大学等連携事業

2005年度 東京大学大学院講座 「環日本海地域の共生」


東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻講座
「マネジメント事例研究―日本海学の構築をめざして―」
平成17年12月13日
東京大学法文1号館216号教室

講師 日本海学推進機構
上席研究員 浜松 誠二

中国経済の持続的成長の可能性と日本の対応

1.持続する経済成長

中国は著しい経済成長を続けている。
  1949年 中華人民共和国建国
  1958年 「大躍進政策」の失敗
  1965年- 文化大革命
  1976年 毛沢東死去
  1978年 改革開放への転換
  1989年 天安門事件(第二次)
  1992年 社会主義市場経済
  2001年 WTO加盟
  2008年 北京オリンピック
  2010年 上海万博
 今後も成長を続け、2020年には2000年の4倍の経済規模となることが目指されている。これは年率7.2%の成長に相当する。

 ただし、中国の持続的経済成長には、中国自身とともに世界にとっても多くの課題がある。
 胡錦濤主席は2006年度経済社会目標として「和諧社会」を提唱。安定成長、農村開発、独自技術開発、エネルギー対策、内陸開発が骨子であり、これらは中国経済社会開発の長期的課題でもある。


 中国の現在の著しい経済成長は、日本がオイルショック以前の20年弱の間に体験した経済成長に対応するものだといえよう。
 日本は、1970年前後には厳しい環境問題に見舞われ、一旦は、経済成長のあり方を考え直そうとした。しかし、その後のオイルショックに対して一丸となって日本経済の再生に励むこととなり、それ以降は反省を放置してきた。
  1978年 オイルショック(第一次)
  1985年 プラザ合意
  1991年 バブル経済崩壊


 実は、経済成長のあり方への疑問は、ローマクラブの「成長の限界」(1972年)などで警告されてきたものである。


 中国やインドの経済成長の下での世界の基本的な課題は、それぞれ10億を超える人口を持つこれらの国の経済活動の拡大を地球環境を配慮しつつ先進国がいかに受け入れていくかということであろう。



2.外国依存の経済開発

 中国はその所得水準に比して、膨大な国外からの投資を受け入れている。 外資の進出は、安価で豊富な労働力と膨大な潜在的消費需要を念頭に置いたものであるが、国内消費市場の拡大はまだ部分的である。


 1990年代は、固定資本形成の10%以上が、外国からの直接投資によって担われていた。 この結果、現在の国内の生産の40%は外国資本によるものともいわれている。ちなみに国有企業の比重は5%の水準まで低下しているとされる。


 外国資本による生産は、加工貿易を主体としており、安価な労働力を求めたものである。 このため、経済成長とともに貿易額が著しく増大している。


 輸出入額それぞれのGDPに対する比率は、近年さらに急拡大し、既に30%を超えている。 また貿易の50%は加工貿易と言われている。


 経済規模の大きな国の貿易依存度が高いと、その貿易額は膨大なものとなり、他国に与える影響も大きい。


 中国の輸出品目としては、改革開放の当初は繊維等が急速に拡大したが、現在では、雑貨さらに家電製品等の機械が著しい拡大を続けている。


 輸入については、国内での生産のための資機材が中心となっている。


 中国と日本との貿易も急拡大を続けている。 ただし、日本から中国への輸出には、香港経由のものが一定の割合を占めていることに留意しておく必要がある。



 近年の日本の貿易相手国別の貿易額の推移を見ると、東アジア、東南アジアの比重が高まってきており、地域貿易協定等の課題が一層重要となってきている。 なお中東諸国からの輸入額は石油価格の変動によって大きく左右される。


 ちなみに世界貿易の中での地域貿易協定を背景に持つものの比率は約2/3までに拡大してきている。


 日本の中国からの輸入については、1990年代半ばまでは繊維、編物の拡大が特に目立ったが、その後は一般機械、電気機械の拡大が著しい。


 日本から中国への輸出については、中国での生産の資機材としての一般機械や電気機械が著しい拡大を続けている。
 21世紀に入って、この輸出の拡大によって、日本経済も小康を得ている。


 各種商品の生産工程のうち、当初の企画・技術開発・デザイン及び最終工程の営業・販売の収益性が高く、労働力投入を主体とした中間の製造工程の収益性は低いことが一般的に見られ、このパターンはスマイルカーブと呼ばれることがある。
 水平分業によって中国に製造工程を委ねることは、日本にとってメリットのあることと理解される。


 日本では、パソコン等も大幅の輸入超過となっている。

 パソコンの中核部品となる半導体については、現時点では日本の輸出超過となっている。

 しかし、中国の大学等進学者は急速に拡大しており、その規模では、既に日本を凌駕している。
 こうした高学歴者がある程度まとまって、生産活動に従事すれば、技術開発力も優れたものを持つようになり、これまでのように水平分業は続けることは、次第に困難となっていこう。


 このため、日本は、新たな産業のあり方を構築していく必要があり、「産業クラスター」の形成などが模索されている。

3.拡大する所得格差

 経済開発に伴って、一旦は所得格差が拡大し、その後低下するという経験則があるとされ、「クズネッツの逆U字仮説」と呼ばれている。
 東、東南アジア諸国の所得水準及び所得格差としてのジニ係数を見ると、この仮説は成立しているようである。


 なお、ジニ係数とは、右図の黄色の部分の面積で表され、大きいほど格差が大きくなる。


 世界各国の所得水準とジニ係数を表示すると「クズネッツの逆U字仮説」は必ずしも成立していない。
 アフリカの多くの国では、所得水準が低いにも拘らず格差が大きい。中南米の多くの国では、所得水準がある程度向上しているにも拘らずやはり格差が大きい。
 経済開発の一定の段階で、格差の縮小に首尾よく向かうか否かが重要といえよう。
 なお、中国とアメリカの格差はほぼ同じ位置にある。


 ジニ係数の計測で使う所得分布曲線を描くと、アメリカと中国は殆ど重なっている。


 中国の所得格差には、まず地域間格差がある。海岸線に面した東部と内陸の西部の格差は著しい。

 上海の約5000US$近い水準に対して、貴州では500US$以下であり10倍以上の格差が見られる。

 ちなみに臨海部の地域では、都市人口比率が高い。


 中国の所得格差の第二の要素として、都市・農村間の格差がある。
 この格差は次第に拡大しており、現在では3倍を超えている。
 しかし、農村においても所得水準は向上してきており、これが所得格差への批判の噴出を緩和している。このため、中国にあっては経済成長の継続が一層重要な課題となっている。  約8.10元=1US$


 ちなみに、中国全体での都市人口は、5億人を超えている。


 中国の所得格差の第三の要素として、世帯間の格差が挙げられる。
 この格差は、次第に拡大しており、低所得層の世帯では、所得の減少さえ見られる。ただし、都市への新規流入人口があり、これらの世帯が低所得層に入り込むのであれば、個別の世帯の所得が減少しているということにはならない。


 5千万人を超える都市の高所得層(上位10%)の所得は、20,000元(約2,500US$)/人の水準となっている。


 ちなみに、購買力平価では、中国の所得は約4.5倍に評価すべきことに留意しておく必要がある。

 2,500US$→10,000US$超
 5,000US$→20,000US$超(上海15百万人)
  既に、かなり高い消費水準を達成しているかなりの規模の人口が存在していることに十分留意しておく必要がある。

4.消費の拡大

 中国での最終消費支出のGDP比は約50%と極めて低い。
 現時点では、専ら経済成長に励み、消費を享受することがあまり省みられていない状況といえよう。


 しかし、エンゲル係数は、都市、農村それぞれで次第に低下してきている。


 耐久消費財も次第に普及している。


 近年では、都市での空調機や移動電話、パソコンの普及などが目立つ。
 自家用車の普及も次第に立ち上がり始めている。


 農村においても都市には遅れるが、耐久消費財の普及が次第に進んでいる。


 地域別の所得水準と自動車の保有に関してみると、2,000US$水準が普及の立ち上がりのタイミングといえそうである。


5.厳しさを増すエネルギー需給

 中国のエネルギー消費は急速に拡大している。
 持続した経済成長にも拘らず、1990年代末に低下を示しているのは統計上の錯誤らしい。


 石炭の生産・消費量が、1990年代末に低下しているが、これは、国家政府による事故を起こす炭坑の閉山の指示に統計上対応した結果のようである。
 ちなみに中国では石炭の埋蔵量が多いが、輸送にネックがある。
 石油については、消費が生産を抜き、輸入を拡大し始めている。

 国内でのエネルギー資源の輸送のため「西気東輸」(ガスパイプライン)、「西電東送」(送電線)の大規模事業を展開している。


 中国は、エネルギー資源の確保のために国際的な場でも精力的な努力を重ねている。
  ロシア極東パイプライン敷設、春暁ガス田開発、カザフスタン・アフリカ(スーダン)・インドネシア等との協調など


 中国のエネルギー消費では、今後とも石炭が一定の割合を占めていかざるを得ない。


 原子力発電の増強を意図しているのは限られた国のみであり、東アジアの日本、韓国、中国の3ヶ国は特殊な位置にある。


中国の原子力発電所


建設必要量
(百万KW)
2020年電力需要 800-850
2003年発電能力 350
不足発電能力 400-500
原子力への配分
(火力水力での不足量)
32-40
既存・建設中原子力能力 8.7
新規建設着手必要量 23-31
(30plants)
資料;国家開発改造委員会
  人民日報2003年8月29日

 石油の世界市場での中国、日本の占める割合はそれぞれ約5%、12%である。


 中国での石油消費では、中間製品、ガソリン、その他のそれぞれが拡大している。


6.環境負荷への懸念

 中国では良好な水を利用できない人口が3億人を超えており、世界で最も多い。


 降水量は南部に著しく偏っている。


 北京周辺の地域では、地下水への依存度が極めて高い。
 しかし、現在、地下水位が著しい低下を続けており、首都の存続さえ厳しい状況に近づきつつある。

 地表水の減少は地域の砂漠化にもつながっている。
 また、日本への黄砂が増加する一因ともなっている。


 「南水北調」として、揚子江の水を北へ運ぶ事業が進められている。
 東線は2007年、中線は2010年開通の予定である。ただし、果たして清浄な水が送られるかどうかの疑問もある。



 硫黄酸化物等の排出による環境問題も厳しい課題となっている。 これは、日本での酸性雨の一因ともなっている。


 中国等の経済成長については、地球温暖化の課題も大きい。

 炭素の排出では、現時点で中国が世界全体の1割を越している。


 世界中各人の一人当たり炭素排出権を同等と仮定し、現在の全排出量が限界だとすれば、先進国の排出は中国やインド、アフリカ諸国等の低い排出で支えられていることとなる。
 なお世界中の人が現在の先進国並みの生活をする場合には地球が3つ必要といわれる。
 いずれにしろ、先進国はその排出量を早急に削減していかなければならないことには間違いはない。


 ちなみに、GDP当たりの炭素排出量については、日本は世界の中でも低い水準にある。
 ただし、これによって日本の排出権が大きくてしかるべきだということにはならない。

 現在の技術水準、生活行動を前提とすれば、炭素排出量は、経済発展とともに2t/年/人程度まで増大することは避け難いようである。
 技術開発とともに、各国での生活行動をいかに改めていくかが課題となっている。


7.食糧確保の不安定化

 中国の穀物生産量は1990年代後半に頭打ちとなり、その後減少に向かっている。


 面積当たり生産性の向上は限界にきており、水稲については、若干低下さえしている。


 水稲については、作付面積が長期的に減少してきており、小麦についても近年減少を示している。




 南部で作付面積の減少が著しいのは、農地の転用の影響があるものと考えられる。



 実は、所得水準の上昇とともに、一定の段階で穀物の消費量が減少を始める傾向があるようである。


 中国でも穀物の消費量は減少を続けている。


 逆に、所得水準の上昇とともに、肉類については、消費の増大がある。


 中国でも動物からのエネルギー摂取が拡大を続けている。


 中国の一人当たり肉類消費量は、既に日本、韓国を上回っている。
 なお、日本・韓国では、魚類の消費が多いことに留意しておく必要がある。



 中国では豚肉の消費の拡大が著しいが、牛肉も次第に拡大している。

 


 肉類の生産には、そのための飼料の生産が必要であり、肉類で同じ熱量を得ようとすれば、穀類を直接摂取する場合に較べて、何倍もの耕地面積が必要となる。


 日本の食糧自給率は、各品目で年々低下している。
 熱量自給率では約40%まで低下してきている。


 日本、韓国はともに穀物自給率が低くかつ人口規模が大きい国であり、諸外国からの膨大な輸入によって生存を維持している。
 中国については、人口規模が日本の十倍であり、高い自給率であっても、自給率のわずかな低下で、不足の絶対量は膨大なものとなる。


 日本、韓国はともに食糧自給率を低下させてきており、同時に耕地も縮小してきている。


 世界全体では、中国やアメリカが穀物生産の大きな比重を占めている。


 アメリカの穀物生産は極めて不安定な状況にある。ただし、これまでのところ在庫調整によって比較的安定した世界市場への提供が実現してきている。

 日本・韓国は、食糧確保に関しては、極めて脆弱な体制に置かれている。世界的な不作が続けば、日本にとって穀物の確保は可能であろうが、市場価格の高騰によって、世界に飢饉を輸出する張本人ということになろう。
 なお、WTOでは、輸入の義務は課されるが、輸出の義務が課されるメカニズムはない。