大学等連携事業

富山県立大学秋季公開講座 「地下水がつなぐ陸と海」


2004年度 富山県立大学秋季公開講座
2004年10月16日
富山県立大学

講師 東京大学助教授
        徳永 朋祥先生

1.富山湾海底での地下水湧出

 我々は2000年ごろから富山県の幾つかの地域を題材に、陸と海がどのようにつながっているかを研究している。最終的な結論はまだ出ていないが、数年やってきて、面白いことが分かってきているので、今日はそれをお話ししたい。

 10年ほど前の富山大学名誉教授の藤井先生と伊東先生の研究によると、富山県には年間約200億tの雨が降っている。そのうち田んぼの表面から蒸発したり、植物の葉っぱから発散するものが約53億t、河川から海に出ていくものが約115億tで、これらを足し合わせても出入りの計算が合わない。つまり、どこかから抜けていっている水が、富山県の場合は年間約33億tあることになる。現在この33億tのうち、ある部分は地下水としてダイレクトに海底に抜けていると考えられるようになっているが、地元の漁師のかたや水の非常に少ない島の人たちには知られたこの事実に関して、全体像を理解しようとする動きが起こってきたのはここ10年くらいのことである。

 ちなみに地球上の水の量を100とすると、そのうち94くらいは海水で、我々が使う水資源は6%にすぎない。しかもその3分の2は地下水であり、残りの3分の1は氷床として、南極、北極、山岳の氷河に閉じこめられている。日本の多くの都道府県は表流水を使って生活しているが、これは世界的には非常に特殊な例であり、21世紀の人口爆発に備え、世界的な水資源の確保を考えた場合、地面の中にある水の利用が非常に重要になってくる。そのターゲットのひとつとなるのが、海底で湧出する地下水なのである。

 別の視点として、陸水(淡水)が地下水を通っていくプロセスとともに、陸域から海にいろいろな物質が供給されるプロセスを考えてみよう。海での生物生産には、窒素、リン、ケイ素といった栄養塩類が必要である。多くの場合、海の非常に深い所にそのような栄養塩類の多い水があるが、それが光合成のできる所まで上がってきてくれないと、植物などは発生しない。したがって、植物プランクトンを食べる動物プランクトン、それを食べる魚類も生産されない。これまでは、深い所の水が上がってくることが非常に重要だと考えられていたが、一方でこのような栄養塩類は地下水にけっこう溶けている。

 また、我々はごみを捨てるとき、よく地下を使ってきた。人間の活動がそれほど活発ではなく、自然界の浄化作用が十分に対応できる場合は循環型社会としてありえたのだが、最近の人間の活動は自然環境にとってはやや破壊的なところがあって、地下の浄化機能が多くの場合は追いつかなくなっている。すると、汚染物質も地下水に乗って海に放出されてしまうことになるので、陸から海へどれくらいの量や濃さのものが放出されるのかという把握も必要になっている。

2.黒部川扇状地の海の底

 我々が研究のターゲットとして、黒部川扇状地を選んだ理由は幾つかある。第1に、1970年代ごろからこの地域を筑波大学の先生がたが10年に1回くらい調査しており、非常にたくさんのことが分かってきていること。第2に、非常にきれいな扇状の形をしており、その扇状地がそのままザクッと海に突っ込んでいること。富山県には黒部川のほかにも片貝川、早月川も全部扇状地が海に突っ込んでいるが、扇状地は地下水が非常に速いスピードで流れているため、自然界で起きているすべての流れが非常に早く、比較的加速された実験が行われている地域としてとらえることができる。

 このため、富山大学の藤井先生と東京大学海洋研究所の奈須先生のお二人が、この黒部川扇状地の沖合で、1980年代の後半に、海底林など、いろいろな調査をされている。そのときに海の深度の変化に伴う塩素濃度の変化を表した図を描かれているが、浅い所で塩素濃度が低くなっているのは、河川の水が海に入ったときの影響である。塩水の密度は1.025~1.03g/cm3くらいだが、河川水は大体1g/cm3で、比較的長い間海の上を広がっていきながら、少しずつミキシングしていく過程をとる。そして、ある程度以上深くなると塩素濃度が18~19‰(パーミル)になり、大体3%の塩水になっている。ところが25~30mくらいのところどころに非常に低い塩素濃度の海水があることから、「この地域で地下水が湧いているのではないか」という推論がなされ、そこから我々の研究が始まったのである。

 黒部川地域の扇状地の水の収支を計算してみると、年間に約4億t雨が降って、上流から約28億t流入する。収支が合わない分を地下水流出と考えると、黒部川水域から吐き出されている年間約24億tの水に対して、地下から出ているのは約6億tと4分の1くらいになる。一方、最近のコンセンサスでは、世界的な地下水湧出量の平均は、河川流出量の1~10%といわれているので、この地域は非常に大きな地下水湧出があることになる。我々は1年ほどかけて海の底から湧いている地下水を海の水と混ぜずに取ることに成功し、硝酸態窒素(汚染物質)を測定することができたが、その結果、比較的きれいな河川水に対して、海底から湧いている水はその約4倍、つまり水の総流出量と濃度を考えると排出される硝酸態窒素量は同等であることが分かった。

3.水中ロボットを使っての海底の湧水調査

 我々の調査では、まず、以前に藤井先生、奈須先生が調査された入善町の沖合をターゲットにした。海中で湧き水を探すのは困難なので、水中ロボットを使い、光を当てて物を見る機械と、CTDセンサー(電気伝導度、温度、水深を調べる機械)、をそれに抱かせて調査を行った。電気伝導度をなぜ使うかというと、塩水にはNa+イオンとCl-イオンが存在し、電気を通しやすい性格を持っていることから、淡水と塩水の区別をつける指標となるのである。ただしこれは温度によっても変わるので、並行して温度も測っておかなければいけない。また、この水中ロボットは自分で泳ぐこともできるが、泳がせてしまうと船とロボットの位置が分からなくなるので、泳がせずに船の下にとどめ、船の位置はGPSで測定した。それで海底から1mくらいの高さに常にロボットがいるように制御して船を動かし、データを1秒間に1回(15cmに1回)取ることにして、船はエンジンで動かさずに、風任せにしたのである。

 また、試行錯誤の末見いだした、海底から海水でない水を取る我々の方法は、地下にある時点でその水を取るということであった。具体的にはチタンのパイプの先に少しだけスリットを入れ、それを50cmくらい海の底に突き刺して、注射器で何度も引っ張って水を取るわけである。

 そのようにしてCa2+、Mg2+、Na+、K+の濃度や陰イオン(塩素・硫酸・重炭酸)の濃度を調べると、富山湾で海底から湧いている地下水は、海水とは全く違う水質で、陸の地下水とほとんど同じ性質を持っていることが分かった。ただし、陽イオンで見ると、海水とは全く違うが、陸域の水ともちょっと違っていて、ややMg2+の量が多いのだが、この原因はいまだに分かっていない。

 また最近では、放射性炭素やトリチウムという水素の同位体である放射性元素を使って、どのくらい前に降った水であるかを推定する技術がある。過去、空中で行った水爆実験の結果、大量のトリチウムが大気中に放出されている。それが12.3年の半減期を持っているので、それを測定するのだが、それで見ると、大体数十年前に降った水が今、海の底から湧いているようだ。

 成分を調べると、海から出ているものはCa2+とMg2+が等価量なのに対し、陸のものはCa2+が大きくて、Mg2+がやや小さい。また、このプロセスにおいては、陰イオンが地下で流れていくに従って、岩石と反応して、少しずつ岩石の成分が溶けていっていることが考えられる。さらに信じ難いことに、深い所の地下水の成分が濃くなっていない。多くの場合、浅い所を流れている地下水は速く流れ、深い所に入った地下水はゆっくり流れるので、深い地下水の方が岩石と触れ合っている時間が長くなり、地下水中に溶けているものの量が多くなる。このことから、黒部川扇状地では、深い所の水がそれほど岩石と反応していないことが分かった。

 これには幾つかの理由が考えられるが、黒部川扇状地では、深い所でも地下水が非常に速く流れているのではないだろうか。ということは、流れていった所に出口があるということである。すなわち、今我々が見ている水深30mより深い、70m、80m、100mの水深の所で湧いているのではないかという期待が持てる。しかし100mの水深まで人間が行くのは容易ではない。普通のダイビングの装備で40mの水深に行く程度でも、恐らく3~4分しか活動できないので、まだそこまで調査に行くことができていない。しかし今までの調査で、その場所がどこにあるか、ある程度分かってきている。

4.黒部川扇状地沖合の海底林と深部の湧水

 では、その量はどれぐらいか。その量を測るのがまた厄介なのだが、私の共同研究者がシーページメータ(おわん状のものをひっくり返してふたをし、その中から出てく流速を測るという方法)を用いて、測定を行っている。その結果、富山県では10-3cm/secという非常に速い値で出ているというものだった。ちなみに大阪湾は10-6~10-4cm/secで、10-4cm/secはまれだそうだ。つまり、2~3けたほど黒部川扇状地から出てきている水の量が速いということだが、3けたというと1000倍である。

 しかも、我々のダイビング調査で、富山湾には海の底に埋没林のようなものがあり、沖合で地形ががくんと落ちている地点から水が湧いていることが分かってきた。音波探査機を使い、そのがけの分布を調べて海底の地形図を作成してみたところ、30mくらいの深度の所に集中していることが分かったのである。

 また、このことは、海岸線に平行に地表から少しだけ電気を流して、海底中の電気の通りやすさの分布を描くことによっても明らかになっている。そのような場所は、比較的同じような深度の所に分布し、かつ、連続しておらず、ブツブツと切れている。一方、海岸線に直行した方向は連続性がよいことも分かった。

 これは昔々、黒部川扇状地にあった沢スギ(入善町の天然記念物)が、海の底になったことによりできた構造に支配されて、水が出ていると考えられる。今、黒部川扇状地は区画整備が非常に進んでいるが、大昔は大変な暴れ川で、ちょっと高い所、ちょっと低い所が川の流れの方向に分布していた。そこに沢スギが形成されて、現在埋没林となっているのだが、木に含まれる炭素を調べた調査により、深い所から見つかった海底林のほうが古くて、浅い所のほうが新しいことが分かった。これは多分1万8000年前のいちばん寒いころ、海面が低く日本と大陸がつながっていた時代にできた沢スギが深い所にあり、現代に向かってどんどん暖かくなって、海水面が上がってきた結果、その時々に沢スギができたのだと考えられる。それが地下水を送り込んでいる通路を作っているというのが、今のところ、我々の理解である。

 また、水を取るために井戸を掘り、電気の通しやすさを見た図を描くと、ある深度の所で急に電気の通しが良くなる境界がある。それは海岸線に近くなるほど、少しずつ深くなっていくのをかなり直線的な形で追いかけることができるが、これをずっと追いかけていくと、120mくらいの所で海に突っ込んでしまう。これもまた1万8000年前、ちょうど120mくらい海水面が下がっていたことと関係があると思われる。その上に乗っている分厚い電気を通し難い地層は、その後海水面が上がっていくにつれて扇状地にたまってきたものである。ところが海に行くと、そのようなものは一部見られるが、その上に、よく分からないパターンのものがみられる。これを沢スギなどの海底林が形成されたあとだと考えると、このような扇状地の堆積物、海の影響を受けた堆積物があり、そこを地下水が抜けていくというプロセスが考えられる。先ほど、非常に深い所で水が海に出ていっているのではないかと申し上げたが、その場所が、この地層の連続している先なのだと、うまく見つけられればいいと思っている。

 私はそこにワサワサと水が出ているのではないかと期待しており、もし100mの深さまで人を連れていけるだけのお金と時間があればそれが見られると思うが、そのためには数億というお金がかかりそうなので、ちょっと難しい。以上が黒部川扇状地のストーリーである。

5.小矢部川・庄川流域との比較

 日本の海と陸との境界は、平野で接しているか、扇状地として突っ込んでいるか、岩盤であるかの3種類だが、この小さな富山湾はその三つの要素がすべて見えているので、研究には非常に都合がいい。したがって、我々は東側の地点から始めて、少しずつ西に向かって研究を進めているところである。今年からは、扇状地ではなく、平野が海に接している所はどのようなプロセスになっているかを調べてみようと、庄川、小矢部川の流域を対象に考えてみた。なぜなら、国土交通省がこの地域の水利用を考え、非常にたくさんの調査をしていて、それが公表されているからである。ただ、一つの誤算は、庄川の水の多くを隣の和田川へ人工的に持っていっていることである。それに最初、気がつかなかったのだ。

 ともかく、計算では、陸から海への流出量は、庄川水系(プラス和田川)と小矢部川水系を足し合わせると1秒間に150tくらいで、地下水から出ていっている量は、驚くほど少なく1~2%となった。両水系とも河川の規模は黒部川と同程度で同じくらい雨が降るのだが、地形的な状況、地質的な状況によって、これくらい陸と海との水のやり取りが変わるということが分かり、非常に驚きを感じている。さらに水の質を比較すると、小矢部川・庄川扇状地の出口は都市化が進んでいるので、やや地下水が汚れており、その結果、リンが少し多めに出ていっている。

 もう一つ、我々が急いでやらないといけないのは、岩盤地域がどのように位置づけられるかである。そして、三つの地形を比較して、さらに理解を深めていきたいと思う。

6.この研究が目指すところ ~21世紀は水の世紀~

 私も一応工学部にいる人間である。人の役に立つために何かをするのが工学の目標である以上、この研究を通して、人類にとって非常に重要な資源である淡水がどのように陸と海を循環しているかをきちんととらえたい。もう一つ考えているのは、沿岸海域の環境に与える陸水の影響、すなわち、物質を移行するエージェントとしての水の働きである。そして最終目標としては、持続可能で、環境に調和した形での沿岸域利用を考えていきたい。

 また、人間が生きていくことは基本的に開発をしていくことであり、開発をしないと人間は生きていけない。したがって、環境保全などに開発という視点が抜けていくと、逆に我々はしんどい生活をしないといけなくなる。ゆえに、我々のグループは環境調和型開発とは何かを考えたいと思っているのだが、そのためにまず、その前段階である自然環境情報をきちんと把握し、人間と自然が一つのシステム、系の中にいるという概念を構築していきたいと考えている。

 20世紀は石油の世紀といわれ、石油の確保のために戦争も行われてきた。それに対して、21世紀は水の世紀だといわれる。また、世界的には人口爆発の話があり、生活に使う水、食料生産に使う水をどのように確保していくかは、人類にとって非常に大きな課題となっている。そのような非常に大きなところを最終的な目標にしつつ、足元からいろいろなことを考えていこうというのが私の立場である。

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