日本海学シンポジウム

機構設立記念 「日本海学推進機構の設立に寄せて」 会長スピーチ


日本海学推進機構設立記念シンポジウム
2003年2月10日
パレブラン高志会館

日本海学推進機構会長 麗澤大学教授
伊東俊太郎

(司会)

 続きまして、スピーチに移ります。

 スピーチをいただきます日本海学推進機構会長の伊東俊太郎先生のご紹介をいたします。伊東先生は、1930年のお生まれで、東京大学文学部哲学科をご卒業後、アメリカ・ウィスコンシン大学で科学史を専攻され、博士号を取得されました。現在は、麗澤大学教授をされているほか、東京大学名誉教授および国際日本文化研究センターの名誉教授でもいらっしゃいます。また、先生は、国際比較文明学会終身名誉会長として国際的にもご活躍でいらっしゃいます。

 なお、先生には、大変お忙しい中にもかかわらず、平成12年度から日本海学推進会議議長として、日本海学推進のために大変ご尽力いただいてきました。さらに、本日午前に設立されました日本海学推進機構の会長をお引き受けいただいたところです。

 それでは、伊東先生、よろしくお願いいたします(拍手)。

(伊東)

[伊東先生]

 ご丁重なご紹介ありがとうございました。伊東でございます。

 2001年の3月に、富山県と本日設立されました日本海学推進機構の前身であります日本海学推進会議の共催で、この富山の地で記念すべき第1回の日本海学シンポジウムが開催されて以来、大阪、東京とシンポジウムを開催し、刊行物『日本海学の新世紀』(第1集・第2集)の刊行を行うなど、着実に日本海学を全国的に発信する原点になりえたかと思います。そして、このたびは、日本海学のいっそうの発展を目指して日本海学推進機構が設置されましたことは、このことに最初から関係しておりました者として喜ばしいかぎりです。

 さて、日本海沿岸地帯は、かつては日本の文明・文化の先進地域だったと思います。ところが、近代に入って、いわゆる裏日本という言葉で言い表されるような、遅れた暗い地域という印象を持たれるように、あるときから変わってきていると思います。これは何も日本だけではなくて、対岸の諸地域においても、各国の政治的中心部から離れた、いわば辺境の地域であるという見方がなされるようになってきたかと思われます。

 こうした事態に対して、2000年6月に、本日の第1パネルにご参加のパネラーの皆さんとともに、日本海学推進会議というものを作って、それに参集した我々は、近代のわずかな期間に凝り固まってしまった固定観念をひっくり返してみよう、ついでに地図も、これは知事のご発案だと思うのですが、ひっくり返してみようと。見方もひっくり返して、日本海沿岸地域に日本文明・文化の原点というものを再認識する、そして未来に向かっては、北東アジアの連帯を強めていく重要な原点としてとらえ直そうとしたわけです。

 日本海を取り巻く環日本海地域を一つのまとまりのある地域としてとらえ、過去、現在、そして未来にわたって循環、共生、海の3つの視点から、多角的総合的に環日本海地域の実像を見つめるという日本海学の基本方針を打ち出しまして、日本海学の推進にかかわってきました。

 以来、3年たったわけですが、その約3年の間に、シンポジウム、刊行物『日本海学の新世紀』の発行、日本海学講座、それから諸分野の研究委託等、日本海学への多面的な取り組みの中で、環日本海地域の特色や可能性、そして課題も明らかになってきたと思います。

 例えば、私が専門としております比較文明学の分野でも、日本列島は日本海に囲まれ、とかく孤立した存在としてとらえられてきましたが、ヨーロッパの地中海を中心とした地中海文明は、地中海の周りの国々の文明が縦横に交流していく文明交流圏であったわけで、多彩な文明的発展がその交流によって遂げられてきたわけです。そういう観点を日本海にも持ち込むことができるだろうと。そういうことが忘れられていた、あるいはなおざりにされていた、あるいはそういう目で見なかったということが今まであったのではないかと思うのです。

 でありますので、今日、地中海文明交流圏と呼ばれているようなものに対応した、日本海を核とした朝鮮半島、沿海州、中国東北部などとの広い交流に支えられた日本海文明交流圏を発掘していこうと、発見し再建していこうという見込みがだんだんできていると思います。

 先程もパネラーの先生方と話したのですが、ベストセラーになったブローデルの『フェリペ2世時代の地中海と地中海世界』という本に負けないぐらいの、日本海文明交流圏の本が出るように我々は努力していったらどうだろうかと。我々というのは、日本人だけではありません。日本海をめぐるいろいろな人々の協力によってそういうものができて、そして北東アジアの連帯がもっともっと根底から強固なものになっていく基礎ができればいいと思うのです。

 また、この地域が森に支えられた、非常に特異で注目すべき森の文明圏であって、水と緑の循環系のモデルになっているところだということも明らかになってきました。これは生態学的な問題です。こういうところでも、人類の未来がどうあるべきかということにいろいろな示唆を与えてくれるだろうと思うのです。こういう研究も進めていかなければいけません。

 ですから、本地域の環境問題の考察は、新世紀の地球の環境問題を占うモデルにもなります。この意味で、日本海学は環日本海地域のみならず、ひいては北東アジアの21世紀における持続的発展を可能にするための指針にもなりうるわけです。ただいまの知事のお話にもありましたが、このような点をもっともっと発展させていくことが必要だと思います。

 さらに、現在、共生の問題だけではなく、北朝鮮の日本人拉致問題、核開発問題のような日本海をめぐる、まさに危機と言ってもいい問題があり、そういう点では日本海は一面において波立っているわけです。こういう問題も発生していますが、我々は日本海が一日も早く平和の海となることを願っています。

 こうした課題の解決を探ることも、また我々の重要な責務ではないかと思っております。つまり、日本海というものを包括的に考えていこうとする我々にとって大きな課題であり、貢献しうるものがあるだろうと思っているわけです。

 このようなさまざまな意味において、日本海側の中央に位置する富山県が日本海学の重要性をいち早く認識され、このたび日本海学推進機構を設立されましたことは、まことに時宜にかなっており、富山県の姿勢に敬意を表するものであります。微力ながら、推進機構の委員も日本海学のさらなる推進に積極的に取り組む所存です。

 環日本海地域の平和的共存と文化学術交流の共通の切り口となりうる、大きな意義と可能性を秘めた日本海学に対して、富山県民の皆様をはじめ、関係各位の皆様のご支援とご協力をお願いするものであります。

 ありがとうございました(拍手)。

(司会)

 ありがとうございました。皆様、伊東先生にいま一度盛大な拍手をお願いいたします(拍手)。