日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「富山湾深海に棲息するオオグチボヤの生存採取と運動特性」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

三輪哲也(海洋研究開発機構・極限生物センター)
キーワード 富山湾・深海・オオグチボヤ・運動

 2001 年7 月における「しんかい2000」を用いた富山湾調査により、長沼らの調査グループが最初にオオグチボヤのコロニーを確認して以来、富山湾海底における底生生物分布の謎が広く知られるようになった。2005 年7 月において、再度「ハイパードルフィン」による富山湾深海領域における生物分布の確認を行う調査が実施され、富山湾深海海底において、広くオオグチボヤが継続的に生息することが確認された。

 オオグチボヤは原索動物であり、ホヤ類のなかでもカラの無い内性の、亜種の少ない深海性の珍しい形態を有している。オオグチボヤは、日本近海やアメリカ西海岸などのいくつかの深海海底長谷において存在が確認されているが、富山湾においてはコロニーが形成されていることが特徴である。このような深海生物の研究は、その情報がきわめて少ない。その理由は、極域に棲む深海生物の採取が偶然の出会いに支配されていること、深海生物のサンプル回収方法や船上での飼育・輸送システムが十分に検討されていないこと、さらに生きたままのサンプリングが環境変動を大きく受けるために容易でないこと、それらの理由が重なって生物の動的な環境応答研究まで持っていくためのサンプル数が圧倒的に少ないことなどによると考えている。我々は深海多細胞生物研究の基礎的な準備として、深海生物をサンプリングし、その現場環境を保持し深海生物を捕獲することを目的とした装置(DEEPAQUARIUM)を開発し、深海生物の生きたままの採取と飼育・保管を試みている。さらにその目的は、深海の多細胞生物の多様性と特異性を明らかにするため、動的な生態計測が可能な、生きている生体組織もしくは細胞を確保し、最終的には深海生物の組織細胞培養株の確立まで進めることが必要であるという仮説を実証するためである。

 本報告では、富山湾におけるオオグチボヤの生存捕獲方法を種々検討し、水族館での長期飼育まで持続的に保管し、実験生物としての安定利用が可能かを検討したことについて報告する。

 オオグチボヤは、その形状が独特で、非常に大きな入水孔前部を有し、その入水孔前部を開閉するのが特徴である。大気圧環境下での飼育の開閉のパターンを検討した結果、写真に示すよう3秒程度の閉口行動と、1 分程度の開口行動を繰り返すことが見いだされ、入水孔前部に存在する微細毛が刺激されることにより閉口することが確認できた。さらに、圧力環境をDEEPAQUARIUM で制御した結果、入水孔の開閉パターンの間隔が広くなり、開閉のリズムが遅くなることが確認できた。入水孔の開閉は、見かけ上、クラゲの遊泳における伸縮運動と類似しているように考えられ、例えばカルシウムイオンチャンネルによる原始的な運動制御のようなものがあると考えられる。