大学等連携事業

富山県立大学秋季公開講座 「富山湾の汚濁はどこから?-川の生き物が教えてくれるもの-」


2004年度 富山県立大学秋季公開講座
2004年11月13日
富山県立大学

講師 富山県立大学短期大学部教授
       安田 郁子先生

1.富山湾の汚濁

 今、富山湾は少し汚れてきているといわれる。環境基準を100%達成していないことが「汚濁している」こととなるが、平成8年度に環境基準の達成率が96%となった後、どんどん下がってきた。しかし最近は上がってきて、昨年では88%になっているものの、やはり100%に達していない。この環境基準はCOD(化学的酸素要求量)といって、有機物の多少を表している。有機物にある化学物質を入れると、その化学物質の酸素を使い有機物が分解されて無くなるが、このとき使われる酸素の量をCODと呼んでいるのである。ゆえに、富山湾でCODが基準を満たさなくなったということは、有機物が富山湾に増えたということである。そして、県で調べた結果、海に発生している植物プランクトンがその主な原因だと判明した。

 水に浮いている微生物を総じてプランクトンと呼ぶが、そのうち植物性のものを植物プランクトンという。よく湖などでアオコという現象を発生する藍藻のミクロキスティスもその一つで、非常に小さな粒の細胞がたくさん集まって一塊になる性質を持つ。この一つの小さな細胞の中に、植物は必ずクロロフィルaという色素を持っている。そのため、この色素で、植物プランクトンの多さを表す場合が多い。

 植物プランクトンが多いとCODはどうなるのか。富山県内の湖沼の植物プランクトンと水質検査の結果を見てみよう。①大変汚れている十二町潟、②立山のきれいな湖沼であるみくりが池、③城端にある縄が池、④黒部湖(黒四ダム湖)、この四つについて、COD、窒素、リン、クロロフィルなどを測った結果をみてみる。クロロフィルa量でみると、①は非常に植物プランクトンが多く、77~120μg/lほど。②は0.6μg/lと非常に少ない。③はそれよりも少し多くて4μg/l程度。④は2~3μg/l前後になる。また、それぞれのCOD値を見ると、クロロフィルaが高い所では13~15㎎/lぐらいと非常に高くなっているのに対し、低い所では0.6㎎/lと非常に低くなっており、CODとクロロフィルaは正比例の関係にあることが分かる。

 この植物プランクトンを増殖させる原因は何か。植物プランクトンは緑藻、珪藻、藍藻、紅藻などいろいろな種類の藻類から成り立っているが、それを増殖させる条件は、まず温度と光、それから栄養塩の窒素とリンである。藻類にしろ何にしろ、生物が増殖するときには、寒すぎても暑すぎてもよくない。一定の適度な温度が必要で、大部分の生物の場合、15~25℃くらいといわれている。そして、この10℃ぐらいの間では、増殖速度が2~3倍に増える。例えば15℃で一つの細胞が一定時間内に二つに増えるとすると、25℃では一つが四つなるという具合である。したがって、海でも温度が非常に低ければそれほど増えないことになる。一方で光も植物の場合には必要である。動物は他の生物を食べて生きているが、植物は光のエネルギーを使って自分のえさになる有機物を作っており、それを光合成と呼んでいる。したがって、必ず水温と光が必要になってくる。それ以外に窒素とリンも必要である。光合成ではまずブドウ糖を作り、それから炭水化物(でんぷん質)を作っているが、生物はでんぷんだけでは成長することができない。たんぱく質を作るにも、DNAを作るにも、窒素が必要である。それ以外に、細胞の中でエネルギーとして使われているATP(アデノシン三リン酸)を作るのにも窒素が必要である。また、リンも、DNAやATPのほかに細胞膜を作るのに必要となる。したがって、水温と光が適当ならば、植物は窒素とリンがある分だけ増えようとする。そして、水温と光は人間側でどうこうすることのできない気象条件だが、窒素とリンは人間が人為的にその量を操作できるのだ。

2.富栄養化現象

 この窒素とリンが増えることを「富栄養化」と呼んでいるが、富栄養化が進むと「水の華」という現象が起こる。その一つが、水の表面に非常に青い色がついてくるアオコと呼ばれる現象で、本来はミクロキスティスの大増殖をいうが、最近では藍藻のアナベナ、緑藻のユードリナによって引き起こされた場合もアオコと呼ぶようになってきている。また、ペリジニウムという褐色の渦鞭毛藻類の仲間が大増殖すると、水の色が褐色に見える。これは「水の華」のうち「淡水赤潮」と呼ばれる現象である。

 では、湖沼で「水の華」「淡水赤潮」現象が起こるときの植物プランクトンの量はどれぐらいなのか。琵琶湖で淡水赤潮を起こしている植物プランクトンは黄色鞭毛藻類の仲間だが、そのときのクロロフィルaの量は北湖で10~25μg/l程度で、南湖だと30~60μg/l程度である。この違いは、南湖のほうがふだんから汚れているからだと個人的に考えている。また、手取川ダムで「水の華」が起こったときの原因の植物プランクトンは緑藻類だったが、そのときのクロロフィルaの量は、13~170μg/lという非常に広い範囲だった。この二つの例から分かることは、クロロフィルaの量が10や13μg /lという比較的低い濃度で水の華現象が起こるということである。したがって、海でも同じようにこの程度のクロロフィルa濃度で着色することが予想される。

 海では珪藻のスケレトネマやキートセロスが増えて、薄い褐色がかった色に見えることがよくある。ちなみに、海が真っ赤な色になるのは珪藻ではなく、夜光虫が原因だ。今までの例では、クロロフィルaの量が50μg/l程度以上のものが赤潮と認識されることが多いが、私は湖沼の例から考えても10~50μg/l程度でも着色するだろうと考え、この範囲のものを「薄い赤潮」と名づけている。海で赤潮が発生するそもそもの原因は、窒素とリンという栄養塩類の増加により植物プランクトンの量が増えるためであり、富山湾でCODが高くなったのは、窒素とリンが供給されたからだと考えられる。

3.富山湾流入河川の富栄養化度

 その窒素とリンの供給源はどこなのか。富山湾に流入する河川の底に住む底生生物で「きれい、汚い」を少し色分けしてみた。その結果分かったことは、まず、黒部川は上から下まで非常にきれいな河川であることだ。いちばんきれいなのを1のレベル、その次を2のレベル、3のレベルとすると、ほかのほとんどの川は2~3のレベルで、下流域は3のレベルが多くなっている。当たり前だが、河川は上流から下流にかけて徐々に汚れてきて、この汚れが全部海に入っている。そこで川が運んでくる水の量、河川の流量を見てみると、非常に流量が多いのは小矢部川、神通川、黒部川で、小矢部川と神通川を足した水量だけで全体の河川流量の60%以上を占めている。したがって、こういった川が富山湾に及ぼす影響がいかに大きいかということをお分かりいただきたい。

 そこで、主要河川の藻類を増殖させうる度合いである富栄養化度を、AGP(潜在的藻類生産量)で測ってみた。これは、流れている状態ではなく、川の水をせき止めてじっとさせておいたときにどれぐらいの藻類がそこに繁殖するかということを示す。これを実際に測るのは非常に手間がかかるが、私は簡単なM-BODという方法を使って測定したので、これを「M-AGP」と呼ばせていただく。対象河川は5大河川の黒部川、常願寺川、神通川、庄川、小矢部川で、それぞれの下流域で調べた結果である。

 結論として言えることは、①小矢部川は11月から8月にかけて非常に高いAGPの能力を持っており、100μg/l以上になるときもある。ちなみに、これはクロロフィルaとして100μg/l前後の藻類を増やす力を持っているということだ。②庄川は比較的低くて、20~30μg /lぐらいであり、神通川は30μg /l前後である。③常願寺川は時期によってかなり違うが、非常に幅広くAGPの能力を持った水が入ってきている。④黒部川は非常に低くクロロフィルaが10μg /l未満で、いつも藻類を生産させる能力が非常に低い。ちなみに、これは濃度なので、⑤小矢部川と神通川の水量が多いことを考えると全体量はとても多くなる。また、⑥クロロフィルaから見て、薄い赤潮を起こす限界濃度である10μg/l以上になるように藻類を増やす潜在的な力があるのは、小矢部、庄川、神通、常願寺川である。

4.赤潮発生を抑制するには

 こういったことから、海の赤潮発生と海水の窒素・リン濃度の因果関係を赤潮の程度が薄いときと濃いときに分けて見てみた。薄いときはクロロフィルaが10~50μg/l、通常の赤潮は50μg/l以上と設定したのだが、薄い赤潮のときの全窒素濃度は0.1㎎/l以上、全リン濃度は0.01㎎/l以上、濃い赤潮のときは全窒素が0.5㎎/l以上、全リンが0.05㎎/l以上と考えられる。海でこのような濃度になるときの流入河川の濃度を知りたかったが、調査されたデータが見当たらなかった。そこで、県で調査された海の表面水質のデータと私どもで同じころに調べた河川の水質データを比較すると、1km沖で大体3分の1かそれ以下に、2km沖では5分の1かそれ以下に薄められているということが分かったので、この3分の1という数字を使い、海の濃度を3倍して、流入河川の濃度を出してみた。

 その結果から推論すると、①流入河川のほうで全窒素が0.3mg/l以上で全リンが0.03mg/l以上だと薄い赤潮を起こす可能性が出てくる。また、②全窒素が1.5㎎/l以上、全リンが0.15㎎/l以上だと少し濃い赤潮を起こす可能性が出てくる。つまり、とりあえず薄い赤潮を抑制したいという場合には、川の水質を窒素が0.3㎎/l未満、リンが0.03㎎/l未満に整備したらいいということが導き出された。また同様に、通常の赤潮、要するにクロロフィルaが50μg/l以上の赤潮発生を抑制するためには、③流入河川で窒素1.5㎎/l未満、リンが0.15㎎/l未満に抑制する必要があることが分かってきた。そのためには河川の水質管理が非常に重要になってくるということだ。

5.流入河川管理における底生動物利用可能性

 川の水質管理は、普通は理化学的水質管理といって、いろいろな理化学項目で管理されるが、私の専門である生物学でどの程度河川を管理できるのかということを以下、お示ししたい。これは、いわゆる河川の底生動物、大型水生植物、石の表面に生えている生物(いわゆる生物膜)を調べることによる水質調査手法である。ヨーロッパで100年ぐらい前に作られた方法だが、生物の環境要求、環境要因との関係を詳しく調べないまま生物を水質指標として用いるので、生物の存在が環境の何を示しているのかが分からない場合が往々にしてあった。そこで私は、一つ一つの生物が何を示しているのかを調べたうえで使うことにしている。

 具体的には、いろいろな生物によって環境要求が違う。魚はとても多くの環境要求があるが、生物が下等になればなるほど環境要求が少なくなってくる。特にベギアトアという細菌は硫化水素や溶存酸素を必要とするので、ベギアトアが見られたら、硫化水素が発生しており、なおかつ溶存酸素が少しはあると分かる。また、硫化水素は酸素が無い所でしか発生しないので、ベギアトアが出てきたら酸素が無い層とある層の境目だということも分かるのだ。このように環境要求がはっきりしている生物は、よい環境指標生物である。

 しかし、ベギアトアの存在は顕微鏡を使わなければ分からず、藻類も同様である。しかも顕微鏡を見ただけでは藻類の種類の同定は非常に難しく、かなりよく訓練された専門家でなければできないという難点がある。その点、底生動物は専門家でなくても肉眼で見れば分かり、顕微鏡を使わなくてもいい。しかも、綿密に種まで分類しなくても、トビケラかカゲロウかカワゲラかはだれでも分かる。また、それを見いだすことにより、単に「きれい、汚い」ということではなく、理化学的に水質をはっきりさせることができるのである。

 それが「BOD」と「DO日最低値」である。BODは先ほどのCODと同じようなもので有機物量を表し、DO日最低値は1日の間でいちばん低い溶存酸素を表す。底生動物の生活でえさとして必要とされるのは、生物膜、浮遊物資、溶解物質であるが、このうちの浮遊物質と溶解物質の量をBODは表している。また、呼吸のために動物はすべて溶存酸素を必要とするが、川の中の溶存酸素は時間とともに変化し、昼間は高いが夜は下がる。例えば温度が20℃ぐらいのときは、普通8.8~9mg/l程度の酸素しか水中に溶けることができないが、これは大気中の濃度の2万分の1以下である。それだけ少ない酸素しかないので、水の中で大量に呼吸が行われることにより夜中に酸素が減るのである。これに対して、昼間は光合成の影響で酸素が増える。実際に酸素を測った例を見ると、地点によって異なるが、夜間に酸素がかなり下がる所と、それよりも下がり方が少ない所がある。つまり、植物が多ければ多いほど夜中に酸素の量が下がる。この指標となるのが底生動物のAグループ(トビケラ・カゲロウ・カワゲラ類)である。それに対して、川にBODが1mg/l以上あることを示してくれるのがBグループの動物たち(ミズムシ・ヒル類・巻貝類・イトミミズ類)で、ウズムシ類、ヒラタドロムシ類、コカゲロウ属はどちらも示してくれない、つまり指標にならない動物たちである。したがって、底生動物には「溶存酸素が夜中にどれぐらい下がるかを示すAグループ」「BODがどれぐらいかを示すBグループ」「何も示さないグループ」と三つのグループがあり、A・Bのグループの動物を使うと、河川をいろいろ種類分けできるということである。

 そこでAしか出てこない水質汚濁階級を段階Ⅰで、非常にきれいな水質を示すとし、AとBが混じっているものを段階Ⅱでやや汚れた水域、Bだけしか出てこない水域を段階Ⅲで汚れた水域として水質環境を分類した。ちなみに、もっと汚濁が進むと、AもBも底生動物のグループは出てこなくなる段階Ⅳとなる。この段階分けを利用して、窒素とリンの濃度の違いを検討してみた。というのは、溶存酸素の日変動量は水生植物の量と関係があり、水生植物の量は窒素とリンが多ければ多いほど増えるので、窒素とリンとも間接的に関係があるのではないかと、考えたわけである。

6.生物学的に見た富山湾流入河川の水質

 黒部川、常願寺川、神通川、小矢部川、子撫川、九里川尻川(石川県)、いたち川という大河川と小河川を調べてみたところ、段階Ⅰのレベルの場合、全リンの大部分は0.03mg/l以下にあり、少しリンが多い河川でも0.05以下になった。このレベルは薄い赤潮を抑制するレベルである。また、段階Ⅱになると、全リンが0.005~0.09mg/lの範囲で濃いほうの赤潮を抑制できるレベルになる。すると、河川管理をするうえでこの底生動物のⅠ、Ⅱ、Ⅲという階級は、窒素・リンの水質管理にも非常に有効だと考えられるわけだ。

 また普通、底生動物相を使った水質管理は有機汚濁に対してよく使われるが、このように河川の窒素・リン濃度ともかなりの関連があることが分かったので、湖沼や海に対しても、富栄養化の管理に使えることになる。ちなみに、平成14年に決めた富山湾の河口海域における窒素・リンの水質環境目標はリンが0.01mg/l以下、小矢部川と神通川の河口海域ではそれぞれ0.016、0.017mg/l以下という目標だが、海で0.01mg/l以下というのは流入河川では0.03mg/l以下とすると、底生動物相Ⅰのレベルである。また同様に、海で0.016~0.017mg/lの範囲は流入河川では底生動物Ⅱのレベルになる。したがって、河川の水質管理を生物で表す場合、底生動物のレベルをⅠ、Ⅱというふうにすれば、これはかなり基準を満たすことができるということになる。

 以上、このように河川の底生動物を使うと、有機汚濁の評価とともに富栄養化の評価も比較的簡単にできるということが分かっていただけたかと思う。また、それにより対策を立て、対策を立てたあとの維持管理、モニタリングとしてもこれを使うことができる。

→2004年度富山県立大学秋季公開講座