日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「佐渡南西沖メタンハイドレート賦存海域における海水柱メタンの実態 」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

○南野友里・張勁・佐竹洋・竹内章(富山大)・三枝俊介・角皆潤(北海道大)
・岡村行信(産総研)・蒲生俊敬(東大海洋研)・山崎哲生(産総研)
キーワード:メタンハイドレート・メタンプリューム・溶存酸素・栄養塩・塩分

【はじめに】

 メタンハイドレート(以下,MH と記す)は,その貯蔵量が炭素に換算して石油・天然ガスに匹敵する新しいエネルギー源として期待される一方,地震や進行する地球温暖化によるMH の海水中への溶出,大気への逃散によって地球温暖化が促進される可能性もあり,注目度が高い。日本海佐渡南西沖に位置する平均水深1000m の深海底には,バクテリアマットに覆われた多数のマウンドやポックマーク,そして海底から噴出する巨大なメタンプルームが認められている(松本ら,2005)。この海域では,海底直上と水深300m~500m 付近でメタンの濃度異常が見られ,後者では特に大きな濃度極大層となっている(三枝ら,2005)。メタンは海底から放出されるにもかかわらず,中深層で極大な濃度異常が見られる理由等,メタンプリュームの実態はまだ把握されていない。

 本研究は海底から放出されるメタンの実態を,化学的指標により解明することを目的としている。また,メタンプルーム海域を中心に異なる季節や測点において海水と間隙水中の栄養塩・塩分・溶存酸素(DO)等の化学成分をもとに,海流や潮汐等による影響も考察していく。

 

【試料採取と分析方法】

 観測は,2005 年5 月と2006 年10 月(「淡青丸」KT05-11,KT06-26),2005 年7 月,2006年9 月(「なつしま」NT05-10,#440~#442;NT06-19,#602~#605),2006 年8 月(「長崎丸」NA220)にて,メタンプルーム海域及びその周辺で行った。海水及び間隙水を採取し,化学成分を測定した。栄養塩(NO3-・PO43-・SiO2・NH4+)の測定はTRAACS2000(BRAN LUEBBE 社),塩分測定はAUTOSAL(Guildline 社),溶存酸素(DO)測定はTitrino 798 MPT(Metrohm 社)を使用した。また,CTD の観測データも水塊構造解析等に用いた。

 

【観察及び結果】

<MH 露頭の発見と観察>

 2006 年9 月の「ハイパードルフィン」#604 潜航では,水深約1000mの海底において,少なくとも,厚さが4 ~5m はある大規模なMH 層の露頭と,その周囲に堆積物で覆われたMH のブロック(100cm×80cm×25cm)が発見された。また,周辺の堆積物から上昇する泡や化学合成群集と思われるバクテリアマットや海綿・バイ貝・畸形のカニのコロニーが多数観察された。まず観測として,海底からマニピュレータを用いてMH を浮上させ,MH の状態変化を観察した。その結果,水深450m(1.0℃)付近でMH ブロックから気泡が出始め,水深190m(4.5℃)付近から急激に発泡・浮上した。また,ペイロードとしてハイパードルフィンに装着している北海道大学のWHAT2(保圧採泥機)のガスチャンバー内部にガス溜まりが確認され,ハイパードルフィン再降下時に深層においてMH の再結晶も観察された。一方,同ペイロードの富山大式フラックスチャンバー(透明ビニール製}の内部に,小さいMH ブロック(15cm×15cm×25cm)を入れて浮上実験を行ったところ,水深270m 付近で急激に発泡し始めた。これまでの知見としては,日本海の海水におけるMHの安定領域は水深約300m とされていたが,MH の結晶構造(例えばMH 化率等)やブロックの大きさによって,分解する水深が異なることが分かった。更に,海洋表層に到達したMH 結晶の破片の回収に成功した。液体窒素環境下で光学実体顕微鏡を用いMH 結晶の内部構造を観察したところ,半透明の部分と白い部分が点在しており,MH 化率の違いが認められた。以上より,深海底にあるMH が何らかの原因で海底を離脱し,その結晶状況や大きさによって分解する前に海洋表層に到達する可能性が十分に考えられ,海底面下のMH はメタンガスとして大気へ放出する恐れがあると示唆された。

<海水・間隙水の化学成分分析>

 栄養塩に関して,MH 海域海水中のNO3-は1000m の海底から温度躍層まで周囲海域の8 割程度,間隙水中では1 割以下と低い;逆にPO43-は海水中では1.1 倍,間隙水中では80 倍と極めて高い値であった。さらに,SiO2 は海底面より上方200m から,海底に向かって増加する勾配を描くことから,海底面下より冷湧水が湧出していることが考えられた。また,底層・中層におけるメタンプリュームの水深では,溶存酸素がミラーリング負の鉛直分布になっている。その他,深層・浅層海水中の塩分・水温及び塩素・酸素同位体比等の結果と合わせて,佐渡南西沖メタンプリューム海域におけるメタンの実態は,下記のようにまとめることができる:①海底より離脱するメタンは溶存態・ガス態・MH 微粒子の3 態からなる。②泡状態のメタンガスは海底を離脱後,上昇すると共に海水密度低下に伴い泡が次第に膨張しやがて海水中に消滅する。メタンが溶存して巨大なプリュームを作る。③MH 微粒子は海水中の水及びガス・溶存メタンを利用し,成長しながら上昇した後,温度躍層を越え浅層水で分解する。

 発表では,海水柱の栄養塩・間隙水・溶存酸素・塩分等の化学成分やメタン分布の季節変化の詳細についても報告する。