大学等連携事業

2005年度 富山県大学連携協議会公開講座 「環日本海域の海洋環境リモートセンシング」


2005年度 富山県大学連携協議会公開講座
平成17年11月19日
とやま市民交流館
第4回 海の環境 1限目

講師 富山国際大学地域学部教授
(財)環日本海環境協力センター客員研究員
白山 肇氏

富山湾の環境悪化

 21世紀は水の危機の時代だといわれており、2025年には、多分、3~5人に1人は水を入手できないといわれている。しかし、我々日本人、特に富山の人は、水があるのは当たり前だという考え方で生活されているかたが多いだろう。新しくダイオキシン問題やアスベスト問題などが出てきているとはいえ、現在、日本の陸域の環境問題は、ほとんど解決したと考えていい。残されているのは海の問題であるが、私自身、今、富山湾が危うくなったことを感じている。実際、平成6年ぐらいまでは国の環境基準を100%達成していたのが、それ以降どんどん悪化して、最悪三十数%まで悪化しているのである。私は富山県の調査で現場に行き、その理由をずっと考えてきたのだが、いまだ解明できていない。
 しかし、このような富山湾の汚れは、地球温暖化と関連しているのではないかと、私は基本的に考えている。富山県ではここ十数年の間に年間平均気温が約1℃上昇しているが、富山湾の海水温もほとんど同じくらい上昇していることが分かっている。水温が0.1℃上昇するだけで、生き物には非常に大きな影響を与える。
 NHKの「クローズアップ現代」が最近、エチゼンクラゲの大発生の問題を取り上げた。エチゼンクラゲは東シナ海で発生して、対馬暖流に乗って北上し、越前沖ぐらいから相当な大きさになる。それにより大きな漁業被害が起こっているが、今、富山湾でも、氷見でエチゼンクラゲが発生していることが分かっている。

北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の活動

 地球環境問題については、国連環境計画(UNEP)が世界を14~15のブロックに分けて研究を進めている。そのうち、日本海と黄海をターゲットにしたものに北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)があり、その事務局RCUが富山と釜山に昨年設置されている。そのもとで日本、韓国、中国、ロシアの4か国が分担していろいろな研究を進めているのだが、そのうち海洋汚染の調査を担う特殊モニタリング・沿岸環境評価地域活動センター(CEARAC)が、外務省と環境省、国土交通省の協力で富山に設置された。富山県が100%出資している財団法人環日本海環境協力センター(NPRECC)がそれを担っているのだが、私は7年前からそこに籍を置いて仕事をしている。
 そのワークショップは、大きく分けて二つある。一つは赤潮/HABを中心とした沿岸環境評価を行うもので、もう一つは特殊モニタリング(リモートセンシング)を使って、海洋環境を開発しようというものである。私はこの後者のブロックで大学等から来た7人ほどの研究者と5年間仕事をしていた。その中にNOWPAPとCEARACの支援事業として「富山湾プロジェクト」というものがあるが、これは富山湾の開発行為で行った手法を将来的に日中韓露の共通の環境測定手法にすることができないかを探るものである。

海洋観測リモートセンシング

 ちなみに、リモートセンシングとは、人工衛星から投げかけられるいろいろなデータを使って、海洋の環境を見ていこうというものである。ただし、それが実際に船に乗って入手した現地のデータと一致しなければならない。逆に言うと、現場の測定値に合うように、衛星からのデータをいろいろな数式を使いながら解析していくことになる。
 例えば私の友達で、中国から北海道の環境科学センターに来ている布和(ブホー)さんがやっているのは、地球全体規模の温暖化や黄砂の移動の問題、それから、水、空気、土壌など、生命サポーティング・システムの異変の測定、洪水、台風の観測である。特に台風は、例年、日本列島には平均3個強しか来ないが、昨年は10個来ている。このこともひょっとしたら温暖化と関連しているのかもしれない。
 また、リモートセンシングの応用分野には、土壌の水分や森林や水産資源の測定、地質や鉱山調査などがある。さらに、昨年、クマの出没回数が多かったことから、動物に信号を送る器械をくっつけて、その動物がどう徘徊しているかを探ることも彼はやっている。また、北海道の自然植生の季節変動の分析もしているが、北海道では異常増殖したエゾシカを、将来食用にする計画もあるようだ。彼はまた、2004年の台風18号が札幌と青森を直撃したことから、衛星を使って東北と北海道の森林被害の解析も行っている。
 この技術を海洋環境の測定にどう応用できるのか。まず、ある海域の水温の分布状態を色別に表示できる。また、今はクロロフィルという化学物質の量を量ることにより、海にいる植物プランクトンの量を量ることも可能である。


 

 海洋環境監視のための衛星打ち上げは、1997年以降、アメリカが多く行っている。Sea Starという衛星がSea WiFSというセンサーを載せているが、我々はこれを一部使うとともに、インドの衛星のデータやアメリカのTerraという衛星に積載しているMODISというセンサーのデータも非常によく使っている。
 日本は、昔、宇宙開発事業団(NASDA:現JAXA)がgood byという意味を持つADEOSを打ち上げたが、その名のとおり、ADEOSは9か月間で衛星から陸上へ信号が送れなくなってしまった。これは海色海温走査放射計(OCTS)という海洋を観測するための特別なセンサーを搭載していたが、より強力なGlobal Imagerというセンサーを搭載して打ち上げられた次のADEOSⅡも9か月で信号を送ってこなくなった。
 一方、来年度、中国は三つの環境衛星を同時に打ち上げる。人を乗せてロケットを打ち上げる技術を持つ世界3番めの国になった中国の技術を日本にどう提供してもらうか。これからは日中間の技術協力が非常に大事だと私は思っている。その意味では、我々富山国際大学の地域学部が北京大学のリモートセンシング・センターと技術交流協定を結んだことは大変よかった。

グローバルな海洋観測

 グローバルな海洋観測では、現在、エルニーニョ現象やバングラデシュの洪水などの観測が行われている。実をいうと、地球の気象を左右しているのは海なのである。海から蒸発した水分が雲になり雨になって降ってくる。つまり、現在の異常気象は、海水温の変動が非常に大きな要素であると見るべきなのである。
 一方、日本海における植物プランクトンの春の大増殖(スプリング・ブルーム)が、海の生態系に多くの影響をもたらすといわれる。植物プランクトンは、陸からもたらされる窒素やリンを含む栄養のあるえさを食べて増殖するが、これを衛星で見ると、青い所にはプランクトンがほとんどいない。それが薄緑色になって、黄色くなって、赤く色づいてくると、それだけ多くのプランクトンがいるということだ。ちなみに、1998年の調査では、5月になるとロシアのアムール川河口の色が濃くなってくることが分かっている。
 また、中国の環境問題は三・三・二・一が関係するといわれる。すなわち、三大汚濁河川、三大汚濁湖沼、二大抑制地域(硫黄酸化物と酸性雨の影響が多く見られるエリア)、一北京特別区だ。北京は2008年にオリンピックを開催するが、今、北京では車の走行台数が増え、空気がよどんでいるため、植林を中心に突貫工事で環境対策が進められている。ところが2000年のちょっと前に、さらにもう一つ、一が増えた。それが渤海の海洋汚染である。そこで中国は、約1兆円の国家予算を使って、まず陸域から汚濁物質を減らしていこうという「渤海生き返り計画」を進めているところだ。
 日本海でクラゲが異常発生する一つの理由は、「クローズアップ現代」で広島大学の先生が言っていたように、東シナ海から対馬暖流が北上する過程で、いろいろな栄養源が日本海にどんどん供給されていることが原因の一つではないかと私は考えている。実際、衛星で長江の河口を見ると、土砂進出により濁流が広がっていることが分かる。ちなみに、1997年にロシアのナホトカ号が沈み、海流に乗って北上してきた油で福井、石川が大きな被害を受けたが、そのときのようすを衛星でキャッチした画像から、北上のスピードが時速0.5~0.7kmだったことが分かっている。
 渤海のすぐそばには、天津と北京が控えている。また、三大汚濁河川の一つである遼河が遼寧省にある。ここの汚染が黒潮に乗り、あるところで対馬暖流と黄海暖流に分岐する。黄海暖流は朝鮮半島から黄海を反時計回り方向でぐるぐる回っているが、その一部がまた対馬暖流に戻ってきて、それが日本海を北上してくる。ゆえに、渤海の海洋汚染は他人事ではないのだ。対馬暖流から流入する窒素とリンのトータルの負荷量を、日本海周辺の河川から流入するそれと比較すると、対馬暖流から入ってくるものが窒素で約31倍、リンで約34倍に達するというのが私の試算である。それを証明するために、環日本海環境協力センターは、環境省から1億円を借り受けて衛星からのデータを受信するアンテナを持ち、これを武器に今いろいろな衛星画像を作りつつあるところだ。