日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「富山湾沿岸域海水中のバクテリア群集構造解析」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

田中俊輔,○田中大祐,中村省吾(富山大・理)
キーワード:富山湾・沿岸域・バクテリア・DGGE

1.はじめに

 近年,様々な生物の生死・運動・発光などの反応を指標として,それらへの影響の有無を調べることによって,環境水中の汚染物質を総合的に捉えるバイオモニタリングやバイオアッセイが注目されている。なかでも,複数の生物種や指標を組み合わせたバッテリーモニタリングやアッセイに関心が寄せられている。一方,富山湾やそれが中心に位置する日本海では,富栄養化,石油汚染,化学物質汚染などが懸念されている。

 そこで我々は,このような海洋汚染を,海水中に生息するバクテリアの群集(種)構造の変化を解析することによってモニタリングできるのではないかと考えた。そして,まずは富山湾沿岸域の海水中に生息するバクテリアの群集構造解析を試みたので,その結果について報告する。

 

2.実験方法

 富山湾沿岸の各港(主に海老江港(射水市),四方漁港(富山市))から0.5mm のステンレスネットで濾過した海水を採取した。採取した海水は氷温下に保ち研究室に持ち帰った。そして,その試料水を0.2μm の多孔性のポリカーボネート製フィルター(ADVANTEC)を用いて減圧濾過することで海水中のバクテリアを捕集した。この捕集したバクテリアを,フィルターごと凍結・融解を3 度繰り返してから,リゾチーム,RNase,Proteinase K などで処理した後に,DNA を抽出した。そのDNA を鋳型として,真正細菌の16S-rRAN の共通配列をプライマー(341F-GC クランプ付加,518R)としてPCR(TaKaRa Ex Taq HotStart Version Kit)を行い,その産物を変性ゲル電気泳動(DGGE)にかけた。DGGE は,Dcode 微生物群集解析システム(Bio-Rad)を用いて行った。DGGE 上の主なバンドの種同定には,まずゲルから切り出したバンドを再度PCR で増幅し,それをQIAquick PCRPurification Kit(Qiagen)で精製した後に塩基配列を調べた。なお,塩基配列の決定は北海道システム・サイエンス(株)に依頼した。そして,得られた塩基配列をBLAST 検索にかけて種の同定を行った。

 

3.結果と考察

 まず,バクテリアの群集構造の解析を行うために必要な最少海水量を,DGGE を用いて,0.1mL~1L の間で比較検討した。その結果,1mL 以上であれば,DGGE 上でのバンド数やバンドパターンがほぼ同様になることが判った。そこで,確実性も考慮して,以降の実験には試料海水100mL を濾過して使用した。

 次に,二つの港(海老江港,四方漁港)で2006年3 月~2007 年1月の,各月ごとに採取した海水試料から得たDGGE のバンドパターンの変化を調べた。その結果,多少はあるものの,両港や各月の間でDGGEのバンドパターンに差異が見られた。一方で,採取月によっては,両港や各月に同じ移動度を持つバンドも観察された。そこで,そのような同移動度のバンドや顕著なバンドを切り出し,それらをPCR で増幅後,種の同定を行った。その結果,四方漁港で顕著に見られたバンドは, Pseudanabaena sp.に近縁ではあるものの新種の菌である可能性が示唆された。また,両港で同じ移動度を示したバンドからは,同一菌種で, Pelagibacter ubiqueやRuegeria sp.と同定され,これらが富山湾に普遍的に分布している可能性が考えられた。

 四方漁港から採取した試料海水を,Mrine Broth培地のみとMarine Broth に重油を加えた培地に接種し,培養したところ培養後3 日目からそれぞれに特徴的なバンドパターンが観察された。中でも,重油を加えた培地では,重油分解菌として本研究室で単離したAlcanivorax sp.と同じ移動度を示すバンドの増強が顕著に観察された。これと呼応するかのように,試験管中の重油も細かく細分化(乳化)されていくのが観察された。さらに,同一試料海水をMarine Broth 培地とそれとは成分の異なるNSW 培地に接種して,DGGE のバンドパターンの変化を調べたところ,培養日数に応じてそれぞれの培地に特徴的な変化が観察された。

 以上の結果より,海水中に生息するバクテリアの群集構造の変化をDGGE で解析することによって,海水汚染などの海洋環境の変化をモニタリングできる可能性が示唆された。