日本海学研究機関等連携事業

日本海地域と気候変化 「地球温暖化に伴う日本の気候の変化」


気候講演会
2004年10月17日
新湊市農協会館

講師 気象庁 気候・海洋気象部気候情報課
課長補佐 里田 弘志

1985年気象庁入庁、広島気象台、気象庁数値予報課、
同機構変動対策室、世界気象機関(WMO)、気象庁国際室、
国土交通省地球環境保全・エネルギー対策企画官を経て、
2002年より現職

はじめに

 最近はテレビなどを見ていても、地球温暖化、あるいは気候変動という言葉がよく出てきます。また、今年は夏が暑かったということもありますし、台風が例年になくたくさん日本に上陸しました。このため、「これは、地球温暖化に関係があるのですか」、あるいは「これが地球温暖化なのですか」といった問い合わせをよくお受けします。

 そのような問い合わせに100満点のお答えを出せるほど気候学は進歩していませんが、今、どこまで分かっているのか、これから何を研究していかないといけないのか、ということについて簡単に紹介します。また、地球温暖化は決して自然現象ではなく、私たちの生活に密接に関係しています。これから私たちはどのようすればいいのか、ということについても、考えてみたいと思います。

地球温暖化が起こる仕組み

 まず、地球温暖化が起こる仕組みについて説明します。

 図1は地球に入ってくる太陽の光がどのように地球の大気のなかを動いて、最終的に外に出ていくかというバランスを示した図です。入ってくる太陽の光のうち69%が大気と地表に吸収され、これが地球を暖める熱になります。また、入った熱と同じ量が宇宙に出ていっており、この両方のバランスがとれているので、地球の気温は急に上がったり下がったりしないで、世界の気候が、ほぼ一定の状態を保っているわけです。

 入ってきた太陽の光の強さと、外に出ていく赤外線のバランスを計算すると、だいたい地球の平均気温は-19℃ぐらいになります。地球全体をならすと、冷凍冷蔵庫のなかのようになってしまうことになります。

 ところが実際はそうはなりません。なぜかというと、大気のなかに温室効果ガスの成分が入っているからです。このなかで量的に一番多いのが二酸化炭素で、ものを燃やしたりするときに出てくるごくありふれた気体です。それからメタンです。あるいは、これは全くの人工物質ですが、エアコンの冷媒などに使われていたフロンなどが温室効果をもっています。

 温室効果ガスは、地面から出ていく赤外線を大気のなかで一度吸収して、もう一度地上に戻す働きをします。地上から出て行く赤外線は、そのまま宇宙空間に抜けるのではなく、そのうちの90%は戻ってきてしまうわけです。ちょうど温室のように、外からの光は入るけれども、なかからの熱は外に出ないことになり、地面付近は温まることになります。その結果、現在の地球の地上平均気温は14℃ぐらいだといわれています。

 このように、温室効果は、地球上の生き物の生存にとってはなくてはならないものです。ところが、最近はどんどん二酸化炭素が増え、温室効果が強まり過ぎて、地球の温度がどんどん上昇してしまう現象が起こるのではないかといわれています。これが地球温暖化という現象です。

世界の二酸化炭素の排出量

 図2は、米国のある研究機関が調べたもので、世界各国が排出している二酸化炭素の量を示しています。

 それによると、1860年頃、今から150年近く前ですが、世界全体で排出される二酸化炭素は、年間およそ3億トンだったといわれています。その後排出量はどんどん増えまして、2000年の推計では、世界全体で約242億トン排出しています。150年間で80倍になっています。

 世界の国別ではどのようになっているかといいますと、242億トンのうち、約23%はアメリカ一国で出しています。第2位は中国で、次いでロシアとなっており、日本は全体の排出量の約4.9%を占めて、世界第4位の排出国になっています。

 円グラフでも明らかなように、世界のトップ10カ国で世界全体の排出量の62%を占めています。世界にはだいたい190カ国ぐらいありますので、残り38%を180カ国が束になって出していることになります。地球の二酸化炭素の排出はこのような状況にあります。

二酸化炭素の濃度の変化

 図3は大気中の二酸化炭素濃度の変化を示しています。二酸化炭素については、1958年からハワイのマウナロアで観測が続いています。日本では、岩手県大船渡市綾里にある気象庁の観測施設で1987年から観測しています。


 グラフの線がギザギザしているのは季節変化です。夏は植物が光合成により二酸化炭素を吸収するために濃度が減り、冬場に多くなっています。二酸化炭素濃度は、このように増減を繰り返しながら、毎年一本調子で上っています。数値でいいますと、18世紀には280ppmぐらいだった濃度は、1960年ごろは315ppm、2000年には373ppmになっています。毎年約1.5ppmの割合で増えています。このように速いスピードで上っていくのは、過去2万年の間でも例のないことです。

 図3の下の図は世界各地で行われている濃度の観測を各緯度ごとにまとめて平均をとり、その長期変化を見たものです。先ほどと同じように季節変化はありますが、全体的にはどんどん増えています。南北で見ると、人間活動は北半球のほうが活発ですので、濃度は北のほうが高く、南が低くなっています。

 先程1年間の排出量を242億トンと述べましたが、その約半分が大気のなかに残り、残りは海に吸われたり、植物に吸収されたりしています。

 次に、これまで地球の平均気温はどのようになってきたかをみてみましょう(図4)。

 過去1000年間の変動を見ると、最近になってグラフは急に上り始めています(図4下グラフ)。

 温度計による記録が出揃ってきた過去150年の変動(図4上グラフ)を見ると、一本一本の縦線は毎年の変動が非常に大きく、ジグザクとした動きをしていますが、そのなかで5年ごとの平均をとり、年ごとの変動をならしてみると、曲線で示したような動きになります。これを見ると10年程度のゆっくりした変動もありますが、長期的には、地球の温度は上がってきていることが分かります。

 地球の平均気温の変動について、国際的にまとめられた報告書によると、地球の平均気温は、1862年以降上昇し、20世紀中の気温の上昇量は0.6度(±0.2度)といわれています。この上昇は、図4のグラフからもわかる通り、過去1000年間に例をみない急激なことです。なかでも1990年代は、過去1000年間において最も暖かい10年間だったといわれています。

日本の気候変化

 さて、日本の気候はどのように変化してきているのでしょうか。図5は先ほどの図と同様に、100年ほど前から現在まで日本の17地点で測定した気温から、年平均気温の変化を計算したものです。これをみると、日本の場合も年々大きく変動しながら着実に気温が上っています。

 もう少し細かく、各地点での気温の上昇率を見ると、場所によって随分と上り方が違います。例えば、富山県の伏木の場合はそれほど大きくは上っていません。ところが東京、福岡、札幌などの大都市では、大変に大きな上り方をしています。これは地球温暖化という地球規模の現象ではなく、都市化によって人がたくさん集まることで熱が出たり地面をコンクリートやアスファルトでおおったことの影響を受けていると考えられます。

 そのため、都市化の影響の少ない日本の17地点で集計したものが図5のグラフになります。これによれば、日本の場合は100年間に1度の割合で気温が上昇したことがわかります。

 図6は雨の降り方の変化を示したものですが、これも場所によってバラツキがあります。近畿から東の太平洋側、あるいは内陸側を中心に降水量が減少しており、特に東日本の太平洋側では顕著に減っています。伏木と富山のデータを見ると、それほど一直線に上昇するような傾向などはみられません。日本全体を平均したものは、統計的には若干減っているともみられます。

 むしろ注目して見ていただきたいのは、グラフのギザギザです。最近の30年ぐらいは、このギザギザが大きくなっていることが目立ちます。つまり、年ごとの変動がだんだん大きくなっているわけです。このことは、年によって大変に雨の多い年と、雨の少ない年の両極端が出やすくなっていることを意味していて、水資源の管理などの面で非常に難しい問題をはらんでいると思います。

 次に異常高温の発生頻度を見ると(図7)、過去50年の間に大きく増加していることが分かります。その一方で、異常低温、つまり寒い日はどんどん減っており、1980年以降はほとんど見られない状態になっています。


 気温が上昇していますが、雪はどのように変化しているのでしょうか。北陸は昔から豪雪地帯といわれていましたが、冬に降った雪の量で比較してみました(図8)。北日本(東北・北海道)は、変動しながら少しずつ増えているようにもみえます。一方北陸を含む東日本をみてみると、1980年代の後半までは緩やかに増加しているようにみえます。伏木や富山のデータでもそうです。ところが1980年代の後半以降、急激に少なくなります。これは降水量が減ったというよりも、気温が全体として上昇したことで、本来雪になるものが雨になってしまったものと思われます。


 図9は、全国89地点の桜の開花日を調べたものです。1989年を基点に、これ以前と以後の全国平均を計算しますと、3日ほど早まっています。春先の気温で桜の開花日が決まるそうですが、この開花日の早まりは、気温が上っていることの反映だと思います。また、かえでの紅葉は過去50年ぐらいで2週間、その時期が遅れているといわれています。
 今年は大変に台風の上陸の多い年になっています。

 台風の発生数をみると(図10)、10年程度の規模で、ゆっくりと変動があるようにみてとれます。なぜこのようなことが起きているのかということは分かりませんが、このような10年規模での変動が非常に多くみられるわけです。

 日本の近くに接近した数、あるいは上陸した数で見ますと、数が少ないこともあり、長期的な変動はみられません。ただ、今年は日本に上陸した数はピンと大きく上ることになると思います。

 「強い台風はどうですか」ということもよく聞かれます。これも調べてみましたが、特に増加傾向はないという結果になっています。台風の変化に地球温暖化がどう関係しているのか、実ははっきりした影響は認められていません。日本のみならず、米国の気象機関がハリケーンについて行った同様の解析でもそのような傾向は認められていません。

地球温暖化はなぜ「問題」なのか

 これまで、地球温暖化によって、どのような気象変動が現れてきているかを簡単にみてきましたが、地球温暖化はなぜ問題なのかということにふれたいと思います。例えば、雪国では温暖化で雪が減って、それは生活にとってはいいことではないか、という見方もあります。ではなぜ問題になるのでしょうか。

 自然環境は非常に弱いものであり、何かあればすぐに滅びてしまいます。地球はいま、過去1000年に例をみないほど急激なスピードで温度が上昇しています。長い時間をかけた環境の変化の場合には、生物は徐々に適応していくことができますが、あまりにも急激に気候が変化すると、生き物が適応することができず、滅びてしまう可能性があります。

 また、海面の上昇のため島がなくなるといわれます。シベリアでは永久凍土が融けて建物にひびが入ったり、シベリア鉄道が使えなくなるのではないかといわれています。さらに降水パターンが変化することで、例えば、干ばつが起きてしまうような可能性もあります。

 わが国では生態系、生物多様性、農林水産、水環境、社会基盤などへの影響のほか、熱帯性の病気が増えるなど健康面での影響があるではないかといわれています。

 このようにいろいろな影響がいっぺんに出てきます。しかもその影響は複雑で、非常に広い広がりをもっていることで、大きな社会問題になると考えられています。

 最近、新聞でも京都議定書が話題になっていますが、地球温暖化の防止に向けた国際的な取り組みをさらに強める必要があると思います。

世界規模の地球温暖化の予測

 これまでは地球温暖化がどのように起こってきたかを説明しました。次に、この地球温暖化は将来どのようになっていくかを説明したいと思います。

 地球の大気や海をコンピュータのなかに再現した、気候モデルというプログラムで、大気の様子をコンピュータのなかで再現することができます(図11)。また、未来の二酸化炭素の排出量は、人々の生活や社会の仕組みなどによって変わってくるものですが、国際的に決まった温室効果ガスの排出量予測(シナリオ)があります。この両方を組みあわせることで、将来の気候変動を予測しています。

 現在、世界的に合意されている温暖化の予測をご紹介したいと思います。

 今世紀末には二酸化炭素の濃度は現在の倍ぐらいになります。その時地上の平均気温は現在より1.4℃から5.8℃上昇します。過去1000年での変化と比べると、今後の100年間の変化が、いかに大きな変動をもたらすかが分かります(図12)。またこの変動に伴って、世界の海面水位が9cmから88cm上昇すると予測されています。北半球の陸地の昇温は非常に大きいでしょう。強い雨が増えたり、夏に渇水があったりする可能性が考えられます。熱帯性低気圧が強くなるかもしれないと、予想する方もいます。なおこれは、大変に幅の広い予測になっており、未だ大きな不確実要素があるといわざるをえません。

 世界全体のことをいっても分かりにくいので、日本とその周辺についてみてみましょう。図13、14は気象庁気象研究所で開発したモデルを使った、100年後の気候変化の予測結果です。図13によると、シベリアやカナダでの温度上昇が目立っていますが、日本付近では、平均2度ぐらい上ると予測されています。また、7月の梅雨時の降水を見ると、日本ではこれまで以上に雨が降りやすくなる予想が出ています。

 次に海面水温を見てみます(図14)。海の温度は、世界の気候を支配する大きな要因です。日本の付近で相当大きな昇温が予測されています。

 また、温暖化するとエルニーニョ現象の時に良く似た海面水温になるといった予測が世界のいろいろな機関から出ています。海面水温の変動にはいろいろな要因があり、必ずこうなるというものではありませんので、これからも研究が必要と考えています。

 ここからは研究最先端の日本周辺の温暖化予測について紹介します(図15、16)。先ほどは、これから100年後に今よりも平均で2℃程度、気温が上昇すると述べましたが、山間部や北日本での昇温がより大きいと予測されています。

 年降水量については、九州と北海道の一部で減少しますが、全体としては平均約10%の増加になると予測されています。ただし、この予測技術はまだ発展途上の技術なので、細かくどうなるか、といったことはまだはっきり申し上げられません。

 また、日本海側の雪の量が大変に少なくなることが予測されています。

 次に夏の降水量は増加することが予測されており、場所によっては3割増を予測しています。特に西日本から東日本にかけて全体的に増えると予測されています。ただ、集中豪雨はどうなるか、台風がどうなるか、といった予測についてはまだ確定的なお話ができない状況です。

未来は私たちが変えられる

 今、どのような予測があるかというお話をしましたが、二酸化炭素の排出量予測には、今後の社会の発展のあり方に応じて色々なケース(シナリオ)があります。今まで示してきた予測は、今の日本及び世界の仕組みをそのまま当てはめた場合のシナリオ(A2シナリオ)に基づいています。これ以外にもシナリオはたくさんありますが、もう一つの代表的なシナリオに、もっと環境を重視したもの(B2シナリオ)があります。例えば、自動車をあまり使わないとか、公共交通や自転車、徒歩を使うといった世界です。異なるシナリオで予測がどれだけ違うかを図17に示します。

 気象庁の予測では、A2シナリオですと100年後に世界の平均気温は約2.5℃上る予測になっています。一方B2シナリオでは1.6℃ぐらいの上昇になります。どちらにしても上ることには変わりませんが、上昇量にこれだけの差が出てくると予測されています。

 将来、どのように気候変動があらわれてくるのかということは、実は我々がどんな社会をこれからつくっていくかによって、変わってくるということがこのデータで分かると思います。地球の温暖化問題は自然現象ではありません。あくまでも人間がつくりだした現象です。われわれが対策をとれば、それだけ暮らしやすい未来が待っているということです。

 地球温暖化防止のための国際的な取り組みとして、気候変動枠組条約が平成6年に発効しています(図18)。また、この条約を実施するための規定である京都議定書が平成9年に採択されています。京都議定書は、先進国がどれだけ温室効果ガスを減らすかということを決めたものですが、残念なことにアメリカが脱退してしまいました。ですがロシアが入れば発効いたします。最近は新聞などにも出ていますが、ロシアは年内にも締結し、京都議定書は近く発効するのではないかということを聞いています(注:その後2004年11月18日にロシアが締結し、2005年2月16日に発効することとなりました)。発効することによって、一歩でも二歩でも地球温暖化防止に向けた国際的な取り組みが進んでいくことになります。

わたしたちにできること

 最後に私たちにどんなことができるかについて少し紹介したいと思います。平成14年度の調査によると、日本全体から出ている温室効果ガスCO2の13%は家庭から出ています。また、21%は運輸部分で、自動車や飛行機、船などから出ています。私たちにできるのは、家庭や運輸部門での二酸化炭素の排出を減らしていくことです。

 どうすればいいかというと、化石燃料である石油やガスの消費を減らすことです。これは言い方を代えれば、「省エネをがんばりましょう」となります。省エネをすることは、地球温暖化にも効きますが、皆様の懐にも大変に優しいことになります。

 具体的な行動としては、大変にたくさんの提案がなされていますが、ここでは私が思いつくままに申し上げたいと思います。

 まず、ご自分の家庭でどれぐらいの二酸化炭素を出しているか、ご存知の方はほとんどいないと思います。このようなものを算出するための一つの方法として、環境家計簿が提案されています。まず、自動車に乗ったときのガソリンの領収書や電気の領収書を集めて、ガソリンや電気の消費量をまとめます。これらの使用量にある係数を掛けると、あなたは何キログラムの二酸化炭素を出しました、ということがわかります。インターネットが使える方は調べてみてはいかがでしょうか。

 次に、家電製品や自動車などをお買い上げになるときは、省エネタイプのものを選んでいただくことです。いろいろなラベルで性能の優劣を表示していますので、そのようなラベルのついたものを選ばれるのもいいのではないでしょうか。

 また、交通部門はCO2の排出がなかなか減らない部門です。特に自家用車の占める割合が非常に大きいものになっています。公共交通を利用していただくとか、自動車をご利用の方は、アイドリングストップに心がけるなどをしていただきたいものです。ちょっとした信号待ちでも止めていただくと効果があるようです。また、本日の講演会場のある、ここ新湊市では大変にコミュニティバスが発達していると伺っています。ぜひ、このようなバスに乗っていただいて、排出削減に努めていただきたいと思います。

 地球温暖化が世界や日本の気候にどのような影響を与えているかについて紹介しました。これから私たちはどうすればいいかということを考えるきっかけになれば幸いです。

 

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