大学等連携事業

日本海学夏季セミナー 「木一本ブリ千本-水の輪が作った奇跡」


本講演録は、日本海学推進機構事務局の責任で取りまとめたものです。

2003年度 新日本海学夏季セミナー
2003年8月9日
富山市安田生命富山駅前ビル
地下1階ホール

講師 張 勁 氏
富山大学助教授
 


1 はじめに

 15年前に日本に来て、富山に赴任してきてからもう5年が経ちました。理由はただ一つ、海に魅了されたのです。現在も、富山大学の私の研究室に在籍している学生2人が、ベーリング海と北極海の調査に出かけており、もう1人はペルー沖でエルニーニョを発生する海域で調査しています。そして私自身は学生2人と、7月いっぱい、ほぼ1ヶ月、2つの研究船に乗ってきました。どちらも日本海の調査で、存分海を満喫し、大変楽しく過ごして参りました。このように、なぜ海の研究をしているか?一言でいいますと、環境というのは、国境がございません。例えば大気に乗って飛んでくるものと、海を通って流れてくるものがありますよね。今日の話は映画のフィルムに例えると、単なるワンシーンにすぎませんが、富山県にやって来て、最近分かったことを紹介させて頂きます。
 今日の演題は「木一本、ブリ千本、水の輪が作った奇跡」というふうになっておりますが、「木一本、ブリ千本」という言葉は、私の言葉ではありません。後ほどまた紹介させていただきたいと思います。いろんな海を自分の研究対象としたものですが、その理由は絵が好きだからです。もちろん写真を撮るのも好きなのです。これは黒部工事事務所の航空写真を借用させて頂いたなんですけど、黒部川をきれいに捉えています。人間というのは、陸上動物ですね。海に出かけて何かをしようというのは、いろいろ不便なところもあるのですけども、このように、海から山を眺めることができて、本当に最高です。これからお話しするものは、ちょうどこの黒部川とその扇状地を背景としている物語です。

 富山に来て、一番最初驚いたことは、水のおいしさ。まあ関東地区から来たのですから、水道水自体も非常に甘くておいしく感じました。日本百名水のうち、富山県は4つ入っていますね。うち一つは、もちろん、黒部扇状地の湧水群であります。今日の話は、この湧水群に深く関わっている話なのです。


 富山県という所は、降水量が豊富で、もちろん地下水も豊富です。その降水量、なぜ豊富かというのは、たぶん小学生もよく知っていると思います。ここ左上の図には、横軸が月で、1月から12月まであります。縦軸は降水量です。このブルーの色は富山県で、緑は東京です。そうしますと、夏の、たとえば6月から9月の間では、確かに降水量は高いのですが、東京の平均値と比べてみると、そんなに大差はないのです。差が非常に開くのは、冬なのです。冬には、富山県が東京の5倍から6倍ぐらい降っていますね。冬は雨よりは、ほとんど雪なのですね。その仕組みは、この図に示しています。冬季シベリアから飛んできている寒気団が非常に乾燥しています。そして、日本海は冬でも対馬暖流が北上してきますので、暖められて激しい蒸発が起こります。そうしますと、雪雲が発生して、その雪雲は、非常に湿潤していて重たいのです。すると、3千メートル級の立山連邦、日本の背中とも呼べる山ですけど、それを越えられず、山の手前でほとんど落ちてしまいます。これはつまり雪国の豪雪のメカニズムですね。要するに東京と富山県の緯度は大差ないのですが、なぜ富山県はこんなに降水量が豊富かといいますと、冬に雪がよく降るからです。富山は昔、雪国だったのですが、最近は温暖化でどんどん降らなくなったのです。

2 研究のきっかけとなった魚津埋没林

 ここに、2枚の写真があります。私が、富山に来る前から今の仕事をしたいと思ったきっかけは、この2枚の写真にあったのです。左側は国の天然記念物の、魚津の埋没林ですね。魚津港を発掘したときに、発見されたそうです。右側は、現在でも海の底にあります。黒部の深海林です。この木の根っこは、杉の木の根っこなのですが、その真相について15~6年前に、富山大学の藤井先生と東京大学海洋研究所の那須先生、お2人の先生方が先頭に、様々な調査がされてきました。この根っこの年代を測定したところ、おおよそ数千年から1万年前のものだとわかったのです。私が目をつけたのは、その理由なのです。たとえば、今日は台風がきていますから、幾分涼しく感じるのですが、2、3日前にちょうど私は船を下りたばっかりの頃、暑くて堪えられなかったのです。朝、たとえばトマトでもスイカでも、一切れ机の上に置いておくと、夕方になると腐ってきて、なんとなく臭ってきますよね。つまり温度が高かいですと、腐蝕が進むのです。で、問題はそこです。黒部の海底林、浅い所で20メートル弱で、深いところでは45メートルあるそうです。そうしますと、夏の海水温で、気温は35度以上のときに、表層海水温も三十数度まで上昇します。水深が10メートルあると、少しは涼しくなるのですが、それでも30度近くまでいきます。なぜ、数千年の間に、この木の根っこは腐らなかったのでしょうか。疑問に思いますよね。これは当初、十数年前ですが、那須先生や藤井先生の推測だったのですけど、ここに豊富な地下水があったのです。富山県の地下水が非常に冷たくて、平均水温は年間一定で14、15度です。海底からこの地下水がジャワジャワ出ていると周辺は天然の保存庫のようになっています。そうしますと、常に一定の冷たい水が流れてきて、且つ、地下水というのは海水に比べて生物(バクテリア)が、比較的に少なく、非常に清潔であると思われます。この水は、延々と流れてきていますから、杉の根っこが数千年の間によく保存されていたと、という説になったのです。

 今の話は、雪も雨もがよく降るから、川が非常に多くて、地下水も豊富だということが分かったのです。実はそれが、海底から淡水が出てくる理由にもなっているのです。実はこの海底湧水ができるのは、非常にユニークな条件が全部そろったからなのです。まず、3千メートル級の山々と、先程申し上げました豊富な降水量です。ちなみに東京の降水量は年間平均1600ミリなのですが、一方、富山県全体の平均値は2600ミリです。ほぼ倍です。さらに富山県の東部地域では、4000ミリになるのです。3倍近くなっております。この豊富な降水量の次は、急激な扇状地ですね。この1つの風景をご存知の方は少ないと思います。海の調査に出かけると、昼休みによく甲板に出てランチを食べながら、扇状地を眺めるのです。実は、明後日から駿河湾に行くのですが、駿河湾は、海から扇状地が見えません。それは平野部がほとんどですから。しかし富山県は、特に東部の扇状地はみんな傾いていますので、海から扇状地そのものが見えます。それと、うちの学生はよく川をさかのぼって調査しに行くのですけど、だいたい河口から2、3キロを上流に登ると、川原でサンプリングしながら、海を眺めることができます。これも他所では考えられない。日本の中では富山県だけかもしれません。

 このような条件が揃って、かつ斜面が急であり、河川水が豊富ですし、地下にもぐった水も海底から出やすいのです。ちなみに、どのくらい傾いているかといいますと、扇状地を見るよりは、そこに流れている川を見たほうがいいかと思うのです、この図は横軸に川からの距離、縦軸には標高をとっています。海岸線より奥地に向かって川がどれくらい傾いているかを表している図です。そうしますと、まず数字ですね。私の専門は理系ですので、数字で証明することが仕事です。たとえば、神通川、木曽川とかは1キロあたりに4メートルから7メートルぐらいしか高くならないのです。しかし、早月、片貝川は、みなさんもよくご存知だと思うのですけど、黒部市の隣の魚津市に流れる川ですね。1キロあたりに、40から50メートル高くなるのです。木曽川と神通川等平野部に流れる河川に比べて、1桁高いのです。これらの数字を出しても、ピンとこないかもしれませんが、1つの例を示しましょう。100メートル、みなさんはどなたでも走った経験があるのでしょう。中学校、高校のときのことかもしれませんけど。そのときに、100メートル先のゴールが5メートル高くなるということが想像できますか?建物の3階近くになります。そのぐらい高くなるわけです。ようするに、川はそのくらい傾いているという話なのです。これは、海底から湧水が出てくる根拠にもなっているのです。そうしますと、ほんとうに淡水が出ているかどうか、そして、その淡水はどういうものなのか、それを追いかけたくて、おおよそ4年前にこの仕事を始めた訳です。

 この図は、調査地域のイメージ図です。黒部扇状地と、この小さい扇状地、片貝扇状地ですが、このブルーのマーカは深海林があった所で、オレンジはさっきの埋没林を発見した所の近くです。この星印2つ、赤い所ですね、つまり海底湧水が見つかった所です。深海林の所は、今でも海底にありますから、そこへ行けば淡水があると考えました。すぐ、見つかりました。魚津沖は、漁協への聞き込みから始まり、水産試験場の方々に連れられて、一緒に探しに行きました。


 まず、魚津の例を紹介しましょう。魚津市に青島町という所があるのですが、ここの海岸から海底を沿って泳いでいきますと、100メートル、150メートル、非常に近いですね、海底から湧水が湧き出てきた所が簡単に、しかもたくさん見つかりました。


 ワンマンショーで喋っても、みなさんは面白くないですから、私と一緒に、海底の湧水域を旅していただこうと思いました。実際行きましたら、こういうふうに、そこにオアシスのように見えました。最初に泳いでいきますと、もちろん先は砂浜で、それからブロック石がごろごろしています。さらに進むと、緑がどんどん増えてきて、いろんな生物、ヒトデ、ウニなども増えてきます。そしてゆらりゆらり見えますね。それが海底湧水なのです。ちなみにここの水深は、海水面から10メートル弱ですね。もちろんスキューバダイビングで行くのです。1つ1つの湧水口は、非常に細いです。数ミリしかありません。この画像を撮ったのは、5月の末から6月の初めなのですけど、一番湧出量が大きいのは、5月の初め頃なのです。要するに、雪が一気に溶けこんだ時期です。こういう砂浜で出てくる所もあります。実際に行くと、ほんとに風呂桶みたいにこうじゃわじゃわ出てくる感じなのです。ゆらりに包まれている風景です。


 本題に戻ります。それで、湧水が、めでたく見つかりました。そうしますと、その水はどういうものなのかを調べなくてはなりませんが、現場では無理ですね。もちろん、うまく水を取って、持ち帰って調べることにはなるのです。どうやってうまく取りますかというと、最初は石を見つけて、そこにシリンジを逆さまに当てて吸い上げました。そうすると、取れたのはわずか5%の淡水、残り95%、ほとんどが海水です。海水と淡水の差というのは、海水は淡水に比べて600倍も濃いです。そうしますと、淡水の中にわずか1%の海水が入るとしても、要するに淡水の6倍になってしまうのです。もう淡水そのものは全然見えなくて、海水の成分しか見えない、ということになるのです。つまり、この方法では無理ですね。それで、藤田大介さん、元県水産試験場の研究員(現在は東京海洋大学助教授)ですけど、「じゃあガラスの漏斗を逆さまにして、少し濃縮してから取ってみたらどう?」と言われました。試してみたのですが、これも90%以上が海水で、1割だけが淡水でした。失敗ですね。


 開発はまず、水をうまく取ることから始めるしかないのです。ほぼ、半年ぐらいかかって、ようやくいい方法が見つかりました。2001年ですね。これは、湧水域に一番最初に潜った学生の写真です。10センチぐらい長い、中空のステンレスのパイプを差し込みます。しばらくすると、上のほうに淡水が上がってくるのを見えます。さらに、このような三方コックとシリンジと、あとテドラバッグという空気を採集する密閉性のとてもよいプラスチックのパックと組み合わせて採取に試みました。そうしますと、こちらは電気伝導度です。中学校・高校の理科の授業では出てきたような気がします。この数字だけ見ても、周りの海水に比べて採取した湧水というのは、非常にきれいに取れたものであると分かります。


 もうちょっと、湧水の中身を分析してみようと思います。ちなみに、海水の成分を見ますと、海水はしょっぱいですから、塩化ナトリウムがほとんどで、95%以上あります。一方、淡水の場合、これは片貝の水ですが、炭酸カルシウムがほとんどです。淡水がなぜおいしいかというと、カルシウムなどのミネラルがいっぱい入っているからとよく言われますね。
 この海水と淡水の差は、成分のバランスだけではなくて、総量なのです。入っているイオンの総量を見たら、淡水は2、海水を見たら1200になりますね。だからタラソピアの深層水のお風呂はいい、発汗作用と、イオンが多いから、人間の身体に吸収するされやすいという話があるのです。
 まあ、この600倍というのは非常にネックの問題でしたが、どうも既にクリアしたみたいなんです。ちなみに取ってきた湧水の成分で図を描くと、ほぼ一緒な感じになり、うまく取れたことが分かるでしょう。

3 水のDNAを化学する

 話は、ここから本論に入るのです。私の分野は海洋化学です。化学というのは、私にとっては手段です。周期律表ありますよね。110以上の元素、そこに載っている全ての元素は、私にとっては道具です。道具箱中の道具と一緒です。その1つ1つの元素を使って、物語を描くことができるのです。ここでは1つの例を示します。横軸、縦軸はある化学成分ですけど、酸素、水素の同位体と言います。水にとってはDNAみたいな存在です。その水は、どこからどこまでのようなことを語ってくれるものです。その原理は後でちょっと触れます。ここで分かるものは、真中にこう入っているのは、陸上の地下水、ここでは井戸水です、そして海底から出てくる淡水、そしてそれぞれの川、うち自噴水も入っているのです。今度取れた試料はおそらく100点位になりますが、みんな同じ所に分布することになってますよね。しかも赤いラインと青いラインの間に挟まれています。この赤い線は、冬に降ってくる雪を表しています。青い線は夏に降ってくる雨を表しています。そうしますと、取れた海底湧水も、陸上の淡水も、もともと降水であることを意味するのですね。降ってきた雨や雪が地下に浸透して、よく混合しているのです。井戸水であったり、川の水として流出したり、あるいは地下に潜って海底から湧出したりするものは、実に源は一緒なのです。
 もうちょっと専門的な話をしたいのですが、なぜ水の酸素や水素がDNAの役割ができるのかについて話をさせていただきます。

 実は、地球上すべての水の源は海です。海は、いわば、大きな蒸留機みたいなもので、どんどん淡水を蒸発して、それが陸に運ばれてくる。そうしますと、海から蒸発してきて、雲になって雨として降ってくる。さらに、山に登れば登るほど、雨なり雪なり降ってくるのですけども、さっきお話しした水の分子は、水素と酸素から成っているものです。その水素にも、酸素にも、軽いものと重たいものがあるのです。軽いものだと水素は質量1、重いものは質量2です。酸素は、軽いものは16、重たいものは18。私たちは、重水素と呼んでいます。重水、重たい水。そうしますと、蒸発して上がってくるときは、もちろん軽いものが先に飛んでいきますね。重たいものが海に残る。ですから海の中の水は、重たい水素や、酸素を多く持っています。雲になったものも、どんどん降ってきますから、最初で降ってくるものは、もちろん重たいものですね。つまり、山に登れば登るほど、軽くなってきます。実は、この酸素・水素の表示は非常に難しくて、それを標準物質で割った、千分率で表示することになっています。この数字の意味はあまり見なくていいんですけども、低い平野部、低い山、高い山、降っているものは、どんどん軽くなっていることが、見えますね。これは高度効果という言葉を使います。そうしますと、ある単純な計算ができます。私が今在籍している研究室では過去数十年間にわたり、水谷教授、佐竹教授が、この平野部、山間部の川を400点以上のマッピングをしていただきました。そうしますと、ある川河、井戸の水の値を見れば、すぐ、この水は大体どの標高で降ってきた雨と計算できるのです。これは根拠です。最近は、ちょっと名前を言えませんけども、飲料水屋さんも、水を持ってきてうまい水ですよと、これだいたいどの辺の標高で降ったものか、数字を出してほしいという頼みもあるわけです。
 今の話は、酸素水素の同位体、水の"DNA"を利用して、元になる雨が降ってきた標高を計算することです。そうしますと、海底湧水は、だいたい800から1200メートルに降ったものになる。また、近くに2本の川が流れておりまして、片貝川は800メートル前後で、早月は1000メートル...もっと高い山です。これから見ると、私たちが海底で取っている湧水というのは、どうも片貝川の影響が大きかったという話になるのです。

4 海底湧水の年齢

 今、海から水が蒸発して山で降って地下にもぐって海底から出てくるとの話をしました。


 今日は台風だったのですけど、昨日降った雨が、今日出てくるわけがありませんよね。どのくらい時間を経て流れてくるかを知る手法もあります。道具を変えます。今度は、トリチウムというものを使います。トリチウムは3重水素のことです。さっき軽い水素、重い水素の話をしましたが、さらに重たい水素です。ただ、このトリチウムというのは、地球が生まれた直後はありましたが、すぐなくなったのです。現在のものは全部、人工で作ったものをばら撒いたものです。なぜかといいますと、ここに、字が小さいですけど、半減期が書いてあります。12.44年というのは、おおよそ12年5ヶ月です。すると、何を意味するかというと、最初10個あったものが、12年5ヶ月経つと5個残るということなのです。5個しか残ってない。さらに12年5ヶ月経つと、今度は2.5個しか残らない。非常に短い半減期ですから、地球の歴史は46億年、宇宙ができたときのものは、もうとっくにないのです。最近のトリチウムはどこからきたかというと、この図です。横軸は時間で60年代から、2000年まで、縦軸はトリチウムの濃度です。60年代初めに、とっても高いピークがあります。現在の濃度に比べて、数百倍も高い濃度だったのです。これは、人工で作ったもので、水爆・原爆実験です。データは日本周辺のものです。そうしますと、すぐ世界条約が始動だれて、原爆を使ってはいけません、水爆実験をしてはいけません、となったのです。半減期が短いですので、実験の後ですぐ、一気に下がってきました。

 これを時間の尺度として利用しようと思ったのです。海底の湧水と川を調べると、後ろはだいたい誤差なのです。大体同じレベルではないかと考えています。どうやって計算するかといいますと、雨のとき、大気と接しているときに、さっきのトリチウムがありますね。降ってきて地下にもぐると、新たに加えられるトリチウムが来ないのです。そうしますと、減る一方になりますよね。つまり、もしある井戸水の中のトリチウムの濃度が分かれば、過去、どのくらいの古さ、たとえば10年前か20年前に降った雨と一緒だということが、計算できますよね。そういった考えです、時間の尺度として使っています。もっと具体的に言いますと、これは現代の湧水の話題です。過去を遡れば遡るほど、濃度が濃いから、その半減期を利用して過去にシミュレーションしたわけです。上の青いラインは、雨です。幸い、富山大学にはトリチウムセンターという施設がありまして、現在は水素研と名前を変えたのですが、トリチウムを測ることをやっています。雨はこういう値ですよね。そうしますと、このシミュレーションのラインと、雨の、よく一致しているところは、つまり、そのあたりに降ってきた雨であるということを語っているのです。そうしますと、だいたい20年前から10年前のことになる。これまでの話を簡単にまとめますと、海底湧水が見つかった、この海底湧水は海から蒸発してきたもので、だいたい800から1200メートルの標高の山に降った降水である、一旦地下に浸透して、だいたい扇状地の扇頂部分ですね。みなさん山登りの好きな方もいらっしゃると思うのですが、ちょうど山麓あたりに、扇状地が平野部に交わる所で、河川の水が一気に増えますよね。つまり、ここに浸透した水が、扇状地の重要な涵養源になっているのです。ここで角度を変えますので、圧力を受けて一気に湧き出して、ここで、扇状地というのは、スポンジみたいに非常に透水性がいいので、どんどん浸り込んでいきます。一部は地表量として、一部は地下に潜るのです。地下に潜った水は、10年20年かけて現在海底から湧き出している、そういう話が、私たちの仕事で分かりました。

 ただし、私はもともと海から陸を見るのは好きなのですが、今までの話は全部陸水です。陸上の仕事ばかりですね。海から見ると、海底から出る水というのは入り口です。陸から海に入ってくる入り口です。普通、今日話したような仕事はもともと、陸水の方々は非常に興味を持っています。なぜなら出口だからです。今までの陸上の水収支のバランスが取れなくて、どこかに出口があるはずなのに見つからない、という観点です。けれども、海にとっては、これは入り口です。水だけの入り口ではありません。地下水は非常に豊富な栄養分を持っています。この栄養分が、地下から、海の海水面の下、目に見えない所から運ばれてきますから、海にとっては、重要な役割を果たしているはずなのに、今まで誰も語っていませんでした。難しかったのですね。これをいいきっかけとして、新たに見つけた入り口に何が隠されているかを探ろうと思いました。


 さらにひとつ、海底から出てくる淡水で、扇状地全般から1箇所に集中して流れてきたものなのか、単純にパイプ1本で流れてきたのか、いわばこの陸上でどういった経路で流れてきたのかを知りたいですよね。それと一緒に、解決していこうと思いました。この際にも、もちろんさまざまな道具箱から欲しいもの、化学成分を、どんどん取り出して使うわけなんですが、この図が示したのはさっき出てきた酸素の同位体なのですが、これは黒部の図ですけど、そうすると、それぞれの値で、この等値線を描くことができるのです。そうしますと、この三角は海底湧水のところですが、なんとなくこう、この青い矢印で、海まで行っているように見えますね。


 では今度立場を変えます。化学成分全てを、陽イオンと陰イオンをすべて合わせて、一つの形を描くことができます。これの中身はあとでお話しますが、同じ形の水は、同じ濃度、同じ源と理解することができます。そうしますと、川の水は非常に小さくて、この小さいものと、ちょっと面積の大きいものと、変な形のものと、いろいろあるのですけど、どうも海底のふたつの湧水は、深いものが33メートルで、浅いものが17メートル、黒部の深海林のところですね。すると、こう探していくと、この間に出てきたという感じがしますね。何かと考えたところ、実は旧河道でした。昔、川が流れた場所ですね。黒部川というのは、非常に大河川なので、昔はたとえばどんどん土砂崩れなど、洪水のときに大量の砂を運んできて、川底がどんどん高くなってそこに川が流れなくなる。そうすると新たに、低い所に川の道を変えて流れていくのですね。ですから、ここに描いてあるブルーの点線は、旧河道です。この旧河道というのは、石や砂とかがごろごろしている所ですね。砂とか砂利が多いので、非常に透水性がいい。普通の土や粘土ですと、あまり透水性がないからです。

 湧水もやはり、流れやすいところを選んで海底から出てくるわけなのですが、実際、海底の地形を見てみますと、非常に大きな高台があるのです。これはつい最近の川から作ったもので、ちょうど折れ線のところは、谷なのです。川から谷になるところから、どうも湧水が出てきているらしい。立体図で描くと、こう一枚一枚になっていますね。この一枚一枚の上に、木の根っこが立っているのです。さっきの杉の根っこです。一枚一枚というのは、サンドイッチのようになっていまして、粘土の層、砂の層、粘土の層、砂の層と交互になっているのです。海底湧水は、全部、粘土層の下ある砂と石の層のあたりから、ジャワジャワ出てくることが分かりました。そしてこの話は、なぜ、この黒部・魚津の沖から淡水が出てくるのかという話になります。


 さらにもうちょっと、こちらは魚津の話ですが、黒部は非常に単純で0メートルから100メートルまで、同じ帯水層からなっているのです。ズボンと下落ちします。魚津はもっと複雑で、魚津の経田あたりですね、海に面している所ですが、現在でも自噴水がたくさんあるところで、非常に深い井戸がたくさんあるのです。


 この黄色、緑、青はそれぞれ、水の成分を表していて、大雑把に3つの区分ができます。普通の考えでは、この黄色い湧水は、隣の井戸水と一緒に流れてくると理解できるのですね。でも違った、湧水はどうもここと同じ水なのです。という話は、最低でも2層の帯水層があるのです。この海底湧水は、非常に浅い帯水層の下を潜って、海底から出てきたということを教えてくれました。それで、この経路かな、と思ったのですけど、実際調べてみたら、魚津も同じく、ここは旧河道でした。川が昔、流れていた場所だったのです。


 もうちょっと、海底湧水のことを詳しく見てみますと、季節別に、6月、7月、10月と調べました。この、変な形をしているものは、自噴水です。さっきも言いました、100メートル、200メートルと非常に深い井戸の水です。6月、7月、10月の海底湧水の形ですが、微妙ながらも変わっていますね。陸上の水は、年間通してどんな季節でも構成は変わらないのです。海底湧水が変わるということは、つまり源はもともと陸上の淡水だったから、陸上の水が混合する割合を変えながら、各シーズン海底から出てくるのです。言い換えれば、6月から出てくる湧水は、おそらく、ある層のものがほとんどで、7月、10月は、また別の層から流れてきたものが多いことが考えられるのではないかと思って、実際計算してみました。


 ちなみに今お見せした化学成分の形というのは、どんどん右に行けば行くほど、水が古くなるということを意味しているのです。たとえば、浅い所の水だと、きれいなひし形をしておりまして、土の中に潜れば潜るほど、土と反応しますから、いろんな成分が溶出していきます。そうしますと、さらに古くなります。20年30年超えると、ナトリウム塩は非常に溶出しやすいので、左側がナトリウムですね、こうして大量にナトリウムが出てくるのです。この図は、水のおいしさを表しています。私は黒部の水が好きです。実は、水が長く潜れば潜るほど、溶出する成分が多いので、こんな変な形になるので、飲むときにざらざらします。水が硬くなりますから。現在売られているヨーロッパのミネラルウォーターはみんなそうなんですね。日本の方はおそらく、ミネラル豊富で、多すぎない少なすぎないというレベルの話になると思うのです。

 先程の話で、ちょっと難しい話になりますが、こういった図をひいて、6月、7月、10月それぞれこの4つの形の水の成分を、このような3つの図の上にプロットします。


 それぞれ海底湧水は、たとえば10月ですと、このブルーマークのあたりで、非常に一般的なきれいなひし形の水であるということを語ってくれます。


 6月ですと、ちょっとだけ古めの水と混ざっています。


 さらに7月になると、どうもこっち側を走るのですね。こっち側といいますと、非常に古い、深い水。古いということは、井戸が深いということを意味していますから。非常に深いところの水が上がってくると、そういう話になるのです。どう理解するかといいますと、7月というのは、ちょうど梅雨が来る前、雪解け水が全部流出してしまった、扇状地の中には、さきほどスポンジという話をしましたが、そのスポンジにあまり水が入ってない状態なのです。そうしますと、深いところの水が少し浸り出してきて、それが、こういう所に現れたのではないかと思いました。そうして、それぞれの割合を出しました。4月と10月は、ほぼ100%の非常に浅い所の水、6月というのは、若干深い所の水、60メートルぐらいから出てきています。さらに、7月になると、非常に深い、100メートル以下の水も若干混ざっていたという結論が出ました。

5 海の生物生態を支える海底湧水

 これからの話が本論なのですけども、さっき言ったように、海にとって海底湧水は新たな入り口、その入り口が栄養分を運んできます。栄養分というのは、実は海にとっては窒素、リンと珪素です。窒素というのは、雨と田んぼの水がもたらすとされています。ほとんど人為起源です。珪素とリンは、深い所の水しか高い濃度になりません。つまり、土と岩石と反応して、どんどん地下水に溶出して、海底から出てくるということなのですね。もう1つの背景としては、ご存知ない方が多いと思うのですが、実は1997年、つい最近まで、「沿岸の生物生態を支えている栄養は、すべて河川水でもって運ばれてきた」と言われています。これは嘘ですね。これから証明します。

 なぜなら、河川水で流れてくるもので、もちろん河川水も地下水ですから、非常に滞留時間が短く新しい地下水です。それが流れてくるときに、河口域で、河口というのは、川から海に帰る場所なのです。川の中に、たとえば氾濫したときに、たくさん泥や砂とか入っていますね。実は、水はきれいなときでも、目に見えない細かい粒子がたくさんあるのです。この細かい粒子は、普通、川の中に入っいって、海に入る直前に、塩水と出会うときにほとんど凝集されて重たくなって川底に沈むのです。沈むときに、せっかく入っていた栄養素も全て吸着されて一緒に沈むのです。実は、川から運ばれてきた栄養素で外洋に行けるのはせいぜい一、二割しかありません。ここでありがたいのは、海底湧水の存在です。魚津だと200メートル沖合い、黒部ですと400、500メートル沖合い、海底から淡水が出てくるのです。湧き出す前に、砂や砂利の層を通過しますから、出てくる時にろ過されています。粒子とかは出てきません。つまり、出てくる栄養素は、そのまま海にばら撒かれているわけです。さらにひとつ重要なのは、淡水は海水に比べて、軽いわけですよね。そうしますと、河川水は海に流れるとしても表層しか流れないでしょう。けれども、海底から淡水が出ようとすれば、上に行こうとしますよね。海全体に栄養素を運ぶことが期待できるのです。

 ここで、証拠をお見せします。栄養分のひとつ、窒素をお見せします。縦軸は水深です。右側が陸なのですが、いくつもの調査点があります。左側が外洋で、こちらが陸側になります。表層はオレンジ色で、非常に高い濃度を意味します。これが川から持ってきたもので、やはり高いのですけど、通常に表層というのは2、3メートルぐらいしかないので、深いところに来ないのですね。


 なぜなら、夏には、特に初夏では、上が温かくて、水は下に行けば行くほど冷たいので、上下は混合しない。栄養素に富んだ水は軽く表層にいるだけ。一方、海洋深層水にも、栄養分豊富でみなさんご存知ですが、ただこれも温度効果で、下が冷たくて重たいから、上には来ません。そうしますと、この栄養の断面図を見ると、5メートルから40メートルの間で、この図で言うと0ですね。色のバーは濃度を表しています。ここらへんは全然栄養が入っていません。しかし、ここは海底湧水です。海底湧水がある場所では、このブルーは、普通はないけどここにはある。しかもたくさんある。


 ここで一番ありがたく、うれしく思われるのは、葉緑素、植物微生物です。例えば、ここに大きいサイズと小さいサイズのものが2種類あるのですけど、ふつうの外洋を見てみますと、同じ水深ではブルーですね、ブルーは濃度が低いのです。上に行くほど濃度が高いですから。湧水が出てくる場所に限って、緑が濃くなっていますね。生々しいです。湧水が出てくると、植物微生物が大繁殖しますから。植物微生物のほとんどは、目に見えません。けれども、この測定データが語ってくれます。この植物微生物があって、動物微生物があって、さっきお見せした海底のオアシスが成り立つのです。


 1個1個の湧水口は非常に小さくて、1つの湧水口では1分間に50から250ミリリットルの流速で年々出てくるのですが、イメージが湧かないと思いますので、1分間に50から250というのは、250だと小さいペットボトル2本分ですね、1分間にこのスピードだと、24時間、1昼夜ですね、ちょうど普通のユニットバス1杯分になるのです。
 1個1個の穴は小さいのですけど、やはり、威勢良く出ています。かつ面積的に、1つ1つの穴ではなく、面で出ていますから、かなりの栄養分を富山湾の奥に運んでいる。それで、数字的な話でいいますと、これは陸上の収支です。さっき言いましたが、この仕事がなぜ始まったかというと、陸上のバランスが合わないと騒いだからです。たとえば、降水が降ってきて、地下に浸透して、川として流出して蒸発散して、全部陸上で計算すると、地面の上ではバランスがとれています。問題は地面の下なのです。地下の浸透分は33ですね。水田も関与するし、地下水は最終的に工場などで使いますから、これを差し引いて地下水全体は38、単位は年間億立方メートルですから、かなり大きいですね。33がどこかへ行ってしまったのですね。これを陸水の方々は、海底から出たのではないかと言っています。問題は、この数字の持っている意味ですね。この33と河川の115と比べてみますと、実は3割弱なのです。つまり、富山県で川から流れている水の3分の1は、みなさんの目に見えない所、海底から出ているということになるのです。

 さらに、栄養塩の濃度も高いことで、濃度と量を全部入れて、川の1.2から2倍の栄養分を海底湧水が運んでいるということになりました。

6 「木1本、ブリ千本」

 今の話ですが、実は、今日のタイトルにあった話になるのです。「木一本、ブリ千本」。これが何かといいますと、海から蒸発してきた水分が山に飛んで、800から1200の標高なのですけど、ブナ林が延々と分布している標高になるのです。そこでは森林を潤っているのです。このブナというのは、生態の先生に聞くと、広葉樹の中で保水力が非常に強い樹木だそうです。そうしますと、ブナのおかげで、また地下水を作り出して、今度地下へ浸透して、海底から出てきて、浸透している間に栄養分が溶け込んで、また海の中の生物を支えるわけですね。ひとつ、水の輪なのですが、生命の輪になっています。水が作った奇跡の話なのです。


 ちなみに、世界規模の湧水は、日本だけではなく、世界にたくさん散布していて、現在、ネットワークとして世界中で調査が始まっています。その中で、富山湾がモデルになっています。なぜならば、流量が大きいからですね。非常に観測しやすかった。しかし、またまた分からないこともたくさんありまして、現在も調査を進めてはいるのですが。


 ひとつだけ、これはまだ数字化してないのですが、これは富山県全体の扇状地ですが、東側での降水量は毎年4000ミリあるのですけど、実際に海にそのまま入っている扇状地は2つしかないのです。片貝扇状地と黒部扇状地です。そうしますと、本当の数字はおそらく今、私たちが計算で出している数字より、はるかに大きい数字になるはずです。


 その証明が必要なので、これから海の中いろいろな係留系を、人間は1回潜ると1つのサンプルしか取って来られないので、人間が行かなくてもこういう係留ができるように測定したいと思います。あとは、今はありがたい話ばかりですが、汚染も含めて、汚染物質、たとえば農薬も、海底から直に出てくることになるのです。それをそのまま海に還して、いずれまた人間に帰ってくることになるわけです。そういった話の中で、やはり人為起源についても評価が必要なのですね。これからがんばっていきたいと思います。


 今、この話は日本全国や世界の中でも注目されています。この研究についていろんな方にお世話になっていますので、この場をお借りして、感謝を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。