はほぼ例年並み。
  ・高温が顕著だったのは北陸以北(特に日本海側)で、西日本では台風や熱帯低気圧さらには南からの湿った空気の影響でしばしば大雨となり、気温も平年並み。

②1998年の夏
  ・8月に記録的な多雨、梅雨末期の状況が7月下旬以降約1ヶ月継続し、「梅雨明け特定せず」。
  ・富山での月降水量(8月)が過去最大となる。
  ・一方で、西日本では降水量が少なく、特に四国や九州南部ではかなり少なかった。

③1993年の大冷夏と1994年の暑夏・少雨
  ・1993年の富山の夏(6~8月)の平均気温は平年(23.7℃)より1.6℃、特に8月は平年(26.0℃)より2.7℃も低くなった(1939年観測開始以来最低)。日照時間も少なく、農作物に著しい被害。
  ・1994年の夏は一転して記録的な猛暑となった。7月は平年より2.3℃高く第2位、8月は平年より3.1℃高く第1位となった。降水量も極端に少なく、深刻な水不足となった。

④暖冬傾向はいつまで続くか
  ・1987年以降、10数年もの間寒い冬が現れていない。この状態がいつまで続くのか、現状ではわからない。
  ・長い目で見た気温の上昇傾向に、数十年周期の気候変動が重なったことが原因。
  ・富山市の1月の平均気温の平年値は2.0℃であるが、1987年以降、暖冬傾向が続いており、2001年以降使用する平年値は2.5℃になる見込み。
  ・富山市の最深積雪の平年値は80cmであるが、1987年以降は平年値を超えたことが無く、2001年以降使用する平年値は70cm以下となる見込み。

4.エルニーニョ現象

①エルニーニョ現象とは
  ・南アメリカのペルー沖の海面水温が平年よりも2~3℃高くなり、ニューギニア付近で平年よりも低くなる現象。赤道付近の東風が弱まるのが原因である。
  ・海面水温の異常は大気の流れに大きく影響し、世界各地で異常気象が起こりやすくなる。

②エルニーニョの天候への影響
  ・インドネシアからニューギニア、オーストラリア周辺:少雨
  ・ペルー付近:高温多雨
  ・東アジア:夏の低温、冬の高温
  ・日本:梅雨明けが遅れ、暑夏となりにくい。台風の発生数が減少。

5.気候の温暖化

①地球温暖化のメカニズム
  ・エネルギー消費(化石燃料)の増大に伴う大気中の二酸化炭素の増加が主な原因。
  ・二酸化炭素は地球から外へ出る赤外線を吸収する(温室効果)。

②数十年後の気候
  ・このまま二酸化炭素が増加し続けると、約50年後には地球の温度が1.5~3.5℃上昇すると予想されている。 
  ・50年間で2℃上昇するとすれば、富山の気温は東京並みとなる。
  ・海面水位も数10cm程度上昇すると予想される。これに対処するため、海岸堤防のかさ上げや補強、低地での排水設備の改善等に莫大な費用がかかる。
  ・特に1980年代以降、上昇ペースが大きいことが問題である。50年に2℃という上昇量は動植物の気候変化に対する順応性の限界を超えるものであり、農作物の適地の移動など生態系に大きな影響を与えると考えられる。