大学等連携事業

日本海学夏季セミナー 「2020年問題と東アジア共生体」


本講演録は、日本海学推進機構事務局の責任で取りまとめたものです。

2003年度 新日本海学夏季セミナー
2003年8月23日
富山大学経済学部201番教室

丸山茂徳 氏
東京工業大学大学院教授


「我々は、どこから来たのか、我々は何者か、
我々はどこへ行くのか」(ゴーギャン、1897年)

1.はじめに

 今日のテーマは、「2020年問題と東アジア共生体」です。まず初めに2020年の問題とは何かということを中心にお話しますが、その背景になる話もまた同時にしたいと思います。右側の絵は、ちょうど二百年前、ゴーギャンというフランスの画家が南太平洋のタヒチ島で描いた「我々は、どこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」というタイトルの絵です。画家も科学者も興味のあることは同じで、それは未来についてです。「自分の未来はどうなるのだろう。社会は、日本は、世界は、人類はどうなるのだろうか。」未来がわかれば、自分の行動計画が決まるからですね。
 それでは未来を知るためにどうすればいいのでしょう。まず、過去を知りたいと思うでしょう。それから現在の社会や人間とは何かということを知りたいという興味に高まっていきますね。それがわかると、未来の輪郭が見えてきます。
 最近、読売新聞に「北朝鮮はなぜ原爆を持ってはいけないのか」という子供の質問に、小学校の先生が答えられないという話が出ていました。今日はこれに関係する話もします。僕が話し終わったら、このような問題の答えがストレートにわかる、そう思っています。

2.現代はボーダレスの時代

 現代とはどんな時代でしょうか。一言で言うと、ボーダレスの時代です。ボーダレスとは国境が稀薄になるという意味です。たとえば、今、世界人口は62億人(2002.12)ですが、1年間に外国に行く人が約6億人います。10人に1人は、外国に出ていることになります。40年前、中学生だったころの僕は、一生の間に外国に行くことなんてないだろうと思っていました。昔では考えられないくらい人が国境を越えて行き来する時代になっているのです。これが、「人」のボーダレスです。
 次に「モノ」のボーダレスです。世界貿易が進むと、車やコンピュータや家電製品などの「モノ」が国境を越えて移動します。右の図は1960年から1999年までの世界貿易の変化を示しています。たとえば1960年から99年までの間に、世界の貿易の輸出総額は、55倍に増えています。たったの40年の間です。ただし、そのように「モノ」を作って売る国は、20世紀を通じてアメリカがダントツ1位でした。このアメリカを追いかけていたのがドイツで、日本はイギリスを1970年に追い抜いて第3位になりました。このように世界中をグローバルに動く「モノ」の量は異様な勢いで増えています。
 3番目は「情報」のボーダレスです。たとえば、30年前、我々は共産主義社会というのを夢見ていました。学生時代の僕もそうでした。「毛沢東語録」を読んで素晴らしいと感動していた学者もいました。しかし、その共産主義社会で何が行われていたでしょう。旧ソ連では、スターリンが数千万~5千万の人を殺しましたが、歴代のチャンピオンは毛沢東です。彼は1億人も殺したと言われています。そういう実態や彼らが相互監視社会、密告制度、公開銃殺刑といった暗黒の社会を作っていたり、ヒトラーのように昔の王様なみのぜいたくで自堕落な生活を送っていたりしたことを暴露される時代になりました。そのような情報は今から20年前までは国家機密だったのです。現代はもう情報がボーダレスになってしまっていて、政府が自分たちに都合の悪い情報でも隠しておくことができません。こんな情報のボーダレス時代が来るとは、僕が若かったころには想像もできませんでした。
 4番目は「カネ」のボーダレスです。日本も1980年代になって、お金を輸出する国になりました。外国の債券を買ったり、外貨預金したりすることによって「円」を外国に渡しています。これは日本の2千年の歴史の中で初めてです。また、ジョージ・ソロスというハンガリー生まれのアメリカ人投資家がいますが、彼が瞬時に電子マネーで動かす高額のお金は、小さな数ヶ国の国の総資産を超えています。
 しかも、これらのすべてのボーダレス化が加速度的であるこという特徴があります。つまり、去年の変化よりも、今年の変化がさらに大きく、桁が一つ違っているのです。そういう激流のような変化の時代に我々は今いるのです。こういうことが起きたことは歴史上一度もありません。「歴史は繰り返す」といいますが、これは完全に間違いです。歴史は繰り返しません。小さな部分だけが一見繰り返すように見えるだけで、ことの本質は繰り返さないで一方向に進んでいるのです。
 また、最大の問題が2020年にやって来るということも、大変なことです。これは、人類が今まで経験したことがないのです。


立花隆、2000年「21世紀 知の挑戦」

3.2020年に成長の限界がやってくる

 これは世界人口のグラフです。2百万年前、紀元前のころ、2000年を経て2050年に向かって人口は増加していきますが、急激にグラフが立ち上がっていますね。最近は、1年にだいたい8千万人から1億人くらい増えています。僕が学生だったほんの30年前は、世界人口は今の半分の30億人でした。人間が使うエネルギーを石油に換算すると、やはり同じような急上昇のカーブを描きます。そうすると、このあと何が起きるでしょうか。ただし、永遠に人口が増加するわけではありません。


ローマクラブ、1972年

 この人口予測は、実は、ローマクラブという研究者の集団が、社会科学を科学にしようということで始めました。科学というのは予言能力を持つもののことです。社会科学にも予言能力を持たそうと努力をした最初の力作です。1970年までのデータを使って、ずっとこのカーブを予想して描いたんですね。当時トフラーが『第3の波』という本を書き、「現代は産業革命の延長ではない、新しい時代、まったく新しい人類の経験したことのない、情報革命の時代に入っている」ということを述べました。そのこと自体は素晴らしいのですが、彼はその後、ローマクラブを徹底的に攻撃しました。「人口なんか予測できるはずはない。」とボロクソに言ったんです。しかし、30年後の2000年の世界人口の彼らによる予測は61億人、実際とは1億人違うだけです。これはほとんど、ぴったり一致していると言ってもよいほどです。彼らは食糧についても計算しました。人間が増えれば食糧の消費も増えるのは当然です。
 もう一つ予測したのは資源ですが、これは最初から埋蔵量が決まっています。だから消費が激しくなると資源が枯渇する交点が生じます。その交点が2020年、つまり、2020年に成長の限界がやって来ると予想しました。また、それまでに何も起きないというわけではなく、その予兆は少しずつ現れてきて、2020年を超えるころからどんどん顕著になってくるでしょう。それにつれて、地球の環境汚染もひどくなっていくのは確実です。
 ローマクラブの計算に従えば、2050年には、人口が百億人になって、このころに一番大きなカタストロフが起きてしまうことになります。


宇沢弘文、1995年、岩波新書

 さて、どう対処するかということを考える時、もう1つ重要なのは、地球の気温です。右のグラフは、横軸のスケールで6500万年という、新世代の一番長い時代をとっています。平均気温は20度から0度まで徐々に下がってきて、およそ100万年前から急激に寒くなったり暖かくなったりしていることがわかります。氷期と間氷期を繰り返しているのです。
 暖かくなるということは実は、人間にとっていいことなんです。地球の気候は、大気の温度と湿度で決まります。暖かくなると、水分が大気の中により入っていき、大気の流れが活発になります。すると、中央アジアが現在よりも湿っぽくなり、緑が増えます。ただし問題は、現在のような暖かい気候はずっとは続かないということです。上の図は、グリンランドの氷のボーリングのデータで、今から1万2千年前に突然、地球が暖かくなったことがわかります。縦軸は温度です。まず注目したいのは、ゆれ幅が小さいことです。それより前は、非常に大きいゆれ幅で、50年以内に7度上下するということは普通でした。だから、現代の安定した気候が異常なんです。我々は、短い異常に暖かい気候の中で文明を作り、発展させたということです。問題はこれが、いつまで続くかなのです。下の図は北太平洋です。もう少し、広い海の中でのボーリング資料で、地球自体が持っている周期性を理解しようというデータなのです。波が1回、2回、3回、4回きて、最後に1万年前にピコッと上がっています。過去から現在まで、ちょうど同じようなパターンを繰り返しているのです。これを見ると、地球はいつ寒冷化してもおかしくありません。このことは、国にとっても非常に重要な課題であって、この分野にもっと予算をつぎ込んで研究すべきです。小泉先生がおっしゃったように、グラフの解像度をもっと上げる必要があります。先生は、まだ2・3百年は寒冷化しない、大丈夫だとおしゃってますが、解像力を上げるとともに、ミランコビッチの周期のファクタ、つまり、緯度、それから内陸部か東海岸か西海岸とかいう地球の特徴的なファクタを総合化して、より正確な予測をし、未来を予言できるかどうかが、人類の存亡の決め手です。


グリーンランドの氷床のボーリング試料の酸素同位体分析(ダンスガード他、Nature、364、1993年)


過去43万年の古海水温度変化(シャクルトン、1995年、「古気候とその進化」、エール大学出版)

 


気候が文明を左右した
(高谷好一、1997年中公新書を改変)

 地球の過去の研究からわかった重要なことは、これから間違いなく寒冷化するということです。これは、大変なことです。過去の記録では、地球が暖かくなると、中央アジアに植物が生えることがわかります。食料になるものが増えるので、そこに人が増えます。反対に寒くなると中央アジアが半砂漠になります。そうすると、東側のモンゴル人、西側のアーリア人が南下し、民族大移動を起こします。たとえば、4世紀の頃がそうですね。日本には中国から高度な技術を携えて帰化人たちがやってきました。今でいうコンピュータのような技術ですね。1万人ぐらい来たと古文書には書いてあります。1万人の難民が来たら今でも大変です。富山市で1万人も受入れられますか。あのころの世界人口はせいぜい3億人です。今、世界人口は62億人で、もっと大規模な民族の移動が起きると、その人たちをどういうふうに受け入れるのか、どう対応するのかということが、我々が生きている間に起きる可能性が十分にある重大な問題です。


先祖をたどってみよう

4.生命の歴史と未来を概観してみよう

 もう少し長い生命の歴史について、リラックスして考えてみましょう。今、私がここにいます。私はゼロから生まれたのではなくて、お父さん、お母さんがいたのです。その上に僕の母親の爺さんと婆さんがいて、それぞれ20歳になったら子供を産むと仮定して、どんどんさかのぼっていくと、8人、16人と増えていきます。640年で、2のn乗の計算です。640年さかのぼったら、私につながる人が60億人、ほぼ現在の世界人ロになってしまいます。当時そんなに人がいたはずがありません。なぜこういうことが起きるのかというと、特に日本のような島国では、近親結婚が多かったからです。僕の爺さんくらいの時代までは結構あったわけです。こんな簡単な計算をするだけですぐわかりますが、僕も僕と新宿にいる浮浪者も、天皇までみんな親戚ということになりますね。


人間の過去をさかのぼる

 もっとさかのぼると、我々の兄弟はサルです。1億年さかのぼると小さな夜光性の小型の食虫類で、昆虫を小さくしたようなものになります。ずっとさかのぼっていくと、30億年前の生物の化石として我々がオーストラリアで見るような化石ともつながっているはずなんですね。



Eddy,J.A.、1981年、安田喜憲

 右図のピンクの線は温度で、左側が寒く、右側が暖かいことを表しています。小泉先生たちの非常に重要な研究によれば、1万年前から、暖かくなったり寒くなったりする気候の変化に文明が連動して、画期的に変わっています。寒くなったときに革命的な変化が起こっているのです。危機に際して人間は知恵をしぼり、工夫するということでしょう。
 たとえば、1万年前の農業革命、牧畜革命についてですが、この素晴らしい発明は、なんと食料の中に自分の身を置いたことです。人間というのは、ほったらかして食事をやらなければ数週間で死んでしまいます。しかし、やぎの集団の中で暮らしていると、餓えることがありません。農業も同じですね。植物を栽培するのも動物を飼育のも同じで、餌の中に身を置くという発明です。これによって人間は餓死しなくなるのですが、同時に人口が爆発的に増加することにつながりました。


 都市革命、それから、精神革命に次ぐ、重要な大変革は、産業革命の前に起きた科学における革命です。右の図は、知識の総量をたどったもので、3百年くらい前にどれくらい知識の量があったかについては、辞書の厚さにより判断できます。そのころフランスで初めて百科辞典ができましたが、厚さは数十センチでした。現在では世界で学会の数が約千あります。その知識を厚さに換算するとまあ、だいたい50メートルでしょう。科学がどれくらい発達したかというと、いまやテクノロジーのおかげで地球の中の様子まで見えます。超音波でお腹の中の赤ちゃんを見ることができますね。それと同じ原理で、我々は今、地震計を使って地球の中を細かく見ることができるのです。そのような科学が生んだテクノロジーが、我々にとって役にたつ文明と言われるものです。これは、欧米が長い間、時間かけて作り、育ててきたものです。図の中のりんごは科学の木に実る技術を指します。日本は明治の初めに国を鎖国から解いた時に、このりんごを全部ただで手に入れました。そして、例えばアメリカ人が作ったカメラの上にボタンをもう1つ付けて、使いやすいものにして、世界で売りまくりました。日本の繁栄の歴史というのは、基本的にはそういうことです。しかし、これからは、そんな甘いことを許してくれません。だから、自力でテクノロジーを育てなければならないのです。

5.社会の仕組み

 また、話が横にそれますが、国とはいったい何でしょう。この日本海の問題を考えていくときの原点でもありますが、非常にシンプルに考えて、国を一つの家に例えれば分かりやすいと思います。僕がいて、僕の妻がいて、子供が10人いるとします。この中にはどうしても用心棒が要ります。軍人ですね。残りの子供はサラリーマンになって、一生懸命働いて、僕の給料の他に彼らが家にお金を入れてくれます。その代わり彼らに食事を与えます。彼らは服も買います。ところが、3人の軍人は、平時にはただ飯食らいであるだけではなく、その他に軍艦が要る、大砲が要る、ジェット戦闘機が要るとねだります。この軍人になる子供が増えたら、僕の家庭は崩壊します。旧共産圏が、なぜ崩壊したかというのは、国民の中に占めるの軍人の数が、一桁多かったからなんです。結局時間が経つとお金を吸い取ってしまいます。しかし、日本は今、用心棒役をアメリカに肩代わりしてもらっています。韓国もそうですね。そのほうが楽なのです。ところがこのやり方はもう通用しない時代になってきました。
 また、子供に、将来どんな職業につきたいかとアンケートをとると、歌手になりたい、タレントになりたい、サッカー選手になりたい、野球選手になりたいと多くが答えます。メディアに露出する人気商売ばかりに子供たちが憧れることは、日本の未来にとって危険なシグナルです。日本の若いジェネレーションの多くが芸能人やスポーツ選手になったら、この国は崩壊します。これらは、物を生み出さない虚業だからです。仕事には、虚業と実業があって、圧倒的多数の人々が、実業につき、こつこつと物を作って、せっせと外国から資源を買うということに携わらなくては、日本の経済が立ち行かなくなってしまいます。それが資源のない日本の宿命なのです。

 ところで、発展した科学が明らかにした重大な事実があります。それは、一言でいうと「人の生理」です。それに従えば、犯罪のある社会が健全な社会だということになります。たとえば周りが「よせ」と言うのに、死ぬ確率が高い危険な山に登る人がいます。なぜか、それは山があるからだと言います。単純に、その人にとっては山に登ることが気持ちが良いんですね。同じように、1万人くらいの人がいると、その中に1人はこういう子供がいます。以前に、千葉県で小学生が、他人の家に押し入って、じいちゃん、ばあちゃんを殺し、両親を殺し、幼女を刺し殺した事件がありました。裁判官がなぜそんなことをしたか、どうして殺したのかと尋ねたら、彼は「生まれて初めて生きているという陶酔感を味えた。」と言いました。今ままで自分に文句を言っていた、いい年をした中年の人が、死ぬ間際になると、自分に助けてくれと哀願して、そうして自分の思うままになったというのです。その陶酔感というのは、自分にとっては、生まれて初めてで、とっても素晴らしくて、最後は幼女までまとめて5人を殺してしまうのです。これは、生物の多様性の結果でしょう。人間がなぜ、絶滅せずにいるかというのは、多様性ということを選択したからです。生物としての生きる戦略です。人は皆、全員顔が違う、性格も違うということです。同じようにほとんどの人は、殺人も嫌だし、危険な山に登るのも嫌なのです。だけど、わずかな子供は、殺人が、陶酔感を覚えるくらい、嬉しくてしかたがありません。それが、生物としては、非常に健全であるということです。多様性を失ってないからです。だから、重要なことは、そういう事を肯定した社会づくりをしなければいけないということです。「人はすべて善人である、右の頬を叩いたら、左の頬を出しなさい」、この言葉を実行すると、1万人の中の1人のそういう人に当ったら、殺されてしまいます。そういう形で、キング牧師やジョンレノンなどが死んでいくわけですよね。それを理解したうえで、社会を作らなければいけないということです。

6.我々は文明の家畜

 我々の生活は、ほぼ100%、文明そのものにくるまれているから、文明の中に埋没していて、文明がないと生きていくことができません。文明とは人間以外の動物が持っていない品物のことです。服、時計、靴など身に付けるものの他に、家や車、高速道路、電話、パソコン、テレビなど数え上げたらきりがありません。厳密にはこれらを物質文明と呼んで、もう一つの文明、目に見えない文明である精神文明と区別しています。
 電気を作り出すことによって初めて、人間は夜でも活動できるようになりました。いわば人口の太陽を作り出したわけです。今や電気がないとやっていけません。少しの停電でもとても困るでしょう。電気は文明の必需品です。300年前には電気もなくて、はるかに貧弱な文明でした。人間の歴史600万年をみても、この豊かな文明の社会はごく最近のほんの一瞬のできごとなのに、人間の一生は短いから。まるでずっとずっと前から文明は存在していたのだと錯覚してしまいます。
 現在の人間は、サルと同じように裸にして、暖房機器もない自然の空間に放り出したら、おそらく冬を越せないでしょう。人間から文明、特に物質文明を取り上げてしまったら死んでしまいます。今、縄文時代の生活に戻ろうという運動があります。しかし、あなたは自給自足の生活を一生することができますか。電気のまったくない自分の生活を想像できますか。衣食住すべて自分で作る生活です。人間は一度文明を知ってしまったら、もう二度と後戻りはできないのです。なぜなら文明は人間の本能を満足させるからです。
 もちろん循環型の持続可能な社会を目指すことはよいことです。太陽のエネルギーを全部循環する社会が理想です。しかし、日本にはできません。狭い国土に降り注ぐ太陽エネルギーで養える人口は今の半分ぐらいです。資源もありません。アメリカはそれをやろうとしたら、もしかしたらできるかもしれませんが。アメリカには資源とテクノロジーがありますから。
 文化と文明の違いについてちょっと話しておきます。着物は文化です。ジーパンは文明です。ジーパンは、デトロイトの自動車工場の作業着として誕生しました。しかし、非常に便利で丈夫である、それとかっこいい、合理的である、それであっという間に世界に流行し、定着しました。それと正反対なものが着物です。着物を着て仕事はできないですね。だから、世界中に広まりません。だから、どうしても地域的ですね。これが文化のゆえんです。精神文明と精神文化の違いも基本的には同じことです。

7.教育とは共同体で生きるルールと知恵を考えること

 教育というのは、試験勉強や、知識を教えることではありません。一番重要なのは、人間はアリと同じで一人では生きていけないということを教えることです。朝起きてご飯やパンを食べますが、一つも自分では作れません。家の中には、今は水道があります。これは、家の中に川があるのと同じです。水がないと生活できませんね。人間というのは、基本的には一人では、生きていけません。だから、群れを作って、共同体で生活しています。都市というのは、一つの共同体ですね。だけど、共同体で暮らすのは非常に窮屈で、自由も権利もほとんどありません。わずかな自由や権利を主張するためには、その百倍の義務を果たさなきゃいけません。そういうことを子供に教えてあげなければならないのです。教育というのは、基本的に共同体で生きるためのルール、それと、そのための知恵を教えてあげるということです。生まれた時、すでに社会にルールがあります。それは、我々の先人が作ったものですね。そういうことを知らないで生まれてきます。だから、子供は圧迫感があって、たまらなくなるわけです。小学生はサル、中学生は原始人、高校生になると人間レベルとなり、少しはこういうことが分かるようになります。サルを大人あつかいしてはいけません。中学生もそうです。まだ、原始人ですから。

 先ほど、教育とは何かということを話しましたが、EQという能力を提唱した人がいます。EQとは何でしょうか。例えば、この集団の中で僕は、どれくらい好かれているか考えるとします。僕は自己採点して1位に間違いないと自信を持っています。しかし、皆さんにアンケートをとったら、百位となりました。すると僕のEQは、ゼロです。EQというのは、集団の中で自分の能力を客観的に把握するための能力のことで、共同体の中で生きていくために、重要な能力ですね。こういうことが非常に重要だということを理解して、家庭や学校でトレーニングしていく必要があります。
 また、共同体で生きるときは組織の本能が問題になってきます。今、日本全体が大きく変わらなければならない時です。ところが、組織の本能がじゃまをします。たとえば大学は組織の一つですね。組織が生まれたときは、目的追求型です。大学は社会の中で果たさなければならないたくさんの目的を担って作られます。ところが、ひとたび大学のメンバーになると、一人ひとりが、自分のしあわせを追求するようになり、内向きになってしまいます。


堺屋太一、1996年、「組織の盛衰」、PHP新書

 重要なことは、組織には本能があるということを理解して、あらかじめ本能が出ないように手を打つことです。信長型の人間は、能力100%-人格ゼロですが、そういうタイプのリーダーは、個人のしあわせを追求する人たちに嫌われます。光源氏型の人間、つまり能力ゼロー人格100%、こういう人間がリーダーとして好まれます。すると、リーダーの能力がないので組織は衰退していき、ただの仲良しグループになります。その結果、社会から求められている役割を果たせないのです。これが、組織の本能なんです。そのことを、熟知して手を打つのが、新しい時代です。富山県が、リーダーシップを発揮して新しい国際時代のためになることをしようとするとき、考えなければならない問題です。


空間の大きさの理解の発展 立花隆、1999年、
「サイエンス・ミレニアム」を一部改変

8.あらゆる文化の中で科学だけが自律的に発展する

 科学の最前線の話です。右の図の横軸は時間、縦軸は空間です。宇宙の果てが最上部です。137億年というのは、宇宙の年齢、宇宙の果てですね。この水色のところが、我々が肉眼で見える範囲ですが、一番下の小さい物質をどんどん小さくしていくと。素粒子とかクオークとか小さい単位の粒子になります。人間が、どれくらい小さい機械や物質を作れるかというと、今、10ナノメートルあたりです。それくらい小さいと粒子を薄膜にして、二枚、三枚重ねにしたり、違う物質の粒子を一緒にしたりできます。すると新素材など、無限の可能性が出てきます。
 このように、科学と技術の発展はめざましいものがありますが、科学と技術は、自分の力でかってに発展するという性質を持っています。この発展のパワフルなエンジンは科学者共同体です。一般的には、学会と呼ばれています。いくら腕力が弱くても頭脳だけで科学者共同体を作れます。その研究は、テクノロジーに結びついて、やがては権威と名誉を手にできます。そういう装置が社会の中にできたために、科学と技術が自立的にどうどん発展するようになったのです。文学や歴史学が100年間でどれくらい発展したかということと比較したら、科学と技術の100年間の発展のスピードと量のすごさが分かるでしょう。

9.人類の今と未来

 右の図は世界人口の予測です。横軸は1万年前から未来までの時間です。人口は無限に増えるわけでないですね。数千年で人間の体重を全部足したものが、地球よりももっと重くなるなんて、そんな馬鹿なことはありません。だから、必ず転換点がきます。ローマクラブは、2050年には、世界人口が100億人になって、あとは減少に転じると言っています。しかし、その前にカタストロフが来てしまうのです。
 こういう格言があります。「賢者は、歴史に学ぶ。」賢い人は、その時代に起きたことを書物から学ぶというのですね。「愚者は、経験に学ぶ。」自分に起きたことからしか学ばない。しかし、過去1回も起きたことない重大な変化は、歴史からも学ぶことができません。2020年まであとわずかです。それまでの二つの重要な課題、これは地球の化学的な環境の回復と世界人口の抑制です。

 20世紀にできなかったことは、予測と制御です。予測と制御については、重要な三つの段階があります。最初の段階は「知る」ということですね。自然界にどういう法則があるかを探究します。そこで法則を理解すると、「予言する」ことができます。これが、第二段階ですね。悪いことが起きると予言されたときは、「制御する」ことができます。たとえば火山は噴火しないようにするとか、地震は日本の構造上の宿命だから、制御するとか、水抜きをするとか、まあ、このようにするとうまくいくわけですね。それで、科学全体として、どこまでできているかというと、20世紀は一の段階の前半です。20世紀の終わりには、「知る」ということの後半の段階となりました。全体を通して物理学は、ほぼ終わりました。我々の知識の最前線は、「予測」はしていますが、ある分野ではもう「制御」することができます。台風も制御することができます。例えば、二酸化炭素の増加問題は制御することが可能な時代です。すべてを、悲観的に考える必要はありません。
 次世代のエネルギーを視野に入れて、アメリカは、今年からもう一回、核融合にトライします。核融合というのは、一番小さい元素である水素を2つくっつけて、そのときに出るエネルギーを取り出すのです。今までやっている核分裂は、大きなウランを使って、小さくするときに出るエネルギーを取り出します。だから、たくさん粒子が出て、全部悪さをするからまずいんですね。核融合のほうが良いのだけれど、なかなか成功しません。しかし、投資するということを止めてはいけないのです。核融合が実用化されれば、環境や人口問題に光明が差します。


科学の発展と独立変数の数の関係

 5年ほど前から急速に、基礎科学や数学や物理学や化学が解明されています。そうして今、21世紀は、生物学と地球の環境問題が黄金時代を迎えています。さらに社会学も科学として予言能力を持てる方向へ成長していくでしょう。それが20世紀問題の解決に役立つことは間違いありません。


10.複雑な社会の現象をどうやって理解するか

 社会学を科学にまで高めていく必要があります。これは、予言能力のある学問にしなければいけないということです。今は、どこかで戦争が起きたら、あとであれはああだった、これはこうだったという解釈学なんですよね。いつか、これを突破しなければなりません。

 複雑な社会をどうやって理解するかということで、練習問題を出します。巨人が今年優勝できるかどうかを考えるためには、パラメータがたくさんあります。重要な項目は、パラメータにします。原監督の能力があり、選手の能力があります。今年は清原が調子いいですね。会社がどれだけ銭をだしていい外人をとってくるかというようなパラメータもあります。ところが、監督の能力の中にはさらに、人格、情報収集力、決断力などまたいろいろな要素があります。人格といっても、単に心づかい、たとえば、選手の奥さんの誕生日を全部覚えていてバラの花を贈るとかもあります。しかし、原監督が、選手の奥さんに完璧にバラを贈りつづけても、優勝するとは限らないですね。重要なのは、社会で起きる現象の中で、重さの違い、つまりこれは、あれより相対的に重要だということを、見抜かなければなりません。社会の現象は複雑だからです。
 ある人は、象の足だけを触って、象は柱のようなものだと言います。別の人は象の鼻だけを触って、象はホースのようなものだと言います。各人がいろいろなことを言ってわけがわからなくなります。象に1万人の人間がかかって、象とは何であるかという情報を集めて総合すると、象は完璧に理解できます。多成分系・多自由度の科学とは、こういうことです。いろいろな専門家が複雑な現象を多方面から研究し、総合的に解明していくというのが、科学の新しい流れです。

 複雑系の現象は、見方を変えると、評価が分かれます。例えば、人殺しは罰せられるはずですが、まれに賞賛されることがあります。歴史的には一万人も殺して英雄扱いされていた人もいるのです。まあ、それは極端な話ですが。こういう複雑系の現象を理解するには方法があります。社会の現象というのは答えはいつも灰色ですね。だけど、ちょうど白と黒の中間の灰色かというと違います。では、どっちに寄っているか、白っぽい灰色か、黒っぽい灰色かを見分けるには360度いろんな角度から、検討すればわかります。赤字国債の問題も一緒です。総合的に見て、どっちよりか判断して対策を立てるべきです。そうしないと方向が定まりません。このような話は、政治家や人文系のいろんな分野の人に理解して欲しいのです。

11.ボーダレス時代の国家戦略とは?

 次は、日本の話をします。日本は、1ドルが360円のころから、ものすごい繁栄をしました。そうして、今は経済的に大変な時代に来ていますが、崩壊の兆しが見え始めています。その理由は、国債の発行残高がここ数年の間についに1千兆円を突破したからです。国債というのは、政府が発行する借用書のようなものです。政府は、年間20兆円の歳入しかないのに40兆円使っています。なぜ20兆円の収入しかないのに40兆円使うことが可能なのでしょうか。それは、国民の貯金があるからです。貯金でせっせと国債を買う、つまりお金を貸してくれるのです。国民の貯金を全部使おうというのが政府の作戦で、数年のうちにその貯金は全部なくなるでしょう。政府は国民のお金を集めて紙切れを渡しておけばよろしい。昭和の始めに、日本政府は、国債の償還をしないという手を使いました。首が回らなくなったから、借金を踏み倒したのです。もっと合法的にやろうと思えば、スーパーインフレを起こして、ただ同然に価値を落とすでしょう。これも過去に起こっています。お年寄りから、昔は何円あったら家が立ったのにという話を聞いたことがあるでしょう。それほど、インフレによって一代のうちにお金の価値が落ちているのです。今、ここに国債を買おうと思っている人もいるかもしれませんが、10年満期の国債を買って、本当に10年後に価値があるでしょうか。


データはサンデー毎日、2002,10,6、158-161頁

池上正樹、総務庁と警察庁の統計
(98年は厚生省)をもとに作成

 景気の悪化に伴って、日本では自殺者が増加しています。イラク戦争での死傷者は1万人です。しかし、日本で自殺している人の数は、毎年3万人を超えています。実は日本は、今、2千年の歴史の中でもっとも繁栄している時代なのです。織田信長は、おそらく世界旅行に憧れていたでしょう。しかし、できませんでした。現在のたいていの日本人は、世界旅行ができます。徳川家康の毎日の食事よりは、はるかにグルメな食事を皆さんはしています。その最大の繁栄の中にいるわけですが、その繁栄に貢献した人たちが今、自殺しなければならなくなっています。
 それは日本の物作りの拠点が、たくさん中国に移って、日本の雇用が減ったり、コストで対抗できなくなった零細企業の倒産が増えたりしているからです。物作りは、最初、朝鮮半島に移り、さらに中国に移って行きました。中国は人件費がただ同然の国です。こういう現状の中で日本海地域もどう対処していくかということを考えなければなりません。



杉山徹宗、1999年、祥伝社から作成

 ところで、中国は、北京を「正州」として、宇宙の中で唯一の文明地であるとしています。その周りの国を、昆虫の名前や爬虫類の名前などで呼ぶという中華思想です。日本も変な国ですね。お土産を持っていったら相手にしてくれるので、喜んで通っていきました。彼らは、日本をチビで卑しい人々の国と読んでいました。倭奴国の「倭」と「奴」はそういう意味です。呼ばれてハッピーな名前ではないですね。どうして、こんな中華思想が生まれたかというと、2000年前に中国は、今のアメリカよりも巨大な文明を作ったからです。鉄の文明です。中国はその後、ずっとアジアのトップでした。ところが、ここ百年の間に、歴史上初めてアジアの中で日本の後塵を拝しました。しかしここ数年、着実に中国は力こぶをつけてきて、こう言っています。「我々は、間違いなく回復しつつある。」必ずそうなるでしょう。そのときに日本は、アジアの中でどういう形で中国と付き合うのかということを、選択しなければなりません。そこには,戦略性というものが必要です。

 イギリスはかって日本と似たような経済的な病気にかかりましたが、サッチャーが大なたをふるい、就任から10年で回復しました。日本はどうなるでしょうか。
 日本とアメリカの税率を比較すると、アメリカの方が高額所得者からも、低所得者からも、もっと税金をとっています。日本も広く浅く課税するというように、シフトしつつありますが、それでも、日本の国民の負担率は、アメリカ、フランス、イギリス、社会保障の国に比べたら圧倒的に少ないのです。しかし、これからは税金の増加を覚悟しなければなりません。
 日本再生の希望は、科学と技術の中にあります。一つ目は小型化技術です。胃カメラを飲まれた方もいっぱいいるでしょう。今、胃カメラは、使い捨ての小さな薬用のカプセルほどまで小さくなっています。動力は外から電波で送るんです。     二つ目は、バイオテクノロジーです。これは薬だけでなくて電子、情報、医療、いろんなところに用途があります。三つ目は、ナノテクノロジーですね。それが、日本のエースです。四つ目は、ロボットです。ロボットは、2025年には、コンピュータとほとんど同じくらいの市場の規模を持つだろうと言われています。ロボットというのは、テクノロジーの最先端なのです。非常に小さくして、ナノテクの壁を乗り越えると、量子の世界になりますが、そこで小さな機械を作ることができると、ほとんど人間に限りなく近い能力を持ったロボットができます。
 いずれにせよ日本再生の鍵は、政治が握っているのは間違いありません。ボーダレスの時代には、今までの利益誘導型の政治から、新しい形に変わっていく必要に迫られています。

12.国際社会になぜ警察が必要か

 次に、社会に警察がなぜ必要かという話をします。例えば、小泉先生は、個人的には大変、素晴らしい方だと思います。しかし、彼が北大の学長になると、北大という組織のエゴを守らなくちゃいけません。また、清家先生が、富山県の県知事になると、今年は富山県の交付税は減らしていいから、20%を新潟県にあげようとは絶対に言いません。組織に入ると、人はエゴ丸出しのサルになるのです。これは、国のような大きな単位になっても同じです。エゴがぶつかり合う国際社会の中で、警察がどうしても必要になります。子供のころ同じクラスの中に、こいつは心底、根性がねじ曲がっていると思う子が一人はいたでしょう。この中にもいるかもしれませんが。そういうことを、考えた上で、手を打たなければなりません。
 政治問題として見たとき大きいのは、北朝鮮問題です。これは富山県にも関わりがあります。寺腰さんの拉致から始まって20年経って、被害者の会ができ、抗議運動が起きています。日本の政党は何をしてきましたか。社会党はずっと北朝鮮の肩を持ち続けました。共産党もそうです。去年、北朝鮮が拉致を認めてはじめて、政党としてのむちゃくちゃな実態がさらけ出されました。政治家の能力というのは。緊急時にいち早く手を打ち、国民の命を守れるかどうかで分かります。政党も政府も反対のことをやってきました。なぜこんなことになったのか原因を考えなければなりません。ボーダレスの時代になると国際事件が毎日のように起きます。そのたびに、タイミングを逃さず手を打っていかなくてはならないのです。

 人間の世界は数千年前から最近まで、国の数がどんどん減るとともに、国のサイズは大きくなって、そうして、最終的にはアメリカがその頂点に座っています。この頂点のボスザルの下に、194匹のサルがいます。日本は20番目かそこらですね。だからそういう位置のサルが、世界にどうのこうのと言っても無理なのです。無法国家は下っぱのサルの言うことなど聞かないですね。国際警察の役割というのは、アメリカがやるしかないでしょう。


毎日新聞、2002,12,11

 国家の世界戦略として参考になるのは、アメリカが絶対的優位に立ったことを世界が認識した直後に、他のサルたちがどういう行動を取ったかということです。第2位から第8位までのサルが、全部結束したのです。トップのサルと対抗するには、集団を組むしかないというのが、ヨーロッパで非常に自然に起きた意識の流れです。そしてEUができました。EUは面積自体がアメリカと変わらないし、人口はアメリカより多いのです。では、アジアはどうしますか?難しいですね。しかし、東アジア共同体ということを考えなくちゃいけない時代になっているのです


13.文明論の芽生え

 文明の歴史をたどると、一番最初の文明は、ギリシャです。それについて最近のトピックを、一つお話します。現在のトルコにあたる所に大きなアナトリア高原があります。その東側の中東にかけて大きな山岳氷河が当時ありました。その氷河が気温の上昇によって大量に溶け出してどんどん高原の部分が水没して小さくなっていきました。5,6千年前までは、中東は世界一の緑の豊かな所だったのですが、氷河の激減によって乾燥していくわけです。この時に大量に流れ出した水がノアの洪水となって押し寄せ、町は水底に沈んでしまいました。その上に作った町が今のバクダットです。バグダッドの町の下を3百メートルくらい掘ったところに、当時の町並みが発見されています。ノアの洪水は史上最大の自然災害なのです。最近は、同時にこの氷河から黒海に大量の水が流れて3百メートルほど水位が上がったことがわかっています。水位は現在もほぼ変わりません。黒海に大量の水が溜まるとエーゲ海との間で行き来ができるようになりました。ギリシャは、黒海に商船をたくさん走らせて、盛んにビジネスを行い、繁栄を享受していたのです。


世界人口の急激な増加の始まりと産業革命、
日経新聞 1999,6,11

 最初の文明の後が、イタリアを中心とした産業革命です。文明論の創始者は当時のマルサスです。彼は、「人間の数は、倍々ゲーム、ネズミ算式だ」と言いました。「しかし食料は、そういうふうには増えない。だから、必ず行く先々に大変なことが起こる」と予言しました。ゴーギャンは直感的に未来への不安を感じて、絵に表現したのです。当時はイタリアが科学のリーダシップを取っていましたが、その次に、フランス、イギリス、ドイツの順で世界一になりました。日本が明治になって国を開いた時のトップはドイツでした。それで、日本はドイツからの多くのことを学んだのです。


14.アメリカ文明の特質

 ヨーロッパの産業革命が爆発的に振興して、人口の膨張が起こった結果、アメリカに大量の移民が渡りました。それからも、世界各地から、合計1億人近い人間がアメリカに移ったのです。アメリカの開拓民は、海岸から400kmも内陸に入って、大陸の中心部までたどり着きました。それはここに鉄鉱石があったからです。そして、それを運ぶために河、山を削って運河を作り、船を走らせました。その次が鉄道です。最後が飛行機と高速道路が整備されて、国内が網の目のように結ばれました。
 アメリカという国の特徴は、民主主義の精神、自由や人権というものを発明した国だということです。その頃のアメリカはまだ植民地でしたが、その雰囲気がヨーロッパに影響して、名誉革命を誘発し、初めて、民主主義のシステムの国がイギリスにできました。次にフランスにも民主主義の国ができました。アメリカに渡った移民によって、小さな都市が次第に大きくなり、それが全米に広がりました。さまざまな人種が共同で、時にはけんかもしたけれど、しかし、国家としての分裂をうまく回避しながら、どんな社会が人間にとってベストであるかを、実験・改良しつつ国土を拡大しました。地上のほぼすべての人種が集まって作った人口国家、それがアメリカです。
 もう一つの特徴は、電気の国でもあります。日本のほとんどの電気製品が、もともとはアメリカから入っていきました。それは今のイラクに行ってもそうですね。イラクの電気製品も全部メイドインUSA、心だけが違います。新しいエネルギーである電気を利用して、アメリカの工業化・文明化がめざましく進み、アメリカは世界の文明の中心になりました。アメリカの発展の歴史は、科学と技術の発展の歴史とほとんど同調しています。アメリカの歴史は科学に徹底的に投資した政府が作り出したものです。

15.総合的文明論と未来への指針

 国の指針を決めるそのポイントは何か、それは長い間の哲学の課題です。昔は人類の知識を全部理解している人が哲学者であり、国家の方針を決めましたが、知識の総量が増えた現代では、それをすべて理解しなければならないので、大変です。
 これまで経済学を中心にした文明の中で、いろんな実験が行われてきました。経済は人を豊かに、幸せにします。だから経済学者はすごいのです。啓蒙時代には社会契約論などの実験を試み、その結果でてきたのが、マルクスとエンゲルスの経済学です。マルクスに端を発して、現在はあらゆる知識を総合化して我々の生き方を決めるという総合的文明論が中心です。何度も繰り返しますが、指針をを決めるときに重要なのは、人も生物であるということを忘れないことです。テロリズムがある国際社会もあれば、健全な国際社会もある、そういうことを念頭に置いた形の対応が必要です。
 ところで、現代は、誰も「教養とは何か」ということに答えられません。教養とは、人間として知っておくべき知識のミニマムのことなのです。その教養を身につけることが、現代の人々に必要です。膨大に増えた知識の中で、エッセンシャルミニマムは何か、理解すべきミニマムは何かということを、科学ジャ-ナリズムがきちんと言うことが重要です。啓蒙から批評へと向かわなければなりません。これは科学ジャーナリズムの責任です。日本海学もこういうことを考えて、行動しつつあるわけです。我々を中心に、これからアジアに向けて、また世界全体に向けて何をやるかと考えるときに、重要なのはボーダレスの時代にどう対応するかということと、人類がどういうゴールを目指すのかということです。大切なのは世界観をしっかりと持つことです。世界観が固まれば、次は具体的に何をやるかという行動方針が見えてきます。世界をどうするのかということを「地球人」として皆で考えなければならない時代になっています。
 また、未来が予測・制御できる時代が近づいているということも、それを後押しするでしょう。これは、科学の役割がますます重要になっていくということです。


民主主義国家の誕生と増加

16.戦争論について

 19世紀に起きた戦争の数は60回、20世紀は1800回です。戦争による死亡者・1億人というのは、直接的な数字で、二次的な死亡者も合わせれば実際はもっと多いのです。ここにカントの予言があります。それは「民主主義の国どうしは、戦争しない。」というものです。なぜなら、「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙に落ちたら、ただの人」と言う名言がありますが、民主主義の国では、リーダーが失敗すると、選挙に落ちるんですね。だからどうしても、リーダーは慎重になって、いろいろな角度からこうしたら、ああしたらと考えて、戦争を回避しようとするからです。まだ民主主義の国が3つしかない時代にカントは予言したのだから、偉いものです。民主主義の国同士はめったに戦争をしないということは歴史上、実証されています。慎重者どうしの国が増えれば、戦争の数は減っていくはずです。世界がすべて民主主義の国になったら、戦争がなくなるということも夢ではありません。


国家の形態の歴史的変化と現在の分布

 1970年、今から30年前、民主主義の国の総数は30カ国でした。今世界194カ国の中では民主主義の国は100カ国を超えました。しかし、まだ、そうでない国がアフリカ・中東辺りに残っています。
 人間の知恵を絞って発明した国のシステムの中で、王様の国、王制国家というのは、王様が国の富を全部独占するためのシステムで、国民は家畜のようなものです。宗教国家は、リーダーが宗教者です。政治と宗教が一致していて、宗教者がすべてを決めます。軍国覇権主義というのは、一党独裁で北朝鮮のようなシステムです。そこには王政国家や宗教国家と似たようなリーダーがいて、他の国を侵略して自分の領土にして、その国の国民を奴隷にします。日本も第二次世界大戦前は軍国覇権主義でした。民主主義の国は侵略をしません。民主主義の国は、国家の富は国民にできるだけ分配しようとします。今、世界の国の50パーセントは民主主義の国で、世界全体が民主主義の国へと向かっていると言えます。

17.国連の素顔、アメリカの姿

 国連がなぜ、役に立たないのでしょうか。国連は、中東の国サウジアラビアなどのような王政国家もそのまま民主主義の国々と対等に扱っているからうまくいきません。これが国連の限界です。
 北朝鮮は、核兵器の開発の中止を約束した見返りに食糧支援を受けたにもかかわらず、密かに開発を続行していました。もう核兵器の開発を終えているようです。北朝鮮はアメリカ、韓国、台湾、日本より圧倒的に軍人の数が多いのです。日本より国民が少ないのに日本の数倍の軍事力を持っています。国がこの負担に耐えられるはずがありません。それで国民の大部分が飢えています。

 世界でアメリカの軍事予算は群を抜いていて、2位以下10位までの国々の軍事予算を全部足しても超えられません。しかし、今は経済力の弱い国でも核兵器をもてる状況になっています。日本もその気になったら、いつでも作れます。今は、科学と技術が、どんどん発達しているから、高校生ぐらいでも少しがんばると、原爆を作れるような時代になるでしょう。こういうことに対して、どう対応すれよいでしょう。国際社会には基本的には、警察がいません。国連軍は、安全保障理事国同士で意見がまとまらず、いざという時に役に立ちません。警察の役割をだれかがやる必要がありますが、それが可能なのは、アメリカしかないわけです。
 ところがアメリカを誤解している日本人が多いのです。例えば、中国には、50の民族がいますが、漢民族がすべてを支配し、それ以外の民族の権利を制限しています。民族間の問題は、日本人には理解しにくいところがありますが、アメリカと比較するとわかりやすいでしょう。アメリカは、多民族、多文化、多宗教、いろいろな人が共存しています。それがアメリカの特質です。歴史とともに併合したような国というのは、必ず分裂します。旧ソ連もそうです。しかしアメリカ合衆国が大きくなっていく過程で、脱落した州や独立した民族が過去1つもありません。なぜかというと、科学と政治が一致した国家だからなんです。20世紀の間、アメリカは、いろんな分野でダントツ1位になり、世界を圧倒してきました。経済が富を生みます。それが国民の求心力になっています。もし僕がアメリカで、ダントツ1位の状態をキープしたいなら、こう考えます。北朝鮮を温存しようと。現在、中国を中心に東アジアの経済がものすごく大きくなろうとしていますが、アメリカにはこれが脅威です。その勢いを削ぐ手っ取り早い方法は、アメリカが日本や韓国から基地を引き揚げることです。日本は軍備を増強せざるをえなくなって、対抗上、韓国も中国も増強します。輸出でもうけたお金を軍人にどんどん注ぎ込んでいきます。そのうち日本経済が疲弊し、韓国が疲弊し、中国が疲弊していけば、アメリカにとっては経済的なライバルがいなくなるので好都合です。温存した北朝鮮が暴走して東京に原爆を打ち込んでも、アメリカは別に困りません。ところがアメリカはそうしないでやってきています。それは、アメリカは民主主義というシステムを発明して、民主主義を人類のすべてに発展させようというドクトリンを作ったからです。それが建国に際して、メイフラワー号上での誓いで、歴代の大統領が年頭の教書で必ず読み上げます。アメリカの中には、「もうアジアに干渉するのはよそう、なんでアメリカ人の命を東洋のサルのために、犠牲にする必要があるのか」と主張する人たちがいます。その意見が非常に強いのだけれども、アメリカの弱点は建国の精神とのジレンマです。その精神をずっと実現し続けていこうとしているんです。日本はそのことを考える必要があるわけです。

レベル     研究史

(プロ)
1.学問としての戦争の研究
2.生物としての人間の性質
3.国際社会の仕組み
4.民主主義の歴史
5.科学・技術の歴史と  政治・経済の歴史との関係
6.2020年問題の理解
7.国連が役に立たない理由
8.未来を展望した上で考える
イラク戦争の支持 ラセット(米)の検証(1994年)
人間の本性の理解(テロのある社会が健全な社会)
啓蒙時代(カント)(200-300年前)
君主論(マキャベリ)(500年前)

(大学生)
歴史を知ろう
社会の形態の歴史を知ろう
自由・平等・国民主権
民主主義を発明したアメリカの理解
(アメリカ支援に傾く)
2000年前
(キリスト)
 

(高校生)
原因は何だろう 答えはわからない

(小・中学生)
戦争か平和かの二者択一 イラクはそのまま
(現状肯定論)
 戦争論の歴史
人間は実に長い研究の歴史を持っている。時代とともにレベル1から4まで発展させてきた。ところが、多くのマスコミ・知識人のレベルは2000年前のキリストの隣人愛理論のレベルを超えていない。

 ところで、「戦争か平和のどちらが好きか」と言ったら、それはだれだって平和と言います。小学生でもわかる。もう少し知恵がついて中高生になると、原因は何だろうと考える。ひょっとしたら、戦争をこの世からなくすために、戦争をせざるをえないのではないかという疑念が出てくる。しかし、答えはよくわからない。
 大学生レベルになると、歴史を知ろうと考える。社会の形態の歴史を知る必要がある。日本の社会の形態は、日本人が発明したものではない。イギリスのジョン・ロックが300年前に発明したものです。啓蒙主義の時代にフランスのルソーとか、当時の先進国の知識人が人間にとってベストの社会形態を考えました。彼らは次のように考えました。平常時は多くの人間は善人です。そして生活を維持できる程度の財産で満足している。しかし、世の中には少数だけれども必ず悪人がいて、問題を起こす。彼らを制裁する権利が個人にまかされると、暴力団が社会を支配するようになって平和が保てない。だから各人は社会と契約して、警察や裁判所が必要になる。さらに裁判所や警察がすべての権力をにぎらないように、注意深く権力の分立を考えた。こうして近代国家が英国に誕生した。われわれは今、その恩恵に浴しているわけです。
 横にそれましたが、学問としての戦争の研究、政治から見た人間の性質、国際社会の仕組み、それが歴史的にどう変わったのか、民主主義は誰が発明したのか、科学や技術の歴史、2020年問題とは何か、国連がなぜ役に立たないのか、そういうことを考えるのがプロです。プロがあまりにも少なすぎるのです。また、マスコミの中にも少ないというのは、日本の悲劇です。
 また、原因には必ず根っこの根っこがあります。見かけの原因である軍備だけで戦争を起こすのではなく、その下には、経済的な問題があります。経済を豊かにするのは技術であり、技術を生むのは、科学です。科学の成果を利用して、人口がなぜ増加するのか、地球の気候がなぜ変動するのか、そういうことを3次元的に理解することが、人類の幸福につながっていきます。


ハンチントン、2000年、集英社

 右の図は人口動態の比較です。横軸は年代です。全人口の中で、若者が占める割合が20パーセントを超えると戦争が起きるというのが、戦争論の研究の成果です。理由は若者は行動力があるからです。知識はないが行動力だけはあります。イスラム諸国は1970年代後半から危険域に入って、おちついてきていたのが、ここ数年の間にまた上昇するのがわかるでしょう。この状況を突破する方法は、日本海学においても重要なポイントですが、「良質な教育」です。

18.良質の教育の必要性

 良質な教育とは、一言で言えば、今まで僕が話してきたことをすべて理解するということです。日本人は、旅行へ行くのだって自由、リバティ、リベルチです。でも、「自由」ということが日本人にはわかりません。なぜかというと、日本にそういう社会がなかったところに、いきなりアメリカによってもたらされたからです。日本の特に若者には、こういうことを理解して、もっと「教養」をつけて欲しいのです。彼らは、これからの日本の将来を担っているのですから。
 また、現在において民主主義を経験したことのない人たちが世界の国の半分います。この人たちは、「自由」とか「人権」とか「国民主権の社会」を想像できません。だから、自分たちの力で国民主権を勝ち取ることなんて不可能なのです。彼らの多くは、まったく教育を受けていないか、独裁者に都合のいいような偏った教育を受けています。良質の教育を普及するために、我々が手を貸してあげることが必要なのです。日本海学が、何に貢献できるかという1つのポイントです。
 60年前の日本というのもイラクと同じで、ジハード、ジハード(聖戦)と言っていました。ニューヨークのテロは、規模の小さいものです。あれは5,6人でやったジハードでしょう。日本人は特攻隊の学校まで作って要員を養成して、数千人も突撃させたのです。日本人のオリジナリティは凄いといえば、凄いけど、その結果として、富山市も含めて日本の都市は全部焼け野原になりました。2百万から3百万の人が亡くなってはじめて降伏して、アメリカが駐留してきました。このような中で、本当の民主主義の意識が醸成されたはずがありません。しかし、腹切りまでやるような国をアメリカは6年間の駐留のうちにトップダウンで変えました。
 昔と違って、近代戦争は極力、人を殺しません。軍備をピンポイントでたたきます。さっき言ったように、イラク戦争で死んだ数は1万人です。兵隊も銃器もまだ温存されている所に乗り込んでいって、イラクを民主的な国家にしなくてはなりません。日本の戦後統治と違って、イラクの戦後処理にはそういう難しさがあります。しかし、やらなければなりません。


インターネットが作る新しい生活

 21世紀が、20世紀と違うのは、未来が見えるようになってきたことです。おぼろげながら、透視可能なサイズに地球が小さくなりました。そうして、地球環境を制御できる時代が近づいています。また、国際社会がインターネットの普及によって近くなり、実質的に統一可能なくらいに小さくなって、情報が相互の理解を深め、世界が一つにつながろうとしています。
 人類の未来の社会をデザインして、そしてコントロールしながら新しい時代を作る、これが2020年に向けて我々がやるべき、唯一で最大の努力ではないかと思います。