日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「富山湾の大型生物の分布について」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

○三宅裕志・崎山直夫・北田貢(新江ノ島水族館)
キーワード:大型生物・日本海固有水・底質

<はじめに>

 富山湾は駿河湾、相模湾にならぶ深い湾でその水深は1000m以上に及ぶ豊かな海として知られている。富山湾は科学的調査も進んでおり、潜水船やROVによる潜航調査も進んでいるが、1つの航海でまとまった潜航調査ができていないこともあり、大型生物の解像度の高い詳細な分布などはこれまで報告が無いと思われる。

 本研究では9日間の航海で富山湾のさまざまな地点で海洋研究開発機構のROV「ハイパードルフィン」を用いて11回潜航調査をすることができ、水深1m単位の生物の分布を観察できたので、そのまとめを報告する。

 

<材料と方法>

 2005年7月6~14日に海洋研究開発機構の無人探査機「ハイパードルフィン」によるオオグチボヤを中心とした潜航調査(NT05-10)が行なわれた。航海期間中には、七尾湾沖北海域(1000m)、七尾湾沖南海域(1000m)、魚津沖北海域(600m)、魚津沖域海域(600m)、氷見沖海域(800m)、新湊沖海域(400m)、親不知沖海域(900m)、北鳥ヶ首海域海域(1100m)で合計11回潜航が行われ、水深1100m~170mまでの海底斜面が観察された。

 それぞれの潜航調査では、ハイビジョンカメラ映像に映し出される大型生物をリアルタイムでピックアップし、さらにビデオ録画した映像からピックアップした。その際にその出現環境として底質と水深を記録した。また、その水深における、水温、塩分、溶存酸素量はハイパードルフィンに装着したCTD-DOメーターにより測定した。

 

<結果と考察>

 潜航中に観察されたのは、海面類、刺胞類、クシクラゲ類、多毛類、腕足類、棘皮類、巻貝類、頭足類、尾虫類、被嚢類、魚類がなど50種以上観察された。それぞれの生息場所の底質は泥、露頭などの岩場の急崖、転石、礫などがみられたが、ほとんどが泥底で、その他の場所でもかなりの泥がかぶっていた。物理化学的環境要因では、水温は250mから300mあたりに水温、塩分躍層がおわり、それぞれ1℃以下、34.1PSU程度となった。それ以深では水温、塩分、溶存酸素量が一定した環境となり、日本海固有水が卓越していた。

 水深250~300mあたりから、浅海種と深海種の区切りが見られ、それ以浅では魚類において、カサゴやメバル、ホッケ、カレイなど浅海種がみられるようになった。

 数多く見られた生物群の分布を見ると、刺胞類では、ダーリアイソギンチャクは水深500m以下の砂泥底にみられ、ウミエラの仲間は700~900m、ソコクラゲは500m以下の岩盤やオオグチボヤの上に見られた。棘皮動物ではニチリンヒトデが500m以下で見られ、クシハダクモヒトデは250m以下に見られ、特に250-400mあたりによく見られ、ウミシダ類は230-500mの転石など硬い底質のある場所で見られた。魚類においては、ゲンゲ類、カジカ類が250m以下の水温2度以下の環境でみられ、ゲンゲ類は底質は関係なく見られたが、カジカ類は岩などが有り、海底に変化のあるところに多く見られ、礫質の場所においては卵も確認できた。ビクニン類は水深500m以下で多く見られ、露頭のある場所などに多く見られた。水槽内では入り組んだ構造物に卵塊を産み付けるので、そのような場所に多く見られたのかもしれない。富山湾で有名なシロエビは躍層直下の250-350mの層に高密度に見られた。オオグチボヤは水深250m以下の水温2度以下の環境でしか観察されず、硬い底質のある露頭や岩、石などに付着していた。また、オオグチボヤは空き缶やビニール等のゴミにも数多く付着しており、本来生息場所ではないと思われる泥底においても、それらの人工的なゴミがオオグチボヤの生息場所を提供しているものとおもわれ、我々の活動がオオグチボヤの生息場所を拡大していることが考えられた。

 観察された生物群で分布の違いが出てきた要因は、底質と水深、水温であり、特に水深と水温に関係する日本海固有水の切れ目が深海種と浅海種切れ目になり、そこに底質が加わり生物の分布が決められていくのであろうと思われる。

 富山湾は日本海であるため、太平洋岸の深い湾である相模湾、駿河湾に比べると非常に種の多様性が低く生物相が単純であるが、他の日本海海域での潜水船による潜航調査の結果と比較すると、生物の量は非常に多く、豊かである。富山湾を取り囲む自然の豊かさと、それを海に運んでくる地質的構造が豊かな富山湾を維持しているものと思われる。