日本海学研究機関等連携事業

日本海地域と気候変化「熱帯域の変動と環日本海地域の気候への影響」


気候講演会
2004年10月17日
新湊市農協会館

講師 富山大学理学部地球科学科
教授 川村隆一

1987年筑波大学文部技官、同地球科学系助手、科学
技術庁防災科学技術研究所研究員、同主任研究官、
ハワイ大学客員研究員、富山大学理学部助教授など
を経て、2004年より現職。理学博士

はじめに

 北陸地域、環日本海地域には気象学的な特異性があり、北陸は全国的にみても気象が激しい地域です。また、多量の降水があり、豊かな森林を育んで、非常に多様な生態系を形成しています。

 まず、北陸がいかに特異な地域、貴重な地域であるかということを説明して、後半は熱帯域の変動(エルニーニョ現象)が環日本海地域、あるいは日本周辺の地域にどのような影響を与えているか、ということについて紹介します。

環日本海地域の気象特異性の要因

 はじめに、環日本海地域、北陸地域がなぜ特異であるかということを説明します。これはあくまで気象学的な観点からですが、まず、北半球の中緯度、アジア大陸の東岸に環日本海地域が位置しています。アジア大陸にはチベット高原がありますが、このような大規模な山岳の影響で非常に偏西風が強くなっています。この偏西風が非常に強いことが、激しい気象が生じる一つの要因です。それに伴って、強烈な寒気が大陸から南下してきます。
 夏は夏で、アジアモンスーンの影響を受けます。熱帯モンスーン地域から多量の水蒸気が輸送され、環日本海、東アジア地域に貴重な生態系をつくりあげる一つの大きな要因になっています。

 忘れてならないのは、日本海の存在です。日本海は暖流である対馬海流から熱の供給を受けるため、冬の日本海上で活発な対流が生れ、北陸地域の多雨、多雪、ときには大雪をもたらす要因となっています。もう一つは冬季の雷の頻発があります。これについては後述します。
 また、富山県の急峻な地形も要因となります。東あるいは南に日本アルプスの中部山岳地帯が広がり、この山岳の影響を受けてフェーン現象が起きます。もっと詳しくみるといろいろな要素がありますが、このような条件が特異性を生み出している一つの要因になっています。

大陸の山岳の影響

 図1は1月の対流圏上層、高度が約12キロ、ジェット旅客機が飛ぶくらいの高度の大気循環(風の流れ)を表しています。気圧の谷が存在すると、この付近は非常に偏西風が強くなっていることになります。従ってアジア大陸の東側や北アメリカ大陸の東側で、気圧の谷の周辺で、偏西風が強くなっています。これはアジア大陸のチベット高原の影響、北アメリカではロッキー山脈の影響によるものです。このような地形的な影響が、大陸東岸の気象を決定している大きな要因です。

 次にもう少し日本海、北陸地域を拡大してみます。図2は気象衛星ひまわりの衛星写真です。大陸から日本海へ冬の寒気が吹き出すときは、写真のように筋状の雲が発達します。ところが点線で示した北陸地域の付近を見ると、筋状雲とはまったく直行した帯状の雲が発生しています。このような帯状の雲が北陸地域に到達すると、北陸は大雪になります。これが日本海収束帯と呼ばれるもので、これは他の地域では見られない現象です。

 なぜこのような現象が起きているのかということですが、日本海は前述の対馬海流などの影響により非常に暖かいため、大陸から寒気が吹き出すと日本海上に雪雲が発達します。それだけではなくて、朝鮮半島に標高の高い山々があるため、この山々の影響で、北側からの寒気と南側からの寒気が、まさにこの収束帯でぶつかります。このような収束によって、北陸地方は非常に大雪になります。

 同じ日本海側でも、東北地方に比べてなぜ北陸地方が大雪になるのかというと、まさしくこの収束帯のためです。日本海の影響もありますが、むしろ大陸の山岳の影響があります。先述のチベット高原とは違いますが、北朝鮮の国境あたりに広がっている山岳域の影響を受けているわけです。

冬季の雷

 次に冬の雷について少しご紹介します。図3は、北陸電力が落雷被害の軽減のために雷について観測していますが、その11月と12月の落雷の発生分布を示したものです。11月の観測データを見ると、能登半島、石川県、福井県の沿岸、そして富山県東部から新潟県南部に非常に落雷が多い地域があります。12月になると、より顕著になります。

 11月に寒気が吹き出すと、「ブリ起こし」といわれる雷が起こります。実際に11月から12月に非常に多くの雷が発生します。これは地元の人は当然のことのように思うかもしれませんが、世界的にみても非常に稀な現象です。この日本海沿岸地域と、あとは北欧スカンジナビア半島に似た現象が見られるぐらいで、それ程珍しい現象です。この特異的な冬の雷、冬季雷は、温かい日本海があって、さらに大陸から寒気が吹き出すという2つの条件が重なることで、発生します。

 逆に1月、2月になると雷が極端に減っています。これは富山県の地元の方には感覚的に分かると思いますが、真冬に雷は非常に少ないという特徴があります。

アジアモンスーンの影響

 今度は夏のアジア大陸周辺の大気状況を見てみたいと思います。図4は7月のアジア大陸上空、高度が1.5キロから1.6キロぐらいの高さの風の流れを矢印であらわしています。サハラ砂漠からアラビア半島、南西アジアは雲が全くない砂漠地帯になっています。一方、ベンガル湾から東南アジア、インドに非常に活発な雲域があります。これがいわゆるアジアモンスーンです。このモンスーン地域から大陸の東南に沿って東シナ海、日本海にと、非常に湿った水蒸気が輸送されています。従ってこのモンスーンの影響が、日本の気候、環日本海地域の気候に非常に大きな影響を及ぼすことが、この図から見てとれます。

 人工衛星から地球の陸上の植生を観測しますと、大陸の東岸の東南アジアから中国南部、そしてシベリアにかけて非常に活発な植生が見られます。これはモンスーンに伴い大陸東岸に沿って、非常に多くの水蒸気が輸送されていることと、よく対応しています。そのために、このような地域では非常に多様な生態系、植生があります。

増加傾向にあるフェーン現象

 北陸地方はフェーン現象(湿った空気が山越えなどで下降気流になり、それに伴う乾燥した熱風によって山岳の風下側で高温となる現象)がよく起こります。図5は1999年8月2日の気象庁のアメダスのデータから作成したもので、色の濃い部分は気温が高いところを、そして矢印は風の向きと強さをあらわしています。

 このときは、沖縄の東南に台風があり、台風から東シナ海、日本海にかけて、多量の水蒸気が輸送されています。さらにはオホーツク海にかけてと、熱帯から高緯度まで、一度に水蒸気が輸送されています。ですからフェーン現象といっても、そのような現象の卓越しているときは、熱帯から中高緯度まで、大きな大気循環の変化が起きていることが分かります。

 次は、富山地方気象台の観測データから、過去30年間の富山市における7月と8月に発生したフェーンをみてみます(図6)。フェーンといいますと、異常高温、異常乾燥、異常強風が特徴です。そのような条件を考慮して統計をとったのが、この数字です。右側の縦軸が日数で、左が7月・8月の平均気温です。2003年は冷夏で寒くなって、2004年はまた猛暑になっています。

 また、1999年からフェーンの発生が多くなっていることが分かります。フェーンの発生は、日常生活にも支障を及ぼし、農作物にも被害を与えます。特に1999年には5日連続でフェーンが起こりました。このようなことが起きると、例えば米の品質が低下します。いわゆる1等米の比率が低下してくることがあります。その意味でもフェーン現象というのは大きなインパクトを与えます。フェーン現象がなぜ増えているのかは、現段階ではよく分かりませんが、今後いろいろ調べていく必要があると思います。

 また、1999年のフェーンは、5日間も連続しましたが、なぜそのようなことが起きたのか調べてみました。日本の南海上には低気圧があり活発な対流のため雲が発生し、雨が降ります。逆に、東海上は雲がなくて、晴天になっています。低気圧と高気圧を継いで、要は中部山岳を越えて非常に強い風が吹く状態にあったということです。これが持続的なフェーンの起きた一つの要因です。

夏季気温変動の要因

 2003年7月の冷夏に、北海道や東北地方といった東日本では、非常に気温が低く、降水量、また日照時間も少なかったわけです。一方、2004年7月の猛暑をみると、特に日本を中心に気温が上昇していて、また日照時間も多くなっています。

 このような変動は、特に東日本と北日本で最近非常にはっきりしてきています。図7は北日本の太平洋側にある岩手県宮古市の夏季気温の経年変動です。1920年あたりから夏の気温変動を見ていくと、非常に安定している期間と、1980年代以降、非常に不安定な時期があります。このグラフは1994年で終わっていますが、それ以降も不安定な時期は続いています。

 このように夏の天候の安定な時期と不安定な時期がなぜ起きるのでしょうか。すぐに温暖化と結びつけたくなるところですが、少なくともこれに関しては、直接に温暖化の影響ではないと私は考えています。これは岩手県の例ですが、実は北陸でも似たような傾向で変動しています。

 夏の天候を考える場合、よく、気象予報士の方は、太平洋高気圧が強かった、あるいはオホーツク海高気圧が発達した、またはチベット高気圧が…、といろいろ言います。これは基本的に高気圧などの作用中心に原因を求めているものです。しかし、それぞれの高気圧が主体的に必ずしも変動しているわけではなく、別の大きな変動の結果として、これらの高気圧が変動しているわけです。

 日本の夏の天候に与える影響を考えると、熱帯からの影響、あとは中緯度である西からの影響、さらには北からの影響、このように大きく3つのルートに分けられます。それを簡単に示したのが図8です。図8の左上の図は高緯度からの影響を示しています。等圧線は気圧の高低をあらわしています。ですから高気圧の渦ができて低気圧の渦、高気圧の渦というように、まさに大気中に波が伝わっていく現象が起こり、オホーツク海高気圧が強まったということがわかります。

 このように、オホーツク海高気圧が強くなったのは、高気圧自身が原因ではなく、本当の原因は、西のほうから来ていることになります。

 左下の図が中緯度からの影響ですが、西から高気圧、低気圧、高気圧と波が伝わってきます。右下の図、これが熱帯からの影響です。例えばこの図では日本の東側の高気圧、すなわち太平洋高気圧が強まっていますので、いかにも東から影響が伝わったように見えますが、実は南西~南のほうから影響があるということがいえるわけです。このように、日本周辺の高気圧に影響を与えるルートは大きく分けて3つあるということをぜひ理解していただきたいと思います。

ENSO現象

 熱帯域において、最も大きな経年変動はエルニーニョ現象です。エルニーニョ現象については詳しく説明すると、膨大な量になりますので、要点のみ説明します。

 太平洋の赤道付近の海域では、ペルー沖で海水温が非常に低く、その西では非常に高いのが普通です。ところが温かい海水が東に移動して、急に雨の降り方もかわる場合があります。これがエルニーニョ現象です。

 図9は、太平洋の赤道上で断面を切って、海面下の水温の分布を見たものです。エルニーニョ現象時には、中部から東部にかけて非常に水温の高い領域が広がっています。

 一方、逆の現象もあります。今度は西のほうに非常に水温の高い領域が集まる現象で、これをラニーニャ現象と呼んでいます。また、エルニーニョというのは海の現象ですが、同時に大気も変動しており、これを南方振動と呼んでいます。すなわち、同一の現象を海洋側と大気側からみているわけであり、これを一緒にしてENSO現象と呼んでいます。

 図10の各図において左がインド洋で、右が太平洋です。水温の高いところに活発な積雲対流があり、海水温が変わると、大気循環が変わってきます。非常に大ざっぱにいいますと、太平洋とインド洋の東西で大気と海洋が振動している、これが南方振動とエルニーニョ現象、合わせてENSO現象です。地球規模で異常気象が起きることから、このようなENSO現象が注目されているわけです。

 中央南西アジア、アフガニスタンなどの紛争地域では1999年から2001年にかけて非常に大きな干ばつが3年連続で起きました。

 その干ばつの原因として、実はラニーニャの発生に伴い西大平洋の水温が高く、東南アジアで活発な雨が降りその影響がアフガニスタン周辺の中央・南西アジアに干ばつをもたらしたと指摘されています(図11)。緯度でみますと、日本とさほど違いません。熱帯の影響が直接に中緯度の気候、あるいは気象に影響を及ぼすということです。

 それでは日本はどうかというと、日本もまさに同じ時期の1999年から2001年にかけて非常な猛暑を経験しています。これはたまたま偶然ではなくて、春から夏にかけてフィリピン付近で非常に対流活動が活発になり、熱帯からの影響で日本付近に高気圧が強まることで、猛暑となるわけです。このようなプロセスが実際に起こっていました。春から夏にかけての西太平洋からインド洋の大気と海洋の状態はつながっていて、中央・南西アジアの干ばつと日本の猛暑というのは、全く偶然の出来事ではないのです。(図11)

おわりに

 熱帯域が変動すると、その影響が大気中を波として伝わり、日本付近、環日本海地域や東アジア地域に大きな影響を及ぼします。このようなことが最近、私の研究をはじめとして、いろいろな研究で分かってきました。

 ただ、現在のように地球温暖化の現象がどんどん強まってくると、今までの気象現象を引き起こすプロセスが変わってくるかもしれません。今後、温暖化とエルニーニョ現象の複合的な災害が増えてくる可能性もあるわけです。そのような複合的な災害が、はたして最近のエルニーニョ発生の増加と関連しているのか、その点をきちんとモニタリングしながら、プロセスを理解していく必要があります。

 熱帯域の変動、あるいは地球規模の変動が日本や環日本海地域の夏の気象に非常に密接な関係があることを少しでも理解していただけたらと願っています。

 

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