日本海学研究機関等連携事業

日本海地域と気候変化 「環日本海における環境面での連携協力」


気候講演会
2004年10月17日
新湊市農協会館

講師 (財)環日本海環境協力センター
参事・調査研究部長 土肥宗英

1971年富山県入庁、富山県環境政策課主幹、富山
県環境科学センター生活環境課長、富山県環境政策
課廃棄物対策班長、富山県環境保全課長を経て、
2004年より富山県環境科学センター次長、(財)環日本
海環境協力センター参事・調査研究部長を兼務

はじめに

 海は私たちに豊かな恵みをもたらしてくれる共有財産です。また、海は地球環境の気象緩和や持続的発展に欠かせない重要な役割を果たしています。

 そこで、地球環境のなかでの海の役割と、私どもが一翼を担っています環日本海地域の環境保全の活動状況をお話しながら、環日本海地域の共生と循環が保たれるように皆様と考えていきたいと思っています。

 環日本海は日中韓露が取り巻く地域ですが、日本が過去にそうであったように、特に中国や韓国では最近の急激な近代化、工業化、人口の増加と一極集中などに伴って、環境問題が心配されています。このような問題は一国だけでは解決できないということはお分かりのことと思います。

世界のオンリー湾

 富山湾には世界で誇れるものが色々あります。一つは定置網です。海にも人にも優しい漁法として今世界が注目しています。それから蜃気楼、不思議な海の自然現象です。世界で唯一の白エビ漁場、それからホタルイカもそうです。ホタルイカは魚津や滑川でいっせいに身投げする(海浜に打ち上げられる)という本当に不思議な生態を持っていますが、このホタルイカが群游する地域が天然記念物になっています。

 それから海のブランドである寒ブリ、海洋資源の深層水、そして何といっても海に浮かんで見える3000m級の絶景である立山連峰など、世界のオンリーワンが富山湾にも色々あります。

図1は定置網です。このような構造でブリやマグロなど大型の魚を捕る仕組みになっています。海面に出ている浮きが幾何学的な模様を描き、 遠いところから見ると非常にきれいなものです。


海の歴史

 皆さんは海にどのようなイメージをお持ちでしょうか。おいしい魚が捕れる、台風のときに巨大な牙をむくエネルギー、それから釣や海水浴、さらには、海を眺めたときには広いおおらかな気持ちになったりします。

 まず、海を知ることから始めたいと思います。海の広がりと生い立ちですが、海は40億年前につくられています。地球表面積の3分の2を占め、平均の深さが4kmです。

 海の担っている役割ですが、空気中の炭酸ガスを、まず雨水に溶かして陸地の岩に含まれているカルシウム、ナトリウム、塩素等との反応により、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムといった形にし、炭酸ガスを海の中に固定しています。これは地球温暖化にも関係するものです。またNaCl(食塩)が反応で出来るため、海水はしょっぱくなっています。

 次に海の誕生と生い立ちについて、少し勉強をしてみたいと思います。それは酸素の増加と生物の進化の話でもあります。

 まず地球は微惑星が次々に衝突して、46億年ほど前に誕生しています。火山が方々で爆発しており、溶融マグマがドロドロと流れていた時代です。その微惑星の地球への衝突が少なくなり、冷やされてきますと、今まで非常に高い温度で水蒸気であったものが、だんだん冷えて海ができました。これが42億年前です。

 そのころの地表には、宇宙線、プラズマや紫外線が降りそそぎ、これに当たると生物は生きられないので、海底にのみ生物が存在していたわけです。強い磁場が27億年ぐらい前に発生し、宇宙線が遮へいされ、生物がどんどん海の表面に出てきました。これにより太陽エネルギーを使って、水と二酸化炭素(CO2)から有機物と酸素を生み出す光合成が行われるようになったのです。その次に、オゾン層が成層圏にできて、太陽の紫外線等が遮へいされ、生物が陸上に上がるようになりました。私たちが生きることができる世界になったわけです。

 ここで考えなければいけないのは、オゾン層が破壊されるということは、オゾン層によって私たちが守られていますが、それが無くなってくるということです。そうなると、また生物がどんどん海底の奥に潜って行く可能性があると思います。私たちは何十億年という地球のサイクルを謙虚に受け止めないといけないのではないかと思います。


海の役割と循環

 次に海洋の役割です。海洋生態系の自己調整機能ですが、急激な気象の変化を緩衝してくれます。地球に海が無くなりますと、一日の温度差が30℃にもなるということです。それから自浄作用の機能です。海は自分で自分を回復する能力をもっています。汚れたものが来れば浄化します。熱くなれば冷やそうとします。また、大規模な炭酸ガスのストックという機能もあります。化石燃料を使って私たちがここ数十年の間に、どんどんCO2を出していますが、これを調整してくれています。しかし、どれだけでもストックをしてくれるわけではありません。

 海洋は大きな循環をしています。深層水のコンベアベルトというのは、ブロッカーという博士がベルトコンベアに例えて、深層水がどのように循環しているのかを説明したものです。それは北西太平洋で海が冷されて潜り、それが大西洋の西を通りまして、南極あたりで冷やされながら太平洋の東側で温かくなって上昇するわけです。さらに貿易風の影響で、インドネシア、インド洋へと流れ行き、海の流れはサイクルになっているわけです。地球を一巡するのに2000年かかっているといわれています(図2)。

 海の循環につきましては、日本海についても同じような循環があります。黒潮から発生した対馬暖流によって北上しますが、ロシア沿岸で冷やされながら、また戻ってきて、循環が成立しています(図3)。日本海は200年で循環するといわれています。200年と比較的に短い周期ということで、海の循環を研究するのには、格好の場所になっています。

 すべてが地球温暖化のせいとはいえませんが、この日本海の北で海水がだんだん潜らなくなっています。新鮮な海水が潜らなくなると、日本海の深いところで3000mほどありますが、そこに酸素が供給されなくなるということも懸念されています。中国側の渤海等は非常に浅い海で水深130mほどです。津軽海峡が130m、間宮海峡は15mだそうで、このような浅いところに囲まれた水深3000~4000mの海水の循環というのは、本当に気をつけないといけないと思います。

海洋汚染とその対策

 それから地球規模の環境汚染問題です。海洋でも地球規模の汚染が発生しています。まず、代表的なものは化学物質です。ここ数十年で、非常に化学が発達しています。合成樹脂、プラスチック、それから合成洗剤、農薬、調味料、医薬品、飲料など世界では1千万種もの化学物質が、人間の手で作られてきたともいわれています。

 化学物質でも、先ほどの太陽の紫外線で分解されるものもありますが、このなかでPOPs(難分解性汚染物質)、例えばPCBや非常に効き目の強い農薬などは、なかなか分解しないで残っています。それが食物連鎖でプランクトンやお魚を経由し、人間に戻ってきます。それは魚などが悪いのではなくて、もともと人間がつくって、それが濃縮されて人間の元に戻ってきているということです。

 それから次に重金属汚染です。このなかには水銀、鉛、TBTとかがあります。TBTというのは、トリブチルスズといいまして、船底に貝が着かないようにする防汚剤ですが、これによって、一時、貝がメス化して繁殖しなくなるということが起きています。これは製造中止、使用禁止になっていますが、魚津水族館の学芸員の調査によると、その結果、貝も元に戻ってきたという、うれしい話もあります。

 それから原油汚染やプラスチック汚染があります。ナホトカ号の原油流出事故の際に、私はボランティアで珠洲市へ行ってきました(図4)。このときは本当に大変で、寒い日にマスクをしながら作業をしましたが、私がこのときに感じたことは、人間一人ひとりが集まればすごいことができるということです。原油は薬をまいても、機械作業でやっても、なかなか取れません。薬をまくと二次公害が発生しますが、一人ひとりの人間の活動というのは、本当に素晴らしいなということを経験しました。

 海洋汚染対策ですが、海は広くて、一国だけの取り扱いでは難しいものです。それで現在、国際的な取り組みとして、国連海洋法があります。これは海洋汚染を防止する世界の憲法です。またマルポール条約という船舶による汚染を禁じたものがあります。またPCBや残留農薬ですが、この農薬などの製造を禁止したり使用を制限したりすることを目的としたPOPs条約も締結されており、徐々にではありますが効果が出ていると思います。

 今、直接人間に影響を及ぼすような海洋汚染は少なくなりました。ただ、微量ながら南極、北極でもPCBやダイオキシンが検出されており、非常に気をつけてないといけません。

 対策の一例として、国連環境計画(UNEP)というものがあります。これはカスピ海、地中海など、地球の海洋保全上重要な地域を指定しまして、その保全に関する行動計画を国連で進めているものです。環日本海地域は非常に閉鎖的であるということをご理解いただいたと思いますが、ここに北西太平洋行動計画(NOWPAP)があります。新聞で「NOWPAP本部事務所富山に設置」という記事を見られた方もおありかと思います。NOWPAPというのは、北西太平洋、いわゆる日本海及び黄海を保全する行動計画のことです。私が所属する環日本海環境強力センター(NPEC)もその役割を担っています。

富山県の取組み


(富山県/国土地理院許可平6総使第76号)

 富山県では、日本海学を推進しています。これは日本海の過去、現在、未来にわたって持続的発展が可能な循環共生を図ることを目的としています。

 皆様、この地図をご覧ください(図5)。日本海を取り巻く日本、韓国、中国、ロシアが、本当にみんな手をつないでいる形です。これは「逆さ地図」といって、国土地理院からも了解をとって富山県が作成したものです。富山県では、この地図に見られるような柔軟な発想を基に、環日本海地域における人間と人間との交流、それから人間と自然との交流等をテーマとして日本海学に取り組んでおります。

 今、一番大きな問題のひとつは、環日本海地域の環境に関する危機の回避です。この危機には、大陸の砂漠化による黄砂、工業化、中国ではまだ燃料に石炭が使われていますが、そのようなものからの酸性雨、更に、森林破壊などがあります。

 環日本海地域の環境協力について、これから述べてみたいと思います。なぜ、富山県が環日本海地域の環境協力を行うのか。富山県は水深1000mから標高3000m、高度差4000mの海と陸が融合した、典型的な水循環システムをもっています。山に降った白い石炭(雪)が地下を潜りながら、豊富できれいな地下水を供給し、私たちの日常生活や工業生産、富山県の発展に大きく寄与してくれています。このような日本海の循環のモデルケースが富山県に存在するということです。また、色々な公害を克服してきた技術やノウハウを持っていることです。

 少し話が脱線しますが、富山市のあるところの名水、確か田中耕一さんが育った地域にある名水ですが、頭がよくなる名水としてPRしています。田中耕一さんは、このように物を大切にする、もったいないという土壌で育っていますから、ノーベル賞も頂けたのではないかと思っています。

富山湾の水質改善

 富山県は過去の高度成長期においては、「イタイイタイ病」をはじめ多くの公害が発生し、「公害を勉強したければ富山県に来い」、「公害デパート県」といわれるような不名誉な時期もありました。しかし、昭和40年代から小矢部川、神通川の有機汚濁の状況をみますと、今日までに当時に比べ10分の1まで改善しています(図6)。


 ところが、近年、陸域からの汚濁負荷が低下しているにもかかわらず、富山湾の水質が1997年辺りから悪くなってきています(図7)。COD基準値達成率は100という数字が一番いいのですが、1998年は36、1999年32という数字に低下しています。いままで100%であったものが悪くなってきたわけですが、この原因について研究調査した結果、川から海に入る汚濁負荷は変わらず、むしろ改善ぎみです。しかし、富山湾に窒素、リンを栄養源としてプランクトンが増殖して、さらに有機物を生むということで窒素、リンが増えたことが原因であることが分かりました。


 しかし汚濁機構の解明がまだ不十分であるということで、現在「富山湾水質改善対策推進協議会」をつくって、官民が一体となって改善に取り組んでいます。この結果、発生源の窒素が削減され、平成15年度は88%、16年度も確かこれぐらいの数字になり、徐々に改善されています。今後とも原因解明をしながら対策も進めていくことになっています(図8)。


NPECの取組み

 次に私の所属いたしますNPECの活動を紹介します。まず、富山県は多くの公害を克服してきた経験があり、また富山県は地理的にもいづれの対岸諸国とも近く、そして富山県にはダイナミックな水循環システムがある、ということから対岸諸国と連携して日本海の海洋環境保全に取り組んでいます。その担い手として「環日本海環境協力センター」を平成9年に任意団体として設立しました。そして、翌年に国の認可する財団法人として設立許可をいただきまして、今日にいたっています。

 NPECの活動の一つに、海辺の漂着物調査があります。これは海岸に漂着するゴミを、日中韓露の54海岸で協力しながら調査をするものです。8種類のプラスチック、ゴム類、金属類などを分類して調べています。富山県では、岩瀬や島尾で調査をしています。


 図9はその調査結果ですが、調査地点を南からA、B、C、D、E、F、Gとしていますが、漂着物の数は、A、つまり南のほうが多くなっています。対馬暖流に乗ってくるということです。それから重量についてもA、B、Cの順で多いわけです。長崎の壱岐の島では、海外のものが20%ほどあるそうです。富山県では、たまにハングル文字や中国のものが見られますが、北のほうにいくにしたがって少なくなっています。

 この調査は児童・生徒の協力を得て行っていますが、ゴミを棄てない、海の環境保全を考える、という心の醸成を図る事業でもあります。この他には、渡り鳥調査をロシアと一緒に行っています。

中国の環境保全の取組みと富山県の協力

 中国は現在急激な経済発展途上にあり、環境問題を重要と考えています。そして緊急に環境対策が必要な地域を対象に「3、3、2、1、1、環境政策」というものを掲げています(図10)。

 「3、3、2、1、1、環境政策」とは、3つの川、3つの湖、酸性雨と硫黄酸化物の規制区の2、それから人口の非常に集中する北京の1、渤海の1です。私は先日まで北京にいましたが、本当に大気汚染がひどく、飛行機からも見えるほどで、やはり改善してもらわないといけないと思いました。そのためには、これまで培った日本の公害防止技術の協力を行い、改善していかないといけないと思ったところです。

 このなかの一つで、富山県が協力しているのが遼寧省の遼河です。この遼河は1500kmの長さで、日本では考えられない大きな川です。5年間ほど中国の遼寧省とNPECが共同で、水質を測って水質改善をするための提言をしたりしています。国際協力機構(JICA)の協力も得ています。この協力もあって、遼寧省では汚濁負荷の規制をし、水質も多少改善したということで、大変に喜んでいます。

 この遼東湾、渤海のチッソ、リンは、日本から日本海側へ出す窒素、リンの30倍ほどの負荷です。赤潮が発生し、漁業被害も10回、20回と発生し、大変な地域と聞いています。17年度からはこの遼東湾の水質改善について、先ほどの富山湾の水質改善で功を奏しつつあるといいました技術を移転しながら、改善に協力していきたいと思っています。

NOWPAPによる国際的な環境保全活動

 NOWPAP本部事務所はケニアのナイロビにありますが、NOWPAP富山事務所が、晴れて平成16年11月1日に富山市に開設されます。日本海側ではじめて国連の旗が立ちます(図11)。

 この中の地域活動センターとして、中国では「DINRAC」で日本海の環境のデータベースをつくりましょうということになっております。またロシアは「POMRAC」で、汚染に対しての様々なモニタリングの役割を果たそうとしています。韓国では「MERRAC」として、海洋研究所で油流出の緊急計画の策定をやっています。そして日本のNPECでは、特殊モニタリングということで、リモートセンシングにより、海の富栄養化のモニタリングをできるようにしています。また、赤潮等の有害な植物ブランクトンに関する資料収集、モニタリングを分担しています。これはNPECが富山県と連携しながら進めているものです。

リモートセンシングによるモニタリング

 リモートセンシングのモニタリングの一つとして、宇宙を飛んでいる衛星のNOAAやF1-Yを利用したシステムがあります。この衛星が富山湾の海色をキャッチして、富山県小杉にあります環境科学センターのシステムに入力されます。

 それから、実際の富山湾のクロロフィルaや水質汚濁状況を船で調べています。これは現在、富山商船高専との共同調査でやっています。実測値とリモートセンシングから推測したものを合わせて、環日本海の汚れを高い精度でモニタリングできるように調査研究しています。

 図12、13はその結果の一例です。これは富山湾の画像ですが、1999年6月9日に富栄養化のプランクトンは、つまり汚れだといってもいいと思いますが、図12のように分布していました。それが5日後には図13のように移動しています。東に進みながらも、もう一度、湾外から湾に戻ってきています。

 5、6年前に宮川や神岡の方からたくさんの流木が流れました。海の流れは西から東に向いているのに、なぜ新湊とか氷見にあれほどたくさんの流木が来たのかというと、この図を見ていただければ分かるのではないかと思います。一回東に向いて、また戻ってきます。これも、リモートセンシングを活用して得られた成果の一例です。


 これをもう少しグローバルに、日本海、黄海のプランクトンの状況をみてみます(図14)。この色の濃いところが富栄養化しているところですが、北海道の太平洋側のプランクトンなどは悪さをしない種類です。中国の遼東湾、渤海あたりは、確かに人為的なものによる富栄養化だと思います。このような汚れ具合を一気に、連続して簡単に見られることがリモートセンシングの特技の一つです。

 図15は、毎年春に大陸から飛んでくる黄砂です。これも小杉にありますリモートセンシングで捉えた図です。これを見ますと日本に黄砂が来ていることがわかります。大陸の砂漠化が進んでいて黄砂が来ているようです。この黄砂については気象庁が、砂漠に色々な機器を設置して、その発生のメカニズムを研究していると聞いています。


私たちひとりひとりが守る海の環境

 海は人間が生きていくうえにおいて大事なものです。そして私が訴えたいことは、40何億年もかけて、今の海があるのだということです。その海を近年の短い間に、私たちが汚してはいけません。

 例えば、最近ではサンゴ礁の変質があったり、アザラシの1万頭、3万頭の大量死が起こったりしています。アザラシの大量死も、シアンなどで死んだのではなく、少ない汚れである化学物質や重金属を体内に蓄積して、抵抗力が弱って大量死に至ったのではないかといわれています。

 海は私たちにとって非常に大きな役割を果たしてくれますが、大きいだけに、その疲労度合はすぐ目には見えません。それ以上に、化学物質を作るのが悪いのか、使うことが問題なのか、これをやはり考えてみないといけないと思います。

 私たちひとりひとりの生活を改めて、きれいな海、地球環境を次代に結びつけていきたいと思っています。

 

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