大学等連携事業

富山県立大学秋季公開講座 「温暖化による水環境の変化」


2004年度 富山県立大学秋季公開講座
2004年11月6日
富山県立大学

講師 富山県立大学短期大学助教授
        能登 勇二 先生

1.富山県の河川流域の気象・水文特性

 地球温暖化は全体としてはかなり議論されているが、地域的な水環境に及ぼす影響については定量的に明らかにされていない部分が多い。私は温暖化が河川流量や河川水質に影響し、さらには富山湾の水環境にも影響を及ぼすだろうと考え、河川の流域における温暖化の兆候と河川の流量、水質量の変動を調べている。

 富山県内を流れる河川の流域面積は全体で7000 km2くらいあるが、その約80%である5626 km2を黒部川、常願寺川、神通川、庄川、小矢部川という五つの一級河川水系(216河川:平成14年4月30日現在の富山県内の河川数)が占めている。また、そのほかに30の二級河川水系(101河川)や準用河川(123河川)がある。年間降水量は富山市で2295.9mm、上流の高山市では1757.0mmで、流域全体の降水量は大体2000~2500mmである。冬季の降雪量は、富山市の年平均で400cmくらいである。年平均気温は富山市で13.5℃、高山市で10.4℃で、高山市は高度が500m以上あることから、少し気温が低くなっている。

 今日は主に神通川と小矢部川についてご紹介したい。神通川は非常に大きな河川で、その流域面積は2720km2、小矢部川は667km2である。また、神通川は富山市を流れていることから流域内の人口も多く、富山湾の水環境に及ぼす影響についても大きいものがある。一方、小矢部川は高岡市を流れており、流域内の工業出荷額も高い河川である。

 日本の平均降水量1700~1800mmと比較すると富山県の2500mmは相当大きく、県内の各河川は豊かな水量を誇っている。豊かな水量と急流が富山県の河川の特徴である。その流出量は私が1970年~1980年で計算したところでは、大体年間150億tで、発電も含めて多くの目的で利用されている。そして、一方では治水、防災の問題をもたらしながらも、黒部峡谷、神通渓谷、庄川峡などといった風光明媚な環境も提供しているのである。

 神通川と小矢部川の年流出量に対する各月の平均流量の比率について、1958年~1997年の10年ごとの平均値で見ると、基本的には融雪期と梅雨、台風期に水がたくさん出る。特に融雪期が非常に大きく、両川ともこの時期に年間流出量の30~40%、多いときは50%以上も流出する年もある。

 河川は大きくは山地河川と平地河川に分けることができ、山地河川は非常に急で勾配は50分の1以上である。平地河川は扇状地になると500分の1あまりの勾配となる。一般的には,そのあと勾配1000~2500分の1の自然堤防帯の移化帯河川となり、さらに5000分の1より緩やかな三角州河川となる。富山の河川は山地から扇状地に出てあっという間に富山湾に落ちてしまうという特徴があり、大量の水と大量の土砂が運び込まれている。その急流河川の代表的な例が片貝川と早月川であり、片貝川は約30kmの長さで3000mの高さの山から一気に流れ落ちている。更に富山湾は、30 kmも行かないうちに1000mも落ち込んでいるという特異な湾となっている。富山県内では、東部の河川である片貝川、早月川、常願寺川、黒部川などは非常に急勾配な河川であるが、これらの河川に比べ、神通川,西部の庄川、小矢部川は少しだけ勾配が緩やかである。それでも県内の河川は非常に急勾配で、日本の河川では、木曾川、利根川などは勾配がもっと緩やかである。さらに、世界の大河川のミシシッピー川やナイル川などはほとんど水平であり、日本の河川とは比べものにならない。

2.温暖化の兆候

 地球全体ではこの100年間に0.6℃(±0.2℃)、日本では1℃くらい暖かくなっている。また、降水量は全地球的にはこの100年間に1~2%増加しているが、日本では5%くらい減少している。温暖化により、ヒマラヤでは氷河が溶けて自然のダムができてそれが崩れるのではないかと心配されている。また、オホーツクの流氷が減少し、ヨッロッバ・アルプスでは積雪が減少し、スキー場が困っている。さらに、海水の上昇により、南太平洋の島で問題が出ている。日本でも桜などの開花期がどんどん早まっている。このような温暖化の兆候と見られる現象がいくつも観測されている。

 気象庁の資料による富山県内10観測地点での年平均気温の変動傾向を見ると、過去30年間の1年間の平均上昇値は0.026℃で、富山や高山あたりはこれより少し高く、砺波、福光、氷見で低くなっている。年降水量は、富山と伏木ではほんの少し増加傾向にあり、高山、福光、白川、河合(岐阜県)は減少傾向にあり、それに対応して河川の流出量も減少傾向にある。

 さらに、富山と高山の冬季(12月~3月)の気温と降雪量の変化を見ると、富山ではこの期間の平均値は4.1℃であるが,少しずつ気温が上昇しており、高山でも同様の傾向がみられる。一方、一冬の降雪量は黒部湖で平均値は1500~1600cm、富山市では400cmくらいで、ゆっくりと減少傾向にある。これは高山でも同じような傾向にある。また、1986年以前と以後の冬季気温と降雪量を比較してみると、気温は富山市で約1℃、高山では1.2℃上昇している。さらにひと冬の降雪量は208cmくらい減少している。最近は、冬季の気温(1,2月の平均気温)と一冬降雪量の関係で言うと,気温がもう1~2℃上昇すると、平地ではほとんど雪が無くなるのではないかというところまで来ている感がある。

 また、北陸地方の輪島や佐渡の相川でも、富山と同じように87年ごろから一気に降雪量が減少して、それから増加していない。ところが北海道、山形などでは、全体として温暖化の現象もかなり見られるが、降雪量に関しては増加傾向にあり、富山とはやや様相を異にしている。

3.温暖化による河川水環境の変化

 温暖化が起きると水温の上昇により植物プランクトンが増殖して、微生物の活性の上昇、反応速度、溶解度の変化、密度の変化などが起きてくる。つまり生態系が変化するわけで、それが水質変化につながってくる。また、降水特性が変化し、さらに、降雪量、積雪の融解の時間や速度、降雨時間などが変化すると、流量が変化する。流量が変化すると、単純に言えば水による濃縮あるいは希釈で水質が変化するほか、降水過程,流出過程で水は多くの物質を河川に運び込み水質は変化する。また、流量の変化は地下水位も変化させる。

 さらに流域表面の生態系、植生が変化して、流出率や保水率が変化することによっても、流量、河川水質は変化する。気温が高くなると蒸発散量が多くなり、土壌中の水分量が変化してくる。また、海面が上昇すると、地下水位が上がると思われる。

 これらのすべての変化には、人間活動、社会経済活動がかかわっている。すなわち、我々が社会経済活動によりどれだけの二酸化炭素などの温室効果ガスを排出するか、また、土地の被覆をどう変えていくかなどにより、気候が変動し、その結果として河川の流出量も変化していく。社会経済活動が将来どのように変化し,どれだけ河川に汚濁を負荷することになるのかなどを考えたとき,河川水質の変化はさらに複雑となる。これらを念頭に河川の流量の変化、水質量の変化を考えているわけだが、現状ではいま挙げたような影響をすべて予測できず、水質の予測も難しいところがある。

 しかし、河川流量に関しては気象要素の変化からその予測が可能であること、また、水質総量(汚濁物質の総量)は河川流量と密接な関係があることがわかっている。そこで当面は、温暖化による河川流量の変化がもたらす汚濁物質の総量(河川流出負荷量)の変化を見ようとしている。

4.温暖化による河川流量の変化の予測 ~神通川と小矢部川をモデルに~

 温暖化時の流出モデルを作り、気温変化、降水量変化を考慮すると、流量の変化により汚濁物質の総量が変化することが予測される。降水量から流量を求めるためのモデルはたくさんあるが、菅原先生が開発され、最近よく使われている「タンクモデル」を用いた例を紹介する。

 河川から流出するのは水だが、その水を駆動力として物質も運ばれる。その中には自然起源の物質もあるが、人為的な汚染物質も流れ込んでくる。それで、降水量から流出量を推定し、流れ込む物質の量も推定するのだが、これらを「流出モデル」という。

 まず,河川水の流出モデルを考える。それには、単純な形に流域を置き換え,降水が河川へ流出する過程を考える。雨が降り始めると降水は、一部は蒸発散するが、次第に地表面を流れたり、地中に浸透して、やがて河川に流出していく。この河川に流れ出す水は大きく、地表面近くを流れ流出していく「表面流出」、比較的浅い地中を流れ川に流出する「中間流出」、地下水面まで浸透して、一日数mという非常にゆっくりしたスピードで流出していく「地下水流出」の3つの成分に分けることができる。これらの3つの成分を寄せ集めてやると河川流出となる。そして、3つの流出成分をそれぞれに横穴のある連結したタンクで表したのが「タンクモデル」である。横穴からの流出が各流出成分となる。
 今、このモデルを使って温暖化時の流量予測を試みているのが神通川と小矢部川である。神通川に関しては神岡、河合、高山、栃尾、富山の5地点の降水量と神岡の気温を用いて流量を求める。小矢部川は、伏木、砺波、福光の3地点の降水量と福光の気温を使って流量を求めている。その結果、神通川では降水量が変化しないと仮定すると、気温が1℃上がってもそれほど大きな変化はなく、まだ融雪期には河川流量の増加がみられる。しかし、2℃上がると融雪の早期化が始まり、3℃上がると融雪出水期が不明確になってくる。降水量が10%増えたとすると、流出量もかなり増えて、防災上の大きな問題が出てくる可能性がある。

 次に流量が50m3/secごとに分けて、降水量が5%、10%と増える場合を考える。5%くらいの増加ではそれほど変化はないが、10%増やすと、流量が400m3/secから450m3/secとなる比率が多くなり、夏や秋にこのような大きな出水があると、防災上で問題が出てくることが予想される。また、これは日平均で求めているので、瞬間的には2000m3/secなど、もっと大きな値が出てくるだろう。

 次に小矢部川のモデルを見ると、1℃気温が上がっただけで融雪の早期化が始まってしまい、2~3℃上昇すると、これまで雪でもたらされていた降水のほとんどが雨でもたらされることが分かる。さらに降水量が10%増えると、流量の振幅が大きくなる。月平均流量の変動では、1月の流量が予想よりも大きくなっている。それと7~9月の変動が大きいので、洪水や渇水の心配が出てくる。実際、1988年~1997年の調査の数字を見ると、すでに融雪の早期化らしい傾向が表れている。

 これは二つの河川における流域特性の違いからくるものである。面積高度曲線で小矢部川を見ると、その約50%が標高100m以下という低い流域にあり、標高500m以下では80%以上の流域を占めている。一方、神通川は大体50%の流域が標高1000mと非常に高い所にある。すなわち小矢部川では、雪が降っても融けやすい低地が非常に多く高地の部分が少ないため、このような違いが出てくると推測される。ちなみに黒部川の50%地点は標高1713mくらいである。

 したがって両川の流量予測の結論として、一つは気候変動時の河川流出量の変化では、融雪期が半月~2か月程度早期化することが予想される。二つめとして、流出量変化は12月から6月にかけて顕著で、夏季から秋季にかけては融雪期よりも影響は小さい。すなわち、今まで融雪出水で春に多かった流出量が減少し、温暖化すると冬にその分が増えて、かなり平均化してくるといえる。三つめは、温暖化の影響は流域特性により、流域ごとに若干違ってくる。四つめとしては、7月から9月の変動は大きくなる。五つめとして、年間総流出量は、気温変化1℃の増減に対して約1%、降水量変化の1%の増減に対して約1%増減する。以上のようなことが起きると予想されるのである。

5.汚濁物質の流出負荷量の変化予測(神通川と小矢部川をモデルに)

 次に、流量の変化を受けた汚濁流出負荷量の変動を見てみる。これは河川流出量の変化に汚濁負荷量流出モデルを加えて、SSの流出負荷量を求めればいい。この場合、SSとは一般に浮遊する物質のすべて、大体1μmのサイズのものをいうが、懸濁性物質、浮遊状物質などともいわれ浮遊生汚濁の指標となっている。単純に言えば濁りの量で、中身としては無機物(砂、シルト、粘土、水酸化物)と有機物(細菌類、原生動物、藻類、ウイルス等)である。これらの一部は大気からももたらされるし、地表にも水中にも多く堆積している。それが雨天時に一気に出てくるわけである。

 そこで、降水量が変化した場合のSS流出負荷量の変化を、気温変化0℃、降水量変化0%の場合と降水量を5%、あるいは10%に増やした場合に分け、各流量区分に対してどれだけ全体の流出負荷量が出てくるのか、割合を季節ごとに計算してみた。これは流量の影響を大きく受けるため、冬はあまり多くないが、春、夏、秋には影響を強く受ける。しかも、5%のときにはそれほど変わらないが、降水量変化が10%になると、SS流出負荷量が高い流量の領域でたくさん出てくるようになる。

 また、SS流出負荷量の変動は流量の影響を受けるので、やはり融雪期や夏、秋の台風期に非常に変化率が大きいという結果が出てくる。現在、神通川は年間約9万tのSS流出負荷量が出ているが、温暖化すると、春に減少して冬には非常に増加すると考える。しかし、これは流域特性によって少し異なってくることが予想され、7~9月の変動が非常に大きいだろう。

6.温暖化の富山湾、日本海に与える影響

 最後に、富山湾、日本海に対する影響をどう考えるかについて見ていく。富山の河川から出ているSSは年間12万tくらいだが、日本海の沿岸からどれくらい出ているか。日本海には北海道の天塩川から九州の松浦川まで一級河川の水系が35河川あり、その流域面積は概ね9万km2に達する。計算してみると、SS流出負荷量は年間に約100万t、BOD(生物化学的酸素要求量。水中の汚れ(有機物)が微生物の作用で分解される過程で使われる酸素の量)に直すと約10万tが流入していることになるが、日本海には黒潮、リマン海流、対馬海流が流れているため、常に流動している。特に黒潮は1秒間の流量が50~60Sv(Sv= 106m3/sec)といわれる大変な量の水が流れているが、対馬海流は大体2.2Svである。そして、津軽海峡から1.4Sv出ていっている。

 ここで、日本海の年間の水収支を考えてみたい。日本海を立方体に置き換えてみると、大体一辺110.8kmの立方体になる。一方、対馬海流から一辺41.1kmの立方体に相当する水が入ってきて、津軽海峡からは一辺35.5kmの立方体の水が流出している。また、富山湾沿岸からは一辺2.46km、日本海沿岸全体(一級河川水系流域)からは一辺4.88kmくらいの立方体の水が入っているが、日本海と比較すると量としては非常に小さく、大きな水体が入っているわけではない。したがって、決して,汚してもいいというわけではないが、汚濁物質も量だけからみれば,それほど大きなものではないことになる。

 今度は富山湾で見てみよう。富山湾の定義はいろいろあるが、黒部の生地鼻と氷見市の

 少し北の大泊鼻を結んだ線がいちばん小さい富山湾の定義である。それで計算すると、一辺が6.79kmの立方体になるが、対馬海流がここにどれだけ入っているかは分からない。そこに富山平野から一辺2.46kmの立方体に相当する水が流入しているということは、あまりばかにならない量である。SSは無機物が半分くらいと考え、密度を2.6くらいで計算すると、一辺が20~30mの非常に小さい立方体になってしまう。これがどれくらい影響を及ぼすかはよく分からないが、河川の流出土砂も相当大きいので、何らかの影響を及ぼすのではないだろうか。したがって、最近はこの辺も含めて検討していきたいと考えている。

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