大学等連携事業

2005年度 東京大学大学院講座 「富山学」


本文中でリンクのある引用図表は、
講師個人のホームペーシ「富山を考えるヒント」の中にあるものです。

東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻講座
「マネジメント事例研究―日本海学の構築をめざして―」
平成18年1月10日
東京大学法文1号館216号教室

講師 日本海学推進機構
上席研究員 浜松 誠二

1.地域学

 日本の経済社会の欧米諸国へのキャッチアップ過程は、概ね1970年代には終わっています。
 このため、我が国なり、地域なりの経済社会のあり方を明確にしていくことが求められていますが、この作業を怠ったまま今日に至っています。
 さらに、既に1970年代初めに提示され、1990年代に明確に現れてきた成長の限界の課題も、これまでの開発成長主義的なあり方の変更が迫られており、経済社会のあり方についての包括的な合意を喪失しています。

 地域社会全体のあり方についての共通認識を欠いた中で、特定の分野のあり方を議論しようしても、多くの事項が関連し、容易には議論することができなくなっています。
 行政における各種の委員会や公開討論会などもありますが、短時間の議論では、地域づくりのあるべき姿を描くことがほとんど困難になっています。
 この解決には、何日間かの泊りがけの集中討議などが必要なようです。
 また、その議論の基礎となる知識ベースを普段から形成しておく必要があります。

 私のホームページ「富山を考えるヒント」では、主として統計データを基礎として、地域に関する多様な知識を整理しています。
 さらに、これらの知識を下に、地域の構造を捉えようとしています。
 これは一種の「地域学」であろうと考えています。

  モード1 モード2
ディシプリンの
有無
有り 無し
(困難と考えられている)
研究の動機 好奇心 問題解決
評価 当該学問領域固有の
規範
実効性のある解決策の
提示
社会的責任 不問
(仲間内での評価)
説明責任がある
研究の連携 個人が主
仲間内の共同研究
多様な領域の専門家の
参加と連携
(トランス・ディシプリナリな活動)

 ギボンズ等によれば、学問には、好奇心に基づくものと問題解決を指向したものがあるとされています。
 「地域づくり」を考えていくためには、問題解決を指向した学問の支援が必要と考えられます。


モード論に現れる2つの性向の地域学での交差
  対象理解への好奇心 問題解決指向
個別的 (ア)アイデンティティの確認 (イ)特定課題への解決対応
総合的 (ウ)総合的理解への努力 (エ)共生への包括的展望

 地域学がブームとなっていますが、その多くは、好奇心を基礎に、特定の分野を捉えて、地域のアイデンティティを探るものとなっています。
 日本海学を扱っていますとブローデルの「地中海」が引き合いにだされますが、これは好奇心に基礎を置きながらも、総合的理解に努めているものと言えそうです。
 また、バルト海での努力もしばしば引き合いにだされるのですが、これは特定課題の解決が主眼にあるものです。
 今日、日本での地域づくりでは、総合的な問題解決を指向する必要があると考えられます。


 私自身は、地域の多様なデータから情報を整理し、そこにある課題の解決を考えていきたと思っています。

 地域づくりは地域経営ともいえるでしょう。
 経営学におけるナレッジマネジメントの議論では、知識の可視化、文脈の可視化、目的の可視化が必要とされていますが、私のホームページでは、これまで主として知識の可視化に努めてきましたが、今後は、文脈の可視化にも努力していきたいと考えています。
 つまり地域づくりにおける課題を明確にしつつ、それに関連した多くの知識を再整理して提示していこうということです。

2.環境の変化

 以下、地域づくりの課題について、富山を基礎にして語りますが、全国各地域に共通した普遍的な課題も多いと考えています。
 まず、地域が置かれた環境から見ます。

 地球温暖化については、先進国の過剰消費の解消が課題となっています。
 この課題に地域が主体的にどう取り組むかは議論がありますが、どのような地域像を描くかには大いに関連するところです。
 また、自らの尊厳ある生き方を念頭に置いた場合、もとより無視できない課題です。

 特に、富山ではこれまで自動車社会を形成してきましたが、今後の地域社会としてどのような整合性のある像を描いていくかは、明確に確認していくべきことでしょう。

 食糧問題への対応も、地域が主体的に取り組むには辛い側面がありますが、十分念頭に置いて、地域づくりを考えていく必要があります。

 富山ではこれまで、生産性の高い水田を都市的利用のために積極的に壊廃してきており、食糧安全保障への見識が問われています。

 地域の置かれた環境の問題として情報化の課題をここで取り上げることは疑義があるかもしれませんが、情報化は今後の地域づくりに大きな影響を持ち、その重要性についてのある程度の認識は持たれていると思われます。
 しかし、体制として取り組むことはできておらず、例えば、日本の国際競争力は、低く評価されています。
 単に、ハードの施設設備を整備していくのみでなく、実際に様々な側面で効果的に活用していくことこそ重要です。

 富山の情報化への対応に関しては、全国の中でも、ハードの整備は進んでいながら、その活用はあまり進んでいない地域のように思われます。

 次に、地域自体の構造的変化に関連した課題を述べます。

 まず、人口減少は、多くの課題をもたらします。
 四半世紀以上前から人口減少時代の到来は認識されていたのですが、それへの対応は限られたものであり、実際に減少が始まって騒ぎが大きくなっているように思われます。
 また、高齢化、世帯規模の縮小も大きな課題です。

 意識の変化も大きな課題です。
 全国でも見られる変化ですが、富山で一層強く変化している意識として、家族・地域社会が助け合う気運は薄れ、市場・行政に委ねる度合いが強くなってきていることが挙げられます。

 新幹線の開通も地域にとっては大きな課題です。
 いわゆるストロー現象が起こることが懸念されます。

 平成の市町村大合併は一段落いたしましたが、富山は全国でも最も市町村数の少ない県となっています。
 今後、合併の成果を首尾よく挙げていくことができるか課題となっています。

 市町村経営における規模のメリットが一見あるように見えますが、実は人口密度が経営効率の大きな要因となっているようです。

 各地域の自治体は、大きな負債を抱え今後の財政運営には、厳しいものがあります。

 地方自治体の財政運営の弾力性は極めて乏しいものです。

3.郷土

 次に、各分野ごとの課題について述べます。
 ここでは、「郷土」、「産業」、「生活」の3分野に分けていますが、これはかつて富山県で政策の柱として整理した区分です。実際には、全国各県の総合計画の構成を整理することによって見出されたものです。

 「郷土」では、県土をどのように利用するか、土地利用とともに各種の基盤施設の整備について考えていきます。

 富山県の地形的特長は、約50万年前に北アメリカプレートとユーラシアプレートが衝突し、立山連峰が形成されたことから始まっています。

 急峻な山岳地帯が侵食され、その斜面への土砂の堆積により形成された複合扇状地が生活の舞台です。

 富山の地形のような特徴は、広く見れば、日本海沿岸地域共通の特徴です。
 水田地帯が広がり、空間的なゆとりを享受できる豊かな生活の基盤となっています。

 例えば、広い住宅は、日本海沿岸の県に偏っています。

 土地利用については、殆ど全面積が、各種の法律で規制されています。

 特に、生活空間に関連した、平野部の土地利用については、都市計画法と農業振興法があります。
 都市計画法では、開発のスプロールを防止するため、大規模な都市地域においては、宅地化が進む市街化区域と宅地化を規制する市街化調整区域に区分しています。また、その他の地域においては、宅地化が進む用途地域のみを指定しています。
 用途地域の指定がない地域は、主として農地であり、農用地区域を指定して無秩序な宅地化を規制しています。

 ちなみに富山県では、富山市(旧)と高岡市(旧)に挟まれた地域が、市街化区域と市街化調整区域に区分された都市計画の地域(線引き都市計画区域)となっています。

 2005年の国勢調査で人口の動向を見ますと、富山市(旧)や高岡市(旧)など線引き都市計画区域内の主な市・町の人口は減少しており、むしろその周辺の人口が増加しています。
 これは、自動車の普及を背景に、都市計画の規制に対して、かえって市街化調整区域を超えた地域に人口が移り住んでいるためです。また、農地の宅地化規制も緩やかにしか行われていないことを意味しています。

 このような状況は、程度の差はありますが全国各地域で見られるものですが、富山では特に極端にスプロールが進んでいるようです。

 富山市では、中心部の人口が極度に減少しており、小学校の統合なども進められています。

 この結果、都市的地域を意味する人口集中地区の人口密度は、次第に低下しており、相対的には、富山の低下が特に急速なものとなっています。

 富山では、地価の低下も極度に進んでいます。

 一方、郊外では農地の壊廃が進んでいます。
 ただし、バブル経済及び団塊ジュニア世代の住宅建設が一段落し、年々の壊廃量は少なくなってきています。

 富山は耕地の殆どが水田であり、優良農地を一層多く宅地化してきたといえます。

 既に富山県の総人口は減少を始めておりますが、世帯数は世帯規模縮小によりまだ10年間程度増加する見込みです。
 ただし、単身世帯や夫婦のみ世帯が増加しており、住宅等の需要は大きく変化してきています。

 富山では、既存の住宅は全国でも特に広い敷地を保有しているのですが、住宅用地の整備もまだまだ旺盛です。

 年々の住宅建設は、団塊ジュニア世代の住宅建築が一段落したことにより、年々の建設戸数は次第に建替え需要の水準に近づいていると考えられます。

 こうした中で、全国でもそして富山でも空家が急速に増加しています。
 これは、都心でも郊外でもゴーストタウン化が進む前兆として捉えられます。

 これまで土地利用制度はありましたが、どうも本気になって運用されてきていないように考えられます。

 今後の地域づくりにおいては、人口減少への対応はもとより、人口の高齢化・環境問題への配慮し、コンパクトな街づくりを念頭において、土地利用規制にけじめをつけていく必要があるのではないでしょうか。コンパクトな街は、人々の生活や生産が多様な連携の中で行われていくべきことからも求められる姿ではないでしょうか。

 住宅のスプロールは自動車社会化を背景として進んだと述べましたが、その基盤として道路の整備があります。
 富山を含む北陸3県では、道路改良率が全国でも特に高いと同時に、道路交通量は低い水準にあります。

 しかし、現在でも道路の整備を進め、道路延長は急速に拡大しています。

 一方で、公共交通の利用は急速に減少しています。
 これは、高齢化時代に向かい、また地球温暖化への対策が求められる中で、方向転換が求められる課題です。

 また、郊外への居住を支援するものとして、下水道の整備があげられます。
 下水道の整備をあえて行わなくとも、合併浄化槽での対応が可能なのですが、流域下水道の整備計画に基づいて、着実に整備されてきました。

 人口集中地区が下水道整備の必要な範囲と対応する訳ではありませんが、このような見方をすると、富山は全国で最も下水道整備が進んだ地域であることがわかります。

 話題はそれますが、富山では、水害を中心とした自然災害は1970年代の初めに一段落着いていますが、ダム建設等の治水事業はその後も続けてこられました。

 多様な基盤施設整備の要不要の判断は軽々にはできません。
 しかし、少なくとも我が国のこれまでの財政制度には大きな欠陥があり、基盤施設の整備水準が必要水準を上回って進められるメカニズムを内在しています。
 なお、三位一体の改革はこうしたメカニズムを改めていこうとするものと考えられます。

エチオーニ
  制御能力
低い 高い
合意
形成
能力
低い 受動的社会(passive)
多くの発展途上国
過剰管理社会(overmanaged)
全体主義的国家
高い 漂流社会(drifting)
資本主義的民主的社会
能動的社会(active)
脱近代社会以後の未来社会

 以上のように、地域づくりは、主体的な方向選択が行われず、漂流を続けているように思われます。


4.産業

 「産業」では、地域の産業のあり方について、地域なりの産業活動の可能性とともに、雇用問題等について考えていきます。

 富山では、これまで産業振興のための多様な努力を重ねてきました。
 特に戦後は、国の施策展開と歩調を合わせ、各種の基盤施設の整備も進めてきました。
 (→表1)

 実は、各地域がそれぞれ産業振興の努力をしており、結果として、本州中央部に位置する大都市周辺地域が一様に第二次産業の卓越した地域となっています。

 当然予想されることですが、大都市圏を含んだ本州中央部では、一人当たり所得水準が特に高くなっています。
 (ただし、県民所得統計は各地域で推計が行われており、それらを集めて相互比較することにはいろいろな問題があることに留意が必要である。)

 余談ですが、北陸3県は、日本海沿岸地域としての空間的ゆとりを享受しつつ、本州中央部としての高い産業活動があり、結果として、日本でも特に豊かな地域となっているといえます。

 ちなみに、北陸3県の豊かさ指標は高い水準にある。

 しかし、第二次産業のあり方も大きく変わってきています。

 工業用地も減少し始めています。

 工業用水の使用量も漸減しています。

 こうした変動は、いわゆる「重厚長大」から「軽薄短小」への変化です。

 こうした中で、第二次産業就業者の比率は、1990年代に入って、急速に低下し始めています。
 1990年代前半では主として製造業での減少であり、後半では建設業の減少も加わっています。

 製造業の変動の背景には、中国からの輸入の急増があります。
 1990年代の初めから衣類や編物等の増加がありました。また、半ばからは電気機械、さらには一般機械の輸入が急増しています。

 これに対応するため、富山からも多くの企業が中国へ進出しています。

 なお、中国の生産は、現時点では、外国資本による工場での加工貿易が多く、その生産に必要な資機材の日本からの輸出が急拡大しております。
 この結果、景気の拡大が見られますが、富山でもその一端を担っています。

 ただし、中国がいつまでも労働集約的な工程の担い手にとどまるわけでなく、次第に技術力を高めていくことは間違いありません。
 このため、我が国にあっても新しい産業を形成していく必要があります。

 産業のあり方については、一方で、情報技術を効果的に活用した、企業のあり方に留意しておく必要があります。
 具体的には、企業それぞれの得意とする専門分野を明確にするとともにそれに特化しつつ、機動的に連携を図っていく事業展開が構想されます。

 現在、産業クラスターの考え方に関心が寄せられています。
 多様な業種の企業が連携し一定の分野で卓越した事業を展開していこうとするものです。
 これは、テクノポリス計画の際に既に、産業コンプレックスとして議論されていたものと同様のものと考えられます。

 例えば、富山では住宅文化産業といった分野が考えられるかもしれません。
 地域で、産業活動のイメージをいろいろと描き、そのもとで関係者自らが結集していくことが必要です。
 行政は、できるとすればコーディネータ役ですが、かなり難しい役割で、そのエキスパートを育てていくことが必要と考えられます。

 商業を中心とした都市型産業も重要な分野です。
 しかし、現在、小売商業の販売額は減少し始めています。

 また、小売業の主体は郊外へと移っています。
 これは自動車で来店する客を相手として、経営意識の高い大型店が事業を展開しているものです。

 一方、都心部への来街者は極端な減少を続けています。  都心部では多様な事業者が混在し、街のイメージを機動的に形成していくことが困難であり、消費者に相手にされなくなってきているわけです。

 都心での小売販売額は大きく落ち込んでいます。

 これをどう再生させるかは、全国各地で大きな課題となっています。
 単に郊外店の立地を規制するのでなく、地域の土地利用のあり方を包括的に見直し、けじめを付けていく必要があるのではないでしょうか。

 地域の生活、産業に多様なサービスを提供していく分野も重要な産業です。
 現在、医療・福祉の分野等で事業が拡大しています。

 医療・福祉の分野の産業の動向は、行政の制度変更に大きく左右され、特に介護保険制度の導入によって、老人福祉事業が大きく伸びています。

「最低資本金規制の特例」制度
(新事業創出促進法第10条)を
利用して創業した企業
        2003年2月~2004年1月
  株式会社 有限会社 総数
北海道 133(2) 314(13) 447(15)
東北 101(2) 233(10) 334(12)
関東 2064(58) 2611(148) 4675(206)
中部 248(8) 393(12) 641(20)
  愛知県 178(7) 281(8) 459(15)
岐阜県 20(0) 40(1) 60(1)
三重県 21(1) 38(3) 59(4)
石川県 20(0) 17(0) 37(0)
富山県 9(0) 17(0) 26(0)
近畿 617(21) 779(52) 1396(73)
中国 82(2) 207(6) 289(8)
四国 32(3) 84(6) 116(9)
九州 186(6) 415(18) 601(24)
沖縄 8(0) 38(0) 46(0)
全国計 3469(102) 5076(265) 8545(367)
( )内は1円企業

 以上のような新たな産業展開に関しては、起業者が求められるのですが、富山は概して低調な位置にいます。


 また、事業所の開設、廃止は共に少なく、差引では事業所数の減少が続いています。

 福祉事業等を含むいわゆるコミュニティビジネスの分野は、NPOも重要な一翼を担っています。
 ただし、富山でのNPOの活動は概して低調です。

 一方、産業振興の必要性は、安定した雇用の場の提供にあるのですが、この面では大きな懸念があります。
 幸い、富山の有効求人倍率は1を超えて回復しています。

 また、失業率についても、北陸地域は、全国の中では良好な位置にあります。

 しかし、常用雇用指数は2000年に比してかなり低下してきています。

 北陸の非正規職員の比率は相対的には低い位置にありますが、近年、かなり上がってきています(なお、正規雇用と常用雇用はそのまま対応する訳ではありません) 。

 さらに、雇用機会等を求めて外国人が入ってきていますが、受け入れていく体制にはかなり危ういものがあるといえそうです。

 かつて、アルバイトやパートタイムは自由な就業形態として肯定的な見方も強かったのですが、現在では、強いられた選択であることも多く、地域社会にとっても大きな問題となってくると考えられます(この点については、富山は遅れて進んでいるとも言えそうです)。
 いずれにしろグローバル化する経済の中で、雇用がかなり脆弱となってきています。景気回復の動きがあっても雇用にはかなり厳しいものがあります。消費回復と言われても、実態は個人間での格差が大きくなっているようです。

5.生活

 「生活」では、県民生活のあり方を問い直します。

 

マッキーバーの類型の概念
コミュニティ 地域性と共同生活の存在と共属感情による
基礎的社会集団
共同関心により成立
なんらかの自足性を持つ
アソシェーション 特定の類似の関心に基づいて限定的目標を
達成するための集団
人為的に構成

 かつて、社会の近代化のなかで、帰属意識を持つ社会組織は、コミュニティからアソシェーションへと移行していくという考え方があったと思われます。しかし、「コミュニティ」という言葉が広い意味で使われており、一概にはこうも言えないようです。


 

集団類型論の系譜
テンニース ゲマインシャフト ゲゼルシャフト
クーリー 第一次集団 第二次集団
マッキーバー コミュニティ アソシェーション
高田保馬 基礎社会 派生社会
引用

 ちなみに、集団類型論で同様の趣旨の二項対立の言葉はいろいろとあります。


近代化に伴う社会の価値観の変化
価値のパターン変数
タルコット・パーソンズ
  近代以前 近代
感情性
(快楽主義)
感情中立性
(禁欲主義)
集合体指向
(集団主義)
自己指向
(個人主義)
個別主義 普遍主義
帰属性 業績性
無限定性
(ジェネラリスト重視)
限定性
(スペシャリスト重視)

 パーソンズは、社会の近代化を捉えるものとして、価値のパターン変数を提起しています。
 日本全体としてこうした近代化の方向に進んできたと考えられます。そうした中で、富山も同様の方向に動いてきたのですが、かなり遅れて進んできたと言えそうです。


 富山の世帯の類型を見ると、その他の親族世帯(多世代世帯)の構成比がかなり高くなっています。

 ただし、多世代世帯は急速に解消され単身世帯が増加しています。

 例えば、富山でも、全国に遅れながら未婚者が増加してきています。

 これまで、大きな世帯で家族が助け合って働くことによって、高い所得を実現するとともに相互の格差も少ないものとしてきました。
 しかし、この体制が崩れつつある訳です。

 また、地域社会の組織もその組織率を低下させつつあります。

 こうした中で、これまで低下していた生活保護率が全国で上がりつつあります。
 富山では水準こそ低いのですがやはり増加する兆しが見られます。

 自殺率も1990年代後半以降、かなり拡大しています。

 また、刑法犯も990年代末以降、かなり増加しています。
 以上のように家族・地域社会が助け合って生きていく体制は、これまで次第に崩れてきていたのですが、1990年代後半に至ってさらに急速に崩れているようです。

 実は、富山県民の家族についての考え方は、全国を超えて大きく変化し、1970年代と近年では都道府県の中での位置が転換しています。

全国平均から有意に乖離した主な指標等
項目 富山県   全国
昔からあるしきたりは尊重すべきだ 48.2% - 57.2%
家の祖先には強い心のつながりを感じる 54.0 - 56.9
神でも仏でも何か心のよりどころが欲しい 50.0   50.0
人は結婚するのが当たり前だ 59.4 + 48.5
受験競争は子供の能力をのばすために必要 23.9 + 19.5
今の世の中は一人一人の庶民は無力だ 62.3 - 69.7
学歴がなければ社会は認めてくれない 57.0 - 61.8
世の中すべて金次第で良くない 47.9 - 54.7
お金はしばしば人を堕落させると思う 48.5 - 52.2
お年寄り等のためのボランティアをしてみたい 46.4 - 54.3
税金があがっても社会福祉をもっと充実して欲しい 48.2 - 55.8
普段の支持政党は自民党(フェースシート) 40.1 + 26.7

 富山県民は、個人としてはともかく、富山県民の意識として表のような位置付けの多くは認識していないように思われます。
 ただし、保守政党支持については、選挙で実態が表面化しますから認識されています。


 富山では、かつては、高齢者の世話は自宅で行う傾向が強かったのですが、老人ホームの整備とともに、より一層施設に依存するようになってきています。

 介護保険制度の下では、高齢者当たりの施設定員数がかなり大きくなっています。

 このため、介護保険料も全国の中でも特に高くなっています。

 実は、医療系施設の比重が極端に高いものとなっています。

 ボランティアとしての活動を見ると、まちづくりなどは高い位置にあるのですが、これはどうも町内清掃など半ば強制的な活動が背景にありそうです。このため行動日数では逆にかなり低くなっています。
 話は飛躍しているかもしれませんが、遅れて進んだ近代化の中で、ボランタリィな活動の展開が進んでいないといえそうです。

 人口当たりのNPO法人数もかなり少ないものとなっています。

 それでも、次第に増加しているのですが、介護保険関連のNPOもかなり混ざっているようです。

パットナムによるソーシャルキャピタルの分類
性質 Bonding(結合型)
例;民族ネットワーク
Bridging(橋渡し型)
例;環境団体
形態 Formal(フォーマル)
例;労働組合
Informal(インフォーマル)
例;バスケットボールの試合
程度 Thick(厚い)
例;家族の絆
Thin(薄い)
例;知らない人に対する相槌
志向 Inward Looking(内部志向)
例;商工会議所
Outward Looking(外部志向)
例;赤十字
(資料)内閣府「ソーシャル・キャピタル:
豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」
調査委託先(株)日本総合研究所 平成14年度

 一方、人と人とのつながりなどを念頭においたソーシャルキャピタルという概念が、近年注目されています。


 富山は、大都市圏に次ぐ、かなり低い位置にあります。

 特に、親戚とのつきあいの頻度などかなり低い位置にあります。
 (なお、この調査はサンプル数がすくないことに留意しておく必要があります。)

 今後は、インターネットを活用して人と人が効果的につながる社会を形成していく必要があるようです。

 また、地域づくりとして、単に市場や政府が提供する財・サービスのみでなく、県民自らの手による機能の充足も進められていく必要があるようです。