日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「能登半島東岸に発生する急潮について」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

○大慶則之・奥野充一(石川県水産総合センター)・千手智晴(九大応力研)
キーワード:急潮・能登半島・エクマン輸送

1.はじめに

 能登半島東岸では、台風や発達した低気圧が能登半島沖を通過した後、沿岸の流れが突然強まり、定置網漁具が破損・流出する現象(以下急潮)がたびたび発生する。近年では、台風の接近・上陸が相次いだ2003 年から2005 年にかけて、合わせて20 億円に達する甚大な急潮被害が発生し、定置網漁業の経営に深刻な影響を及ぼした。能登半島東岸の急潮に関しては、その被害が甚大であるにもかかわらず、これまでに急潮の実態や発生要因に関する知見は得られていない。我々は、2000年から能登半島沿岸に複数の係留観測点を設けて、急潮の実態解明とその予測に向けた連続観測を開始した。ここでは、急潮時の水温・流況の変動が捉えられた2003 年の観測事例から、能登半島東岸海域における急潮の特徴について報告する。

2.観測
図1 観測図(1:高屋、2:長手崎、3:小木、
4:前波、5:大野木、6:舳倉島)

 図1 に示す5 測点(高屋、長手埼、小木、前波、大野木)の10m深にメモリー式流向流速計を係留して30 分ごとに流況を観測した。各測点の水深は、高屋、長手埼、小木、前波、大野木の順に各々63m,63m,75m,80m,73m である。前波では3~54m深まで13 層、小木では3~33m深まで9層にメモリー式水温計を係留して10分ごとに水温を観測した。風のデータは舳倉島灯台の観測値を使用した。


3.急潮時の流速変動

 2003 年6~9月にかけて最大流速が90~100cm/s に達する3回の急潮が観測された。このうち、台風14 号通過前後に観測された舳倉島の風速変動(北東-南西成分)と各測点における流速の主軸方向成分の変動を図2 に示した。台風14 号は9 月13 日に日本海の沖合を980hPa(50Kt)の勢力で通過した。舳倉島では、9 月13 日11 時より南西の風が強まり、17時に最大風速21m/sが観測された。高屋では、南西風の強まりから若干遅れて、能登半島先端に向かう北東向きの流れが強まり、18 時30 分に64cm/s が観測された。一方、能登半島東岸の長手埼では、19 時から南西向きの流れが強まり20 時30 分に52.3cm/s が観測された。この後、小木、前波、大野木と、各測点で等深線方向に沿って湾内を反時計回りに伝播する強流が観測された。

 小木沖では最大流速が86.1cm/s に達した。長手埼から大野木までの測点間における急潮の伝播速度は、最大流速が観測された時刻の時間差と測点間の距離から、54~92cm/s と見積もられた。
 

図2 舳倉島の風速(北東-南西成分)と
各測点における流速の主軸方向成分の変動

 

4.急潮時の水温変動

 台風14 号通過前後の小木と前波の水温観測結果を図3 に示した。両測点とも表層(3~33m深)の水温は13 日正午過ぎから夜半にかけて急速に低下した。これは、強い南西風による沿岸湧昇によるものと考えられる。その後、強流の発達とともに表層の水温低下と中・底層の水温上昇が顕著となり、最大流速後に水温が24℃に一様化した。前波では小木より遅れて水温の上昇が起こり、成層が突然崩壊した。このことは、50m 以上の厚みを持つ暖水が両測点に進入したことを示している。以上のことから、観測された急潮は、台風にともなう強い南西風によるエクマン輸送のため、能登半島西岸に蓄積された表層の暖水が、陸岸に捕捉される形で半島東岸に伝播したことにより発生したと推察される。
 

図3 小木と前波で観測された水温変動
(上段は流速の主軸方向成分の変動)