大学等連携事業

2005年度 富山県大学連携協議会公開講座 「海と薬・健康」


2005年度 富山県大学連携協議会公開講座
平成17年10月15日
とやま市民交流館
第1回 海と恵み 1限目

講師 富山医科薬科大学
教授 林 利光氏

「海藻」と「海草」

 「海藻」と「海草」は日本語の発音は同じだが、英語で言うと全く違う。「sea weed, marine algae」と「sea grass」で、両方とも植物だが、茎、葉、根の区別が不明確で花も実もつけないのが海藻で、コンブ、ワカメ、ヒジキ、ノリなどがこれに当たる。これに対して海草は草であるから、当然、葉、茎、根の区別があり、花もつけ、実もつける。この中にはスガモやアマモなど、一部食べられるものもある。
 海藻は古くから食用に用いられてきたが、食用藻類といっても、健康食品に使われるスピルリナやクロレラなどのように顕微鏡で見なければ形が分からないような微細藻類がある一方、コンブのように何メートルにも達する巨大な藻もある。学問的に分類すると、色で大きく緑藻、褐藻、紅藻、藍藻と分けられる。これとは別に珪藻というものがあるが、ほとんど食用にはならない。色の違いは、光合成色素の種類の違いから生じる。また、藻類全体では2万種くらいあるが、これまでに日本で利用されてきたのは50種類ぐらいとされている。また、天然にあるものを薬として利用するものを生薬と言うが、『本草綱目』などの中国の書籍には、藻類のいずれにも生薬としての効能があると記載されている。

海藻の生物活性化作用

 最近売られている栄養補助食品(サプリメント)に加え、ここ5~6年、特定保健用食品という名前の食品も出回ってきた。これは一応、臨床試験が行われたもので、その成分が明示されている。海藻との関連でいうと、ワカメから採ったペプチドを血圧が高めの人が服用するといいという。
 食用藻類の多くは水の中や塩濃度が高い所に生息する。例えばスピルリナは、アルカリ性の強いアフリカやメキシコの湖に生えている。また、ファーツァイのように砂漠地帯に近い環境に生えているものもある。そのため、高等植物とは異なる非常にユニークな構造や生物活性を持つ化合物の発見が期待される。また、ずっと人間が利用してきたということがあるので、比較的安全性が高いと思われる。ところが、意外と成分研究の歴史が浅く、特に生物活性成分についての医薬学的な情報は非常に少ない。
 では、生物活性(バイオロジカル・アクティビティ)とはどういう作用なのか。非常に多くの報告があるのはデンプンと似た酸性多糖類で、血液の凝固を抑えるヘパリン様作用のほか、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス作用、ピロリ菌が胃の粘膜にくっつくのを防ぐ抗潰瘍作用、コレステロール低下作用、抗腫瘍作用、抗炎症作用、血圧上昇抑制作用、免疫機能亢進作用などがあるという。またトコフェロール類には抗酸化作用があるという。

高齢化と免疫力の低下

 今、高齢化が進んでいるが、年を取ると免疫力が低下してくる。また、生活習慣が変わってくると食生活も変わり、がんになる人や動脈硬化などの生活習慣病になる人も増えてくる。一方で、医療技術の進歩により、臓器移植を受ける人たちが非常に増えているが、この人たちには拒絶反応を防ぐため免疫抑制剤が投与されるので、当然ながら免疫力は落ちる。また、エイズウイルスが感染する細胞は免疫系のT細胞といわれているもので、これも免疫力を低下させる。このように免疫力が低下した人たちが激増する一方で、ウイルス感染症の中には、今まで経験したことのないような抗病原性のウイルスが次々と出てきて、ワクチンや抗生物質が効かないものが生まれている。さらに、臨床試験のときはいいのだが、いろいろな人がいるから、ずっと飲み続けていると重篤な副作用が出てくるものもある。そこで、私たちは分子構造や作用機序が新しく、しかも安全性が高く、安心して利用できるウイルス感染症治療薬や予防薬の開発を目指しているのである。
 私たちが使っているのは、単純ヘルペスウイルス1型というウイルスで、ちょっと疲れたときに唇の辺りに水疱が出てくるあれである。これに対する作用を指標にしながら、エキスを分画し有効成分を明らかにしようとしている。また、どのタイプのウイルスに効くのかとか、現在使われている抗ウイルス薬との併用効果、体内でのようす、適切な投与方法、安定に安く供給する方法等も同時に調べている。

ウィルスの特性

 ウイルスは地球上の生物の中で最も小さいもので、生きた細胞に感染しなければ自分の子孫を増やせない。また、遺伝子としてDNAあるいはRNAを1本しか持っていない。
 ウイルスが細胞に感染したときどのようにして増えていくか。ウイルスには突起状のレセプター(受容体)というものがある。これが生きた細胞の表面に宿る。これを吸着と言うが、吸着するとウイルスの膜と細胞の表面の膜が融合する。そして中身だけが入っていき、その細胞の中の材料を使ってタンパクなどいろいろなものを作り、自分とそっくりなものを作り上げていく。それが完成すると、その細胞の外に出て、また隣の細胞へ行って増殖するのである。
 では、ウイルスが我々の体の中に入ってきたときに、体はどう反応するか。これが免疫である。まずマクロファージという細胞がウイルスを異物だと認識し、好中球が入ってきたウイルスを食べてしまう。そしてB細胞が変化して抗体を作り出す。一方、ヘルパーT細胞にもその情報が入り、これが今度は感染した細胞に攻撃を仕掛けるような細胞に指令を出す。ちなみに、このような免疫系の中でも特に最近、食べ物との関係で注目されているのは、腸管粘膜における免疫系である。また気管支や気道にも粘膜があるので、インフルエンザやSARSウイルスが気道、気管支などに入ってくると、この免疫系が働く。

海藻の抗ウィルス活性

 今、鳥インフルエンザのウイルスが人へ感染する形に変形する可能性についていわれているが、食べ物によってそれを予防できないかと考えていたところに、岩手県から、カキや帆立貝の養殖筏にいっぱい藻がついているので何か調べてほしいという問い合わせが入った。調べてみると、アカモクというホンダワラ科の褐藻だった。これを何とか活用したいということで研究したところ、ウイルスの増殖を抑えて免疫機能を亢進することや、がん細胞の増殖を抑えることが分かった。また、骨の形成も助けるので骨粗鬆症を予防し、便秘も解消するので大腸がんの治療や肝機能を改善し、精神安定にも有用だと思われる。まだ臨床試験をしたわけではないが、実際に試食していただくと、どうも体の調子がいいという人が多いのだ。それで最近、パック詰めのものが岩手県のほうで製品化されている。
 もう一つの話題は、ワカメの下の部分であるメカブである。岩や石のある所に根っこのように伸びているもので、今までは捨てていたらしいが、メカブから取り出したフコイダンの抗ウイルス活性を調べてみると、細胞毒性はほとんどなく、ウイルスの増殖を特異的に抑える作用があり、生態系の免疫機能も高め、抗体を作り出す力があることも分かった。
 従来、こういう多糖分子は消化管から吸収されないので、薬として利用するのは困難だといわれていた。しかし、経口投与によりその作用が確認されたということは、腸管免疫系を介して免疫機能が活性化されると考えられる。また、帯状疱疹などに対しては、軟膏のようにして投与すればいいのではないだろうか。さらにインフルエンザ、SARSなど呼吸器疾患に対しては、うがい薬や吸入剤として投与すれば有効に使えると考える。
 我々がそれを報告したところ、アメリカの研究者がその研究結果を引用しながら、藻類を食べる日本や韓国、チャドにおけるエイズ患者の割合が少ないということを発表した。アフリカのチャドはスピルリナを食べている所である。我々が実際に臨床試験をしたわけではないが、こういう見方もあるということで、いろいろな人に食べてもらうことにより、その効果を実証し、科学的な根拠を示して、日本海にたくさん生えている海藻を有効に活用できればいいと思っている。