日本海学研究機関等連携事業

日本海洋学会 「富山湾沿岸域に生息するイガイ類とそのストレス蛋白質」


2007年度 日本海洋学会春季大会シンポジウム
日時:2007年3月22日
会場:東京海洋大学品川キャンパス

酒徳昭宏,田中大祐,○中村省吾(富山大・理)
キーワード:富山湾・沿岸域・イガイ類・ストレス蛋白質

1.はじめに

 近年,環境水中にあって生物への影響を持つ汚染物質を総合的に捉える方法として,バイオモニタリングやバイオアッセイが注目されている。そのような中で,「International MusselWatch Project」は,イガイ類やカキ類を用いて,海洋汚染を世界的にモニタリングするための活動として知られている。しかし,それでモニタリングする定点は,富山湾周辺では能登半島先端付近に一点あるのみで,富山湾沿岸域の汚染のモニタリングには不十分であると思われた。そこで我々は,1997 年より富山湾に15 箇所の定点を設け,イガイ類の分布状況を目視で観察することから始めた。

 ところで,生物を用いて環境水の汚染を調べる方法の一つとして,汚染物質の曝露によって体内で発現するストレス蛋白質の,量的変化を検出する方法が注目されている。そこで今回は,環境ストレスとなる高温,重金属,化学物質などの曝露で発現するHeat shock protein (Hsp)に着目し,これらの蛋白質が富山湾に棲息するイガイ類にも存在するのかどうかを調べた。

 

2.実験方法

 われわれは,富山湾に,ムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis),ムラサキインコガイ( Septifer sp.),イガイ( M. coruscus)の3 種が生息していることを確認している。今回も,これらの中のムラサキイガイを主として,その分布密度の観察を継続して行った。

 Hsp を検出するための試料となるムラサキイガイは,四方漁港(富山市),堀岡漁港(射水市)で,ムラサキインコガイは,海竜港(射水市)で採取した。これら採取したイガイ類は,氷冷して研究室に持ち帰り,1~5 日間循環海水中(15℃)で飼育・馴化した。なお,海水は天然海水を用いた。

 ムラサキイガイへの水温の影響は,あらかじめ15℃,25℃,35℃にしておいた8L の循環海水中へ馴化した15 個体を入れ,1~24 時間後の生存率で調べた。さらに,35℃で1~12 時間曝露後,15℃に移した個体の生存率も調べ,水温の生存率への影響の可逆性も観察した。

 野外から採取した個体や水温の影響を調べた個体などから,鰓を中心にした組織を切り出し,Ca2+-,Mg2+-free buffer 中でホモジナイズ後,遠心して得た上澄をSDS-PAGE , WesternBlotting の試料とした。なお,Western Blottingには抗ウシHsp70 抗体(Sigma)と抗ヒトHsp70抗体(ABR)の2 種類を用いた。

 

3.結果と考察

 ムラサキイガイの分布密度は,各年ごとに増減はあるものの若干増加している傾向が見られた。また,今回の観察で,新たにコウロエンカワヒバリガイ( Xenostrobus securis)の生息を堀岡漁港で確認できた。

 ムラサキイガイ,ムラサキインコガイと今回新たに見いだしたコウロエンカワヒバリガイの3 種について, Hsp70 を持っているかどうかをWesternBlotting で調べた。その結果,抗ウシHsp70 抗体で認識されるものと,抗ヒトHsp70 抗体で認識されるものの計2 種類以上のHsp70 様蛋白質の存在が3 種類すべてに存在することが確認された。次に,4 月から11 月にかけて,ムラサキイガイの鰓でのHsp70様蛋白質の発現量の変化を調べたところ,海水温が20℃を超える7月から8 月にかけて増加するのが観察された。この結果より,ムラサキイガイでは水温が20℃を超えるとストレス蛋白質の発現量を増やしていることが推察された。

 この現象を短期間で確認するために,35℃に1 時間曝露したムラサキイガイを,その後15℃に移し, Hsp70 様蛋白質の発現量の変化をWestern Blotting で調べた。その結果,15℃に移した後,時間の経過とともにHsp70 抗体で認識される蛋白質量が増えること,とくに抗ヒトHsp70 抗体で認識される蛋白質が強く発現することが確認された。

 以上の結果より,富山湾沿岸域に生息するイガイ類にも,高温曝露によって発現するストレス蛋白質Hsp70 が2 種類以上存在している可能性が強く示唆された。 20~30cm/s20~30cm/s50~80cm/sT.N50~60cm/sObservation LayerCenter depth 16mLayer thickness 4mAbout 1300-1700,21st. July 2004