日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「富山湾における河川から深海への土砂輸送過程」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

○中嶋健(産総研・地圏資源環境)
キーワード:富山湾・土砂輸送・混濁流・海底谷

 富山湾周辺での河川から探海への現在の土砂輸送過程の概略をレビューする。

 富山湾の地形の特徴は、湾底が深く、陸との境界部はきわめて急傾斜の海底斜面となり、大陸棚かほとんど発達しないことである。北アルプスから富山湾に流れ込む庄川、神通川、常願寺川、黒部川、姫川等の主要河川の河ロ沖には、急傾斜の海底斜面に深く刻まれた海底谷の谷頭が河口のすぐ先まで迫っている。これは河川が富山湾へと運んだ土砂が直接深海へと流下している証拠である。大陸棚の発達した通常の海岸では、海面が低下した過去の氷河期のみ河川と海底谷が直結し、高海面期の現在では土砂はほとんどか大陸棚上に堆積し、深海への直接流出は起こりにくい。したがって、富山湾は河川から深海への土砂の流出が現在も活発に発生している世界でも稀な場所である。

 河川により富山平野に供給される土砂総量はダム建設的の自然状態で7×10^6m3/y(2×10^7ton/y)程度と推定され、そのほぽ全量か富山湾へと流出する。河川から海底への土砂輸送過程は次の二種類がある。(1)洪水時に河口付近の海面に広がった高懸濁プルームからの粒子の半遠洋性沈降。(2)混濁流による海底面上の土砂輸送。富山湾においては量的に両者ともに重要であると推定される。

 (2)はさらに、大洪水時の高密度河川水か直接海底面上を流下する現象と、河口付近にプルームからの沈降で一旦堆積した土砂、または河口から沿岸流で漂砂として運ばれ別の場所に堆積した土砂が高波浪時等に海底地滑りにより流下する現象とに分けられる。

 こうして発生する富山湾内での混濁流のうち、小規模なものはすぐに消滅すると推定されるが、稀に発生する大規模なものは、富山湾の急傾斜の海底斜面上で加速し、海水を取り込んで流れの容積を増すとともに、海底斜面上の堆積物を浸食により取り込んで流れの密度・モーメントを増加させる。富山湾底の地形が海底谷等の浸食地形に富むのは、混濁流による浸食作用の結果である。

 海底谷を通って富山湾底に達した混濁流は、やがて富山深海長谷へと合流し、富山トラフ、大和海盆を経て日本海盆へと700km以上も流下して深海扇状地を形成している。富山深海長谷沿いに堆積した混濁流の堆積物は、半遠洋性堆積物に較べて陸上起源の有機物に富む。したがって、混濁流は階上から深海へのCarbon Sinkの重要な担い手であると言える。

 富山湾内での土砂の輸送・堆積過程は、海底堆積物の無機化学分析を用いた元素トレーサによっても示されている。黒部川花崗岩に多く含有されるK及び姫川流域の超苦鉄質岩に特有のCrの高濃度域は、それぞれ、黒部川扇状地前縁と、姫川海底谷から富山深海長谷に延びた分布を示し、混濁流による輸送・堆積を示唆する。一方、紬粒粒子とともに挙動するZn(及びCd)の高濃変域は神通川・庄川河口から富山湾内を時計回りに回転した分布を示し、河口から排出されたプルームの湾内の海流による拡散を示唆する。