日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「冬季中部山岳地域における長距離輸送物質の降下・沈着状況」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

○遠山和大(富大・情基セ)
佐竹洋・松田隆弘・松本絵菜(富大・理)
川田邦夫 (富大・極東セ)
キーワード: 山岳地積雪・化学組成・長距離輸送・wash out

 冬季の北アルプス山岳地域には、大陸からの寒気の吹き出しに伴う大量の降雪がある。そして融雪期を迎えるまでの間、低温な環境下で積雪が保存される。地元の汚染源から離れた山岳地帯の積雪を物理・化学的に解析することは、冬季において増加する中国大陸からの化学物質や、黄砂の長距離輸送状況を解明する上で重要である。このため、これまでにも立山を中心に雪氷観測が行われてきた。本研究では、北アルプス山岳地、更にそれを越えた内陸へ物質が輸送される過程で、降水に含まれる化学成分がどのように変化していくかを解析するため、冬季の卓越風向である北西-南東の測線に沿って、日本海から八ヶ岳にかけて約150kmの観測を行った。このような長い測線に沿った山岳積雪の化学的観測には例がない。

 

図1 観測地点

 融雪期が始まる前の2004年2~3月に図1に示した医王山から八ヶ岳に至る6地点において積雪の断面観測を行い、積雪表面から底面までの連続的な試料採取を行った。得られた試料について、主要化学組成の分析を行った。

 

 日本海の海塩を起源とするCl-やNa+の濃度は、海岸に近い医王山(平均 244 μeq/L)や金剛堂山(103 μeq/L)で高かったが、内陸に位置する西穂高岳(19 μeq/L )~八ヶ岳(8 μeq/L )では医王山の1/10以下と非常に低かった。一方、大陸起源と考えられる人為的汚染物質のnss-SO42-も、海岸近くに位置する医王山( 47 μeq/L )で最も高い濃度をとり、内陸の八ヶ岳( 16 μeq/L )にかけて濃度が低下していた(図2)。大陸からの物質輸送状況の指標として用いられるnss-SO42-とNO3-の当量濃度比(S/N比)は、北アルプス西側(季節風の風上側)の医王山~西穂高岳で、東京の値(2)と北京の値(4)の間に多くの試料が分布し、東側(風下側)の鉢盛山~八ヶ岳では2以下の値をとる場合が多かった。これらの結果から、冬季に大陸から飛来し、北アルプスの西側から輸送される様々な化学物質が、東側に向かって降水と共に降下し減少しながら太平洋側に至っていることが示された。このように、北アルプス山脈を越える際に大気中からwash outされた化学物質の各地点での総沈着量は、たとえばnss-SO42-の場合、医王山(2.24g/m2 )・金剛堂山(1.63g/m2 )・西穂高岳(1.07g/m2 ) ・鉢盛山(0.52g/m2 )霧ヶ峰 (0.24g/m2 )・八ヶ岳(0.33g/m2 )と見積もられた。北アルプスの西側は降水量が多いこともあり沈着量が多いが、西穂高岳のような北アルプスの高山地帯にも、風下側の地点と較べて倍以上の量の化学物質が沈着していることが明らかとなった。

 

 

図2 各地点でのSO42-濃度の鉛直分布

 

 長距離を輸送されて来て、山岳地域に沈着する化学物質が、その環境にどのような負荷を与えているのかを調べることは、今後の重要な課題であろう。